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鈴村くんは間違えない  作者: シア
最終章 『未来』へ

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最終話 望む『未来』へ

 三月下旬。


 緑ヶ丘学園の全校生徒は年度末試験の日程を全て終え、生徒は皆、校舎内にある巨大な掲示板に試験の順位が記載された紙が張り出されるのを待っていた。


 理由は単純明快。この成績によって、緑ヶ丘学園の生徒会に加入することができるチャンスが得られるかどうかが決まるからである。


 これは緑ヶ丘学園高等部、中等部も変わらずであり、特に中等部は年度末試験でトップの成績を取れば高等部生徒会への推薦が得られるため、緑ヶ丘学園の生徒にとってこの年度末試験は自分の人生を大きく左右するものであった。


 高等部生徒会の役員だった綾瀬凛あやせりん琴原ことはらみどり、宮田詩織みやたしおりもその場で順位が発表されるのを今か今かと心待ちにしていた。


「だ、大丈夫ですかね。私、トップ5に入ってますかね」


 琴原は宮田の裾を掴みながら体を震わせて言った。


 宮田は琴原を安心させるように頭を撫でながら言う。


「大丈夫よ。みどりは一年生の年度末試験で一位だったじゃない。二年生の学期末試験でも常にトップだったし、私は心配していないわよ」


「だといいんですけど……。なんかこう、やっぱりこの緊張感には勝てない言いますか……」


「そんなにトップ5に入っていたいの?」


 宮田は未だに琴原の頭を撫でながら言った。


 その言葉に対し、琴原は気持ちが抑えられずに言う。


「そりゃそうですよ! 私はまだ生徒会にいたいです! 鈴村すずむら君と一緒に生徒会やりたいんです!」


「…………それは、鈴村君と一緒にいたいからですか?」


 琴原の言葉に、綾瀬が少し強めの口調で問う。


 琴原は慌てながらそれを否定した。


「い、いえ、そうじゃなくて! 鈴村君のいる生徒会は本当に楽しくてたまらなかったですし、鈴村君の作る生徒会を一緒に見届けたいんです」


「……なるほど。確かに気持ちはわかります。でもなぁ……、なーんかまだみどり先輩からは鈴村君への気持ちが抜けてないような……」


「ギクッ」


 綾瀬の鋭い目つきに琴原は別の意味で体を震わせていた。


 琴原は綾瀬に本心を言う。


「り、凛ちゃんはいいですよね。次期生徒会の副会長の座が確約されてるんですから」


「確約……されてるんですかね」


「え、どういう意味ですか?」


 琴原は綾瀬に問う。


「鈴村君、次期生徒会長の推薦をもらって無事に生徒会長になることが決定しましたけど、まだ次期生徒会の体制に悩んでるらしいんですよ」


「そうなんですか?」


 その綾瀬の言葉に対し、宮田が口を開く。


「……なるほど。全てはこの年度末試験の結果が出ないと決められないからね」


 綾瀬は宮田の言葉に頷いた。


 緑ヶ丘学園の生徒会は年度末試験の成績がそれぞれの学年でトップ5だった生徒のみ、理事長、学園長から生徒会役員への推薦権を得ることができる。


 副会長に限っては例外のルートもあるが、それ以外の役職を手にするには年度末試験でそれぞれの学年のトップ5に入ること以外に生徒会に加入する正式なルートはないのである。


 綾瀬は少し俯きながら口を開く。


「……それでですね、まだ鈴村君、副会長を誰にするかも決めてないんですよ」


『…………え?』


 琴原と宮田は声を揃えて驚いた。


 宮田は思わずそのまま綾瀬に問いただす。


「ちょ、それ本当なの? あの鈴村君が? 綾瀬さんをまだ副会長に選んでないの?」


「そうなんですよ……。宮田先輩って、飯田会長に支えてもらいたくて飯田会長から副会長の推薦をもらったんですよね」


「え、ええ。そうよ」


 副会長に限っては、年度末試験の結果以外に、次期生徒会長の推薦を得ることでその座を手にすることができる。


 次期生徒会長である鈴村は、無事に綾瀬と婚約することに成功した。


 綾瀬は勝手ながらも、鈴村の支えになれると自負していたため、自分が生徒会副会長に推薦されるのも時間の問題だと考えていた。


 しかし、待てど待てどその話は一向に鈴村からは出てこず、理事長からも話が出ない始末である。


 綾瀬は不安に駆られていた。


「だからですね、私、鈴村君に嫌われたんじゃないかなって思って……」


「……だからさっきからちょっと暗い顔をしてたのね」


「はい……。鈴村君に推薦してもらえないなら、年度末試験でトップ5に入る以外道はないので、私も頑張りました。なので今めちゃくちゃ緊張してます」


 綾瀬は自分の胸に手を当て、その鼓動がいつも以上に伝わってくるのを実感しながら言った。


 そんなソワソワが治まらない綾瀬達の後ろから、男子生徒の声がかかる。


「あ、やっぱりここにいた。やっと見つけたよ、綾瀬」


「す、鈴村君!? どこに行ってたの!?」


 その声の主は鈴村であった。


 その鈴村の後ろには数名の教師が丸められた大き目の張り紙を持っており、綾瀬たちはそれを見て瞬時に『年度末試験の結果』であると悟った。


 鈴村は申し訳なさそうな顔をしながら綾瀬に言う。


「年度末試験の結果をまとめるのに手こずってたんだ。今先生たちが持ってるあれが今回の年度末試験の結果だよ」


「や、やっぱり……。あー緊張する……」


「緊張? なんで?」


「だって、私たちトップ5に入らないといけないんだよ? そうじゃないと、鈴村君とまた生徒会できないんだよ?」


「……なんだ、そんなことか」


「そ、そんなことって何よ!」


 真剣な顔をして言う綾瀬を見て、鈴村は笑いながら言う。


「ごめんな、綾瀬。言うのが遅くなって。実はもう、次の生徒会メンバーは決めてるんだよ」


「…………え、そうなの?」


 綾瀬はきょとんとしていた。


 同時に、琴原が食い気味で鈴村に問う。


「も、もう次の生徒会メンバーが決まってるってどういうことですか!? まだ結果も出てないですし、何の話もされてないですよ!?」


「お、落ち着いてください、琴原先輩。ちゃんと説明しますから」


「そうね。ちゃんと説明してくれないと、私たちに示しがつかないわよ」


「……一応宮田先輩も緊張はしてたんですね」


 冷静を装いつつも、実はこっそり緊張していた宮田であった。


 鈴村は綾瀬達に言う。


「もう年度末試験の順位は決まってます。そのうえで、次の生徒会メンバーは俺が決めることになりました」


「え、なんで?」


 綾瀬が問う。


「理事長に言われたんだよ。『次の生徒会はお前の生徒会だ。お前なら、誰を生徒会に迎え入れたいんだ?』って。だから、まずは俺の中で候補を決めさせてもらった」


「候補…………?」


 綾瀬は首を傾げた。


「もちろん、その候補は年度末試験の結果を見てから決めたよ。だから遅くなったんだ。ごめんな、綾瀬」


 そう言いながら、鈴村は綾瀬の頭を撫でた。


 そして、鈴村は掲示板に視線を向ける。


「…………ほら、結果発表の時間です。まずは二年生からですよ」


 その言葉に、綾瀬達は後ろを振り返る。


 そこには、今回の年度末試験の結果が張り出されていた。




 第二学年 年度末試験 総合順位


 一位 琴原みどり


 二位 宮田詩織


 三位 河合涼子かわいりょうこ


 四位 栗林亮太くりばやしりょうた


 五位 笠原智かさはらさとし


       ・


       ・


       ・




 その結果を見て、琴原と宮田は手を合わせ、表情が明るくなる。


 そして、その場で叫んだ。




『やったー! トップ5に入れたー!』




 宮田の演じるクール女子はどこへ消えたのか、今の宮田は飯田の知る素の宮田であった。


 琴原と宮田はその場でぴょんぴょん跳ねながら喜んだ。


「やりましたよ詩織! 私、また一位です! 一位ですよ!」


「やったわねみどり! 私も二位よ! トップ5に入れたわ!」


 二人は笑顔で喜んでいた。


 その様子を見て、綾瀬が声をかける。


「二人ともよかったですね! これで生徒会に入るチャンスがもらえました! おめでとうございます!」


 綾瀬は笑顔で二人に拍手を送った。


 琴原がそれに答える。


「ありがとうございます! ほんとよかったです……。これでまた生徒会ができます……」


 喜ぶのも束の間、琴原は勘違いしていた。


「み、みどり。まだ安心するのは早いわ。私たちは無事にトップ5に入れただけよ。まだ生徒会に入れると決まったわけじゃないわ」


「……はっ、そうでした。うぅ……、鈴村君、もったいぶらないで教えてくださいよ! 次の生徒会メンバー!」


 琴原は鈴村の持つ紙を奪おうとする。


 鈴村は慌ててそれを避けた。


「うわっ! ちょ、琴原先輩、落ち着いてください! すぐに言いますから!」


「ダメです! もう二年生の結果は発表されました! 少なくともこの五人の中から選ばれているはずです! 白状してください!」


「だから、少し待ってくださいってば! ……ほら、一年の結果が出ますよ!」


 鈴村はそう言って、掲示板を指さした。


 それとほぼ同時に、次に一年の年度末試験の結果が張り出された。




 第一学年 年度末試験 総合順位


 一位 綾瀬凛


 二位 鈴村徹


 三位 七倉ななくらわかな


 四位 三浦敦みうらあつし


 五位 大村俊哉おおむらとしや


       ・


       ・


       ・




 そこには、『一位』の称号を手にした綾瀬の名前が記載されていた。


「や、やった! ……私、一位だ! 一位だよ鈴村君! やった!」


 綾瀬はその結果に目を疑いつつも、目に映るその光景が現実だと理解し始めた瞬間、喜ぶ声が止まらなくなっていた。


「やりましたね凛ちゃん! 凛ちゃんもトップ5入りです!」


 琴原が綾瀬に駆け寄り、抱きつきながら喜んでいた。


 鈴村はこの結果を見せて、改めて言う。


「……というわけで。これで皆の年度末試験の結果が発表されました。俺はこの結果と、理事長との会話した結果をもとにして、生徒会メンバーの候補を挙げさせてもらいました」


「……やっぱり決まってるわけじゃないんだね」


 綾瀬は少し残念そうに言う。


「さっきも言っただろ。『候補』だって。結果だって今発表されたんだし、その前に生徒会の話が来たらおかしいだろ」


「ま、まあ、それはそうなんだけど……。一つ聞いてもいい? 鈴村君」


「なんだ?」


 綾瀬は鈴村から少し視線を逸らして聞く。


「……副会長は、もう決まってるの?」


 その言葉に、鈴村は頷きながら言う。


「ああ、副会長は決まってるよ」


「……誰になったの?」


 綾瀬の不安そうな様子を見て、鈴村は綾瀬の肩に手を置き、持っていた紙を見せた。


「ほら、これが次の生徒会メンバーだ」


 そこにはこう記されていた。




 第五十四期 緑ヶ丘学園高等部 生徒会役員名簿


 生徒会長 鈴村徹


 副会長 綾瀬凛


 書記 宮田詩織


 会計 琴原みどり


 広報 七倉わかな




「……副会長、私だ……!」




 次期生徒会の副会長は綾瀬であると、しっかりその名簿に記載されていた。


 鈴村は綾瀬に視線を合わせて言う。




「綾瀬。これは綾瀬にしか頼めないことだ。……俺と一緒に、生徒会やってくれるか?」




 それは、鈴村なりの誘い言葉であった。


 鈴村自身、綾瀬を副会長にすることは早いうちから決めていたことであった。


 しかし、年度末試験の結果を見ずにそれを知らせるということは、鈴村が綾瀬に支えてほしいと言っているようなものだと考えてしまっていた。


 鈴村はなぜかそれが急に恥ずかしくなり、年度末試験の結果を見せたうえで次期生徒会のメンバーを発表する作戦を考えていた。


 ……しかしながら、それは綾瀬を不安に追い込むことになってしまった。


 綾瀬は俯いて鈴村の問いに答える。




「……もちろんだよ、鈴村君。副会長、ぜひやらせてもらうね」




「ああ。よろしくな、綾瀬」


「……でもね鈴村君。私、鈴村君に言いたいことがあるんだ」


「何?」


 綾瀬はここで、自分の不安が爆発した。


「なんで私が副会長に決まってるの今まで黙ってたのさ! もしかして決まったのついさっきなの? それともずっと前? もしかして、お父さんと飯田会長が推薦の話をしたときから決まってたの!?」


「ちょ、落ち着けって綾瀬……!」


 綾瀬の矢継ぎ早に飛ぶ多くの疑問に、鈴村は思わず後ずさり、壁へと追い込まれる。


 綾瀬は鈴村の腰のあたりの壁に両手を置き、鈴村が逃げられないようにして言った。


「……私ね、不安だったんだよ。鈴村君は私に支えてほしくないのかなって。……飯田会長は宮田先輩をすぐに推薦したんだよ? でも鈴村君は、全く私にその話をしてくれなかった……。私のこと、嫌いになったんじゃないかなって、すごく不安だったんだよ」


「……ごめん、綾瀬。不安にさせちゃって。本当は、綾瀬には副会長の推薦の話をすぐにするつもりだったんだ。……ただ……」


「ただ?」


 鈴村は照れながら白状する。




「その、年度末試験の結果が出る前に推薦の話が出たら、俺が綾瀬を好きだって公にするようなもんだろ? なんかそれが急に恥ずかしくなって言えなくて……。このタイミングになっちゃったんだ。……ごめん」




 鈴村はそう言いながら頭を下げた。


 綾瀬は少し唖然としていたが、鈴村らしいと考えたのか、思わず笑みがこぼれる。


「ふふっ、ふふふっ。なんか、鈴村君らしいな、そういうところ」


「……どういうこと?」


「恥ずかしくて言えないなんて、それじゃタイムスリップする前の鈴村君と考え方が何も変わってないよ?」


「…………確かに……。返す言葉がない……」


 鈴村は自分の犯した失態を恥じた。


「……でも、結果的に私を選んでくれたんだもん。嬉しいよ、鈴村君。ありがと」


 綾瀬は微笑みながら言い、鈴村に抱きついた。


 鈴村は照れていたが、そのまま綾瀬を受け入れるように腰に手をまわした。


「…………あの、いちゃついているところ申し訳ないのだけど」


「あ、はい、なんですか、宮田先輩」


 宮田は鈴村たちがいちゃついているのに我慢できず、このタイミングで話に割り込んだ。


「私と詩織も、次の生徒会メンバーに入っていいのかしら?」


「そ、そうです! この名簿に私と詩織の名前が書いてあるってことは、そういうことでいいんですよね?」


 琴原も宮田に続いて鈴村に質問した。


 鈴村は笑顔でそれに返す。


「はい。宮田先輩は打合せの議事録を纏めるのがとても丁寧だと思ったので書記に。琴原先輩の会計力はこの一年で十分理解したので、前年度と同じく会計にさせてもらいました。……何か不満なところありましたか?」


 鈴村の言葉に対し、琴原は目を輝かせて言う。


「いえ! 次の生徒会も鈴村君と一緒にいれるんですね! よかったです! 心の底から安心しました!」


 琴原は無垢な笑顔を見せていた。


 琴原はただ純粋に、鈴村の作る生徒会に興味があり、共に生徒会を作っていきたいと考えていた。


 その気持ちの中に、鈴村に対する特別な気持ちはない。


 しかしながら、琴原の言葉は勘違いされても仕方のない言葉であった。


「…………琴原先輩、後でゆっくりお話ししましょうか」


「……え? 凛ちゃん、なんで私のこと睨むんですか?」


 綾瀬は琴原の言葉をしっかり聞いており、琴原を睨みつけて言った。


「……はぁ、だから言葉には気をつけなさいって言ったじゃない」


 宮田は頭を抱えながら呟いていた。


 宮田は気を取り直し、鈴村に言う。


「また鈴村君と生徒会ができることを嬉しく思うわ。一年間よろしくね。()()()()()()さん」


「はい! ……なんか宮田先輩からそう呼ばれるのしっくりこないんで、普通に今まで通りでいいですよ」


「あら、じゃあ遠慮なくそうさせてもらうわね」


 宮田は微笑みながら鈴村に言った。


「……ところで、この人誰ですか?」


 琴原はふと、名簿にかかれた残り一名の生徒の名前を指さして言う。


「ああ、その人はですね……。……ちょうどいいです。皆さん、生徒会室に来てください。次期生徒会の顔合わせも必要ですし、紹介しないといけませんから」


 そう言って、鈴村は生徒会室へと歩を進めた。


「…………なんか、一挙手一投足が全部飯田会長に見えるんですけど、私だけですかね」


 綾瀬が鈴村の背を見ながら言う。


「私もそんな感じがするわ……。この前の送別会のときからあんな感じなのよね、鈴村君。まるで飯田君が憑依した感じだわ」


「……だーれが憑依したって?」


「きゃっ!? い、飯田君!? いつからいたの!?」


 宮田の言葉を聞き、飯田が後ろから声をかけた。


「ついさっきだよ。俺ら卒業生は今はもう自由登校だからな。今日は鈴村に呼ばれて来たんだ」


「え、鈴村君に?」


 綾瀬が問う。


「次の生徒会メンバーを飯田会長にも紹介したい、って言われてさ。……鈴村は?」


「さっきまでいたんですけど、次期生徒会の顔合わせをしたいとかでついさっき生徒会室に行っちゃいました……」


「…………なんか俺に行動似てきたな」


 飯田は真面目な顔で言った。


「やっぱり飯田会長もそう思うんですね……」


 綾瀬は困惑する顔をしながら言う。


「おいおい、俺はもう生徒会長じゃないぞ。普通に『飯田先輩』でいいから」


「え? ……まあ、確かに。……じゃ、じゃあ、い、飯田先輩……」


「……なんかむず痒いな」


「じゃあなんで言わせたんですか!」


 飯田の反応に、思わず綾瀬はツッコミを入れる。


 飯田は笑いながら言う。


「はっはっは! ほら、次期生徒会長が生徒会室で待ってるぞ。早く行ってやらないと。新メンバーも気になるしな」


「そうですね……。……『七倉わかな』って誰だろう……」


 生徒会室へ歩を進める中、綾瀬はぽつりとそんなことを呟いていた。




                  *




「皆さん、集まってくれてありがとうございます。まずは、この子を紹介するところから始めましょうか」


 緑ヶ丘学園高等部生徒会室にて。


 鈴村はそう言って、横に立つ女子生徒を前に立たせた。


 その女子生徒は小柄な体形をしており、ツインテールをする黒髪の女子生徒であった。


 女子生徒はゆっくりお辞儀をしながら自己紹介をする。




「初めまして。この度縁あって、緑ヶ丘高等部生徒会の広報を勤めることになりました。七倉ななくらわかなと言います。どうぞ、よろしくお願いします」




 七倉の丁寧な自己紹介に、生徒会メンバー全員から「おぉ……」という声と共に拍手が上がる。


 七倉はその反応に少し驚き、小さくペコッとお辞儀をした。


「というわけで、一年生の七倉さんです。俺と綾瀬とは別のクラスですが、成績は結果から見てわかる通りとても優秀です」


「あ、なるほど。別のクラスだから知らないのも当然だったね」


 綾瀬は一人納得していた。


「広報に任命したのはなぜかしら?」


 宮田が問う。


「前から生徒会に広報は欲しいなと思っていたんです。夏休み、飯田会長が頑張って作ったポスター貼ってたじゃないですか」


「ああ、あのダサいポスターね」


「おい、詩織。しれっとダサいとか言うな」


 飯田は真面目な顔をして宮田に言った。


「飯田会長が自ら作らないといけないということは、広報という仕事には需要があると思いました。そこで、広報委員の集まりを覗きに行ったら……」


「七倉さんに目が留まったというわけね」


「そういうことです。七倉さんは広報委員の中でもこなせる仕事量が尋常じゃないと聞きました。そんな七倉さんは来年度から広報委員の副委員長になると聞いて、ちょうどいいと思って誘ったんです」


「……なるほど? 確かに蒼碧祭そうへきさいのこともあったし、広報という役職は必要ね」


 宮田は鈴村に同意していた。


「でも、生徒会もやって広報委員の副委員長もなんて、七倉さん、大丈夫なんですか?」


 琴原は七倉に心配の声をかけた。


 しかし、七倉は毅然とした態度で言う。


「ご心配ありがとうございます。ですが、鈴村君が言ってくれた通り、広報の仕事は難なくこなせると自負しています。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」


 そう言って、七倉は再びお辞儀をした。


 鈴村は七倉に笑顔を見せて言う。


「というわけで、来年度の生徒会はこのメンバーでやっていきます。皆さん、飯田会長に負けないくらいの生徒会にしましょう!」




『おー!』




 鈴村の言葉に、綾瀬達生徒会メンバーは手を高く上げて叫んだ。


「随分の言い様だな。本当に俺の生徒会に勝てるのか?」


 飯田は腕を組みながら鈴村に問う。


「勝てるかどうかは正直微妙ですが…………。俺なりの生徒会を作ってみせますよ」


「はっはっは! 期待してるぜ、鈴村」


「はい! 任せてください!」


 こうして、鈴村率いる緑ヶ丘学園高等部の新生徒会が誕生したのであった。




                  *




 それから十年後。


 鈴村徹は部屋に入り込む涼しい風を感じながら、学生時代のアルバムを見ていた。


「何見てるの?」


「これか? 高校の時のアルバムだよ」


「わー、懐かしいねー。みんな顔若いなぁ……」


 鈴村徹の見るアルバムを見て、妻となった鈴村凛が懐かしみながら言った。


「ほら、これ見てみろよ。俺が生徒会長になって最初に撮った写真だ」


「あ、覚えてるよこれ。七倉さんすごい人だったよねー。しっかりした子だったし、実際仕事はできるし、七倉さんのおかげで助かったこともあったよね」


「あったな。今ごろ何してるんだろうな」


 鈴村徹はアルバムを捲りながらそんな話をしていた。


「……あ、これ。俺が引率で行った修学旅行の時の写真だ」


「うっわー、懐かしいー……。……みんな顔若いね」


「お前それしか感想言えないのかよ」


 鈴村徹は冷ややかな視線で鈴村凛に言った。


「時が経つのは早いなって思っただけだよ。……皆、元気にしてるかな」


「してるさ。今もちょくちょく連絡取り合ってるだろ」


「そうだったね。……そういえば、来月皆で久しぶりに会うんだったね。徹君も行くでしょ?」


「……あっ、やっべ、忘れてた! その日仕事早く切り上げるって連絡してない!」


「もー。元生徒会長が何やってんだか」


 鈴村凛は笑いながら言った。


「仕事はどう? 順調?」


「ああ。凛と同じ大学に入ってゲーム開発に専念してたおかげで、今は早紀さき姉ちゃんと同じチームで大人気ゲームの開発中だよ」


「そっかー、早紀お姉さんも頑張ってるんだね。……あまり足引っ張っちゃダメだよ?」


 鈴村凛はそう言って、台所に立ってコーヒーを二人分用意し始めた。


「そう心配すんなよ……。俺だってそうならないようにめちゃくちゃ頑張ったんだから」


 鈴村徹はそう言ってアルバムを閉じた。


「……なあ、凛」


「んー? なーに?」


 鈴村凛はコーヒーを鈴村に手渡して聞き返す。


「……俺と結婚して、後悔してないか?」


「え、なんでそんなこと急に聞くの? 怖いんだけど。……もしかして浮気でもした?」


「してないわ! なんでそうなるんだよ!」


 鈴村徹は慌てながらそれを否定した。


「そうじゃなくて。……ほら、結局高校から今に至るまでずっと俺と付き合ってただろ? ……その、もうちょっといろいろ経験したいことあったのかなと思って」


「例えば?」


「一人でしかできないことだよ。それこそ女友達と自由気ままに遊んだり、旅行に行ったり、もっと自由に過ごせただろ?」


「……うーん、まあそれを言われるともう少し自由に時間を使いたかったとは思うかな」


「後悔してるじゃん」


「でも、別に後悔はしてないよ。そこまで時間に縛られてたわけじゃなかったし。……それに……」


「それに?」


 鈴村凛は、微笑みながら鈴村徹に言う。




「私は徹君と付き合うことができて、一度も後悔したと思ったことはないよ。むしろ、私と人生を共にしてくれてありがとう」




「……そっか、凛にそう言ってもらえて、俺は嬉しいよ」


「どうしたのさ。変だよ急に」


「何でもないって。ただ懐かしんでただけだよ」


 そう言って、鈴村徹はコーヒーを少し、鈴村凛のお腹にそっと手を置いて行った。


「皆に会ったら、子供がいることも言わないとな」


「だねー。皆絶対驚くよね」


 鈴村凛はニヤニヤしていた。


「飯田君と詩織さんにも赤ちゃんできたかな」


「どうだろうな。もしかしたら、飯田会長も俺らを驚かせようとしてるんじゃないか?」


「……それがありえそうだからあの夫婦は恐ろしいよね……」


 綾瀬凛は困惑する顔で言った。


「ていうか徹君、まだ飯田君のこと『飯田会長』って言うんだね」


「当たり前だろ。俺の中で飯田会長は飯田会長なんだから。そこは変わらないよ」


「尊敬してるってこと?」


「そういうこと。……ま、俺が生徒会長になった後も似たような奴が現れたけどな」


「あー、いたねー。あの子は大変だったね」


 二人は学生時代のことを思い出し、少し苦笑いをしていた。


「……あ、そうだ。徹君、赤ちゃんの名前考えてくれた?」


「……ごめん、考えてるんだけど全くいいのが思いつかない」


「もー……、仕方ないなぁ。私も一緒に考えるよ」


 そう言って、二人は子供の名前を一緒に考えた。


 その二人の傍には、夕日に照らされる少女が描かれた絵が表紙となった本が置かれていた。




 その本の名は、『人生の選択肢』。




 鈴村たちが望む未来を叶えるための物語は、まだまだ続くのであった。

「鈴村くんは間違えない」、このお話を持ちまして本編最終話となります。

ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。


鈴村の未来改変物語、お楽しみいただけたでしょうか。

なんだかんだこの結末にできて、僕はよかったなと思ってます。


ハーレムエンドも少し考えたんですけど、それじゃなんかテンプレ過ぎてつまらんなぁと。

皆さんはどう感じられたでしょうか。


さて、こちらの作品ですが、続編を執筆する予定です。

一旦こちらの作品は完結済みとしますが、カクヨムに投稿している番外編をこちらにも投稿し、

その投稿が終わり次第、続編を執筆する予定です。


番外編、続編もどうか楽しんでいただけたら幸いです。

Web小説としては離脱されそうな勢いではありますが、

それでも僕はこの世界が好きなので自分の思い描く世界を書いていきます。


番外編、そして続編もどうぞよろしくお願いいたします。


最後になりますが、ここまで「鈴村くんは間違えない」の本編を読んでいただき、ありがとうございました。


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