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鈴村くんは間違えない  作者: シア
最終章 『未来』へ

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第61話 不安と期待

「もうすぐ卒業式ですねー」


 二月下旬。


 久しぶりに生徒会の仕事がなく、放課後そのまま下校となったある日、生徒会長、飯田勝翔いいだしょうとを除いた緑ヶ丘学園高等部生徒会メンバーは、四人揃って帰路についていた。


 それぞれ他愛もない話をしていたが、ぽつりと生徒会会計、琴原ことはらみどりが呟いた。


「気づけば卒業式まで一週間ですね。今日も飯田会長は卒業式の練習ですかね?」


 琴原の言葉に、生徒会長補佐、鈴村徹すずむらとおるが問う。


 その問いに生徒会副会長、宮田詩織みやたしおりが答えた。


「卒業式ももうすぐ本番だし、卒業式自体の練習はあと一回と聞いてるわ。飯田君は今日別の用事でまだ帰れないらしいの」


「別の用事? なんですか?」


「次期生徒会長の推薦状の件よ。今日正式な推薦状が作成されるみたいで、飯田君、理事長、学園長で正式な手続きをしているらしいわ」


「あー、なるほど。そういえば、前に渡された推薦状は下書きだって飯田会長言ってましたね」


 そう言いながら、鈴村はカバンに入っていた下書きの推薦状を取り出す。


「たぶんだけど、鈴村君は明日理事長に呼び出されると思うわ。そこで、正式に推薦状を受け取ることになると思うから、心して頂戴ね」


「はい、わかりました。……そういうことって普通飯田会長が伝えるんじゃないですかね?」


 鈴村は宮田の言葉を理解しながらも、飯田が直接そのことを伝えてこないことに違和感を覚えた。


「飯田君も色々忙しいのよ。卒業も間近になったから生徒会の引継ぎ作業もあるし……。ほら、この前だって飯田君から鈴村君にいろいろ話あったでしょ?」


「……ありましたね。そりゃもうとても長い時間、生徒会長の仕事についての説明を受けました」


 鈴村は一週間前、飯田から生徒会長の仕事にどんなものがあり、何をしなければならないか引継ぎを受けていた。


 鈴村が生徒会長補佐として飯田の仕事の手伝いをするようになってからは、生徒会長が請け負う仕事の難易度、ボリュームを大体だが理解はしていたため、鈴村はそれほど身構えることなく飯田の話を聞いていた。


 しかし、いざ蓋を開けてみるとその現実は甘くはなく、鈴村が想像している三倍ほどの仕事を生徒会長が請け負うことを知った。


 当然鈴村が関わったことのない仕事も多くあり、その結果、全ての説明を聞き終えるのに三時間かかっていた。


 飯田は鈴村が理解できるようかみ砕いて説明をしていたが、さすがに三時間も説明を続けているとお互いに疲労が溜まってしまい、鈴村が結果的に理解できたかどうかはおおよそ予想ができていた。


「生徒会長の仕事は務まりそうかしら?」


 宮田は鈴村に不敵な笑みを浮かべながら問う。


 宮田は曲がりなりにも生徒会副会長である。


 鈴村が生徒会長補佐になる前までは宮田が飯田の仕事を手伝っていたため、その黒鵜は宮田が一番よく知っていた。


 鈴村は宮田の質問に対し、不安そうな顔で答える。


「……正直、務まるか不安しかないです」


「まあ、でしょうね。私ですらを上げたほどだもの。生徒会長補佐として、鈴村君が飯田君の仕事を手伝えていたのは正直驚いたわ」


 宮田は少し笑いながら言った。


「でも、実際にはあれ以上のことを飯田会長は平然とこなしてて、素直にすごいと思いました。飯田会長も理事長も俺にその器があると言ってくれましたけど、正直そんな気は全くしてないです」


 その言葉に、生徒会書記、綾瀬凛あやせりんが言う。


「気を落とさないで鈴村君! お父さんも言ってた通り、鈴村君は十分に生徒会長としての器があるよ」


「でも、それは蒼碧祭そうへきさいとかでの努力が認められたからであって……」


 鈴村には珍しく、この日の発言は全てネガティブだった。


 その様子に綾瀬は違和感を覚える。


「もっと自信を持ちなさい、鈴村君。鈴村君は次期生徒会長の推薦をもらっているの。その事実が変わっていないのだから、鈴村君は客観的に見てもその器があると認められているわ」


「……そうですかね」


「そうじゃなければ、今ごろこの話は白紙になっているはずよ。三月中旬の年度末試験の結果で、次の生徒会長が決まるはずだから」


「まあ、確かにそれはそうですね」


 鈴村は宮田の言葉を聞いて素直になった。


「……どうしたの? 鈴村君。なんか元気ないよ?」


「……、いや、大したことじゃないんだけど……」


「大したことじゃないようには、私は見えないけどね」


 その綾瀬の言葉に、宮田、琴原も頷いた。


 鈴村は俯きながら宮田に言う。


「生徒会の仕事が全うできるかは俺次第なんですけど、やっぱり、飯田会長がいなくなるのが現実味を帯びてきたなって、思っただけなんですよ」


「…………つまり、寂しいってことね」


「……はい」


 鈴村は小さく頷きながら答えた。


 鈴村の悲しそうな表情を見て、宮田は言う。


「鈴村君も、大きく成長したわね」


「どういうことですか……?」


「正直なことを話すと、初めて鈴村君と夏休みにあの教室で会ったとき、うちの学園にこんなにも冴えない生徒がいたのね、と驚いていたわ」


「え、なんで急に辛辣しんらつなこと言うんですか? いじめ?」


 鈴村は少し泣きそうな顔をしていた。


 その様子を見て宮田は「ふふっ」と笑って言った。


「ごめんなさい、そういうつもりじゃないの。鈴村君、人の話は最後までしっかり聞くものよ」


「あ、すみません……」


「そんな第一印象を鈴村君に持った私だけど、理事長に対して堂々と綾瀬さんの気持ちを伝えたあの瞬間は、心を打たれたわ。人は見かけによらないってことを、身に染みて感じたわ」


「あ、ありがとうございます」


 鈴村は少し戸惑いながら礼を言った。


「第一印象を受けて私の中にできた鈴村君のイメージは……、そうね、教室の端っこで一人で本を読んでいる男子生徒って感じかしら」


「……えっと、まさしくそれが俺でした」


「……ふふっ、ははは! やっぱりそうだったのね。イメージ通りで嬉しいわ」


「俺はあまり嬉しくないですけど……」


 鈴村は再び悲しい表情になった。


「でも、夏休みのあの日、生徒会に入ることを決めてくれて、理事長に綾瀬さんの思いを伝えて、蒼碧祭やいろんな出来事を経て、鈴村君は大きく成長していった。私にはそれがわかるわ」


「……そういうものですか?」


「綾瀬さん、みどりも、そう思わないかしら?」


 宮田は綾瀬、琴原にも話を振った。


 話を振られ少し戸惑う二人であったが、最初に口を開いたのは琴原だった。


「私は、中学生のときに鈴村君に助けられました。だから、私の第一印象は鈴村君が知っている通りだと思います。でも、鈴村君は誰か困っている人がいたら率先して助けようとする、優しい人なんだとわかりました。蒼碧祭のときがいい例ですね」


「まあ、困ってる人がいたら助けてあげなさいっていうのは、親からよく言われてましたからね」


 琴原の言葉に、鈴村は少し照れながら言った。


「その後も、いろんなイベントがあるたびに、鈴村君は飯田会長並みにその中心に立って行動していたと思います。私にはそんなことできる自信全くないので、鈴村君は尊敬に値しますよ」


 琴原は微笑みながら言う。


「そうですかね……」


「そうだよ! 鈴村君いなかったら蒼碧祭は台無しになってたと思うし、今でこそたちばなは何もしてこなくなったけど、未だに何かしら問題ごとを起こしていたかもしれないんだよ」


 琴原に続いて、綾瀬も鈴村の人間性を肯定する。


「鈴村君がいたからこそ、今の私たちがいるし、今の飯田会長がいる。鈴村君の取った選択が、今の未来を切り拓いてくれたんだよ」


「…………そっか。そう言ってくれると嬉しいんだけど、そこまで褒められるとさすがに恥ずかしくなる」


 鈴村は耳を赤くしていた。


「……かわいいわね、鈴村君」


「え、宮田先輩、何ですかそれ。私が目の前にいてそんなこと言わないでくださいよ」


 突然の宮田の発言に、綾瀬は勘違いをして宮田に威嚇をする。


「ごめんなさいね。別に変な意味があって言ったわけじゃないわ。ただ、本能的にそう思っただけよ」


「…………それ、何の弁解にもなってなくないですか?」


 綾瀬は宮田に真顔で言ったが、宮田はそれを無視した。


 綾瀬はその反応に頬を膨らませた。


「…………それで? 鈴村君は何に悩んでいるのかしら?」


 宮田は鈴村に、鈴村が心に抱えている真意を問いただそうとした。


「……言っても笑いませんか?」


「笑わないわよ。悩みがあるなら、言ってみなさい。自分の中で抱え込んでいても、何も解決に至らないわ」


 宮田は微笑みながら鈴村に言う。


 鈴村は、意を決して自分の悩みを打ち明けた。




「……俺は、飯田会長に後悔を感じさせずに、飯田会長を卒業させてあげられますかね」




「…………どういうこと?」


 宮田が鈴村に問う。


「さっきも言った通り、俺は生徒会長になるのが不安です。もしかしたら俺が失態を犯してトラブルが発生し、取り返しのつかないことが起きるかもしれない。そんなことを飯田会長が知ったら、俺を推薦したこと、後悔するんじゃないかなって思って……」


「…………鈴村君。それは考えすぎだと思うわ」


「考えすぎ……? これがですか?」


「ええ。鈴村君ってもしかして過度な心配性かしら」


「まあ、はい。そういう性格だったもので……」


「…………今までの行動を見てるとそうは感じられなかったわ」


 宮田は少し驚きながら言った。


 しかし、鈴村の抱いている不安、もとい過度な心配性は間違ってはいなかった。


 鈴村はタイムスリップをする前、人とかかわりを持たず、根暗で陰キャな性格をしていた。


 今でこそ『人生の選択肢』の協力のおかげで様々なことに真摯に向き合うようになり、自分が後悔しない選択肢、他人が後悔しない選択肢を取って行動するようになった。


 『人生の選択肢』のおかげと括り付けてしまうとそれで終わってしまうが、その存在をしらない宮田、琴原からすれば、鈴村はこの一年で大きく成長しているように見えるのは明白であった。


 宮田は鈴村に目線を合わせて言う。


「飯田会長も、理事長も、鈴村君の今までの行動を見たうえで鈴村君を推薦してくれているわ。これは誇っていいものよ。しっかりと自信を持って推薦状を受け取らないと、それこそ飯田君を後悔させることになるわよ」


「確かに、それはそうですね……」


 鈴村は少し頭を抱える仕草をしながら答えた。


 宮田の言葉を聞いてもなお、鈴村の不安そうな顔は晴れないのを見て、綾瀬があることを思いつく。




「……あっ。そうだ。鈴村君、送別会しようよ」




「……送別会?」


「そう、送別会!」


 綾瀬は人差し指を立てて言った。


「送別会は元からする予定だっただろ……。なんで改めて言うんだよ」


 元より、生徒会メンバーで飯田の送別会をすることは予定されていたため、綾瀬にその提案をされた鈴村の頭には「?」マークが浮かんでいた。


 綾瀬は鈴村が勘違いしていると思い、しっかりと説明をする。


「それはそうなんだけど、鈴村君は飯田会長に安心してほしいんでしょ? だったら、直接その気持ちを伝えればいいと思うんだよ」


「直接……?」


「確かに、それはいいかもしれないわね。鈴村君の言葉は結構その人に響くみたいだし、飯田君が安心できるように鈴村君が気持ちを伝えるのもありだと思うわ」


「み、宮田先輩まで……。そんなに俺の言葉って影響力あります?」


 鈴村は戸惑いながらも宮田に質問をした。


 その言葉に対し、琴原が答える。


「十分に影響力ありますよ。蒼碧祭のとき、鈴村君のあの提案がなければ飯田会長を助けることはできなかったですし、私に直接鈴村君が気持ちを伝えてくれたからこそ、今鈴村君は凛ちゃんと幸せに過ごせてますよね。これだけで十分な証拠になってますよ」


 琴原の言葉を否定する者はいなかった。


 鈴村は未だ戸惑っていたが、綾瀬が琴原、宮田の意見を聞いて笑顔で言う。


「それでは! 飯田会長の送別会の中で、鈴村君の気持ちをアピールする時間を設けようと思います!」


「……随分と大袈裟に言うんだな」


「あー、確かに言い方は大袈裟だったかもね。まあでも、その時間で飯田会長を安心させられればいいんだし、全ては鈴村君の努力次第だよ」


「俺の努力次第、ねぇ……」


 鈴村は、綾瀬の提案は悪くないと考えていた。


 鈴村の不安は、その気持ちを飯田に伝えて飯田を安心させることができれば解決する。


 綾瀬たちの言う通り、その気持ちが伝われば問題のない話であった。


 宮田は鈴村の表情を伺いながらも確認する。


「覚悟、できたかしら?」


 鈴村は少し考えながらも、宮田の顔を見て言う。


「…………はい。飯田会長に、安心して卒業してもらえるよう、俺の言葉を伝えます」


「ふふっ。いい顔になったわね。頼んだわよ、次期生徒会長さん」


 鈴村の表情は、それまでの不安が払拭され、迷いがない表情になっていた。


 宮田はその表情を見て安心し、微笑んでいた。




                  *




 鈴村たちが帰宅している同時刻、飯田は理事長室にて、理事長、学園長と共に次期生徒会の手続きを行っていた。


「よし、飯田。あとはこの推薦状を書くだけだな」


「はい。ま、あとはお二人に押印してもらうだけなんですけどね」


 飯田は理事長に差し出された推薦状を見ながら言う。


「まあそうだな。それだけ言えば話は早いんだが……」


 飯田の言葉に理事長は賛同しようとしていたが、その途中で言葉を止めた。


「…………? どうしたんですか? 理事長」


「飯田、お前に聞いておきたいことがある」


「……何ですか?」


 理事長は神妙な面持ちで飯田に問う。




「お前、徹に次期生徒会長を任せて、本当にいいと思うか?」




「………………なんで今さらそんなこと聞くんですか?」


「今さらじゃない、まだ押印をしていない今だから聞いてるんだ。俺と学園長の押印がされた瞬間、この推薦状は正式な効力を発揮する。だが今はただの紙切れだ。まだ飯田に思うことがあれば、白紙にできるってことだよ」


「……俺が、鈴村の作る生徒会に不安を抱いてるって言いたいんですか?」


「違う。その不安があるかを聞いてるんだ。あくまで聞かれてるのはお前だぞ、飯田」


 理事長のいつもと違う雰囲気にあてられ、飯田はたじろいでしまう。


「まあまあ、理事長。そんなに飯田君を脅さないであげてください」


 そう言うのは、緑ヶ丘学園学園長、倉岡紗耶香くらおかさやかであった。


 それに対し、理事長は両手の指先を合わせて言う。


「そうは言いますけどね、学園長。これは真面目な話なんですよ。次期生徒会長の推薦は俺と学園長が決めることですけど、生徒会長、飯田の意見も重要になってきます。飯田が『否』と言えば、その時点で白紙にすることも考慮しないといけないんですよ」


「それはわかっています。でもね、理事長。鈴村君の次期生徒会長推薦のお話が出てから、飯田君から理事長の言う『否』の意見が出たことはありましたか?」


「いや、俺の記憶している限りだとそれはないです」


「でしょう? なら、答えは明白だと思いますよ?」


 そう言いながら、倉岡はメガネをくいっと直した。


 しかし、理事長はその意見を否定する。


「俺が気にしているのはそこではないです。表ではそう思っていても、もしかしたら飯田は、徹の作る生徒会に不安を抱いているかもしれないんです。気持ちは思っているだけでは伝わらないですから」


「つまり、飯田君はもしかしたら鈴村君の生徒会に不安を抱いているかもしれないと?」


「はい。…………実際のところ、飯田は徹の生徒会についてどう思う? お前の率直な意見が欲しい」


 理事長はそう言って、飯田に視線を合わせた。


 いつにも増して真面目な表情を見せる理事長に対し、飯田は答える。


「…………俺は、鈴村のことを信頼しています。綾瀬への気持ちをしっかり伝える度胸。蒼碧祭での行動力。修学旅行での機転の利く臨機応変さ。どれも生徒会長として相応しいものだと思っています」


「……それで?」


 理事長はさらに話を続けるように言う。


「しかしながら、正直なところ、それは生徒会長としては持っていて当たり前の要素だと思っています。学力については特段気にすることはないんですが、人望があるかと聞かれるとそうでもありません」


「そりゃそうだ。ぽっと出の一年生が急に次期生徒会長に抜擢されそうになってるんだ。……蒼碧祭では堂々と次期生徒会長って言っちまってたけどな」


「ははは、すみません」


 飯田は少し笑みを交えながら謝罪をした。


 理事長は飯田の反応を見て白ける顔をしながらも、話を続ける。


「飯田もわかっている通り、うちの生徒たちは鈴村がどんな奴なのかをしっかりわかってくれていない。持たれている印象としては、おそらくだが『蒼碧祭を無事に終わらせた生徒会役員』しかないだろう。生徒会長として受け入れてくれるかは、また別問題になる」


「まあ、確かにそれはそうです」


 飯田は理事長の意見に同意した。


「ですが……」


「ですが?」


 飯田は理事長に話を続ける。


「その人望をちゃんと取れるところも、鈴村のいいところだと俺は思ってます。まあ、そこは鈴村の努力次第だと思ってますが、俺は鈴村の事信じてますよ」


 飯田は笑顔で理事長に言った。


「……そうか。それがお前の意見なんだな」


「ふふふ。飯田君は随分と鈴村君のことを信頼してるのですね」


 飯田の意見を聞き、倉岡が微笑みながら言う。


「もちろんですよ。鈴村がいなかったら今の生徒会はなかったですし、蒼碧祭も、修学旅行もなかったわけですから。俺は鈴村に助けられてばかりでした」


「その感謝の気持ちが、鈴村君に対する信頼を築いたんですね」


「そういうことです」


「……じゃあ、飯田は徹が生徒会長になることに不安はないと?」


 その言葉に、飯田は少し間を空けて答える。


「……まあ、不安がないかと聞かれると嘘になります。ですが、それでも俺は鈴村の作る生徒会を見てみたいんですよ」


「そんな興味本位で大事なこと決められても困るんだけどな……」


 理事長は頭を抱えながら言った。


「……でもまあ、それは俺も同意見だ。徹がどんな生徒会を作るのかは確かに気になる。よし、飯田の意見はわかった」


「……推薦状に押印してくれるんですね?」


「……ああ。するよ。いいですよね? 学園長」


「はい。私はどんな意見が飛び交うことになっても、推薦状に押印するつもりでしたよ」


「え、そうだったんですか。……それじゃ今までの話してた意味ないんじゃ……」


 飯田は学園長の言葉に驚きながら言った。


「いえ、意味はあります。この推薦状は私と理事長の双方の推薦があって初めて成り立つものです。片方が否定意見を持つのであれば、その結論を決めるための議論が必要になりますからね」


「……まあ、それは仕方ないですね」


「一応ルールですからね。学園の代表を決める大事な場面で、特別扱いなんてものは許されませんから」


 学園長は真面目な顔で飯田に行った。


 理事長は学園長の話を聞きながら、推薦状の横に朱肉を置いて言った。


「ま、それでも俺と学園長の意見は一致したんだ。この推薦状にはちゃんと押印しておくよ。諸々書類がまとまったら徹に渡すから、その際はお前も同席してくれ」


「はい、わかりました。ありがとうございます」


 飯田はそう言って、理事長と学園長に頭を下げた。


「……じゃ、打合せはこれでおしまいだ。お疲れさん、飯田。皆と一緒に帰らせてやれなくて悪いな」


 理事長は申し訳なさそうに飯田に言う。


「いえ、大丈夫です。これはしっかりと決めないといけないお話ですから。それでは、失礼します」


 そう言って、飯田は生徒会室から出た。


 その背中を見て学園長は言う。


「…………思っていた以上に大きく成長しましたね、鈴村君」


「……そうですね。最初は本当に生徒会に入れるか真剣に悩みはしましたが、今となっては後悔していません。むしろ、俺からも感謝したいくらいですよ」


 理事長は天井を見上げながら言った。


「俺も徹にはいろいろ感謝することがありますから。たとえ否定意見を持ったとしても、しっかり考慮する余地はありますよ」


「……そうでしたか。それでしたら何よりです」


 学園長は微笑んで理事長の言葉に返した。


 こうして、正式に鈴村への次期生徒会長の推薦状が完成した。




                  *




 飯田は理事長、学園長との打合せを終え、一人下校していた。


「ふぅー……。無事平和に鈴村の推薦状が完成して良かった」


 飯田はこっそりと、鈴村の次期生徒会長の推薦の話が白紙になるのではないかとハラハラしていた。


 学園長こそ鈴村を信頼していたようだったが、理事長は鈴村が生徒会長になることに少しの不安を抱えていた。


 それがあったからこそ、理事長は飯田にも意見を求めたのだと飯田は理解した。


「まあ、わかってくれたようで良かったかな」


 そんな独り言を言いながら、飯田は夜道を歩く。


「…………卒業かぁ。長いようであっという間な三年間だったなぁ」


 飯田は、ぽつりとそんなことを呟いていた。


「俺が生徒会長になったときはいろいろと不安しかなかったが、鈴村と出会ってから世界が一変したように感じるな」


 飯田自身、学力はとても優秀なため、次期生徒会長に抜擢されるのは大体予想していた。


 しかしながら、本人も少なからず不安はあった。だからこそ、その心の支えに宮田を副会長に推薦したわけだが、それでも不安が完全に取り除かれるわけではなかった。


「だいぶ鈴村に影響されたんだろうなぁ。やっぱり鈴村には感謝してもしきれないわ」


 飯田は笑顔で言った。


「……あ、そういや明後日、俺の送別会やるとか詩織が言ってたな。俺のためにそこまでしなくてもいいのに」


 そう言う飯田だったが、内心はすごく喜んでいた。


「何してくれるんだろうなぁ。『飯田会長! やっぱり卒業しないでください!』とか言われて泣かれたらどうしようかね」


 飯田は少し自惚うぬぼれていた。


「送別会、期待してるぞ、鈴村」




 飯田は鈴村に程よく期待しながら、月明りが照らす夜道を歩いた。

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