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鈴村くんは間違えない  作者: シア
最終章 『未来』へ

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第59話 誕生日は皆と一緒に

 新年が明けて五日目。


 ファミリーレストランの従業員にとって、年末年始は稼ぎ時であり、同時に心身が削られる期間である。


 この年末年始という貴重な期間を利用して、多くの人間が『帰省』を行い、普段会えない家族や友人と時間を共にし、お互いに近況報告などをしてその共にする時間を大切なものにしようとする。


 その時間をどこで過ごすかは人それぞれだが、その候補によく挙がるのがファミリーレストランである。


 お金を払いながらも、美味しい料理を食べながら祖父母や孫、兄弟とかけがえのない時間を過ごす。本人たちからすればこれはとても貴重な時間であり、また、譲ることのできない機会である。


 それと引き換えに犠牲になるのが、ファミリーレストランの従業員である。


 鈴村徹すずむらとおるも、その犠牲になった一人であった。


「やっとバイト終わった……」


 アルバイト先であるファミレスのバックヤードにて、鈴村徹はしんどそうな顔をして椅子の背もたれに背を預けていた。


 時刻は正午。これからもまだ昼食を求めて来客が止まらないであろうこの時間に、鈴村は仕事を切り上げていた。


「お疲れ様、鈴村君。朝早くからありがとうね」


 鈴村の疲れ切っている姿を見て、店長が声をかける。


「いえ、いいんです。むしろこんな時間に上がっちゃってすみません。本当はもっと手伝いたかったんですけど……」


 鈴村は申し訳なさそうに店長に言った。


「いやいや、君の事情は知ってるから大丈夫だよ。……正直君の戦力ってうちの社員三人分くらいだから、こういう日に入ってくれないとかなり困るんだけどね」


 そう言いながら、店長は鈴村が上がったタイミングでより忙しくなった店内を見ていた。


 店長の目からはハイライトが消えていた。絶望をしている証拠である。


「や、やっぱり俺出ますよ。こんなに忙しそうなの見て帰れないです」


「大丈夫だって。鈴村君が出れないって話を聞いてから、本当に本社から三名ほどヘルプを頼んだからさ。鈴村君は気にしないで、生徒会長さんの家に行ってあげな」


「すみません、ありがとうございます。……あとあの人たち、本当に俺の代わりだったんですね。俺そんなに仕事できます?」


「前にも言ったでしょ。君のおかげで大繁盛だって。君一人で正社員三人分の戦力だよ? 高校一年生でその実力はすごいよ。就職先はうちに決まりだね」


 店長は鈴村を勧誘するようにニコッと笑って言った。


「あ、すみません。俺進路決めてるんで、ここで働くつもりはないです」


 店長の目からはハイライトがさらに消えていた。


「ま、まあ、そうだよね。君もこれからの日本社会を支える人間になるんだから、その未来を僕が決めるのはおかしいよね」


「俺のこと、それだけ評価してくれてありがとうございます。でも、俺は俺の夢があるので、ここでは働けません」


「……わかってるよ。頑張ってね鈴村君。君の事、心から応援してるから」


「ありがとうございます」


 笑顔で応援する店長に、鈴村は微笑んで答えた。


「さ、そろそろ行かないと、生徒会長さんたち待たせちゃうんじゃない? 今日上がったらすぐ行く予定だったんでしょ? 誕生日パーティー」


「……あっ! そうでした……。まだ連絡もしてなかったです……」


「大丈夫だって。忙しくて疲れてるのは皆もわかってるだろうし、少し休憩してから行くって連絡すれば問題ないと思うよ」


「ですね……。とりあえず、バイト上がったっていう連絡だけはしておきます」


 そう言って鈴村はスマホを取り出し、緑ヶ丘学園生徒会のグループLINEにメッセージを送信した。


 その数秒後に、「ピコッ」、「ピコッ」とスマホから二回通知音が鳴る。


「とりあえず、後のことは僕たちに任せていいからね。一年に一度の大切な日、ちゃんとお友達と楽しんで過ごすんだよ」


「……ありがとうございます!」


 鈴村は店長に大きな声でお礼を言った。


「あ、あとこれ。僕からの誕生日プレゼント」


「え、いいんですか? ありがとうございます!」


 鈴村は店長から誕生日プレゼントを受け取った。


「鈴村君、次期生徒会長になるんでしょ? たぶん使う機会増えると思ったから、利便性のあるボールペンにしてみたんだ。どうかな?」


 店長の話を聞きながら、鈴村は受け取った高級感溢れる箱に入っていたボールペンを取り出す。


「……おぉっ……! なんかすごくお高そうですねこれ……」


 黒を基調としたシンプルデザインのボールペンだが、書き心地、書いているときの疲労感をほとんど感じないボールペンであった。


 店長は鈴村の様子を見ながら言う。


「まあ、大人の僕からしたら大した出費じゃないよ。生徒会長に任命されたお祝いも兼ねてるからね。大事に使ってよ」


「はい! 大切にします!」


 鈴村は大事そうにボールペンを持って答えた。


「……じゃあ俺、もう行きますね」


「うん、お疲れ様。楽しんできてね」


「はい!」


 鈴村はそう言って、忙しそうにしているホールが視界に入りながらも、アルバイト先を後にした。


「……さーて、若い子が頑張ってるんだ。僕たちも頑張らないとね」


 そう言って店長も、パチンを両手で頬を叩いて気合を入れなおし、この日の昼食時のピークに立ち向かうのだった。




                   *




『ハッピーバースデー! 鈴村君!』




 お昼過ぎ、飯田勝翔いいだしょうとの自宅のリビングはたくさんのクラッカーの音に包まれていた。


 少々照れながら、その主役、鈴村は言う。


「あ、ありがとうございます。こんな盛大に祝ってもらって」


 飯田の家のリビングは人が十五人は余裕で入れるほどの広さで、その真正面には大型のテレビが置かれていた。


 その真上には『鈴村 お誕生日おめでとう!』という垂れ幕が飾られており、その垂れ幕を中心にリビング内は花の飾りつけがされていた。


「いやぁ、お前にはあれだけお世話になったんだ。これだけでもまだまだ物足りないと思ってるぞ。それこそ、桜庭さくらばさんの家にお邪魔してもいいと思ったくらいだ」


 飯田はにこやかに鈴村に言う。


 飯田から桜庭の名前が出るときは大体の場合、飯田が本気で何かをしたいときであったが、この鈴村の誕生日パーティーもまさしくその一つであった。


「これ、俺からの誕生日プレゼントだ。受け取ってくれ」


「あ、ありがとうございます」


 そう言って鈴村は飯田から誕生日プレゼントを受け取った。


 中身は入手がとても困難な大人気のゲームソフトであった。


「い、飯田会長……、これ買えたんですか!?」


「ああ。たまたま店に寄ったら売ってたんだ。鈴村なら喜んでくれると思ってそれに決めた。どうだ? 嬉しいか?」


「嬉しいです! このゲーム、オンライン予約限定だったんですけど、予約開始時間ちょうどにすぐ予約が締め切られちゃって買えなかったんですよ……。ほんとに悔しくて……。ありがとうございます……!」


 鈴村は涙ながらに飯田にお礼を言った。


「俺も驚いたよ。噂には聞いてたからどうせ店頭にも出ないんだろうなと思ったら、ふと立ち寄った店にあったんだ。鈴村が喜んでくれてよかったよ」


 鈴村は飯田の話を聞きながら、とても嬉しそうにそのゲームソフトを抱きしめていた。


「……飯田会長。俺、一生大事にしますね」


「すごく誤解を生むような言い方するな。やめてくれ」


 鈴村は陶酔したかのように言葉を発していたが、飯田はそれを冷静に切り捨てた。


「鈴村君! 次は私と詩織しおりからプレゼントです!」


「ありがとうございます、宮田みやた先輩、琴原ことはら先輩。……これは、スマホケース……? しかも手帳型ですね」


 琴原と宮田は紺色の手帳型のスマホケースをプレゼントした。


 宮田がそのまま話す。


「手帳型のスマホケースって結構便利なのよ。私も使ってるのだけど、交通系ICカードを入れておけるし、何より画面がすぐに見られないからとてもいいのよね」


「……宮田先輩って横からスマホの画面覗かれたりするんですか?」


 鈴村は少し察するように宮田に問う。


「ええ。飯田君からしょっちゅうよ。何を疑ってるのかは知らないけど、結構な頻度で見てくるの。正直そういうの嫌なのよね……」


「お、俺は詩織が何してるのか気になって……」


 飯田の言葉に、宮田は少し呆れた顔で言った。


「……はぁ。いい? 飯田君。スマホはプライベートの塊なのよ。別に飯田君に見られても特段嫌というわけではないけど、そんなに頻繫に見られるとストーカーされてる気分になるわ」


「わ、悪い……」


 飯田は申し訳なさそうな顔をした。


 そんな飯田を気にすることなく、琴原が話を進める。


「プレゼントをスマホケースにしようって決めたのは私なんです。鈴村君、スマホケース全然変えてないですよね?」


「え? ……そういえば、しばらく変えてないですね」


「長いこと使ってるから新しいの欲しいかなぁと思って、スマホケースを選びました。手帳型にしたのは詩織の提案です。よかったら使ってください!」


 琴原は笑顔交じりで言った。


「ありがとうございます。使わせてもらいますね」


 鈴村はそう言って、早速もらったスマホケースにスマホを入れて見せた。


「……おぉ、割とありですねこれ」


「うんうん! 鈴村君にピッタリです!」


「ピッタリ?」


「鈴村君、寒色系が似合うなって前から思ってたんですよ。何色にするか詩織と小一時間揉めたんですけど、紺色にして良かったです!」


「は、ははは……。いろいろとありがとうございます」


 鈴村は困惑気味で礼を言った。


「……やっぱり、オレンジのほうがよかったかしら……」


「もう、詩織! 色についてはもういいんです! 決まったんですから諦めてください!」


 宮田は未だにどこか不満そうな顔をしていた。


 鈴村と渡したスマホケースを順番に見て、やはり納得がいかなそうな宮田であったが、キリがないと判断した琴原は宮田を引っ張って距離を置かせた。


「じゃあ最後は私だね!」


 そう言って、綾瀬が堂々と鈴村の前に立つ。


「鈴村君には、これをあげます」


「おう。ありがとう」


「…………やっぱり綾瀬からのプレゼントが一番嬉しそうだな。もらう前からニヤついてる」


 鈴村は、綾瀬にプレゼントを手渡された瞬間から顔がニヤついていた。


 それほど、鈴村は綾瀬からの誕生日プレゼントを楽しみにしていたのであった。


「開けてみて! 鈴村君!」


「お、おう」


 少し食い気味で言う綾瀬に少し引いてしまう鈴村だったが、鈴村は綾瀬に手渡されたプレゼント箱を開けた。


「……これは…………」


 鈴村は箱に入っていたプレゼントを取り出す。




「…………カメラ?」




「そう! しかも結構お値段する一眼レフカメラだよ!」


「な、なんでカメラ?」


「あれ? お気に召さなかった?」


「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど、なんでカメラなのかなって」


 鈴村は綾瀬から渡されたプレゼントがとても意外に感じ、素朴な質問を投げかけた。


「修学旅行のとき、鈴村君頑張って引率してたでしょ? 二日目の金閣寺に行ったあの日、いろんな人から写真撮るの任されてたの見てたんだよね」


「……お前、琴原先輩と一緒に行動してたのにそんなところ見てたのか」


「たまたまだよ、たまたま。……それで、鈴村君に写真撮ってもらった人たち皆すごい笑顔だったから、気になって写真見せてもらったんだよ。ここにそれがあるんだけど……」


 綾瀬はそう言って、鈴村が撮影した写真をその場に並べた。


 その写真を鈴村以外のメンバーも見る。


「……すごいです。皆すごく楽しそうですね」


 琴原が言う。


「鈴村、これ誰だ?」


「ああ、これですか? この写真撮った後に後ろから写真撮ってくれって声かけられたんですよ。たまたまこの日に観光しにきた人だったらしいです」


「……これは、風景写真かしら。何かの資料に使うものかしらね」


 鈴村が撮った写真は、仲良しグループを撮ったもの、全く無関係の観光客に頼まれて撮ったもの、はたまた、緑ヶ丘学園広報委員長に頼まれて撮ったものといった、多種多様なものであった。


 しかし、その一見普通に見える写真にも、ある共通点があった。


 それは、全てが『自然体』に映っている、というものだった。


 心の底から修学旅行を楽しむ笑顔、思い出に残って嬉しそうな顔、見たかったものを見れて大喜びする顔。


 綾瀬はこの写真たちを見て、鈴村に写真を撮るセンスがあると考えた。


「鈴村君の写真のセンスはすごいと考えた私は、奮発してこの一眼レフを買ったんですよ」


「……俺にセンスあるか? 全く普通に見えるんだけど」


「それは人それぞれの感性があるから一概には言えないけど……。少なくとも、私たちは鈴村君が撮った写真はすごいなぁと思うよ」


「そうかなぁ……」


 鈴村は綾瀬に言われたことにあまり実感が湧かないでいた。


「……あとね、カメラを選んだのはもう一つ理由があるんだよ」


「もう一つ?」


 綾瀬は、鈴村の顔を見て微笑みながら言った。




「これからの私たちの人生を、鈴村君のそのカメラで写真として残してほしいんだ」




 それは、綾瀬の鈴村へのお願いであった。


 綾瀬にとって鈴村は婚約者である。


 鈴村に負けず劣らず、綾瀬が抱く鈴村への気持ちはとてつもなく大きかった。


 だからこそ、クリスマスにプロポーズをされたときは心の底から嬉しかった。


 綾瀬はこの先に訪れる鈴村との未来を形に残したいと考え、カメラをプレゼントしたのだった。


 綾瀬は鈴村の手を握って言う。


「鈴村君、この大役、お願いできる?」


 鈴村はその綾瀬の真剣な顔を見て、咄嗟にカメラを構えてシャッターを切った。


「えっ、ちょ、なんで今撮るの!?」


「……いや、なんか今の綾瀬の顔、ちょっといいなと思ったから。……ダメだった?」


「……ダメじゃないけど、そんな至近距離で撮らなくても……」


 綾瀬は照れながら言った。


 鈴村にとって綾瀬のお願いをするその顔は、鈴村に将来を託す覚悟があるように見えていた。


 それがあったからこそ、鈴村は咄嗟にシャッターを切ったのだった。


「……どうせ撮るなら、鈴村君のセンスを活かして撮ってよね」


「わかってるよ。あんまセンスについて自覚はないけど……、これからの綾瀬を


 しっかり撮っていくよ」


「ふふっ♪ よろしくね♪」


 綾瀬は笑顔で言った。


 人前でイチャイチャし始める鈴村と綾瀬を見て我慢できなくなったのか、飯田は鈴村の頭をぐしゃぐしゃとかき乱しながら言う。


「イチャイチャは後でやれよ鈴村ぁ! お前のそれ見てるといろいろとむず痒くなるんだよ! 少しは自重しろ!}


「ご、ごめんなさい飯田会長! 別にわざとやってるわけじゃないんですって!」


「いいやわざとだ! こんな時にまでイチャイチャしやがって!」


 飯田は次に両手をグーにし、鈴村のこめかみに拳を当ててぐりぐりと押し付け始めた。


「痛い痛い痛い! それめちゃくちゃ痛いんですってやめてください!」


「謝ったら許してやる!」


「すみません! すみませんってば!」


 大きな声で謝る鈴村であったが、飯田は聞こえないふりをしてそれを続けた。


 そんな、仲の良さそうな鈴村と飯田を見て、宮田は思わず笑いだす。


「ふふっ、ははは!」


「あ、宮田先輩が笑った。珍しい」


 綾瀬はそう言いながら、テーブルに置かれていた鈴村のカメラを手に持ちシャッターを切る。


「あ、ちょ、綾瀬さん!? なんで撮ったの!?」


「いやぁー、宮田先輩の笑う顔って珍しいのでつい……」


「消しなさい」


「……え?」


「消しなさい」


「…………嫌です」


 宮田は圧をかけながら綾瀬に撮った写真を消すよう言うが、綾瀬は珍しい写真を消したくない気持ちがまさってしまい、宮田から逃げ出した。


「あ、こら、待ちなさい綾瀬さん!」


 そんなドタバタする様子を見て、琴原は一人呟く。


「……鈴村君は幸せ者ですね。誕生日をこんな楽しく過ごせるなんて」


 琴原のその言葉は、鈴村にしっかり聞こえていた。


 鈴村にとって、この時間は今までに経験したことのない時間であった。


 今まで鈴村の周りには友人と言える人物が一人しかいなかった。それゆえに大勢の友人と共に楽しい時間を過ごしたことはなく、鈴村とってこの時間は新鮮且つとても有意義な時間となっていた。


 そんな時、飯田の家のインターフォンの呼び鈴が鳴り響いた。


 その音に飯田が反応する。


「……? 今日誰か来る予定あったか?」


 飯田はそう言って、インターフォンのモニターに映る人物を確認した。


「…………えっ、なんでいんの」


「どうしたんですか? 誰か来たんですか?」


 飯田のその困った様子を見て不思議に思い、綾瀬はモニターを見る。


「……え、なんでやなぎ副会長と桜庭生徒会長がここに……!?」


 玄関の前に立つのは、青海学園生徒会長、桜庭みやびと、副会長、柳美奈であった。


『こんにちはッスー! 飯田生徒会長さーん!』


 インターフォン越しに、柳の声が響き渡る。


「な、なんでうちの場所知ってるんですか」


 飯田は困惑しながら柳に問う。


『あら、以前連絡先を交換した時に住所も教えてくれましたよね?』


 桜庭は何食わぬ顔で言う。


「……教えましたっけ?」


『はい』


 桜庭は即答した。


『今回私たちがここに来たのは、鈴村君の誕生日をぜひともお祝いしたいと思ったからですわ。上がってもよろしいかしら?』


「それは構いませんが……。俺マジで住所教えた覚えないんだけど……」


 飯田は桜庭たちの立ち入りを許可するも、自分が住所を教えた覚えがないため少し恐怖していた。


「お邪魔するッスー!」


「お邪魔いたします。飯田さん」


 そんな恐怖する飯田を横目に、柳と桜庭はリビングに入った。


「鈴村君。お誕生日おめでとうございます。これは私と柳さんからのプレゼントです。受け取ってくださいな」


 桜庭はそう言って、鈴村に少し大きめのプレゼント箱を渡した。


「よく俺の誕生日知ってましたね……。ありがとうございます。……おっも……」


 桜庭が渡したプレゼントは少し重みがあった。


木下きのしたさんから聞きましたわ。気に入っていただけると嬉しいのですが……」


 桜庭は軽い嘘をついていたが、柳はそれを気にしないでいた。


 鈴村はそのプレゼントの入った箱を恐る恐る開ける。


「…………え、これ、最新の携帯型ゲーム機じゃないですか!」


 鈴村はそのプレゼントを見て目が輝いた。


 桜庭はその様子を見て嬉しそうに話す。


「鈴村君が大のゲーム好きというのは木下さんから聞きました。これは私たち青海おうみ学園生徒会からの感謝のしるしです。どうぞ受け取ってください」


「めちゃくちゃ嬉しいです! ありがとうございます! これも買えなかったんですよ! いやぁ、マジかぁ、本物だ……」


 鈴村は心の底から欲しがっていたゲーム機をプレゼントされ、大いに喜んだ。


 その喜び方が綾瀬からのプレゼント以上の喜び方だったため、綾瀬は頬を膨らませ不満げな顔をしていた。


「…………所詮男は子供だよね」


 そんなことを綾瀬は呟いていた。


「さて。私たちはこれで失礼いたしますわ」


「え、もう帰るんですか?」


 飯田はきょとんとした顔で桜庭に言う。


「本当はもう少しいたかったのですが、これから青海学園で生徒会活動があるんです」


「まだ正月気分も抜けてないのに仕事あるんですか……。大変ですね」


「例年であればこんなことはありませんわ。今日は学園長のお呼び出しで顔を出しに行くんです。大したことじゃないですよ」


 桜庭は飯田に笑顔で答える。


「そうですか……。また機会があったら遊びましょう!」


「ええ、また来させていただきますわ。では、皆さん、ごきげんよう」


 そう言って、桜庭と柳は飯田の家を後にした。


「……ほんとにプレゼント渡すだけで帰っちゃったね」


「だな……。……俺そんなにあっちの生徒会に貢献したっけ」


 鈴村には思い当たる節がなく、頭に「?」マークが浮かんでいた。


「お前は青海学園を救っただろ、鈴村」


「え、俺がですか? いつ?」


蒼碧祭そうへきさいのこと覚えてないのか? あの企画持ち込んだの青海学園だぞ? それを最終的にお前が主導になって成功に収めたんだ。向こうから感謝されるのも納得だ」


「でもそれって、蒼碧祭を無事に終わらせただけですよね? 被害は甚大だったし、特段感謝されるようなことは……」


「……よし、鈴村。これを見てみろ」


「…………なんですかこれ」


「もう世間は受験シーズンだ。年明けすぐに理事長からこれをもらったんだが、これは青海学園に今回出された受験出願数だ」


「……え? これ……」


「ああ。見ての通り、昨年度よりも十倍近く出願されてる。青海学園がいい学園だって噂されてるのも聞いたし、明らかにこれは蒼碧祭の影響だ。つまり、鈴村。お前のおかげで青海学園は救われたんだよ」


「俺の、おかげで……」


 鈴村には実感が湧かなかった。


 鈴村はただひたすらに、自分や自分に関わる人間が後悔しないような選択肢を取っていた。


 それは『人生の選択肢』に提示されたものでもあり、自らの意思で選んだものでもあり、様々である。


 鈴村は無意識のうちに、大勢の人たちが抱える悩みから救っていたのだった。


 飯田は鈴村に言う。


「鈴村。お前はうちの生徒会に来てからいろんな場面で頑張ってくれた。しかもうちだけじゃ留まらず、他校にも感謝されるくらいのことをしたんだ。お前は立派だよ、鈴村」


「飯田会長……」


 飯田は鈴村の頭にポンと手を置いて言った。




「うちの生徒会を頼んだぞ。生徒会長さん」




 その言葉を言う飯田の表情は笑顔だった。


 次いで、綾瀬たちも笑顔で鈴村の顔を見る。


「頼んだよ! 生徒会長!」


 綾瀬が少し強めに鈴村の背中を叩く。


「来年度も期待してますね! 鈴村君!」


「来年度はどんな蒼碧祭になるか楽しみね……。……あ、体育祭って今年やる年だったわよね。そっちの仕事も忙しくなりそうだわ」


 琴原と宮田も、鈴村に応援の声をかける。


 その言葉たちを胸に、鈴村は言う。




「……俺、皆の期待に応えられるよう、全力で頑張ります!」




 鈴村のその言葉に、飯田たちは安心する顔を見せた。


 ……と、ここで鈴村はある言葉に引っかかりを覚える。


「…………あれ、うちの学園って体育祭やってましたっけ」


 その言葉に綾瀬が反応する。


「忘れたの? うちの学園の体育祭は一年おきだよ。去年はやらない年だったから、今年はやる年。……こりゃ一年通して大忙しになるねぇ」


 綾瀬はニヤニヤしながら言った。


「……とんでもないタイミングで生徒会長になるのか、俺……」


 片や鈴村は不安でいっぱいの顔をしていた。


「まあまあ! 鈴村ならなんとかなるだろ! 頑張ってくれや!」


「飯田会長、他人事みたいに言ってますけど内心からかってますよね」


「あ、バレたか。ははは!」


「笑い事じゃないです!」


 鈴村は嫌そうな顔をして言った。


「さあさあ! 鈴村の誕生日パーティーを続けよう! まだまだ料理はあるぞー!」


「あ、せっかくだし桜庭生徒会長がくれたゲーム機で遊びたい!」


「いやいや、これ俺のだから。俺が先に触るから。俺が先に遊ぶから」


「うわぁ……、ゲームオタクこっわ……」


 綾瀬は鈴村のゲームに対する愛情にドン引きしていた。


「……でもまあ、いっか。鈴村君のだもんね! ……ちゃんと後で遊ばせてよね」


「わかってるよ。俺が先に遊べればそれでいいから!」


 それから、鈴村の誕生日パーティーは夜まで続いた。


 鈴村の経験したことのない、大切な友人と過ごす楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。




 そして、ついに新学期。


 冬休みも明け、冬の寒さがより一層厳しくなる二月を迎えた。


「もうすぐバレンタインデーだねー」


 緑ヶ丘学園の生徒会室にて、綾瀬がぽつりと呟く。


「そうか。もうすぐバレンタインデーか。再来週じゃん。……あ、鈴村。この資料頼んだ」


「あ、はい、わかりました」


 飯田は綾瀬の言葉に返しながら、仕事を鈴村に任せる。


「綾瀬は鈴村にどんなチョコあげるんだ?」


「チョコですか? ……うーん、そうですねぇ……」


 綾瀬は少し考えてから言った。




「うーん…………。………………私?」




「いやいや、なんでそうなるんだよ」


 鈴村は冷静に綾瀬にツッコミを入れた。


「いやほら、私にリボン巻き付けて、ところどころにチョコ垂らして、『私を……食べて……?』……、みたいな?」


「……お前、それ自分で言ってて恥ずかしくないのか?」


 その鈴村の言葉に我に返った綾瀬は、顔を両手で隠した。


「……誰か私を殺してください」


「はっはっは! 今の素でやってんのかよ! 面白いな綾瀬!」


「もう! 笑い事じゃないですよ、飯田会長!」


 飯田は綾瀬をからかうように笑った。


「……そっかぁ、バレンタインデーですか」


「みどりは誰かにチョコあげるの?」


「あげますよ? 鈴村君に」


「……え、あげるの?」


 宮田は琴原の言葉に驚いた。


 しかし、琴原は「勘違いしないでくださいね」と言って続ける。


「友チョコですよ。友チョコ。婚約相手がいる鈴村君に本命チョコ渡すわけないじゃないですか」


「……私は一言も『本命チョコを渡す話』なんかしてないわよ?」


「…………誰か私を殺してください」


 琴原は顔を隠しながら言った。デジャヴである。


「ま、でもチョコをあげるくらいなら別にしてもいいと思うわ。さすがに本命チョコは会うとだけど、感謝を込めたチョコをあげるくらいならいいんじゃないかしら」


「そうですかね……」


「私はいいですよ? みどり先輩のチョコは私が食べるので!」


「な、なんで凛ちゃんが私のチョコ食べるんですか!」


「鈴村君のチョコは私のもの。私のチョコは私のもの。というわけです」


「そんなジャ〇アン理論ここで持ってくるのやめてください!」


 琴原は必死にツッコミを入れた。


「まあでも、私は特に気にしないので、渡したかったら渡してもいいですよ」


「……いいんですか?」


「友チョコ限定ですからね? それ以上に思いのこもったチョコはNGです」


「……わかってますよ」


 琴原は少し期待していたが、綾瀬の言葉を聞いて諦めた。




 そして、バレンタインデーは訪れた。

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