第58話 年が明けて
「鈴村くんは間違えない」、ついに最終章です。
鈴村の未来改変物語も終盤。
綾瀬と両想いになり、正式に付き合うことになった鈴村だが、
鈴村は恋愛以外にも自分の人生をよりよくしたいと考えていました。
そのお話がこの最終章となります。
どうか最後まで、鈴村の『人生』の行く末を見守っていただけたらと思います。
一年の始まり、元日。
それまでクリスマスだなんだと騒ぎ立てていた世間は、その日を過ぎると一気にお正月ムードに様変わりする。
民家の扉に飾ってあったクリスマスリースはいつの間にかしめ縄になっていたり、堂々とそびえたっていたクリスマスツリーは門松へと姿へ変えたりと、その変化は一種の間違い探しでもあった。
クリスマスイブ、クリスマスの両日を思い人、綾瀬凛と過ごした鈴村徹は、元日の朝、自宅で目を覚ました。
「……まだ九時か……。昨日は夜更かししたしまだ寝るか……」
鈴村はこの前日の大晦日に、緑ヶ丘学園生徒会メンバー、青海学園生徒会メンバーと共に青海学園生徒会長、桜庭みやびの自宅にて年越しパーティーをしていた。
楽しかったその時間は一瞬で過ぎていったが、帰宅時間がとても遅かったため寝不足でいた。
しかし、鈴村はここで改めてスマホの時間を寝ぼけた目をこすりながら確認する。
「九時。……九時かぁ。……九時……?」
そこまで呟いて、鈴村はガバッとベッドから飛び降りて慌てだす。
「やばい! 今日皆で初詣に行くんだった! 寝坊した!」
鈴村は新年早々やらかしていた。
鈴村は事前に、緑ヶ丘学園生徒会メンバーで元日に初詣に行く約束をしていた。
現地集合ということになっていたが、鈴村と綾瀬の自宅は初詣をする神社へ行く途中で合流できるような位置づけにあったため、鈴村は綾瀬と合流して初詣に行こうとしていた。
が、鈴村はあろうことか、綾瀬と約束していた集合時間に起床したのであった。
急いで着ていた寝間着を脱ぎ、私服に着替え始める鈴村。
そこへ、一本の電話が入った。
「……やっべ、綾瀬だ……」
着信の相手は綾瀬であった。
鈴村はスマホを手に取り、着信に応答したあと肩と顔でスマホを挟んだ状態で着替えを続けた。
『あ、おはよう鈴村君。もう集合時間だけど、駅着いてる? 今どこ?』
「え、えーっと……」
『え、何その反応。……もしかしてだけど、……寝坊した?』
綾瀬は鋭かった。
「……はい。ごめんなさい、ついさっき起きました……」
鈴村は着替えながら綾瀬に謝罪をする。
『次期生徒会長が何してるんだか……』
電話からは呆れ声で話す綾瀬の声が聞こえていた。
『鈴村君の家からここまで十分以上かかるよね? とりあえず待ってるから、気を付けてね。あと、着いたら飯田会長たちに誠心誠意謝ってね』
「……はい、すみません。急いで向かいます」
鈴村は反省する声色で綾瀬に言った。
『新年早々心配させないでよね……。いつも集合時間決められてるときは五分前にはいる鈴村君がいなくて、心配で電話かけたんだよ。事故に巻き込まれたのかと思ったよ』
「心配かけてごめん、綾瀬。すぐ向かうからそこで待っててくれ」
『はいはい。……全く、鈴歩さんに合わせる顔がないよ? ちゃんと反省してね!』
「…………ごめんなさい」
鈴村は一人部屋の中で頭を下げていた。
『じゃあ、気を付けて来てね! 本当に事故らないでね! 電車乗ったら連絡してね!』
「心配しすぎだよ、綾瀬。ちゃんと行くから安心して待ってて」
『…………もうすでに心配事ができてるんだけどね』
綾瀬の声は冷ややかだった。
『とりあえずもう切るから! じゃあね!』
「おう、また後で」
そう言って、鈴村は電話を切った。
「…………やらかしたぁ……」
鈴村は完全に浮かれていた。
クリスマスイブに綾瀬とデートをし、その日に綾瀬の自宅に宿泊。
翌日、綾瀬の家族を交えて綾瀬にプロポーズをし、見事にそれを成功させた。
鈴村は綾瀬と結ばれるために『人生の選択肢』、もとい『鈴歩』の協力を得ながら自分に後悔のない二度目の人生を歩んだ。
結果、鈴歩は自分が鈴村に託した『後悔しない選択をする意思』が伝わっていることを知り、鈴歩は鈴村の前から姿を消した。
様々なことがあった年末であったが、鈴村にとって、綾瀬と結婚を前提に付き合うことができるようになったこの現実は夢のようであった。
しかしそれは、鈴村が持つペアのネックレスと、失った『人生の選択肢』が現実であることをしっかりと証明していた。
鈴村は思い出にふけっていたが、我に返り急いで家を出る準備をする。
「こんなことしてる場合じゃない……。早く行かないと鈴歩どころか綾瀬にも合わせる顔がなくなる……!」
鈴村は着替えを終え、荷物を持って部屋を出ようとした。
ふと癖で、鈴村は自分の着ている上着の内側に手を入れる。
そこにはやはり、あったはずの『人生の選択肢』という本がなくなっていた。
「……本当にあの日、俺からいなくなったんだな、鈴歩」
そんなことを呟きながら、鈴村は家を出た。
*
「えー、皆さん。新年早々寝坊をしてしまい、大変申し訳ありませんでした」
鈴村は初詣をする神社の入り口付近で、緑ヶ丘学園生徒会メンバーに対し深い土下座をしていた。
「ま、まあ、少しだけ遅れただけだし大丈夫だよ。頭を上げてくれよ鈴村」
生徒会長、飯田勝翔は鈴村の肩を叩きながら言う。
しかしながら、鈴村は自分がやらかした罪を重く受け止めており、額を地面にこすりつけるように土下座を続けていた。
「……そんなことしてたら頭から血が出るぞ」
「血を出してでも俺のやらかしたことは重罪だと心得ております」
「新年早々何してんだか……。とりあえず立てって。もういいからさ」
飯田はそう言いながら鈴村に手を差し出す。
「……申し訳ないです」
鈴村はとても申し訳なさそうに謝りながら、飯田の手を取って立ち上がった。
飯田は鈴村の表情を見て少し微笑む顔を見せて言った。
「よし、皆無事に到着したな。んじゃ、早速行くか」
「それより飯田君。私のこの姿に感想はないのかしら? 今日会ってから一度も聞いてないわよ?」
そう言うのは生徒会副会長で飯田の恋人、宮田詩織であった。
宮田を含めた女性メンバーは、それぞれ色の異なる着物を着ていた。
宮田は黒を基調とした着物を着ており、その印象強いクールなイメージをより一層際立たせていた。
綾瀬は赤を基調とした着物を着ており、元気で活発な印象をアピール。
一方、生徒会会計、琴原みどりは黄色を基調とした着物を着ており、それまで引っ込み思案だった琴原をいい意味で否定する印象を与えていた。
飯田は宮田の姿を改めて上から下まで見て言う。
「…………、うん。やっぱり綺麗だ」
「……それだけ?」
「……かわいい」
「もっと」
「…………美しい」
「もっと頂戴」
「…………この世の女性の中で一番美しい」
「…………五点ね」
「ここまで言わせてそれ!? 酷くね!?」
宮田はこの日、飯田と会ってから一度も自分の着物姿に関する感想を言ってくれてくれなかったことに少々腹を立てており、飯田に意地悪をしていた。
その様子を見て、綾瀬は困惑する顔で言う。
「ははは、なんかいつも通りですね、二人とも」
「……綾瀬、今日の詩織はいつもと違うぞ。気合が全く違う」
「それはたぶん、ちゃんと言ってあげない飯田会長の自業自得だと思いますよ」
「え、俺のせいなの!?」
飯田は綾瀬の言葉に傷ついていた。
飯田はそのまま悲しんでいたが、片や綾瀬も宮田と同じような感情を抱いていた。
「……で? 私の着物姿はどう? 鈴村君」
「え!? ……えーっと、き、綺麗だな。とても似合ってるよ」
「……ふーん。二点かな」
「飯田会長よりも点数低いしなんでそんな半端な点数なの……?」
鈴村は綾瀬の判断基準が理解できないでいた。
綾瀬はニヤりと笑いながら、くるりと一周して鈴村にしっかりと着物姿を見せて言った。
「将来を共にすると誓った女の子を相手に、そんな中途半端な感想を言うんだね、鈴村君は」
「い、いや、俺は思ったことを言っただけで……」
「ちょ、ちょっと待ってください」
綾瀬の言葉に、琴原が反応する。
「凛ちゃん、将来を共にすると誓ったって、どういうことですか?」
「あれ? ……ああ、そういえば言ってませんでしたね」
綾瀬は琴原の言葉を聞き、綾瀬と鈴村が婚約したことを伝え忘れていることに気づいた。
綾瀬はそのまま、鈴村の腕に抱きついて言う。
「年末色々あって言いそびれたんですけど、私たち、結婚を前提にお付き合いすることになりましたー!」
そう言って、綾瀬はブイサインをする。
『け、結婚……!?』
綾瀬の言葉に、飯田と宮田に衝撃が走った。
「ちょ、綾瀬さん、鈴村君といつの間にそこまでいってたの!?」
「なんでそれ早く言ってくれなかったんだよ! 昨日だって言うタイミングいくらでもあっただろ!」
飯田と宮田は綾瀬に詰め寄って真実を確かめようとしていた。
「す、すみません。昨日に関しては皆に久しぶりに会えたのが嬉しくて……。ほら、冬休みって地味に長いし生徒会活動もないから、遊ぶのに夢中だったんですよ。……許してください!」
そう言いながら、綾瀬はウィンクをしながら手を合わせる。
「まあ気持ちはわかるけども……。でも、お前らもともと付き合ってたよな。婚約したってことか?」
飯田は鈴村に問う。
「はい、そういうことです。クリスマスに、綾瀬にこれを渡しました」
そう言って、鈴村はつけていたネックレスを見せる。
「……ネックレスね、これ。……あ、指輪がついてるわ」
宮田はネックレスに指輪がついていることに気づいた。
鈴村は「はい」と言ってそのまま続けた。
「これ、ペアネックレスで、絢瀬も同じものを持ってます。この指輪は婚約指輪です」
「……鈴村君、随分思い切ったことするのね」
宮田は鈴村がとんでもない行動をしていたことに驚きを隠せないでいた。
鈴村は少しどや顔で宮田に言う。
「俺の気持ちはそれだけ大きかったってことですよ」
その言葉に、琴原は少し自分の心臓にトゲが刺さる感覚がしていた。
しかし、琴原は既に鈴村への気持ちのことは考えないようにしていたため、その感覚を無視して言った。
「おめでとうございます、鈴村君、凛ちゃん! とてもお似合いですね!」
琴原は笑顔だった。
「ありがとうございます、琴原先輩」
「すっごく綺麗ですね……。これが婚約指輪かぁ……。いいなぁ……」
琴原は鈴村の持つ婚約指輪を羨ましそうに見ていた。
「……なんか、すみません」
「……ここで謝るのは野暮ですよ、鈴村君」
謝罪する鈴村に対し、琴原は少し暗い声色で言った。
「……ごめんなさい。さっきの謝罪は取り消します」
「はい。それでいいんです。鈴村君の選択は間違ってないですから」
琴原は笑顔で返した。
琴原は全てを覚悟して、自ら鈴村への気持ちを諦める選択をした。
その結果、鈴村と綾瀬がこのように進展するのも時間の問題であった。
その現実は遠くない未来に訪れるとわかっていながらも、琴原は内心、傷ついていたのだった。
しかし、自分の決めた選択を後悔しないと決めた琴原は、その感情に支配されないよう制御して鈴村に接した。
「しかしまあ婚約かぁ。いつしたんだ?」
「クリスマスです。綾瀬の誕生日に綾瀬の家に泊まって、その次の日に綾瀬のお父さん、お母さんの目の前でこれを綾瀬に渡しました」
「…………随分とすげえクリスマス過ごしたんだな、鈴村」
鈴村のその行動力に、飯田は賞賛するような顔を見せた。
「……ん? ってことは、その婚約は綾瀬の親公認ってことか?」
飯田はふと、気になったことを鈴村に問う。
「はい、そうですよ。なんなら俺の母さんも認めてます」
「…………すげえ」
飯田は素直に鈴村の行動力を評価していた。
実際のところ、全て鈴歩による導きによって得られた結果であったが、鈴村は鈴歩のことは語らないようにした。
「ていうか、クリスマスの時点で決まってたんなら余計に言う余裕あったじゃねえか」
そう言って、飯田は鈴村の頭を鷲掴みし、力をぐっと込めた。
「い、痛い痛い! 痛いです飯田会長! 色々あって余裕なかったんですから許してください!」
「許さん! 少なくとも昨日は言えたはずだ! それを知ってたらお祝いのプレゼントくらい持ってきてたわ!」
「すみませんってば! 痛い痛い痛い!」
鈴村は涙を流すほど痛そうな顔をしていた。
その様子を見て、宮田たちは笑っていた。
「今日も平和ね」
「ですねー。やっぱり皆といる時間は楽しすぎて、時間を忘れちゃいます」
綾瀬は宮田の呟いた言葉に返した。
「私も、皆さんといる時間はとても楽しく感じます。自分の人生の一ページに毎日皆さんのことが書かれてる感覚です」
「なんですかそれ。みどり先輩、面白いこと言いますね」
「私最近小説書いてるんですよ。言い回しとかそれっぽくしてみたんですけど、どうですか?」
「うーん…………。私小説とか読まないからよくわからないですね」
琴原の質問に対し、綾瀬は全く参考のならない回答をした。
「……凛ちゃんに聞いた私がバカでした」
琴原は自分の行動を後悔した。
「さて、もうだいぶ混み始めてきちまった。こんなところで立ち話してたら帰るのが遅くなるな。とっとと参拝済ませるか」
「飯田君……、初詣はちゃんと神様に感謝をして行うものよ。そう急かしてやるものじゃないわ」
「詩織、なんか変な宗教にでも入ったか?」
「そんなわけないでしょう……。気持ちの問題よ。気持ちの問題」
宮田は少し呆れながら飯田に答えた。
「とりあえず列に並びましょう。このままだと何時に参拝できるかわかったものじゃないわ」
鈴村たちが神社の入り口で立ち話をしている間に、それまであまり人が集まっていなかった入り口が長蛇の列で埋まりつつあった。
「そうだな。よし、皆はぐれないようにして並ぼう」
そう言って、鈴村たちは参拝する列に並んだ。
*
「……思っていた以上に待ちましたね」
鈴村はげっそりした顔で呟く。
初詣の参拝をし終えた鈴村たちは、屋台が出ている道を歩いていた。
「余計な話ばっかしてるからよ。これなら並びながら話してたほうが時間効率よかったわね」
宮田はそう言いながら、鈴村と飯田を睨みつける。
「えぇ……、俺らのせいなの?」
「さあ? 誰も飯田君たちのせいとは言ってないわ。……まあ、遅刻した鈴村君のせいでもあるかもしれないけど」
「…………大変申し訳ありませんでした」
鈴村はそう言って、再度皆に土下座をした。
「これじゃ無限ループだ。詩織、いい加減許してやってやれ」
「……ふふっ、それもそうね。ごめんなさいね、鈴村君。ちょっとからかっただけよ」
宮田は笑顔で言ったが、鈴村は少し不服そうな顔をした。
「……宮田先輩の『からかった』は単純なからかいに思えないんですよね……」
「あら、ちょっと心外ね。……まあでも、反省してるのならそれでいいわ。次期生徒会長なのだから、ちょっとは気を引き締めて頂戴ね」
「はい……。肝に銘じておきます……」
鈴村は少し悲しい顔をして宮田に答えた。
琴原が宮田の言葉に少しだけ反応する。
「……そっか、鈴村君って生徒会長になるんでしたね」
「まあ、一応理事長と飯田会長からの推薦はもらってますからね。その予定のはずです」
「予定のはずって……。もう新年度まで三カ月しかないんだよ? 何かしら話来てないの?」
「……そういや何も聞いてないな。飯田会長、何か聞いてます?」
「え? 俺も何も聞いてないけど。鈴村も聞いてないのか?」
「…………え、まさか白紙にされてないですよね?」
鈴村は冷や汗をかいていた。
しかし、その不安を取り払うように飯田は言う。
「いや、それはないはずだ。冬休みに入る前、理事長、学園長を交えて次の生徒会について話したんだが、その時に鈴村の推薦状を理事長が書いてたのを見たぞ」
「え、本当ですか?」
「まだもらってないのか? ……あ、そうか。冬休みに入る直前だったから渡すタイミングなかったのか」
「もらってはないですね……。そんな大事な書類、家でひょいっと渡すわけにもいかないでしょうし……」
「ってことは冬休みが明けてからだな。ちゃんと受け取っておけよ、鈴村」
「はい、忘れないようにしておきます」
鈴村はそう言ってスマホにメモをした。
と、ここまで話して、鈴村は改めて気づく。
「……次の生徒会の話が出たってことは、本当に飯田会長は卒業しちゃうんですね」
それは、鈴村が以前から気にしていることであった。
タイムスリップをしてから初めて関わることになった緑ヶ丘学園の生徒会メンバー。
このメンバーと行ってきた数々の出来事は、鈴村にとってはかけがえのないものになっていた。
それこそ、タイムスリップしなければ確実に体験することのなかったものである。
その中に当たり前のようにいた生徒会長、飯田勝翔が卒業する日が近づいてきているのを、鈴村は改めて実感していた。
「なーに辛気臭い顔してんだよ。俺はもう三年だ。進路も決まってる。卒業しないで留年とかアホらしいだろ」
飯田は鈴村の肩に腕を回し、自分に抱き寄せて笑顔で言った。
鈴村は少し顔を俯かせて言う。
「……それもそうですね。何当たり前の事言ってるんですかね、俺」
「…………寂しいか?」
飯田の言葉に、鈴村は少し間を空けて答える。
「……寂しくないわけないじゃないですか」
「ははは! でもまあ、これが現実だ。出会いがあれば別れは必ず来る。お前だってわかってるはずだろ」
「……わかってます。わかってますけど、やっぱり飯田会長と離れるのは寂しいです」
鈴村のその言葉は、鈴村だけが思っているものではなかった。
もちろん、綾瀬、琴原も同じ気持ちであった。
「私は飯田君と離れるつもりはないから、寂しさは感じないわね」
「……詩織、お前ちょっとは鈴村の気持ち考えてやれよ……」
「あ、ごめんなさい……。悪気があって言ったわけじゃないの。ごめんなさいね、鈴村君」
「いえ、気にしないでください。飯田会長と宮田先輩が離れ離れになるなんて思ってないですから」
「……すごい信用のされ方ね」
宮田は鈴村の言葉に驚きながら言った。
「たぶんですけど、宮田先輩は何があっても飯田会長を離さないと思ってます。それこそ、結婚に至るまでずっと一緒なんじゃないかと思ってますよ」
「……ふふっ。そうね。私は飯田君と結婚するつもりでいるし、強ち間違ってはないわね」
「け、結婚って、お前本気で言ってるのか!?」
飯田は焦りながら宮田に問う。
「あら、飯田君にはそのつもりがないのかしら? ……あれだけアツい夜を過ごしたというのに……」
「誤解の生む言い方はやめろ! 間違ってないけど言い方が完全にアウトなんだよ! ……ほれ見てみろ! 鈴村の顔がニヤニヤしてる! 綾瀬と琴原は顔が真っ赤だ! 勘違いされてるってあれ!」
飯田の言う通り、宮田の言葉を聞いて鈴村は顔をニヤつかせ、綾瀬と琴原はその言葉の意味を理解して顔を赤らめていた。
「でも間違ってはいないでしょう?」
「いやまあそりゃ、結婚の話は間違ってないけど……。す、鈴村! 勘違いするなよ! 俺と詩織はそういうことしてないからな! まだ!」
「……わかってますよ。……まだしてないんですよね?」
「あっ」
飯田は失言した。
その様子を見て、宮田は高らかに笑った。
少し落ち着いた後、宮田は言う。
「まあ、そういうことだから。私と飯田君はいずれ結婚するつもりよ。結婚式にはぜひ招待させてもらうわ。鈴村君たちの結婚式にも招待して頂戴ね」
「はい、そのつもりです。ぜひ参列させてもらいますね」
宮田の言葉に、鈴村は笑顔で返した。
「ところで、お前ら初詣で何お願いしたんだ?」
「え、それ聞きます?」
「それはタブーですよ、飯田会長」
飯田の言葉に、鈴村と綾瀬が横やりを入れる。
鈴村と綾瀬の言葉に、琴原も続ける。
「飯田会長。そういうの聞くのはご法度ですよ。お願い事は、皆の心の内に留めておくものです」
「そ、そうか。悪いな皆。変なこと聞いちゃって」
「……まあでも、皆さんの願い事は大体予想がつきますけどね」
琴原は笑顔交じりで言った。
その笑顔は、飯田と宮田、そして、鈴村と綾瀬を羨ましがる感情が混ざっているようだった。
飯田は琴原の言葉に答える。
「予想がつくって……。俺が何願ったかわかるのかよ」
「いいえ、予想がつくだけで正解かどうかはわかりません。ただ、皆さんが持つ『抱負』を叶えるための願い事なんだろうなっていうのは、大体わかりました。実際私もそうですし」
「……そうか。ま、願い事が叶う叶わないはそいつの努力によって全て左右されるからな。結局は自分次第ってわけだ」
「そういうことです。そういう覚悟でいますよって神様に言うだけで、色々と変わるものですけどね」
「それが初詣のいいところだけどな」
飯田と琴原は笑顔で会話していた。
「あっ、そういえば」
飯田はふと何かを思い出してその場に立ち止まった。
それに少し遅れて気づいた四人は、飯田を振り返った。
鈴村が立ち止まった飯田に問う。
「どうしたんですか? 飯田会長。これから皆でお昼行くんですよね? 何か忘れ物でもしたんですか?」
「……そうじゃん。忘れてたわ」
「何がですか?」
鈴村は再度飯田に問う。
飯田は、鈴村に答えた。
「お前、そういえばそろそろ誕生日じゃないか?」
「……誕生日?」
鈴村は思わず聞き返した。
飯田の言葉を聞き、綾瀬は慌て始める。
「あっ! そうじゃん! 鈴村君の誕生日って一月五日だった! すっかり忘れてた!」
「……婚約相手に誕生日忘れられるってショックだよな」
飯田は宮田にぽつりと呟いた。
そんな飯田たちを気にすることなく、綾瀬は続ける。
「ごめん鈴村君! すっかり忘れてたよ! どうしよう、あと四日しかないじゃん!」
「落ち着けよ綾瀬……。あと四日もあるじゃん……。それに、俺だって忘れてたんだから気にすることないだろ」
「婚約相手の誕生日を忘れるんだよ!? あー、私も鈴村君が今朝遅刻した並みにやらかした……。ダメだもう生きていけない……」
「…………遅刻って相当重罪なんだな」
鈴村は綾瀬のこの様子を見て、これ以降遅刻はしないことを心に決めた。
「よし、確か一月五日は冬休みラストの日だったはずだ。この日に俺んちで鈴村の誕生日パーティーをしよう」
「え、いいんですか?」
飯田の提案に、鈴村は耳を疑った。
「もちろんだ! 次期生徒会長になる鈴村の誕生日なんだから盛大に祝わないとな。皆、予定は大丈夫か?」
飯田は鈴村含めた全員に予定を聞く。
「私は大丈夫よ。どちらにしても飯田君の家に行くつもりだったから」
宮田が答える。
「私も、特に予定はないですね……」
「私もないです」
綾瀬、琴原も答える。
「お、いいねえ。で、鈴村は?」
「…………ごめんなさい」
「え?」
鈴村は頭を下げて謝罪をしながら言う。
「……その日、バイトがあります」
「…………お前まだバイトしてんのかよ」
「いいじゃないですか! 自分が汗水流してお金稼ぐのやめられないんですよ! 将来のためにもなりますし! どうせ暇だからと思ってシフト入れちゃったんです!」
「……まあいいか。バイトは何時までだ?」
「一応朝の開店からお昼十二時までの予定なので、その後でしたら特に予定はないです」
「なんだよ、丸一日拘束されるのかと思ったわ……。勘違いさせるような言い方するなよ……」
「ははは、すみません」
鈴村は笑いながら謝った。
飯田は手をパンと叩いて皆に言う。
「よし! じゃあ一月五日、俺んちで鈴村の誕生日パーティー開催だ! 鈴村のバイトが終わってからだからお昼後に開始になるが、皆飯は食うなよー」
「えー。お腹空いちゃって動けないですよー」
飯田の言葉に、綾瀬は不満げに言う。
「綾瀬、誕生日パーティーだぞ? 飯はたっぷり用意しておくつもりだが、それをお預けするのか?」
「食べます! ぜひ食べさせてください! ケーキもありますよね?」
「もちろんだ。立派なのを用意してやるよ」
「やったー! 鈴村君よかったね!」
綾瀬は「ケ♪ ー♪ キ♪」とスキップしながら喜んでいた。
「……俺の誕生日、覚えててくれたんですね」
鈴村が飯田の隣に立って言った。
「鈴村にはいろいろ世話になったからな。ちゃんと恩返ししたいんだ」
「恩返しなら今までたくさんしてもらいましたよ」
「だから言ってるだろ? それだけじゃ足らないくらいお前に恩返しをしたいんだよ。誕生日の日、楽しみにしてろよ」
飯田は笑顔で鈴村に言った。
その表情から、飯田が本当に鈴村に無限の感謝を伝えたいという気持ちが鈴村に伝わってきていた。
「……はい、楽しみにしてます。場を設けてくれてありがとうございました」
「礼なんて言うなよ。……じゃ、まずは今日の腹ごしらえだな」
そう言って飯田は、皆を率いてレストランに向かった。
……そんな話を、こっそり聞く者が二人、その場にいた。
「……聞いたッスね、みやびっち」
「…………ええ、しっかりとこの耳で聞きましたわ」
青海学園生徒会長、桜庭みやびと、同じく副会長、柳美奈であった。
「鈴村っちの誕生日、もうすぐだったんスねー。うちらも鈴村っちには恩がありますし、うちらも参加するしかないッスね」
「ええ、そうですわね。私たちも色々と準備するとしましょうか」
桜庭と柳はお互いの顔を見て、小さく頷いてその場を後にした。




