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鈴村くんは間違えない  作者: シア
第4章 『気持ち』を大事に

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第53話 クリスマスパーティー

「皆さん、本日はようこそおいでくださいました」


 十二月二十二日。


 青海おうみ学園生徒会長、桜庭さくらばみやびの実家にて、少し早めのクリスマスパーティーが開催された。


「す、すっごい…………。立派な豪邸…………。これが家…………?」


「ひ、広すぎて目眩めまいがします……」


 玄関に立つ緑ヶ丘学園生徒会書記、綾瀬凛あやせりんと生徒会会計、琴原みどりはその広さに自分の感覚が狂い始めていた。


 その玄関で、サンタを彷彿とさせる衣装を身に纏った桜庭が緑ヶ丘学園生徒会メンバーに挨拶をしていた。


 緑ヶ丘学園生徒会長、飯田勝翔いいだしょうとは綾瀬たちの様子を見て呆れながらも、桜庭に挨拶をする。


「桜庭さん。本日はこの素晴らしいクリスマスパーティーにお招きいただき、ありがとうございます。これ、うちからのお礼の気持ちです」


 そう言いながら、飯田は桜庭に挨拶代わりの菓子折りを手渡した。


「あらまあ、ご丁寧にありがとうございます。こちらは後ほどお出しいたしますね。それでは皆さん、こちらに」


 そう言って、桜庭はメンバーをリビングへと案内した。


 リビングは結婚式場の披露宴会場と見間違えるほど広く、その壁面には様々なクリスマスパーティー用の飾りつけがされていた。


「お、来たッスねー! こんばんはッスー!」


 飯田たちがリビングに入った瞬間、青海学園生徒会副会長、柳美奈やなぎみながそれに気づき、手を振りながら挨拶をする。


 青海学園生徒会メンバーの面々はそれぞれ自由にこの時間を過ごしていた。


 緑ヶ丘学園生徒会長補佐、鈴村徹すずむらとおるは壁面に飾られた細かい装飾を見て、青海学園生徒会会計、遠坂湊とおさかみなとに声をかける。


「す、すごいね、これ皆で飾り付けやったの……?」


 鈴村は遠坂に同情するような顔を見せて言った。


 ただでさえ広いこのリビングには至る所に飾りつけがされており、さらにその飾りつけに使われた装飾品も手作りであることがわかるものが飾られているのが見て取れた。


 玄関にもそれと似たような飾りつけがされていたのを鈴村は見ていたため、遠坂が言っていた『クリスマスパーティーの準備』が早い時期から開始されていたことに納得をした。


 遠坂は、酷く疲れたような顔をして答える。


「すごいでしょ、これ……。俺ら全員でやったんだよ……」


「すごいね……。これだけの量を四人だけでなんて……」


「ここだけじゃないよ。桜庭会長のこの家全部に装飾が施されてるんだよ」


「……え?」


 鈴村は耳を疑った。


「え、っと、ここ以外の場所もこんな感じの飾りつけがされてるの?」


「絶対に入らないでしょって思うところも飾り付けがされてるよ。桜庭会長のこだわりだろうから手伝ってたけど、正直、うちの生徒会の仕事よりもキツかった……」


 そう言いながら、遠坂は白目を剥いていた。


 ぐったりしてしまった遠坂を見て、鈴村は言う。


「…………ご愁傷様です」


 そう言って、鈴村は遠坂に手を合わせた。


「こらっ。クリスマスパーティーなのに縁起でもないこと言わないの」


「いてっ」


 その鈴村の行動を咎めるかのように、綾瀬は鈴村の頭を叩いた。


「じょ、冗談だよ、冗談」


 鈴村は叩かれた頭をさすりながら言う。


「もっと他に言葉あるでしょ……。『お疲れ様』とかさ……。……にしてもすごいねー、この飾りつけ。桜庭生徒会長のおうちもすっごく広いし、来てよかったなー」


 綾瀬は目を輝かせて言った。


 その後ろから、緑ヶ丘学園生徒会副会長、宮田詩織みやたしおりが感慨深い顔をしながら言う。


「確かにこれはすごいわね……。これだけの量をたった四人でやったなんて賞賛に値するわ。皆さん、お疲れさまでした」


 宮田は桜庭たちに向けて頭を下げる。


「いえいえ、とんでもないですわ。それに、この飾りつけは私たち四人だけではやってませんのよ」


「え、そうなんですか?」


 鈴村は桜庭に問う。


 鈴村のその言葉に桜庭は微笑み、パチンと指を鳴らした。


 その瞬間、桜庭の後ろに十名ほどの使用人が現れた。


「…………おおっ。お見事」


 その華麗な登場ぶりに、綾瀬はなぜか魅入ってしまい拍手をする。


「飾りつけは私の後ろにいる使用人たちにも手伝っていただきました。これだけの量をさすがに四人だけで行うのは大変でしたので……」


 桜庭は困り顔で言う。


 桜庭のその本気ぶりに、鈴村と飯田は少し引いていた。


 飯田は改めて言う。


「さ、桜庭会長。この日のためにいろいろと準備をしてくださって、ありがとうございます」


「いえいえ、とんでもないですわ。さ、皆さん。こちらに集まってくださいな。早速パーティーを始めましょう」


 そう言って、桜庭は部屋中央にある机に集まるよう促した。


 広いリビングとはいえ、パーティーで会話が成立しないような大きさのテーブルがあるわけではなく、しっかり九人全員が会話をするのに支障が出ないほどの大きさのテーブルが用意されており、各々はその椅子に座った。


 テーブルにはフォーク、スプーンなどの食器のほかに、豪華な食事が並べられ、シャンメリーが注がれたワイングラスも置かれていた。


 その中央には二メートルはある巨大なクリスマスケーキが置かれており、まるでクリスマスツリーのようであった。


「まるでクリスマスツリーだね……」


 綾瀬はクリスマスケーキを見て言う。


 琴原も綾瀬の言う意見に同意する。


「ほんとですね……。これも桜庭生徒会長たちが作られたんですか?」


「そうですわ。ここにある料理は全てうちのシェフが作ったものです。皆さんのお口に合うと嬉しいわ」


 桜庭は笑顔で言った。


 そして、全員が着席したことを確認し、桜庭はパーティー開始の音頭を取る。


「それでは、皆さんお座りになられたことですし。始めましょうか」


 その言葉に、柳が続ける。


「そうッスね! じゃあ始めるッスよー!」


「それでは、始めましょうか」


 桜庭はそう言って、シャンメリーの入ったワイングラスを手に取った。


 鈴村たちもワイングラスを手に取り、その場に立ち上がる。


「それでは!」


 と言って、桜庭はワイングラスを上に持ち上げる。


 桜庭の声の後に、皆は続けた。




『ハッピー! メリークリスマース!!』




 こうして、緑ヶ丘学園生徒会、青海学園生徒会合同のクリスマスパーティーが幕を開けた。




                   *




「ん-! このチキンおいしー!」


 綾瀬は頬に手を当て、手羽先チキンを美味しそうに食べていた。


「これも美味しいですよ、凛ちゃん!」


 琴原は自分が食べているピザを綾瀬に食べさせる。


「もごっ! …………うんうん、これも美味しい! チーズが伸びるー」


「わわっ、凛ちゃんそっち行かないでください!」


 綾瀬はピザのチーズを伸ばして琴原を困らせていた。


 その様子を見て、飯田は笑いながら言う。


「ははっ、いやー、こんなに楽しいクリスマスパーティーは久しぶりだな。な、詩織」


「ええ、そうね。クリスマスパーティーは毎年飯田君としているけど、こうやって大勢集まってパーティーするのは久しぶりね」


「こういうのは思い出に残るからいいな。高校最後のクリスマスにこの場を設けてもらってありがたい限りだわ」


「…………飯田君が楽しそうで良かったわ」


 宮田は微笑みながら言う。


「……なんで笑ってんの?」


「いいえ? ただ単純に、飯田君が楽しそうで良かったって思っただけよ」


「……?」


 飯田は宮田の言う言葉に疑問を抱いたが、そのまま食事を続けた。


 宮田は飯田が楽しんでいることに嬉しさを感じていた。


 飯田も柳も桜庭も三年生のため、この年のクリスマスが高校生活最後のクリスマスとなる。


 そんな大事な年に、大勢でテーブルを囲んでパーティーをして笑顔でいる飯田を見て、宮田は安心する顔を見せた。


「ほら、飯田君。これも美味しいわよ。はい、あーん」


「え? ああ、ありがとう」


 宮田はそう言いながら、近くにあった寿司を一つ手に取り、飯田に食べさせた。


「…………あれが伝説の、『あーん』ですか」


 その様子を、遠くから遠坂が見ていた。


 遠坂の言う言葉に鈴村が反応する。


「そんなに『あーん』が珍しい?」


「珍しいも何も、あれは付き合って間もないカップルが恥じらいながらもする行為……。俺にとってはよく見た光景だけど、あんなに嬉しそうに『あーん』をしているのは初めて見たよ……」


「…………遠坂君って本当に軽い恋愛しかしてないんだね」


「この前も思ったけど、鈴村くんってなんでナチュラルに人を傷つける言葉を言うの?」


 遠坂は鈴村に真顔でツッコミを入れた。


 鈴村は遠坂の反応に慌てて訂正する。


「あ、いや、けなしたかったわけじゃなくて、言い方が悪かったな。ちゃんとした気持ちのこもった恋愛をしてないから、そういう光景が珍しく思えるんだなって思っただけだよ」


「……あー、そういうこと。それで言うなら、確かにそうかもね。俺も経験が浅いからさー。飯田生徒会長たちを見てるといろいろ勉強になるわ」


「…………それは勉強と言えるのか?」


 鈴村は、それがどれだけその気持ちに本気であるかによって変わることを理解していたため、飯田たちの反応は普通だと考えていた。


 鈴村はそんな考えを持ったうえで、遠坂にツッコミを入れていた。


「そんなに『あーん』してほしいの?」


 鈴村にそう言うのは青海学園生徒会書記、木下咲良きのしたさくらであった。


「え、別にそういうわけじゃないけど」


「いや、めちゃくちゃしてほしそうに見えるよ。仕方ないなぁ、私が特別にしてあげ……」


「いやいやいや、ダメでしょ咲良さん。私がやります。さ、鈴村君。あーん」


 木下が鈴村に『あーん』をしようとしたところに、綾瀬が間に割り込む。


 そして綾瀬はそのまま、鈴村に『あーん』をした。


「え、えっと、……いただきます」


 そう言って、鈴村は綾瀬に出されたものを食べた。


「……うまい」


「どう? 嬉しい?」


「嬉しい? …………嬉しいけどうまいよ」


 鈴村のその反応に、綾瀬は少しがっかりしていた。


「違う! 違うよ鈴村君! 私が欲しいのはそういうリアクションじゃないんだよ!」


「え? どういうこと? え?」


「……はぁ、徹、ほんとに凛さんと付き合ってるの……?」


「うん、そうだけど……」


「じゃあ普通に嬉しいって言いなよ……」


 木下は頭を抱えながら言った。


 鈴村は少し照れ隠しをしながら言い直す。




「あ、ありがとう綾瀬。嬉しいよ」




「……えへへー、そう? よかったー」


 綾瀬は鈴村のその言葉を聞き、恥ずかしそうに言った。


 木下が小声で鈴村に言う。


「……ほら、これが正解だよ。徹はもっと女心をわからないとダメだね」


「……ごめん、ありがとう」


 鈴村は自分の無知さを恥じ、木下に礼を言った。


「じゃ、今度は私の番ね」


『え?』


 そう言って、木下は鈴村が口を開けたタイミングでピザを『あーん』で食べさせた。


「……うまい」


「じゃなくて?」


 木下は鈴村に言うが、鈴村は木下の背後をゆっくりと指さした。


 木下が振り返ると、そこには鬼の形相をした綾瀬が立っていた。


「……咲良さん? 少し二人きりで話しましょうか?」


 綾瀬は笑顔ながらも、顔を引くつかせながら言った。


「えっ、ごめんなさい、ちょっと出来心で」


「問答無用です。こっちの来てください」


 綾瀬はそう言って、木下を抱えてリビングから出て行った。


 木下は「徹ぅー! 助けてぇー!」と鈴村に助けを求めていたが、綾瀬が怒る理由は十分にわかっていたので助けないでいた。


「……あんなことしたら凛ちゃんに怒られるってわかってるのに、よくやろうとしましたね」


 その様子を見ていた琴原がぽつりと呟いた。


「まあ、あいつにとっちゃ出来心なんだと思いますよ。綾瀬のこともよく知らないですから、あの程度で怒らないと思ったんでしょう」


 鈴村は綾瀬たちが出て行ったほうを向きながら、木下がなぜその行動を取ったのか冷静に解析していた。


 鈴村の解析を聞いて、琴原は言う。


「そういうことがしたいのなら、凛ちゃんが見てないところでやっちゃえばいいんですよ。ね、鈴村君?」


「え?」




 琴原のその言葉に鈴村が振り返ると同時に、琴原も鈴村に『あーん』をした。




「えっ、ちょ、琴原先輩!?」


 琴原の突然の行動に思わず鈴村は驚く。


「へへへっ、びっくりしました?」


「びっくりも何も、琴原先輩、そういうことしないって自分で決めたんじゃ……」


 琴原は鈴村に少し間を空けて回答する。


「そうですよ。前に凛ちゃんにも言いましたが、もう鈴村君への気持ちは諦めました。これは『友達』として行ったことです。何かおかしかったですか?」


「…………だんだん琴原先輩が小悪魔に見えてきました」


 抜け道があればどんなものでも使う琴原の行動に、鈴村は困惑していた。


 琴原は慌てながら鈴村に言う。


「あ、すみません! まだ鈴村君に未練があるとか、やっぱり付き合いたいとか、そういうことを思ってるわけじゃないんです。ただ、鈴村君との時間は大切にしたいなって思っただけで……」


 琴原はもじもじしながら照れていた。


 その琴原の言葉に、鈴村は苦言を呈す。


「……それならそれで、『友達』の範疇で収まる行為に留めてください。琴原先輩がやったそれは、『友達』に対してすることじゃないと思いますよ」


「……ごめんなさい」


 琴原は少し暗い顔をして言った。


「そうッスかね?」


 その鈴村の言葉に、柳が反応する。


「うちは友達同士でもそういうことすると思うッスね。ほら、鈴村っち、あーん」


 そう言いながら、柳は鈴村に『あーん』をしようとした。


 しかし、鈴村はその瞬間遠坂の姿が視界に入り、柳のそれを拒んだ。


「……ごめんなさい、俺はそういう考えにはならないです」


「そッスかー。鈴村っちもお堅い人ッスねー。……ま、その反応だと湊っちのことを思って断ったんスよね」


「ええ、まあ」


「鈴村っちは優しいッスね。でも湊っちはそんなことでいちいち怒らな――」


「誰が怒らないですって?」


 その柳の背後から、柳の言葉を遮って遠坂が近づいてきた。


「あ、湊っち。湊っちなら別にこんなことしても許してくれるッスよね?」


 遠坂は笑顔で答える。


「許しません」


 そう言って、柳を無理やり遠い席へ引きずっていった。


「ご、ごめんなさいッスー! うちが悪かったッスー!」


 柳は泣きながら謝罪をしていた。


「…………なんか、皆面白いくらいに変な人たちだなぁ」


 鈴村はそんなことを呟いていた。


「皆さん個性があっていいじゃないですか。私はそういうの好きですよ」


 その言葉に、琴原が答える。


 と、その時。


 桜庭が皆を注目させるために「パンパン」と手を二回叩いた。


 ちょうどそのタイミングでこっぴどく怒られて涙目になった木下と、怒ってスッキリした綾瀬が帰ってきた。


「皆さん、お食事は楽しまれていますか?」


「一部の人は楽しんでないように見えますね」


 飯田は木下と柳を見て言う。


「まあ、木下さんと柳さんは自業自得なのでそのままにしておきましょう。私もやりたかったのに抜け駆けしたことを反省してください」


『…………はい』


 木下と柳は桜庭の言葉を聞いてしょんぼりとしていた。


「ちょっと待って、『私もやりたかった』ってどういうことですか?」


「では、ここでお楽しみタイムといきましょう!」


「え、あの、ちょっと、聞いてます?」


 宮田は桜庭の発した言葉にとても引っかかるものがあり桜庭に問い詰めるが、桜庭はそれを完全に無視して話を進めた。


「皆さんには事前に、この場で渡すクリスマスプレゼントを用意するようにお願いしました。皆さんお忘れではないですよね?」


「はい、持ってきてます」


 鈴村が桜庭の問いに代表して答える。


「ありがとうございます。それでは皆さん、まずはお持ちいただいたクリスマスプレゼントをこの箱の中に入れてください」


 そう言って、桜庭は大きめの箱を使用人に用意してもらい、そこにそれぞれが用意したクリスマスプレゼントを入れるよう促した。


 綾瀬はクリスマスプレゼントを箱の中に入れながら、桜庭に問う。


「……もしかして、今からやるのって『クリスマスプレゼント交換会』ですか?」


「その通りです! よくわかりましたね!」


 綾瀬の問いに、桜庭は嬉しそうに答える。


 桜庭はそのまま説明を続けた。


「これから皆さんには、一人ずつこの箱の中に手を入れてもらい、どれでもいいので一つ手に取ってください。それを今回のクリスマスプレゼントとしてお渡しすることになります」


「あー……。だから準備してって連絡が来た時、『自分が貰っても困らないもの』っていう条件をつけてたんですね」


 飯田は桜庭がクリスマスプレゼントを用意する条件に、「自分が貰っても困らないもの」をつけていた。


 箱の中身が見えていない状態でそれぞれが選んだプレゼントの中の一つを選ぶため、自分の用意したプレゼントを選んでしまう可能性もある。


 自分が用意したものが自分のところに来るなど、クリスマスプレゼント交換会では面白くないと判断した桜庭は、その条件をつけることでその人も楽しめるように配慮していた。


 綾瀬はこのクリスマスプレゼント交換会を待ちわびていた。


(…………クリスマスプレゼントを用意してって桜庭生徒会長に言われてから大体察しはしてたけど、やっぱりこうなったね……。私は是が非でも鈴村君のプレゼントを選んでみせるよ……!)


 綾瀬はやる気満々であった。


 一方、琴原、木下も密かに鈴村のクリスマスプレゼントを狙っていた。


(絶対に鈴村君のプレゼントを選んでみせます……!)


(絶対に、徹のプレゼントを選んでやる……!)


 二人も綾瀬に負けず劣らず、やる気満々であった。


 その三人の様子を見て、桜庭は言う。


「あらあら、随分やる気に満ち溢れた方がいらっしゃいますね。私としても、この企画を提案した甲斐があります」


 桜庭は嬉しそうにしていた。


「それでは、まずは木下さんから始めましょうか」


「え、私からですか?」


 木下は桜庭の指名を受け、自分のことを指さして桜庭に聞き返す。


「はい、木下さんからです。この台に立って、箱の中に手を入れ、最初に触れたものをそのまま箱から出してください」


 桜庭はそう言って、大きな箱の近くに少し立派な装飾がされた台を置いた。


 木下は困惑しつつも、その台の上に立つ。


(い、一番最初って……。狙いのものが手に入る確率が一番低いじゃん……)


 木下の考えていることはもっともであった。


 クリスマスプレゼントが入った箱の中を見ず、無作為に箱の中からクリスマスプレゼントを取り出した場合、当然一番最初の人はその数分の一の確率を引き当てないといけないことになる。


 箱の中の数が減っていけば自ずと自分の狙うプレゼントが手に入るのは明白であったが、そのうちに他の人が狙っているプレゼントを取っていくことも理解していた。


(……まあ、どっちにしても確率はあまり変わらないか)


 木下は少し諦めたのか、そのまま箱の中に手を入れ、プレゼントを取り出す。


「こーーーれだああああああ!」


「…………あら、それ私の要したプレゼントだわ」


「……え」


 木下が選んだのは、宮田が用意したプレゼントであった。


(………………外した)


 木下は悲しそうな顔をした。


「え、そんなに私のプレゼント嫌だったかしら。その反応されると、ちょっと傷つくわね」


「あ、いやすみません、そういうんじゃないです! 宮田副会長からのプレゼント、ありがたくいただきます!」


 木下は慌てながら宮田にお礼を言う。


 しかし、木下は本心をあまり隠すことができず、その表情を変えられないでいた。


「木下さん、開けてもらって構わないわよ」


「あ、はい。ありがとうございます」


 そう言って、木下は宮田が用意したプレゼントの袋を開ける。


「…………わぁ、綺麗ですね」


「スノードームよ。私は見てて飽きないから結構好きだし、他の人も少なくとも残念がるものじゃないと思ってそれにしたわ。どうかしら?」


 宮田は木下に問う。


「ありがとうございます。いいですよね、スノードーム。私も好きです」


「ならよかったわ。ぜひ飾っておいて頂戴」


 宮田は笑顔で木下にそう言った。


「…………飯田会長が喜ぶものとか入れなかったんですね」


 鈴村は宮田にこっそりと話しかける。


 宮田は少し呆れた顔をして鈴村に答えた。


「……そういう大事なものは、別の日に直接相手に渡すものよ」


「あ、そうでしたね」


「……まさかとは思うけど、鈴村君、もしかして綾瀬さんに渡すプレゼント入れたりしてないわよね……?」


 宮田は心配そうな顔をして鈴村に聞いた。


「いや、入れてないです。俺が入れたのは『自分が貰って嬉しいもの』なんで」


「そう、それならいいのだけど……」


 宮田は安堵した顔をしていた。


「さ、木下さんの順番が終わったので、次どんどん行きましょう。では次は……、遠坂君、お願いできますか?」


「はーい」


 遠坂は桜庭の指示に従い、台の上に立つ。


 遠坂が選んだプレゼントは、偶然か、柳の用意したプレゼントであった。


「あ、柳副会長のだ」


「やったッス! さすが湊っち! うちのプレゼント選んでくれるって信じてたッスよ!」


 柳はとても嬉しそうにしていた。


「なら次はうちッス! うちも湊っちのプレゼントを絶対に手に入れるッス!」


 柳はやる気に満ち溢れていた。


「別に俺からのプレゼントならいつでも渡しますって」


 遠坂はそう言うが、柳の目は燃えていた。


「いや、そういうわけにはいかないッス。湊っちからのプレゼントは直接渡されるものであっても、こういう場のために用意されたものであっても、何が何でも手に入れなきゃならないッス」


「…………なんか熱血教師みたいなこと言ってますね」


 遠坂は柳にツッコミを入れた。


 柳は少し黙り込み、間を空けて箱に手を入れる。


「これッスー!」


 柳が選んだそのプレゼントは、これまた偶然か、遠坂の用意したプレゼントであった。


「ほ、ほんとに選んだ……」


 遠坂は目を疑った。


「え、ほんとに出たッス。やったー! 嬉しいいいいい!」


 柳はそのプレゼントを抱えてリビングを走り回っていた。


「埃が舞うのでやめてください、柳さん。……まあいいですわ。ここからじゃんじゃんいきましょう」


 そうして、クリスマスプレゼント交換会は順番に行われていった。




                  *




「あと残るのは私、みどり先輩、そして鈴村君……。さらに、中に入っているのも、私、みどり先輩、鈴村君の用意したプレゼント……」


 クリスマスプレゼント交換会も終盤。


 箱に残されたクリスマスプレゼントは、綾瀬、琴原、鈴村の三名が用意したものであった。


 さらに、まだクリスマスプレゼントを引いていないのも、この三人であった。


「……まさに運命の瞬間ッスね」


 柳はその様子を見てどこからか熱意を感じ取っていた。


「あらあら、まさかこの三人が残るなんて思いませんでしたわ。すごい確率ですわね」


 桜庭は飯田が用意したプレゼントを手に持ちながら感銘を受けていた。


「……あのプレゼント、私が欲しかったのに……」


 宮田は桜庭が持つプレゼントを見て、羨ましそうにしていた。


 その様子を見ていた飯田は、静かにポンと、宮田の頭に手を置いて優しく撫でる。


「安心しろ詩織。お前にはちゃんとプレゼント用意してるから」


「…………楽しみにしてるわ」


 宮田は嬉しそうに微笑んだ。


「さあ、次は鈴村君の番ですわ」


 桜庭はそう言って、鈴村を台の上に立たせる。


「……ついにこの時が来たか……」


 鈴村は心に決めていた。必ず綾瀬のプレゼントを手に入れると。


 仮に誰かに取られてしまったときは諦めていたが、結局自分の番が来るまで綾瀬のプレゼントが残った状態になっていた。


 ……そしてさらに、琴原のプレゼントも残されているのであった。


(ここは、絶対に綾瀬のを引く……。琴原先輩のでもいいけど、自分のだけは退いちゃダメだ……!)


 鈴村はここに来て、人生最大のヒリつきを感じていた。


(……お願い鈴村君、私のプレゼントを選んで……!)


(鈴村君、私のプレゼントを受け取ってください……!)


 綾瀬と琴原は、心の中でそう叫び、手を合わせて祈っていた。


「では、鈴村君。プレゼントを選んでください!」


 桜庭のその掛け声とともに、鈴村は勢いよく箱の中に手を入れ、プレゼントを取り出した。


『………………っ!』


 その取り出したプレゼントを見て、綾瀬、琴原は驚く顔をする。


 ゆっくりと、その取り出したプレゼントを確認した鈴村は言った。




「あ、これ俺のじゃん」




『なんでええええええええええええええええええ!!!!!!!!!』


 綾瀬と琴原は声を揃えて叫んだ。


「いやー、あはは。自分の選んじゃいました」


 鈴村は手を頭に置き、笑いながら言った。


「…………鈴村君のプレゼント…………」


「もらえませんでした………………」


 綾瀬と琴原はその様子を見て、とても残念そうな顔をしていた。


「そ、そんな顔しないでよ、二人とも。ほら、俺のプレゼントこれだからさ」


「…………?」


 鈴村はそう言って、自分が用意したプレゼントの袋を開けた。


『…………トランプ?』


 鈴村が用意したのはトランプだった。


「やっぱり、楽しめるおもちゃがいいなと思って、それでいて皆で楽しめるものって何だろうって思ったときに、これが目に入ったんだよね。だからこれにしたんだ」


 鈴村はトランプを選んだ理由を説明した。


 確かにこの鈴村の選択は無難であり、トラブルが起こらない一つの選択肢であった。


(……ま、ほんとは琴原先輩が密かに狙ってたのもわかってたし、これにしてよかったかな)


 鈴村はそんなことを考えていた。


 綾瀬は残念そうな顔をしていたが、ふとあることに気づく。


「……あれ、ってことは、私がもらうのって、自分のかもしれないし、みどり先輩が用意したものかもしれない、ってこと……」


「そ、そういうことになりますね。私は残ったほうを受け取る形になります」


 残されたプレゼントは綾瀬と琴原の用意したものである。


 次の番は綾瀬であるが、二分の一で自分が用意したプレゼントを引き当ててしまうため、少し焦っていた。


(……大丈夫。自分が貰っても困らないものを入れたんだもん。自分の選んでも大丈夫。みどり先輩も、きっとそういう考えだから大事なものは入れてないはず……)


 そう考えながら、綾瀬は意を決してプレゼントの入った箱に手を入れた。


(……そう、私の選んだプレゼントはあまり大きくない。だからそれを頼りにすれば……。すれば……)


 綾瀬は自分の用意したプレゼントの大きさを理解していたため、その大きさで自分のものであるかどうかを判断しようとしていた。


 が、それも一筋縄にはいかなかった。




(……みどり先輩の用意したものも、同じ大きさだ……!)




 綾瀬の作戦は儚く散った。


 綾瀬は自分の用意したプレゼントの区別がつかず、「これだああ!」と叫びながらプレゼントを取り出した。




「…………あっ、それ私のです」




 綾瀬が選んだのは、琴原の用意したプレゼントだった。


 綾瀬は少し時が止まった感覚に陥っていたが、すぐ我に返り笑顔になって言う。


「み、みどり先輩のだったんですね! やったー! 見てもいいですか?」


「あ、はい。いいですけど、先に私も残ったプレゼント受け取っていいですか? これ凛ちゃんのですもんね」


「いいですよ。先に取ってください」


 琴原はそうして、最後に残った綾瀬の用意したプレゼントを手に取った。


 それを見た鈴村は驚いた顔をして言う。




「二人の用意したプレゼントの袋、大きさもデザインも一緒だ……」




『……まさか』


 綾瀬と琴原は急いでプレゼントを開けて中身を確認した。


 その中身は、綾瀬のプレゼントは赤色とピンクの毛糸で編みこまれたマフラー、琴原のプレゼントは、黄色とピンクの毛糸で編みこまれたマフラーであった。


「……もしかして、みどり先輩、これ同じお店で買いました?」


「……はい、そのマフラー、見たことあります。自分が使うならそれがいいなと思って選んだんです」


 綾瀬の問いに、琴原は応えた。


 その様子を見て、桜庭が言う。


「お二人は仲が良いんですね。とてもいいと思います。お友達同士のプレゼント交換なんて、素晴らしいじゃないですか」


「…………確かにそうですね」


 桜庭の言葉に、綾瀬は少し微笑んでいた。


「お互い交換っこみたいな感じになりましたね! 私これ使わせてもらいます!」


「わ、私もです! 使わせていただきますね!」


 綾瀬と琴原はお互いに笑顔でそう言った。


 桜庭は全ての交換が終わったことを確認し、指揮を執る。


「はい! ではクリスマスプレゼント交換会も無事に終わったことですし、クリスマスパーティーを続けましょう! まだまだパーティーはこれからです!」


 そう言って、桜庭は用意していた次のプログラムを開始した。




                   *




「楽しかったねー、クリスマスパーティー」


 そんなクリスマスパーティーも終わりを迎え、それぞれのメンバーは帰路についていた。


 綾瀬、鈴村は夜道を二人で歩きながら話していた。


「俺、あんまああいうの参加したことないから緊張したよ」


「そうだと思った。鈴村君、ああいうの慣れてなさそうだし」


「バカにしてる?」


「少しだけ」


 綾瀬と鈴村は他愛のない話をしていた。


 二人には笑みがこぼれていた。


 鈴村は歩きながら綾瀬に言う。


「……誕生日、もうすぐだな」


「そうだね。誕生日来るの早いなぁ。一年が過ぎるのってなんでこんなに早く感じるんだろうね」


 綾瀬は空を見上げながら言う。


「そう言ってられるのも今のうちだぞ。年老いたら体感時間がだんだん長くなるって聞くし」


「そういうものなのかな? 私には想像できないや」


 綾瀬はそう言って、鈴村の少し前に立って言う。


「鈴村君は、私の年老いた姿、見たい?」


「……どういうこと?」


「そのまんまの意味だよ。で、見たい? 見たくない?」


 鈴村は綾瀬の問う質問の意図を理解していた。


 綾瀬のその問いの真意、それは、自分と将来を共にしたいかどうか、というものであった。


 綾瀬には、鈴村といつまでも時間を共にするという覚悟があった。


 鈴村は笑顔で答える。


「俺は、綾瀬の年老いた姿、見たいかな」


 その答えに綾瀬は安心するような顔で言う。


「私も、鈴村君の年老いた姿、見たいな」


 二人は向かい合ったまま、その場で黙り込む。


 少しの静寂が二人を包んでいた。


「……綾瀬の誕生日、楽しみだな」


「……うん」


 綾瀬はそう言って鈴村に顔を近づけ、鈴村の耳元で囁いた。




「誕生日、私が幸せいっぱいになれるように、盛大に祝ってね♪」




 そう囁いた後、綾瀬は鈴村の頬に軽くキスをした。


「ちょ、綾瀬! 人が見てるかもしれないだろ!」


 鈴村は綾瀬の取った行動に焦った顔で言う。


「ははは! こんな暗い道、誰がいるかなんて見えないよ。バレないてないから安心して」


「その自信はどこから来るんだよ……」


 鈴村は少し呆れ顔で言った。


 綾瀬は不敵な笑みを浮かべながら鈴村に言う。


「……それとも、この暗さを利用して、少しエッチなことでもしちゃう?」


「は!?」


 突然の綾瀬の発言に、鈴村は戸惑っていた。


 その様子を見て、綾瀬は思わず笑いだす。


「ふふっ……、ははは! 鈴村君もまだまだ子供だねぇ。そんなこと()()ではしないよ」


「わ、わかってるよ……!」


 鈴村は照れながら綾瀬に言った。


(……()()じゃなかったらするつもりだったのか……?)


 鈴村は少しいやらしいことを考えてしまったが、その考えを頭を横にブンブンと振って取り払った。


 綾瀬はその行動を見て色々と察したのか、ニヤニヤしていた。


「じゃ、またイブに会おっか。気を付けて帰ってね!」


「あれ、送らなくていいのか?」


「大丈夫! 実はすぐそこにお父さん待たせてるんだよね」


「あの過保護理事長……。それならいいけど……。…………ん? 待たせてる?」


「うん、そうだよ。私が頼んでおいたの」


「……もしかしてさっきの見られてないよな」


 鈴村は疑いの目を綾瀬にかけた。


「大丈夫だよ! こんなに暗いんだし、見えるわけないよ! じゃ、鈴村君。またイブに会お」


「お、おう。またな、綾瀬。気を付けて」


 綾瀬は笑顔で手を振り、鈴村とその場で別れた。


「……ほんとに見られてないのかな……」


 鈴村は心配をしながらも、自宅へと歩を進めた。




 そしてついに、クリスマスイブ、及び、綾瀬凛の誕生日がやってきたのであった。

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