第51話 喜んでほしい
「それで? なぜ私たちを尾行していたのか、しっかりと説明していただけるかしら?」
「だから、たまたま見かけただけなんスよー、信じてくださいッスー」
十二月の土曜日。
クリスマスイブまであと二週間というこの日に、鈴村徹は綾瀬凛へのクリスマスプレゼント、もとい、誕生日プレゼントを選ぶためミドリモールに来ていた。
鈴村は女子が付き合っている男子に何を渡されたら嬉しいかがわからず、宮田詩織に協力してもらいプレゼントを選んでいた。
偶然、ミドリモールに居合わせた柳美奈、木下咲良はその二人が買い物をしている瞬間を目撃し、それを『鈴村の浮気』と判断して尾行していた。
が、その尾行もすぐに宮田に見つかってしまう始末となった。
柳、木下はミドリモール内の喫茶店に連行され、宮田から尋問を受けていた。
宮田は性懲りもなく言い訳を続ける柳に対し、再度同じ質問をする。
「柳副会長。なぜ尾行をしていたのか、説明してください」
柳はこの質問が既に五回以上されていることに飽き飽きしてきたのか、気だるそうに答えた。
「何度も言ってるじゃないッスか。たまたまお二人を見かけただけなんスよ」
「…………それは本当ですか? 木下さん」
宮田はなぜか柳の言葉が信じられず、木下に真意を問いただした。
急に話を振られた木下は慌てながらも答える。
「や、柳副会長の言ってることは本当です。私も柳副会長も最初は一人だったんですけど、ミドリモールの中でばったり会ったんです。それで、ミドリモールを散策していたら、偶然宮田副会長たちを見かけて……」
木下は半分嘘をついていた。
木下と柳が一人でミドリモールに来ていたところまでは事実だったが、木下と柳は別々の場所から鈴村、宮田が二人きりで買い物をしている瞬間を目撃。その尾行の途中で、木下と柳は遭遇したのであった。
柳は少し嘘をついている木下に合わせて話した。
「そ、そうなんスよ。うちらも咲良っちと買い物をしてて、そしたら宮田副会長を見かけて……」
「…………へぇ」
「うっ……」
宮田は何かを見透かすような視線を柳に向けた。
しかし、柳は臆することなく続けた。
「ふ、二人はここで何してたんスか? クリスマスも近い休日に男女二人で買い物なんて珍しいッスねー。しかも、お互いに付き合ってる人がいるうえでなんて驚きッス」
「ああ、そのことなんですけど」
と、鈴村が柳に話そうとした瞬間、木下は思わず言ってしまう。
「徹。女性経験は多いほうがいいなんて考えはダメだよ。こんな堂々と浮気なんて、凛さんにどういう顔で学校で会うつもりなの?」
「…………は?」
鈴村は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
その木下の発言に、宮田は思わず笑ってしまう。
「はは、はははっ! なるほど、そういうことだったのね。それなら早く言えばよかったじゃないですか」
宮田は爆笑していた。
腹を抱えて爆笑する宮田を横目に、鈴村はなぜ宮田と一緒にミドリモールにいるのかを木下に説明した。
「もうすぐクリスマスイブだろ? 綾瀬の誕生日、クリスマスイブなんだよ。宮田先輩にはそのプレゼント選びに協力してもらってるんだ」
「あっ、そ、そうだったんだ。…………ごめんなさい」
木下は謝ったあと、自分がとても恥ずかしくなり顔を隠した。
「と、いうわけで、うちたちはてっきり、鈴村っちと宮田副会長が浮気をしていると勘違いしてたのでしたー」
柳は自分の頭に手を置き、「あははー」と笑いながらそう言った。
鈴村は柳たちが取っていた行動と、木下が言った言葉の意味を理解した。
「なるほど……。俺はこんな白昼堂々と浮気できる度胸なんかないですよ……。しかも相手は宮田先輩ですよ? それこそ飯田会長からゲンコツくらうどころの話じゃなくなりますよ」
「それどころか、綾瀬っちのお父さんから拷問受けそうッスね!」
柳はにこやかに言った。
鈴村にとってその言葉は冗談には聞こえなかった。
「……あの人ならマジでやりそうだわ……」
鈴村は寒気がしていた。
「ていうか、好きな人へのプレゼントなら自分で選びなよ」
木下は鈴村に向かって言う。
「いや、まあそれはそうなんだけど……」
「付き合ってる女子からすれば、彼氏が悩みに悩んで選んでくれたプレゼントなら何でも喜ぶと思うなー。それって、その人の事をしっかり思ってくれてる証拠じゃん」
「それは俺もわかってるんだよ。できれば自分の力で選びたかったんだけど……」
「……だけど?」
木下は鈴村の言葉の続きが気になった。
「……女の子って、何をもらったら嬉しいんだ?」
「…………ぷっ、はははははは!!!!!」
鈴村の真顔で言うその言葉に、思わず木下は吹き出してしまう。
「と、徹! それが徹の口から出る言葉なの!? ははははは!!!! 冗談もほどほどにしておきなよ!!! はははははは!!!!!」
「…………そんなに笑うことないだろ」
鈴村はだんだんその木下の反応に恥ずかしくなってきていた。
「あれだけ凛さんのことを大事に思っておきながら、そこで躓くなんてびっくりだよ! ごめん、笑いすぎてお腹痛いはははははは!!!!!」
「……もう勘弁してくれ………………」
今度は鈴村が顔を隠した。
鈴村の様子を見て「くすっ」と笑う宮田は、木下に対し口を開く。
「鈴村君は綾瀬さんのことを大事に思ってるわ。ちゃんと綾瀬さんが喜ぶものを選びたいと思っていたそうなの。でも、何が正解かが自分の中で分からなくなったらしくって、私に協力を求めてきたのよ」
柳はその言葉に、「なるほどッスねぇ」と頬杖をつきながら言った。
「これはうちからの意見ッス。正直、プレゼントに正解なんてないと思うんスよ」
「え、そうなんですか?」
鈴村は顔を隠していた手をどかしながら言う。
「まあ、不正解は確かにあるかもしれないッスけど、要は気持ちの問題ッスよ。鈴村っちが綾瀬っちに何を渡したら喜んでくれるか、嬉しいと思ってくれるかを考えればいいんス」
「な、なるほど……」
「相手は好きな人からのプレゼントであれば、それがなんであろうと、自分のために必死に悩んで選んでくれたって思うはずッス。そこで気持ちが伝われば何でもいいんスよ」
その言葉に木下が続ける。
「でも、その中でもちゃんとその人に似あうかどうか、渡すに相応しいものかを考えるのも重要だよ。ただ悩んだだけじゃダメだからね」
「なるほど……、参考になります」
鈴村はそう言いながら二人の意見をメモしていた。
柳は、「なので」と話を続ける。
「さっきアクセサリー店で即購入したものはダメッスね」
「…………アクセサリー店?」
「あっ」
柳は墓穴を掘った。
宮田は再び柳を睨みつけて言う。
「……一体どこから私たちのことを尾行してたのかしらね……? もしかして……、ずーっと最初から尾行していて、たまたまそのタイミングでお二人は遭遇した、とか?」
『ぎくっ』
宮田は真相に辿り着いてしまった。
柳は怒られると直感的に考え目を瞑ったが、しかし宮田からは意外な言葉が出た。
「ま、そんなことでいちいち私たちも怒ってられないです。むしろ誤解するようなことをした私たちにも責任はありますから、気にしないでください」
「……お、怒らないんスか?」
「まぁ……、尾行してたことは少々鼻につきますが……。私は鈴村君に協力してるだけですし、お二人を怒る資格はないですよ」
「み、宮田副会長……!」
柳は宮田が天使に見えていた。
「ですが、尾行をしたことは許しません」
「あ、はい。すみませんッス」
その宮田の姿は一気に悪魔へと変わった。
「それで、アクセサリー店で何買ったの?」
木下は興味交じりで鈴村に問う。
「ああ、これを買ったんだ」
そう言って、鈴村はネックレスを取り出した。
「お、おぉ……。案外かわいいの選ぶのね……」
「あ、勘違いしてるかもだけど、これは早紀姉ちゃんに渡すものだ」
「え、お姉さん用?」
木下は驚いた顔をした。
「あれ、言ってなかったっけ」
「うん、初耳。そのネックレスお姉さん用なんだ。いいねぇ、お姉さんも喜ぶと思うよ」
「早紀姉ちゃんは猫が大好きだからさ。このネックレス、猫がデザインされてていいなぁって思って、すぐ買ったんだよ」
「なるほどねぇ」
かく言う木下も猫好きである。本心では、鈴村からこのネックレスをもらえたらな、と考えていた。
しかし、それが叶わないことは木下が理解しているため、考えるのをやめた。
「ってことは、まだ凛さんへのプレゼントは買ってないんだね」
「ああ、そうなんだよ。どこ行ってもいいのが見つからなくてさ……」
「それは困ったッスねぇ。……で、宮田副会長はあの服屋で何買ったんスか? やけに選ぶの早かったッスよね」
柳は次に宮田に話を振った。
「ああ、あれですか。私も飯田君にクリスマスプレゼントを渡そうと思ってたんですよ」
そう言いながら、宮田は男物の服を二着、袋から取り出して見せた。
「それ、鈴村っちに選んでもらったやつッスよね?」
「そうですね。毎年私と飯田君はクリスマスプレゼントを渡し合ってるんですけど、今年は何にしようか悩んでいたんです。服は渡したことがないなと思って、今年は服を渡そうと決めました」
「それで、男子目線からの意見が欲しくて、鈴村っちに選んでもらっていたと」
「そういうことです」
柳は鈴村と宮田がこの場にいる理由を改めて理解した。
「それじゃ、あんまうちらも邪魔するの悪いし、ここらでお開きにするッスかねー」
その言葉に、木下も賛成した。
「そうですね。二人にはちゃんとプレゼントを選んでもらいたいですし。邪魔者は消えないとですね」
「じゃ、邪魔者って……。そんなに自分たちのこと卑下しなくても……」
「いやいや、いいんスよ。むしろ鈴村っちたちのことが羨ましいッス」
「……羨ましい? なんでですか?」
「……あー、柳副会長、その話はしないほうが……」
柳は言い終えた後、少し悲しそうな顔をした。
その様子を見て、木下が気を遣うようなことを言っていた。
不思議すぎるその柳の反応に、思わず鈴村と宮田は困惑する。
「うちも湊っちと一緒にクリスマス過ごしたかったなぁ」
「…………え?」
その言葉に、宮田は目を見開いた。
鈴村は柳の言った言葉の意味を瞬時に理解した。
「あー、……なるほど。遠坂君と予定が合わなかったんですね」
「いや、そうじゃないんスよ……」
柳は鈴村の言葉を否定した。
片や宮田は、突然遠坂の名前が出てきて困惑していた。
「えっと、柳副会長。なんで急に遠坂君の名前が……? しかもそんな残念そうな顔して……」
「あ、そっか。そのこと知ってるの鈴村っちだけッスね」
柳は宮田の顔を見て打ち明けた。
「うち、湊っちと付き合ってるんスよ」
「…………え!?」
宮田に衝撃走る。
その反応を見て、柳は笑いそうになっていた。
宮田は自分の耳を疑っていた。
「えっと、遠坂君と付き合ってるって、どういうことですか?」
「まあ色々あったんスよ。『親睦会』の後に」
「へ、へぇ……。それは木下さんも知ってるのかしら?」
宮田は木下に視線を向けて問う。
「はい。なんなら、うちの生徒会メンバー全員知ってます」
「え!?!?!?」
宮田に二度目の衝撃走る。
「し、親睦会ってそんなに関係深まる要素あったかしら……」
宮田は『親睦会』であったことを必死に思い出していたが、思い当たる節がどこにもなく困惑していた。
柳はそのまま説明する。
「実はッスね、みやびっちのご実家でクリスマス当日にクリスマスパーティーがあるんスよ。うちら青海学園の生徒会メンバーは全員それに誘われたんス」
「で、でも、柳副会長と遠坂君のことを知っているなら断っても良かったんじゃ……?」
鈴村は柳に言う。
しかし柳は、そんなことはわかっている、と言わんばかりの顔をして言った。
「みやびっちの生徒会は今年が最後ッス。うともみやびっちも、今年で卒業ッスから、クリスマスは皆で楽しく過ごそうって話になったんスよ」
「な、なるほど……。それは確かにいい考えですけど……」
「湊っちとはいつでも好きな時に一緒の時間を過ごせるッスけど、みやびっち含めた今の生徒会メンバーと過ごせる時間は残り僅かッス。それなら、そっちを優先させたほうがいいって湊っちと話したんスよ」
「まあ、それは確かに一理ありますね」
鈴村は柳の意見に賛同していた。
「だけど本当は湊っちとクリスマス過ごしたかったッスー。二人きりでイチャイチャしたかったッスー」
「言ってることとやってることがまるで合ってないですよ」
宮田は柳の取っている行動が少し気になった。
「羨ましいと思ってるのはほんとッスよ。できることなら湊っちと一緒にいたいッスから」
「……柳副会長、それクリスマス当日の話ですよね?」
「え? そうッスけど、何かあるんスか?」
鈴村はなぜこれが柳にわからないのか理解できないまま、柳に言った。
「それなら、クリスマスイブに遠坂君とデートして、クリスマス当日に皆さんでパーティーで良くないですか?」
「…………確かに……!」
柳は本人が考えもしなかった案に巡り合い、目を輝かせる。
「…………なんでそれが思いつかないんだ……」
鈴村は少し呆れた顔をしていた。
「でもそう考えると、俺も飯田会長と過ごせる時間も僅かだし、クリスマスパーティーの日は設けたほうがいいですかね」
鈴村は宮田に問いかける。
「私はいつでも飯田君と一緒にいれるからいいけど……。確かに鈴村君や綾瀬さん、みどりにとっては飯田君と過ごせる時間は短いわね。……でも、イブもクリスマスも飯田君を渡すつもりはないわ」
「ですよねー」
鈴村も柳に感化され、飯田との時間を大切にしようと考えてはいたが、宮田に一蹴されてしまったため、出た言葉が棒読みになっていた。
宮田は「でも」と話を続ける。
「でも、クリスマスパーティーなら別にイブや当日に拘らなくてもいいと思うわ」
「どういうことですか?」
鈴村は宮田に聞く。
「要はそのパーティーが催されたことに意味があるのよ。やったかやってないかで言えば、やったほうが断然にいいわ」
「てことは、俺らもパーティーやるんですか?」
「ええ。クリスマスの予定はそのままで、その数日前にパーティーを開催できないか飯田君に提案してみましょう」
宮田はそう言って、スマホを取り出して飯田に連絡を取り始めた。
「あっ、それならうちで一緒にやらないッスか? 人数は多いほうがいいし、忘年会も兼ねてるので来てくれたら大歓迎ッスよ!」
「でも日付は決まってるんですよね?」
「あ、そうだったッス。ちょっとみやびっちに確認してみるッスね」
そう言って、柳もスマホを取り出し、桜庭に連絡を取り始めた。
「…………生徒会副会長って、行動力すごいよね」
その様子を見て、木下は鈴村に小声で言う。
「……まあ、横で生徒会長を支えてる人たちだからな。悩み事があったらその助けになりたいって思うのは当然なんじゃないかな」
「なるほどね。確かにそれは一理あるかも」
木下は鈴村の意見に納得した。
木下は鈴村の顔を見て、あることを問う。
「……徹はさ。生徒会長になったら、副会長は誰にやってもらうつもりなの?」
「え?」
「緑ヶ丘学園の生徒会って、生徒会長は理事長と学園長の推薦と年度末テストの結果で決めるって聞いたけど、副会長は生徒会長が決めてもいいんでしょ?」
「ああ、確かそうだったはずだ」
「飯田生徒会長は宮田副会長を選んだわけだけど……、徹は、誰に副会長になってもらいたいの? 誰に自分のことを支えてほしいの?」
「…………誰に支えてほしいか、かぁ」
鈴村はそれまでそのことを考えもしなかった。
木下の言う通り、緑ヶ丘学園高等部の生徒会副会長は、理事長と学園長の推薦、及び年度末試験の結果から選出されることもあるが、最初に決まった生徒会長の推薦によって決めることもできる。
宮田は飯田に推薦されて現副会長となったわけだが、鈴村は自分が生徒会長の責任を背負うことができるか不安でいっぱいになり、生徒会長としてどうあるべきかだけを考えていた。
そのため、鈴村は副会長が誰になるのか考えていなかったのである。
むしろ、その決定権が自分にあることすら忘れていたのであった。
鈴村の悩む様子を見て、木下は言う。
「やっぱり、凛さん?」
「…………たぶん、そうなるかな」
「ま、そうだよね。自分の好きな人がずっと傍にいたら、そりゃいい支えになるよね」
木下は頭の後ろで肩を組みながら言った。
「なーんか皆羨ましいなぁ。学校ではちゃんとした地位を手にしてるし、好きな人とは結ばれてるし」
「さ、咲良? どうしたんだよ急に」
木下の様子がおかしいことを察したのか、鈴村は木下に心配の声をかける。
「……私も徹が好きだったのに」
木下は、ぽつりとそんな本音が口から出ていた。
「…………ごめん」
鈴村は一言謝って頭を下げた。
「謝らないでよ。もう終わったことだし。それに、これ以上徹たちの関係に割り込むことなんかできないってわかってるからさ」
「でも、なんで急にそんなことを?」
「単純に気になっただけだよ。それだけ。あまり深く考えないでね。あと、あまり責任感じないで」
木下は鈴村から視線を逸らしながら言った。
それは、自分の気持ちを誤魔化しているようにも見えた。
「………………、ごめん」
それでも鈴村は責任を感じていた。
思わず、二度目の謝罪をしてしまう。
「………………」
その謝罪に、木下は黙り込んでしまった。
そこに、連絡を終えた柳が戻ってくる。
「お待たせッスー。みやびっちに確認取れたッスよ」
「あ、柳副会長。どうでした?」
「日程さえ合わせてくれれば大歓迎だそうッス。あとは飯田生徒会長がOK出せば問題ないッスね」
それと同タイミングで、宮田も席に戻って来た。
「お待たせしました。飯田君に確認しましたが、日程が合えばぜひ伺いたい、とのことです」
「やったッス! これでみんなでクリスマスパーティーできるッスね!」
柳は嬉しそうな顔をして言った。
柳のこの嬉しさは、クリスマスパーティーが前倒しになったことで、遠坂との時間を作れたことに対する嬉しさも含まれていた。
「じゃあ日程は追って連絡するッス」
「わかりました。こちらからもいくつか候補日を挙げますので、予定が合う日に開催することにしましょう」
「了解ッス! じゃ、鈴村っちも宮田副会長も、いいプレゼントが見つかるよう祈ってるッス!」
「はい、頑張ります」
宮田が柳に言う。
柳と木下はそのまま後ろを振り向き、手を振りながら鈴村たちと別れた。
別れ際、柳は鈴村たちに伝えていないことを思い出し、鈴村たちのほうを見て言った。
「あ、クリスマスパーティー用のプレゼントも用意しておいてほしいッスー! プレゼント交換会が予定されてるらしいんでー!」
「……それは早く言ってください……」
宮田は困った顔をしていた。
「ごめんなさいッス! それじゃまた今度!」
そう言って柳は手を振ってその場を後にした。
その後ろを木下が静かについて行く。
「……何かあったの?」
宮田は木下の様子が変わったことを察し、鈴村の顔を見て聞く。
「……宮田先輩ならわかるんじゃないですか」
「わからないから聞いてるのよ。何があったの?」
「…………俺、次期生徒会長じゃないですか」
「ええ、そうね。今になって怖気づいたのかしら?」
「いや、そうじゃなくて……」
鈴村は唇を噛みしめて言った。
「咲良に言われたんですよ。生徒会長になるのはいいけど、副会長は誰にするのか、って」
「……次期副会長は生徒会長の推薦によって選ばれるケースもあるわ。私がその一例ね。それがどうかしたのかしら」
「…………俺は、副会長には綾瀬になってほしいと思ってます」
「まあ、そうだろうと思ったわ。副会長は生徒会長を傍で支える重要な存在だもの。自分が一番信頼できて、安心できる人に頼もうと思うのは、うちの学園では普通だと思うわ」
「……ですよね。俺もそう思います」
「……? 何がそんなに気になるのかしら」
「いえ、なんでもないです。気にしないでください。咲良も数日したら元に戻ると思うので」
「………………? ならいいのだけど……」
宮田は腑に落ちない顔をしていた。
「さ、プレゼント買って今日は帰りましょう」
「今日のうちに全部買うんですか?」
「今日買うのはクリスマスパーティー用に渡すプレゼントよ。綾瀬さんに渡すプレゼントは、別の日に自分で決めるといいわ。もちろん、私も飯田君に渡すプレゼントは自分で決めるから」
「え、ど、どうしたんですか?」
宮田は鈴村の顔を見て言う。
「柳副会長の言っていたこと、覚えてる?」
「……『プレゼントは中身じゃなく、気持ちがこもってるか』、ですか?」
「ええ。確かに異性に渡すプレゼントだから、何が気に入るとかの意見は必要だと思ったわ。でも、実際に渡すのは自分なのだから、自分からの気持ちがこもってないと意味がないのよ。だから、鈴村君の意見は参考にしつつ、自分で選んで渡すことにするわ」
「そうですか……。であれば、俺もそうします。たぶんそのほうが、綾瀬は喜んでくれると思うので」
「そのほうがいいわ。後悔のないように、気持ちのこもったものを選びましょうか」
「ですね」
そう言って二人は、自分にとって最適だと思うプレゼント探しを再開した。
*
「……どうしたッスか、咲良っち」
ミドリモールを後にし、帰り道を歩く柳は、桜庭に電話をしてから木下の様子が暗くなっているのが気になっていた。
「いえ、別に何でもないです。気にしないでください」
木下は、柳に心配させまいと自分を取り繕うように言った。
しかし、柳を誤魔化すことはできなかった。
「……咲良っちは、うちの『未来予知』のこと、忘れてるッスね」
「……あ、ちょっと、それ今使うのずるくないですか!?」
柳は「へっへーん」と言いながら木下の頭に手を触れ、『未来予知』をした。
柳の持つ『未来予知』はこれから必ずその人に起こる未来を見ることができるという超能力のようなものであるが、人に触れることでその人の『過去』を覗き見ることができる。
柳はこれを使って蒼碧祭にて橘の撃退に貢献したわけだが、今回は木下に会ったことを知るために『未来予知』で『過去』を見た。
木下の頭を触っているのは、脳に近い部分を触るほうが自分にかかる負担が少ないからである。
「…………なるほど、そういうことッスか」
そう言って柳は、木下の頭から手を離した。
「…………それ、ずるすぎます。それ遺伝か何かなんですか?」
「お父さんもお母さんも、うちの家系で『未来予知』ができる人がいたっていうのは聞いたことがないッスね……。うちも妹たちも気づいたら使えるようになってたんで、突然芽生えた才能、みたいな感じッスかね」
「……いいなぁ」
木下は羨ましそうな顔をして言った。
柳はその表情も含めて、『過去』を見たうえで木下に言う。
「……辛い思いをしたんスね。咲良っち」
そう言って、柳は木下の頭を撫でた。
そして、そのまま柳は続ける。
「もう叶うことがないその思いを抱え続けるのは相当辛いものだと思うッス。それを捨てることもできないし、自分にはどうしようもできないッスよね」
「……はい。私は、この気持ちをどうすればいいんでしょうか」
木下は俯きながら言った。
柳は、木下の頭を撫で続けて言う。
「そのまま、持っておけばいいと思うッス」
「……え?」
「人を好きになるっていうのはすごいことなんスよ。それをもう叶わないからいーらないって捨てちゃうなんて、うちは勿体ないとしか思えないッス」
「で、でも、自分が好きだと思う人は他にもいるかもしれないじゃないですか」
木下は少し慌て気味で言う。
「まあ、それはそうかもしれないッスね。そうじゃなきゃ『元カレ』とか、『再婚』とかいう言葉なんて生まれないッスから」
「だから、私はもう諦めるしかないんですよ」
木下は俯いて言った。
しかし柳は、その木下の思いを尊重する。
「『過去』を見させてもらったッス。相当覚悟して鈴村っちに告白したみたいッスね。蒼碧祭が始まる前にも、また告白する姿が見えたッス」
「……さっき頭を撫でたのはそれが理由ですか……」
「まあ、慰めるついでッス。咲良っちの本当の気持ちを知りたかっただけッスよ」
柳は悪びれる顔をしながら言った。
「一ついいことを教えてあげるッス。これは人生の先輩の言葉だからよーく聞いておくッスよ」
そう言いながら、柳は木下の前に立ち、目を合わせて言った。
「人を好きになるだけで、自分の人生は大きく変わるッス。でも、その気持ちを簡単に捨てられるようなら、それはその瞬間の自分に浮ついてただけッス」
「まあ、確かにそれはそうですけど……」
柳は続けた。
「でも、咲良っちのその気持ちは、そんな簡単に捨てられるようなものじゃないと思ったッス。それを捨てて、諦めて、咲良っちは普段通りの自分を鈴村っちに見せられるッスか?」
「…………それは……」
木下は言葉に詰まった。
木下自身、それができないことは十分にわかっていた。
この気持ちが叶わないことがわかっていながらも、ミドリモールで普段通り鈴村と会話ができていたのは、木下自身も覚悟が決まっていたからである。
木下がこの気持ちを捨てたら、おそらく鈴村とは対等に話すことができないであろう。
最悪の場合、不登校になる可能性も木下には見えていた。
だからこそ、鈴村から直接言われた言葉は、鋭い刃となって木下に傷を負わせた。
しかし、これはこの気持ちを木下が諦めていないからこそ負った傷である。
全てを諦めて、『無』となった自分と比較すると、この傷のダメージはそれほど大きくはなかった。
「……私のこの気持ちが届かないことは十分にわかってます。だから告白はしません。でも、この気持ちは留めておくことにします。……私は、徹と仲良くいたいですから」
その木下の言葉に、柳は優しく微笑んだ。
「そうッス。それが一番いいッスよ。人生楽しんだもの勝ちッスから」
そう言って、柳は歩き始めた。
「……クリスマスパーティー、楽しみッスね」
「……ですね」
木下はそう言いながら、柳の後を追いかけた。
その木下の表情は、悩みが吹き飛んで楽になったように感じる笑顔であった。




