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鈴村くんは間違えない  作者: シア
第4章 『気持ち』を大事に

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第50話 誕生日に向けて

 十二月。


 一年最後の月であり、『師走しわす』と呼ばれるほどこの月は年始までの体感時間がとても短い。


 年の瀬、とも呼ばれるこの月には、様々なイベントが存在している。


 そのうちの一つが、人間関係が大きく動き出すイベント、『クリスマス』である。


 子供のうちはサンタにクリスマスプレゼントをもらうというのが定番になるクリスマスだが、年頃の男女にとってクリスマスはそのように捉えられていない。


 意中の相手に告白をし、カップルになる者もいる。


 交際中のカップルがデートをし、更に深い関係になる者もいる。


 そんなものは自分には関係ない、と割り切り、そもそも自らそういった甘酸っぱいイベントを断る者もいる。


 そんな者も、密かにクリスマスというものにはワクワクをしている。


 そして、鈴村徹すずむらとおるもまた、そのクリスマスを心待ちにしている者の一人であった。


 厳密には、鈴村が心待ちにしているのは『クリスマスイブ』。十二月二十四日である。


 そんなクリスマスイブを二週間後に控えた平日の放課後。


 鈴村は、緑ヶ丘学園高等部生徒会室にて生徒会の仕事を片付けていた。


「あ、飯田いいだ会長。この前の修学旅行後のアンケートの結果のデータ、この資料にまとめておいたんで確認お願いします」


「お、おう。ありがとう、鈴村」


 鈴村はテキパキと要領よく、効率的に仕事をこなしていた。


 その様子を見て、生徒会長、飯田勝翔いいだしょうとは困惑しながら言う。


「…………なんでこいつこんなに仕事早いんだ? いつもの倍以上は仕事こなしてるぞ」


 その問いに、生徒会副会長、宮田詩織みやたしおりが答える。


「今日は鈴村君、アルバイトがあるそうよ。確か十八時からと言っていたかしら」


「ああ、なるほどバイトね。……こいつ最近ずっとこうじゃないか?」


「最近ではなくもうだいぶ前からこうよ。そうね……、『親睦会』が始まる前あたりからじゃなかったかしら」


 鈴村は青海おうみ学園高等部生徒会長、桜庭さくらばみやびが主催した『親睦会』が執り行われる二週間ほど前からアルバイトにいそしんでいた。


 理由は単純明快である。


 クリスマスイブの過ごし方というものは、人によって様々である。


 鈴村は来るクリスマスイブのため、必死にアルバイトをして資金を稼いでいた。


 その目的は、生徒会書記であり、鈴村の恋人である綾瀬凛あやせりんへプレゼントを渡すためである。


 それもただのクリスマスプレゼントではない。


 クリスマスイブは、綾瀬の誕生日でもあった。


 そんな特別な日にプレゼントを渡さないなど、彼氏としてはあるまじき行為である。


 鈴村は何としてでもより多くの資金を稼ぎ、綾瀬に喜んでもらおうと考えていたのである。


 せっせと働く鈴村を見て、飯田は感心していた。


「いやぁ、すっかり鈴村も生徒会長らしさが出てきたな。こりゃ来年度の生徒会も安泰あんたいだわ」


「飯田君……。鈴村君はまだ生徒会長じゃないわよ。今は飯田君が生徒会長なの」


「わかってるよ。生徒会長としての器をしっかり持ってるなって思っただけだよ」


「まあ、それはそうかもしれないけど、飯田君は一つ勘違いをしていることがあるわ」


「勘違い?」


 宮田は書類に目を通しながら飯田に言う。


「もう十二月も中旬よ。十二月と言えば何があるかしら?」


「…………雪合戦?」


「十二月に都心部で雪合戦ができるほど雪が降ったら大騒ぎよ。そうじゃないわ。もっとこう、子供が喜ぶイベントよ」


「……あー、クリスマスか」


 その言葉に、生徒会会計、琴原ことはらみどりが反応する。


「そっかー、もうクリスマスも近いんですね。一年って経つのが早いですねぇ」


「そう、十二月と言えばクリスマス。そして、私たち生徒会メンバーの誕生日でもあるわ」


「え、誕生日の人いたっけ?」


「今年度の生徒会発足の時に自己紹介してたじゃない……。まさか飯田君、忘れたの?」


 宮田は呆れた顔をして飯田に言う。


 飯田は必死に、生徒会発足時の自己紹介の時のことを思い出していた。




「……あっ。そうか。今月綾瀬の誕生日か」




 飯田のその言葉に、綾瀬は「ビクッ」と体を反応させた。


 綾瀬はその反応とは裏腹に、飯田に向けて頬を膨らませて言う。


「やっと思い出してくれましたか、飯田会長。私はとても悲しいです。私は飯田会長のことを信じてたのに……」


「わ、悪い! 忘れてたわけじゃないんだ! ただその、最近生徒会の仕事忙しいからそっちに気が回らなかったというか……」


「ふーん……。飯田会長も言い訳をするんですねぇ……」


「ま、まあまあ。凛ちゃんもいじわる言わないであげてください。最近忙しかったのは事実ですから」


 琴原はそう言って、からかう綾瀬を宥めた。


 琴原の言う通り、鈴村が引率した修学旅行が終わってからというもの、年末というのも相まってか、生徒会の仕事は多忙を極めていた。


 鈴村はそんな中でも、しっかりと日々の生徒会の仕事を片付けており、且つアルバイトの日はちゃんと出勤をするということをやってのけていた。


「すげえなぁ、鈴村は」


 飯田はこんな振る舞いをしていながらも、しっかりと綾瀬の誕生日を覚えていた。


 そして、鈴村がここまで頑張る理由も理解していた。


 飯田は鈴村に対し仕事をしながら話しかける。


「なあ、鈴村」


「なんですか? あ、その資料、目を通して問題なければハンコお願いしますね。理事長のところに持って行くんで」


「お、おう。でだな、鈴村。クリスマスイブなんだが……」


「イブが何ですか? ……あ、そっちの資料は後でサッカー部の部長に渡す部費の予算案なんで、琴原先輩確認お願いします」


「あ、はい。わかりました」


 鈴村はそう言いながら琴原に資料を手渡した。


「…………あの、鈴村」


「用があるなら手短にお願いします。俺急いでるんですよ」


「…………悪い」


 飯田は少し悲しそうな顔をした。


 宮田はそれを見て同情する。


「ま、それだけ必死ってことよ、飯田君。わかってあげて。その話は明日にでもできるでしょうから」


「まあ、それもそうだな」


 飯田はただ一言、「綾瀬にあげるプレゼントは何か」を聞きたかっただけだったが、鈴村の様子を見てそれをやめた。


 と、そんなときである。


 生徒会室の扉が開き、緑ヶ丘学園理事長、綾瀬忠一あやせただかずが姿を現した。


「おーうお前ら。仕事熱心に頑張ってるか?」


「あれ? お父さん帰ってなかったの?」


 綾瀬は理事長に言う。


「俺もまだ仕事が残ってるからな。もう少ししたら帰るつもりだ。……で、徹」


「なんですか?」


 鈴村は資料に目を通しながら答える。


 理事長は「ん」と言いながら分厚い封筒を鈴村の前に置いた。


「…………なんですかこれ」


「前に話しただろ。『約束』だよ」


「……『約束』?」


 鈴村は何のことかわからない状態でいた。


 鈴村は頭の上に「?」を浮かばせながら、その分厚い封筒の中身を見る。


 その中には、修学旅行中に働いて稼ぐはずだった金額の三倍の現金が入っていた。


「……!? り、理事長……、『約束』ってあの『約束』ですか!?」


 鈴村は思わず顔を上げて理事長に言う。


「あの『約束』以外に何があるんだよ。お前には修学旅行でちゃんと仕事をしたからな。凛と琴原も助かったことだし、ちゃんとそれは渡すことにしとくよ」


 鈴村は修学旅行中、生徒会長としての仕事を学ぶという目的で、二年B組を二つの班に分け、第二班の引率を任されていた。


 修学旅行中に綾瀬と琴原が行方不明になるという事件も起きたが、鈴村のおかげでこの事件は解決。


 その後もトラブルは起こることはなく、無事に修学旅行を終えることができた。


 理事長はそのお礼も兼ねて、綾瀬が咄嗟に言った『約束』を果たしに来たのだった。


「あ、ありがとうございま(ガンッ)」


「……大丈夫か?」


「だ、大丈夫です……」


 鈴村は嬉しさのあまり、勢いよく頭を下げた。


 その勢いをつけた頭は見事に机に激突し、鈴村は悶絶していた。


「じゃ、用事は済んだから俺は戻るわ。何か俺に見てほしい書類とかあったら今受け取るが、何かあるか?」


「あ、じゃあこの資料を……、って、飯田会長。さっき言ったこの資料にハンコ押されてないですよ」


「お前それ言ったの何分前だよ……。そんなすぐ見れないっての」


 鈴村は呆れ顔で飯田に言ったが、飯田も飯田でキャパがオーバーしていたため仕事が間に合っていなかった。


「まあいいや。飯田、それ見終わったら俺のところに持ってきてくれ。鈴村はそれ終わったらバイト行っていいぞ」


「え、いいんですか? まだ仕事残ってますよ?」


「いいんだよ。買いたいんだろ? プレゼント」


「…………!」


 鈴村は理事長に考えていることがバレていた。


 理事長の言葉に、綾瀬も少し反応する。が、冷静を装って仕事を続けた。


「頑張って稼いで、いいものプレゼントしてやれ。あ、夜景の見えるレストランとか行くなよ? ベタ過ぎて嫌われるかもしれないからな」


「な、何の話ですか」


「さあ、なーにかね」


 理事長はそう言って、ニヤニヤ笑いながら生徒会室を後にした。


 鈴村は少し恥ずかしそうな顔をしていたが、仕事を終わらせることに集中した。


 その十分後、鈴村は仕事を終える。


「じゃ、俺バイト行くんで! お先です!」


「おう、頑張ってこいよー」


 鈴村はそう言って飯田にお辞儀をし、生徒会室から出た。


 そんな頑張っている様子を見た宮田は、飯田に聞こえるように言った。


「いいわね、好きでいてくれるって。誰かさんもそれくらいの姿勢を見せてほしいものね」


「ぐっ…………。よ、よーし。これあと三十分で終わらせるぞー」


「五分で終わらせて」


「……?」


 宮田は飯田にもう一度言う。


「五分で、その仕事終わらせて」


「…………はい」


 飯田は宮田に言い返さず、その指示に従った。


「…………詩織って、飯田会長のこと好きすぎてだんだんヤンデレみたいになってません……?」


 琴原はコソコソと綾瀬に話しかける。


「ま、まあ、宮田先輩も飯田会長のことがそれだけ好きってことなんですよ。優しく見守ってあげましょう」


「ほんとにヤンデレにならないといいんですけどね……」


 琴原は宮田の行く末を心配していた。


 綾瀬と琴原は苦笑いをしながら、生徒会の仕事を進めるのであった。




                   *




「ふー、今日のバイト終わりー」


 午後十時前。


 ファミレスでアルバイトをしていた鈴村は勤務を終え、バックヤードで休んでいた。


「お疲れ様、鈴村君。今日も絶好調だったね」


「ありがとうございます、店長」


 鈴村は店長からまかないを受け取りながらお礼を言う。


「鈴村君が入ってくれてから、うちの店は大繁盛だよ。これも次期生徒会長の力なのかな」


「えっ、その話なんで知ってるんですか?」


 店長は驚く鈴村の顔を見ながら言う。




「この前店に来てくれた君の彼女さんいたでしょ。あの子がついこの前また来てくれてね。一緒にいた男性と来年度の生徒会について話してたんだよ」




 その店長の言葉に、鈴村は思わず目を見開く。


 驚きのあまり、鈴村は食べていた賄いが気管に入ってしまいむせてしまう。


「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ……」


「だ、大丈夫、鈴村君!? はい、お水飲んで!」


 店長は慌ててコップに入った水を鈴村に渡した。


「はぁ、はぁ……。すみません、ありがとうございました。…………で、一緒にいた男性って何の話ですか……!」


 鈴村はそれまでの様子からは一変し、店長を睨みつけて言った。


「ああ、ごめんごめん、誤解を招くような言い方しちゃったね。君の彼女さんと一緒にいたのは、緑ヶ丘学園の生徒会長さんだよ。確か名前は、飯田君、だったかな」


「……あー、飯田会長ですか。なんだよかったー」


 鈴村は聞き覚えのある男性の名前にホッとし、安堵のあまり笑い声を出した。


 それにつられ、店長も笑いだす。


「じゃないんですよ!!!! なんで綾瀬が飯田会長と一緒にいたんですか!!!」


 が、鈴村は全くそれを良しとしていなかった。


 バンッ、と思い切り机をたたいて、鈴村は店長に問いただす。


「そ、そんなこと聞かれても僕にはわからないよ。あの時は珍しい組み合わせだなと思ったけど、プライベートの話に割り込むのは大人として良くないからさ。気にせず働いてたよ」


「……本心は?」


 店長は鈴村のその問いに、目をかっぴらいて答えた。




「めっっっっっちゃくちゃ気になった」




「でしょうねぇ!」


 鈴村は叫んだ。


 鈴村は店長の肩を掴み、ぐわんぐわんと揺らしながら問い詰める。


「気になったならなんで聞かなかったんですか! なんで俺と一緒にいないのって聞かないんですか!」


「だ、だからプライベートの話には割り込んだらおせっかいでしょ! それくらいわかってよ! 僕だって我慢したほうなんだから!」


 ゼェ、ゼェ、とお互いに息を切らしていた。


 店長はかけていた眼鏡をかけなおし、鈴村に言う。


「だから、直接聞きには行かなかったけど、近くを通った時に何話してるかくらいは確認してたよ」


「…………なんだかストーカーみたいなことするんですね、店長」


「君は僕に一体どうしてほしいの?」


 店長は鈴村に冷静なツッコミを入れた。


 店長は「こほん」と咳ばらいをしてから言った。


「その時に一瞬だけ聞こえたのが、鈴村君が次期生徒会長になる、ってことだったんだよ。それ以外は……。僕のワンオペだったから聞けなかったかな」


「そうですか……。綾瀬と飯田会長が俺に内緒でここにねぇ……。何しに来たんですかね」


「…………デート?」


「冗談で言ってるなら殴りますよ」


「ごめん! ごめん! 言っていいことと悪いことがあったね! ごめん!」


 店長は灰皿を持って襲い掛かろうとする鈴村を必死で止めながら言った。


「そんなに気になるなら聞いてみればいいじゃんか……。本人に聞いたほうがいいでしょ。そのほうがすっきりするし、説得力もある」


「えー、でもなんか本当に付き合ってたりとかしたらそれはそれで……」


「君は本当に何がしたいんだ」


 店長は真顔で言った。


「ともかく。もう閉店作業しなきゃだから、鈴村君はもう帰っていいよ」


「え、いいんですか?」


「気になるんでしょ? だったら今からでも電話なりなんなりで聞いたほうが……」


「まあ気になりはしますが……。飯田会長には宮田先輩がいます。あの人が浮気をするなんてとても思えないので、僕が考えすぎてるってことにしておきますよ」


「まあ、鈴村君がそれでいいならいいけど……。……あ、そうだ。鈴村君に渡すものが」


「なんですか?」


 店長はそう言って、鈴村に封筒を渡した。


「はい、今月分の給料。まだ半月分しか働いてもらってないから少ないけど、彼女さんにプレゼント渡すんでしょ? ちゃんといいの選んであげてね」


 中身は、鈴村が十二月の半月分働いた現金が入っていた。


「い、いいんですか!?」


「彼女さんの誕生日、クリスマスイブなんだってね。その話も聞こえてたんだ。給料振り込まれるの待ってたらプレゼントに間に合わないから、今渡しておこうと思ってね」


「あ、ありがとうございます!」


「いいんだ。ちゃんと心に届くものを渡すんだよ」


「はい!」


 そう言って、笑顔で鈴村は店を後にした。




                   *




「うーん、プレゼント……。プレゼント……」


 アルバイト先の店長から早めの給料をもらったその週の土曜日。


 鈴村は綾瀬へ渡すプレゼントを選びに、ミドリモールに来ていた。


「うーん……。どれがいいかわからないなぁ……」


「だから私が呼ばれたのよね?」


 悩む鈴村の後ろ姿を見ながら、それに付き合う宮田が言った。


「あ、はい。そうです。よろしくお願いしますね、宮田先輩」


 鈴村はタイムスリップする前も、タイムスリップしてから今に至るまでも、未だに綾瀬が喜ぶものが何かをわからないでいた。


 鈴村は意気揚々とプレゼント選びに励もうとしていたが、何か正解かがわからなくなり、女子の意見をもらおうと宮田にプレゼント選びに同行してもらうことにしていた。


「別に私じゃなくても、直接綾瀬さんと選べばいいじゃない」


「プレゼントが何か先にわかってたら楽しみなくなっちゃうじゃないですか!」


「……もう付き合ってるのだから、それこそ一緒に選ぶべきだと私は思うのだけど……」


「それじゃダメなんですよ! それじゃ!」


「ごめんなさい、鈴村君の言っていることがよくわからないわ」


 宮田は頭を抱えた。


 しかし、必死になってプレゼントを選ぶ鈴村の様子を見て、宮田は少し微笑んで言った。


「まあ、私で良ければ力になるわ。困ったら何でも聞いて頂戴」


「はい、頼りにしてます! 宮田先輩!」


 鈴村は笑顔でそう言った。


「……初々(ういうい)しい笑顔だわ」


 その無垢な笑顔に、宮田は少し感動を覚えていた。


「飯田君もこれくらい必死でくれたらいいのだけど……」


 宮田はぽつりと、そんなことを呟いていた。


 そんな様子を、遠くから見守る女子生徒が一人いた。


「……徹と、あれは……、確か宮田副会長……だったかな……。なんで二人きりで休日にミドリモールに……?」


 青海学園生徒会書記、木下咲良きのしたさくらであった。


 木下は一人で休日を満喫しており、たまたまこの日はミドリモールにウィンドウショッピングをしに来ていた。


 そんな矢先、鈴村と宮田が二人きりでミドリモールを歩く姿を発見。


 それ以降、木下は二人の後を物陰に隠れながら追いかけていた。


「徹のやつ……、凛さんというものがありながら白昼堂々と浮気なんて……。許せない……」


 木下は綾瀬の誕生日を知らないため、あらぬ誤解をしていた。


「……あ、徹たち移動しちゃう……。私も移動しないと……」


 そう言って木下は立ち上がって、鈴村の後を追いかけた。


 ……その途端、木下は通行人に気づかず、ぶつかって倒れこんでしまう。


「いってて……。ご、ごめんなさい! 私周りちゃんと見てなくて!」


 木下は相手の顔を見る前に謝罪をした。


 ぶつかってしまった相手はその言葉を聞き、咄嗟に謝罪をする。


「こ、こちらこそごめんなさいッス! こっちもよく見てなかった…………って、あれ? 咲良っち?」


「…………やなぎ副会長?」


 木下がぶつかった相手は、青海学園生徒会副会長、柳美奈やなぎみなであった。


「こ、こんなところで何してるんスか!?」


「わ、私は一人で休日を満喫してたんですよ。そしたらたまたま徹たちを見かけて……」


「うちと同じってことッスね……。うちもたまたまミドリモールに用があったんスけど、鈴村っちが歩いてるのを見て近づいたら隣に宮田副会長がいたんスよ……」


「な、なるほど、そういうことだったんですね」


 木下と柳はお互いがこの場にいることに驚いていたが、理由を聞いて納得していた。


「……で、咲良っちはあれをどう見るッスか?」


「ど、どうって……。そんなの決まってるじゃないですか……」


 二人は声を揃えて言う。




『あれは浮気ですね(ッスね)』




 二人は大きな勘違いをしていた。


「やっぱりそう思うッスか!?」


「やっぱりっていうか、そう思うのが妥当だと思います……。徹に限ってそんなことはないと思ってましたが……」


 木下はすごく残念そうに言う。


「鈴村っち……。信じてたのに……」


 片や柳は嘘泣きをしていた。


「と、とにかく、二人を追いかけましょう。いつ手をつなぎ始めるかわかったもんじゃないです」


「そ、そうッスね! 追いかけるッス!」


 そう言って、木下と柳は勘違いをしたまま、鈴村と宮田の後を追いかけた。


 鈴村たちはアクセサリー店の前で立ち止まり、二人で少し会話をしたあと店の中に入っていった。


 その様子を、向かいの通路からガラス越しに木下たちは見ていた。


「アクセサリー店に入りましたね……」


「もしかして鈴村っち、宮田副会長にアクセサリーあげるつもりなんスかね?」


「そんなわけ……。あれ、でも宮田副会長、割と楽しそう」


 鈴村はアクセサリーを手に取って宮田にどちらがいいかを選ばせるようなジェスチャーをし、宮田はどちらも却下しながらも笑顔でいた。


「……なんで両方断っておきながら笑顔……?」


「わかんないッス……。宮田副会長はクールな印象しかないッスから、あんな楽しそうにしてるの初めて見たッス……」


 木下と柳は二人の様子を爪を噛みながら見ていた。


「あ、何か買ったッスよ!」


「も、もう選んだんですか!? 断られたのに!?」


「あ! 違うところに行こうとしてるッス!」


「え、ちょ、待ってくださいよ柳副会長!」


 木下のことを置いてけぼりにしながら、柳は二人の後を再度追いかけた。


 鈴村たちは次に、男物の服屋に足を踏み入れた。


「…………めちゃくちゃ普通にデートしてるッスね」


「ですね……。あの様子だと、宮田副会長が徹に服を選んでるんですかね」


 宮田はいくつか男物の服を手に取り、鈴村にどれがいいかを聞くようなジェスチャーをしていた。


 そのうちの二つを候補に残し、宮田は悩むことなくそれを購入。


「あ、買ったッス」


「なんで決めるの早いんだあの人たち……」


 木下は二人の決定力の強さに少し驚いていた。


「あ、動き出したッスよ。次は…………、こっちに来るッス!」


「え!?」


 木下と柳は慌ててその場から離れる。


 しかしながら、宮田はまるで木下たちの後を追いかけるように足を止めないでいた。


「……え、もしかしてッスけど……」


 柳は逃げながらも木下に言う。


「…………うちら、バレてる……、ッスか?」


 そう言って、木下と柳はその場に立ち止まる。


 その立ち止まった数秒後に、宮田はついに木下と柳を追い詰めた。




「……さっきから一体こそこそと、何をしてるのかしら?」




「あ、あははー」


 柳は愛想笑いをして誤魔化そうとした。


「まず言うことがありますよね? 柳副会長、木下さん」


 宮田は鋭い目つきで二人に言う。


 木下と柳は目を合わせ、土下座をして言った。




『すみませんでした』




「…………はぁ。とりあえず、どこか喫茶店でも行きましょう。話はそこで聞きますから」


『…………はい』


 そう言って、鈴村、宮田、木下、柳は喫茶店へ入っていった。

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