第5話 生徒会としての初仕事
「…………あの、飯田会長」
「お? どうしたよ鈴村」
「あの、これなんなんですか?」
「何ってお前、見りゃわかるだろ。夏休みと言えば海! 夏休みと言えば山! そして、夏休みと言えば! 夏祭りだろ!」
「……いや夏祭りはわかるんですけど、なんで俺ら生徒会が出店やる側なんですか」
緑ヶ丘学園理事長、綾瀬忠一とのやり取りを終えた鈴村徹は、正式に緑ヶ丘学園高等部の生徒会に加入することができた。
その事件の日の夜、突如として綾瀬忠一から鈴村本人のスマホに電話がかかった。
*
「お、出た出た。よー、徹。今日はいろいろ悪かったなー」
「ど、どうしたんですか綾瀬のお父さん。ていうか、俺の番号教えましたっけ」
「忘れたか? お前のことは調べつくしてるって言ったろ」
「……それ職権乱用じゃないですか?」
スマホ越しに聞こえる鈴村の言葉が、綾瀬凛の母、綾瀬美春の正義心にぐっさりと刺さった。
「……ごめんね徹くん。忠一さんは一度決めたことは絶対に曲げないのよ……。だから、ごめんね」
綾瀬美春は涙を流しながらぽつりと呟く。
「お母さん、なんで泣いてるの?」
「いえ、何でもないわ。ちょっと悪いことしたなって後悔してるだけよ」
綾瀬美春の目は死んでいた。
「それでだな徹。お前に生徒会の初仕事を頼みたいんだ」
「え、初仕事? 生徒会って夏休み中にも活動してるんですか?」
「なんだよ、そんなことも知らないのか。飯田に説明されてないのか?」
「飯田会長からは説明されてないですね」
「あの野郎……、入れる気あるならそこらへん説明しとけよ」
しかしながら、鈴村は高校時代の夏休み明けのことを思い出していた。
(そういえば、夏休みが明けて新学期が始まるたびに学校が妙に綺麗だったな。それに、毎年やってた文化祭も生徒会主導だったし)
鈴村の頭には様々な高校時代の記憶が蘇ってくる。しかし、その記憶は鈴村には直接の関係ない、気づいたら執り行われていたことだった。
(そういや確か、夏祭りにも生徒会が関係してたような……)
鈴村徹の姉、鈴村早紀と夏祭りに行った時のことを思い出していた。
そこにはたくさんの出店があったが、その出店を運営している人物の中に飯田勝翔がいたことも思い出した。
「徹。よく聞けよ。うちの学園の生徒会の活動範囲は学園の中だけじゃない。この学園のある地域とこの市と隣り合わせている街にまで範囲は広がってるんだ」
「それ広すぎじゃないですか?」
「悪い、誇張表現が過ぎた。実際そこまで活動範囲は広くない」
何で見え透いた嘘をつくのか鈴村には理解できなかった。
「だが、生徒会の活動範囲が学園の中だけじゃないのは事実だ。時にお前、来週の夜は暇か?」
「来週ですか? ……あー、この日って緑ヶ丘学園主催の夏祭りの日でしたっけ」
「そうだ。緑ヶ丘学園主催と銘打ってるが、実際のところ俺がこの市主催だった夏祭りを買い取って私物化した夏祭りだがな」
何を堂々と言ってるんだ、と思う鈴村であった。
「まあそのおかげで夏祭りの規模も格段に大きくなり、今じゃこの市の夏の風物詩だ。で、お前ら生徒会にはその夏祭りで出店をやってほしいんだ」
「出店?」
毎年夏に開催される緑ヶ丘学園主催、もとい綾瀬忠一主催の夏祭りである「納涼祭」は、綾瀬忠一が言う通りはじめは市主催のものであったが、とんでもなくつまらなく規模も小さいことに腹を立て、綾瀬グループが夏祭りの主導権を市から買収。緑ヶ丘学園の文化祭と同じ名前である「納涼祭」という名前を付け、大規模な夏祭りへと改革されていった。
お金の力のおかげ、と言ってしまえば話はすぐに済んでしまうが、綾瀬グループの力により今では緑ヶ丘学園のある緑ヶ丘市を代表するとても人気のあるイベントになった。
緑ヶ丘市の市長は脅されながらこの夏祭りをほぼ強引に買収されたわけだが、この改革が町おこしとなって市の景気も上がることになり、結果的に綾瀬グループ、緑ヶ丘市が互いにいい思いをできるWin-Winなイベントにもなった。
「毎年この夏祭りで緑ヶ丘学園は中等部、高等部共に出店をやることになっててな。お前もここに住んで長いんだから知ってるだろ?」
「あー、はい、一応は」
朧げな記憶だが確かに生徒会が夏祭りに関係していたことは覚えていた。
「せっかくあんだけ堂々と俺に気持ちを伝えて生徒会に入れたんだ。どうであれ、まずは生徒会の活動をしてもらわないといろいろ困る。夏休みだからって、生徒会の活動がないわけじゃないぞ?」
「ってことはやっぱり、夏休み明けに学校が妙に綺麗だったりしたのは生徒会が清掃活動をしていたからですか?」
「まさしくその通り。まあ、あれは新学期始まる直前にやるものだから、やるタイミングはまだ先だけどな」
「……まさかとは思いますけどそれ生徒会メンバーだけでやってるとか言わないですよね」
「はっはっは。察しがいいね、鈴村徹君よ。その、まさかだ」
鈴村は飯田が生徒会メンバーの募集を夏休みに入ってから変に力を入れていた理由がわかった。ただでさえあの広い緑ヶ丘学園である。生徒会メンバーの鈴村を除いた四名のみでその清掃があれほどまでに綺麗に終わるわけがない。つまり、とんでもなく労力を使う仕事だと察した。
鈴村は飯田に同情した。
「今年、高等部生徒会にやってほしい出店は『焼きそば』だ。これも毎年恒例。お前も食ったことあるだろ?」
「確かに、去年食べました。とてもおいしかったです。高かったですけど」
「そりゃ当たり前だろ。売り上げた金額全部俺のところに入ってくるんだから」
私物化にも限度があるだろ、と鈴村は思った。確かに夏祭りの出店とは言え、焼きそば一つ千円は高すぎる。
「でも高い理由は別にもあるぞ? 食材にはとことん拘ってるからな。うまいのも納得いくだろ」
「……ええ、まあそれは確かに納得です」
金額が高いのも納得してしまう鈴村であった。
「ということで夏祭りは周知しているとおり一週間後の午後五時より開始。お前に依頼する生徒会としての初仕事は、この納涼祭を大成功に導くことだ」
「大成功って、それ生徒会の出店だけで成功するしないが変わるもんですか?」
「変わるとも。なんでかを教えてやろう」
綾瀬忠一は、一つ間を空けて、震えながら言った。
「夏祭りの買収には成功したけどな、うちの学園の生徒会が出店を毎年出すことが買収時の市側の条件にあって、そこで中等部、高等部のどちらも出店としての結果が出せなかったら、買収はなかったことになるんだよ」
鈴村はその言葉に思ったことをそのまま口にする。
「それってただ綾瀬のお父さんが私物化した夏祭りを手放したくないだけですよね」
「物は言いよう! そして鋭いな徹! 全くもってその通りだ!」
何でこの人はそういうのを堂々と偉そうに言えるのか、と鈴村は謎に思っていた。
「あと気になってたが、やっぱりお前に『綾瀬のお父さん』と言われるのはなんか嫌だ。普通に『理事長』って呼べ」
「わがままだなぁ……」
「とにかくだ。来週の出店、頼んだぞ」
「……まあ、あれだけ啖呵切って理事長に思いをぶつけて生徒会に入ったんです。理事長の命令なら、悦んで引き受けますよ」
「よくぞ言ったぞ徹! だがお前に凛は絶対にやらん!」
頑なに綾瀬凛は手放したくない綾瀬忠一であった。
「それじゃ、当日は頼んだぞ」
「はい、わかりました」
そう言って、電話は終わった。
*
鈴村はそんな日のことを思い出しながら口にする。
「でもやっぱり理事長の私物化を止めるために生徒会が動くのって違うと思いますわ」
「そう言ってやるな鈴村。理事長だって色々苦労してこの市のためにいろいろ力を注いでるんだ。むしろ変な条件出した市側のほうが悪人だろ」
「……まあ、それはそうですけど」
買収された側も町おこしできるか不安だっただろうから相当嫌だったんだろうな、と思う鈴村であった。
「すみませーん、焼きそば二つくださーい」
「あ、はい! 二つで二千円です!」
(それでもやっぱ高いわ、この焼きそば。ボリュームに見合ってるからいいけど)
夏祭りの出店での値段の相場は高くても六百円ほどである。大盛り等少しオプションをつければ多少金額は上がるが、それでも初めから四桁まで金額がいく出店は多くはない。
しかしそれでも、生徒会が出す出店の焼きそばはその値段に見合ったものになっていた。
(昔も食べてたけど、やっぱりこれならこの値段で納得いくよなぁ)
使っている食材は高級食材である。焼きそば自体の量も一人分とは書いてあるものの、それは一人半分ほどの量だった。値段に見合ってると言って差し支えはないだろう。
「やっぱり賑わってますね、納涼祭」
「いいねー。これこそ夏祭りって感じだな」
飯田は腕を組み、うんうんと頷きながら言う。
「生徒会の仕事なんてなかったら俺も普通に夏祭りを楽しみたかったわ」
「それは宮田先輩とですか?」
「あ? そりゃそうだろ、高校時代に味わえる夏祭りは一度きりだぞ。毎年行ってもチャンスは三回しかないんだ。そんな貴重な時間を詩織と過ごせるなんて幸せ以外の何物でもないだろ」
「まあ、それもそうですね」
鈴村自身も、「俺も綾瀬と夏祭り回れたら、もっと楽しかっただろうなぁ」と浴衣姿の綾瀬を想像しながら思った。
「あ、お前今綾瀬と夏祭り回るところ妄想してただろ」
「えっ! い、いや、してないっす。してないっすよ」
「隠せてないぞ、不器用め」
「飯田会長が言いますか……」
何で俺が不器用なんだよ、と言いたそうな飯田であった。
そんな店番を任されている二人のもとに、生徒会の女性陣が合流する。
「やっほー鈴原君! 飯田会長! 繁盛してますか?」
「おー、来たか綾瀬たち。見ての通りだ。大行列になってやがる」
「私の目に大行列は見えないんですけど……」
当然である。いくら中身は美味しいものといえ、一つ千円である。事情を知らない一般人から見てみれば、たかが祭りにあの大金は払えない、という括り付けがされて手を出せないものだった。
故に、客は来るものの、それほど大行列ができるほど繁盛しているわけでもなかった。
「まあこの二日ある納涼祭で最低百個売れればそれでノルマ達成らしいし、なんとかなるだろ」
「今いくつ売れてるんですか?」
「二十個だな」
「に、二十!? 傍から見たらとても高いものなのによくみんな買いますね……」
「まあ曲がりなりにもうちの学園の出し物だからな。信頼されてるのもあるんだろう。……それならそれでもっと売れてもいいと思うけどな」
飯田の顔は不満そうだった。とっととノルマを達成させ、今目の前にいる浴衣姿の宮田詩織とデートがしたいからである。
納涼祭での緑ヶ丘学園の出店は原則として男子の生徒会役員が全てを担当する。その理由は、かわいらしい乙女たちを蒸し暑い中働かせたくないという、理事長のよくわからない拘りがあったからである。そのため、「焼きそば」を運営する緑ヶ丘学園高等部生徒会の出店担当は、鈴村と飯田の二人きりであった。とはいえ、女性陣も生徒会メンバー。緊急事態時には対応するように理事長から伝えられていた。
宮田は飯田の前に詰め寄り問いただした。
「ど、どうかしら、飯田君。この浴衣、去年も見せたと思うけど」
「おう、最高だ。とても似合ってるぞ詩織」
宮田は嬉しそうにニッコリと笑った。
クールな印象を与える宮田に似合うように着付けてくれたようで、紺色の浴衣がとても映えていた。
「綺麗ですね、宮田先輩」
「当たり前だろう。惚れるんじゃないぞ?」
「そんな不躾なことしませんよ……」
「おー? その言い方、俺が詩織の彼氏じゃなければ狙ってたって言い方だな」
「えっ? あ、いやそんなつもりじゃ……」
鈴村は慌てて否定した。
「あら、鈴村君は私をそういう風に見てくれていたのね」
「ち、違いますって! あいや、似合ってはいますけど! 飯田会長から奪うつもりはなくて!」
「奪うつもりはないということは、やはり飯田君が彼氏でなければ私は鈴村君に狙われていた、ということになるわね」
「だからそうじゃないんですってば!」
なかなか誤解を解いてくれない宮田に困る鈴村であった。
片や宮田は、照れながら否定する鈴村を見て楽しそうに笑っていた。
「ちょっとー、この前私のお父さんの前であんなこと言っておきながら他の女の子のことばかり見るわけ? 男としてそれはないんじゃないかなぁ?」
「げっ、綾瀬……。ち、違うってば、宮田先輩たちからかって、きてるだけ……」
鈴村は綾瀬に言い訳をしながら綾瀬の姿を視界に入れる。人混みのせいであまり見えていなかったが、鈴村はこの時初めて浴衣姿の綾瀬を視認した。
「ど、どうかな鈴村君。に、似合ってる?」
綾瀬の明るい性格に似あった水色を基調とした生地に、向日葵のワンポイントがひと際目立つ浴衣を身に纏っていた。
「あ、ああ、とても似合ってるぞ、綾瀬」
「んー、なんかそれだと飯田会長と感想がほぼ同じに聞こえるなぁ」
「というより、ほぼ飯田君のパクりね」
「じゃあ似合ってる以外になんて言えばいいんですか……」
伊達に陰キャ時代を生きていないだけある。鈴村は女性を褒める言葉を知らなかった。
「んー、それは鈴村君にちゃんと考えてほしいかなぁ」
「えぇ……」
鈴村は酷く困惑した。
(そんな人のこと褒めるなんてしたことないんだから、似合ってる以外に言葉なんて思いつかないだろ……)
「鈴村も女慣れしてないなぁ。……あ、待ってくれ詩織。別に俺が女慣れしてるって言ってるわけじゃないからな」
「あら、私はまだ何も言ってないわよ。もしかして私が怒ってるとでも?」
「ああ、その手を見ればわかる。なぜ俺の目に日本の指を向けて目潰しをする準備をしてるんだ」
「ちょっと家の決まりで、浮気をしようとした男には目潰しをせよと言われているのよね」
「そんな乱暴な教えがあってたまるか!」
飯田は宮田の手を掴んで目潰しを阻止した。
「ま、私のことなんか簡単に褒められないよねー。鈴村君の素直な感想、楽しみにしてるから」
「お、おう」
綾瀬は、「にっひひー」と言いながら鈴村に言った。
(女心……、マジでわからん)
そんな中、メンバーの後ろのほうでソワソワしている女子生徒がいた。
琴原みどりである。
「おー、琴原も浴衣似合ってるな。いつも控えめな印象だから、ちょっとギャップがあっていいぞ」
「い、飯田会長、それちょっと直接的っていうか、失礼ってもの知らないんですかね」
「あれ、褒めたつもりなんだけど」
飯田が発した言葉に否定的な意味はなかった。控えめなのは琴原の性格の話である。……決して胸の話ではない。
「ふーん、飯田君はみどりみたいな巨乳が好きなわけね。なるほどね、ふーん」
「えっ!? あれ!? 俺今日なんか声を出すたびに地雷踏んでない!? 気のせい!?」
「気のせいというか、そういう流れなんだと思いますよ」
再び目潰しの構えをする宮田を必死に止めようとする飯田を横目に、鈴村は残酷な現実を飯田に打ち明けた。
「あのーすみませーん。まだやってますよねー? 焼きそばくださーい」
「あっ、はーい、すみませんお待たせしました。いくつですか?」
「私? 二十二だけど……、って、女性に年齢聞くとかデリカシーないんですか?」
「あっ、すみません! そんなつもりでは……、って、あれ、早紀姉ちゃん?」
「え? あ、よく見たら徹じゃん。何してんのよここで」
よく見ると、そこには鈴村徹の姉、鈴村早紀が立っていた。
「何って、生徒会の活動だよ。出店頼まれてるんだ」
「あれ、私のボケもしかしてスルーされてる?」
鈴村早紀の「いくつですか?」に対する回答は彼女なりのボケであったが、鈴村徹はそのボケに全く気付いていなかった。
後から少し恥ずかしくなるボケをなかったことにして、鈴村早紀は続けた。
「あー、前に話してたやつね。いやー、あの徹がまさか生徒会に本当に入るなんてねぇ。人生何が起こるかわからないもんだわ」
「ちょっと俺のことバカにしてる?」
「いや? 別にバカにはしてないわよ? 珍しいこともあるもんだなと思っただけよ」
それはバカにしてることと同義では? と思う鈴村徹であった。
「それより姉ちゃん、夏祭りなのに浴衣着てないんだな」
「ああ、浴衣ね。お母さんに着ていきなさいって言われたんだけど、めんどくさくてやめたの。だから私服できちゃったのよ」
「なるほど。……ちょっと待って、着付けを断ったの?」
「ここにはちょっと気分転換に来ただけよ。明日就活でエントリーしてる会社の最終面接があるから緊張してて、その気分転換」
「ああ、そういうこと」
「で、歩いてたらやけに高い焼きそばが売ってるって噂を聞いたから、様子を見に来たのよ。まさかあの天下の緑ヶ丘学園高等部の生徒会がこんなぼったくり出店をやってるなんてねぇ……」
「いやぁ、これにはいろいろ事情がありましてね……」
説明するにもこの出店を開こうと考えた張本人が少し厄介な人間なのはわかっていたため、説明にとても時間がかかると考え鈴村は説明を渋った。
「事情ねぇ。まあとりあえず美味しいって話題にはなってるみたいだから、一ついただくわ」
「ありがとう姉ちゃん。恩に着るよ」
「え、そこまでお礼言われるほどなの? 売れてないの?」
「それにもいろいろ事情がありまして……」
「な、なんか大変そうね」
少し同情する鈴村早紀であった。
「じゃ、私は帰るから。あんたも生徒会活動頑張ってねー」
「うん、姉ちゃんも気を付けて」
そう言って、鈴村早紀は夏祭りを後にした。
「……鈴村君、今の綺麗な人って、鈴村君のお姉さんですか?」
「そうですよ。俺の姉です。早紀っていいます」
「そう、早紀お姉さん……」
琴原は立ち去る鈴村早紀の後ろ姿を見て考えていた。
(鈴村君のお姉さん綺麗すぎじゃないですか……? あれで素……? メイクもせずに? すっぴんであれ? わ、私なんかが太刀打ちできる人じゃないですね……)
琴原は何かを諦めたような顔をしていた。
(で、でもあの人は鈴村君のお姉さんです。私の天敵ではありません。私の今マークする相手は……)
琴原はそう考えながら、とても身近にいる人物のほうを見た。
(……綾瀬ちゃん、あなたですよ)
琴原は、気づかぬうちに鈴村徹のことが気になっていたのであった。
「? 琴原先輩、どうしました?」
「え!? い、いやなんでもないですよ! さ、さあ、私たち女性陣は何もなければ自由に夏祭りを満喫できます! 私かき氷が食べたいので行きましょう!」
「やっぱり食べたかったんじゃない、かき氷。ついさっきそこで足を止めていたのを見ていたわ」
「し、詩織……、余計なこと言わなくていいの! さ、皆さん行きますよ!」
そう言って、慌てながら琴原は他二名の女性陣の背中を押してかき氷の屋台へ向かった。
「……お前も大変だな、鈴村」
「え? 何がですか」
「お前は本当に大事なところで鈍感だな……」
「なんですかそれ。俺がバカだって言いたいんですか」
「バカっていうか……、うーん、鈍感?」
「変わってないですよ」
しかしながら、飯田の言うことは間違っていなかった。
琴原の着ていた浴衣にあしらわれた、リナリアの刺繍。鈴村はこの刺繍に気づいていなかったが、飯田は気づいていた。
リナリアの花言葉は「この恋に気づいて」。飯田は全てを察したのである。
「ま、厄介なことにならないようにせいぜい頑張れよ?」
「え? はい、生徒会の活動は全うするつもりですよ」
「うーん、そうだけどそうじゃないんだよなぁ……」
鈴村のある意味器用な鈍感さにむしろ称賛を与えたい飯田であった。
*
「よっし、今日はこんなもんかね」
「思ってた以上に売れましたねー。ノルマまでもう少しじゃないですか」
「そうだな、これもひとえに鈴村、お前のおかげだ」
「え? 俺別にそんな大層なことしてないですけど……」
「いやいや、お前のセールス能力はすごかったぞ。あれだけできるなら一流商社でもトップで活躍しそうな勢いだな」
「それは褒めすぎだと思いますよ」
だがしかし、実際のところ二日間ある夏祭りの初日で指定された販売ノルマの八割を達成できているのは鈴村のおかげである。
生徒会メンバーの女性陣が立ち去ってから、なぜか鈴村には闘志が沸き上がり、道行く人に焼きそばをおすすめしていた。
出店の位置が夏祭り会場の入り口付近という立地に恵まれていたのも影響しているが、そのおかげもあってか皆値段を顧みず焼きそばを購入してくれた。
結果、初日の時点で販売ノルマの八割を達成することに成功。
このことを飯田から報告を受けた理事長は、「えっ、マジで? 徹やるなぁ……。よし。すぐにそのノルマも終わるだろうから、二日目はノルマ達成したら店仕舞いしちゃっていいぞ」と伝えた。
「あれだけみんな焼きそば買ってくれたんだ。この値段でもあの盛況だ。ほら、これ見てみろよ」
「なんですかこれ、SNS?」
飯田はSNSの画面を鈴村に見せた。
「あ、これ俺らが出してた焼きそばじゃないですか。……えぇ!? なんかトレンド入りしてる!?」
「トレンドワードは『夏祭りに現れた天才のセールスマン』、だってよ」
飯田はそう言いながらトレンドになったツイートをいくつか読み上げる。
『夏祭りにそぐわないぼったくり価格の焼きそばを売りつけられたかと思ったけど、実際に食べてみるととてもおいしかった! 聞くところによると使ってる食材が高級食材らしい! それがここで食べられるなんてむしろお得なんじゃない? みんなもぜひ!』
『ぼったくり価格の焼きそば食べました。……悔しいけどめっちゃくちゃにうまい! そして売り込みしてた男の子のあの必死さがとても良かった! 明日も行きます!』
『ここの焼きそばを食べると恋が成就するんだってー。みんなも食べてみてねー』
「……なんか三つ目のツイート、変な誤解招くような内容でしたよね」
「SNSでバズるきっかけなんてなんでもいいんだよ。でまかせ言ってバズらせてる奴なんて世の中に腐るほどいるからな」
確かにそれはそう、と鈴村は妙に納得した。
「それに、こんな焼きそば食って恋が成就したら縁結びの神様が黙っちゃいねえな。そんな罰当たりなことはしたくない」
「そんな迷信信じるほうがおかしいんですよ……」
「まあ、この人どうやらそういう『迷信』を結構信じる人っぽいし、うちの焼きそば自体にもそんな迷信がいつできたのかは知らないが、こんなことで客が集まるなら安いもんだろ」
「そういうもんですかね」
これに関しては鈴村はあまり納得がいかなかった。
「それじゃ片付けも終わったし、今日は帰るとしますかね」
「そうですね、お疲れさまでした。飯田会長」
「おう、お疲れ様。鈴村」
そう言って、お互いは帰路につこうとした。
……が、飯田は足を止める。
「なあ、お前本当に気づいてないのか?」
「え? 何がですか?」
「浴衣だよ、浴衣」
「浴衣?」
鈴村は思い当たる節がない顔をした。
「お前本当にそういう大事なところは鈍感なんだな……。いいぜ、俺が説明してやる」
飯田は鈴村に歩み寄った。
「鈴村、お前花言葉はわかるか?」
「花言葉、ですか? そうですね、俺はあまり花とか植物に詳しくないので、花言葉はよくわからないです」
「まあそうだよなぁ……。そうでなきゃ気づける気持ちにも気づけないわ」
「何が言いたいかよくわからないんですけど……」
飯田は「はぁ……」と言いながら説明を始める。
「いいか。綾瀬の着ていた浴衣には何の花の刺繍がされていた?」
「確か、向日葵……、ですかね」
「ああ、向日葵だ。向日葵の花言葉は知ってるか?」
「だから知らないですって。教えてくださいよ」
「向日葵の花言葉はな、『あなただけを見つめる』、だ」
「あなただけを、見つめる……?」
「ああ、つまりお前の気持ちを綾瀬は理解してるってことだよ」
鈴村は少し固まった。
そして慌てながら言う。
「あ、綾瀬がそんな回りくどいことしますかね?」
「あのなぁ、女ってのは面倒な生き物なんだ。恋する女は特にそうだ。直接的には伝えてこないが、回りくどく自分の気持ちを汲み取ってほしいと様々な手段を使ってくる。今回の場合、綾瀬は刺繍された花でお前に気持ちを汲み取ってほしかったんだよ」
「綾瀬の、気持ち、ですか」
向日葵の花言葉は「あなただけを見つめる」。そして、ひとえに花言葉といっても、その花の色に応じて少し意味合いが変わってくる。
綾瀬の着ていた浴衣に刺繍された向日葵は黄色。この花言葉こそが、「あなただけを見つめる」であった。
飯田は加えて説明を続ける。
「そして琴原が来ていた浴衣、覚えてるか?」
「ええ、覚えてますよ。宮田先輩と同じ紺色の浴衣でしたよね」
「刺繍、気づいてたか?」
「いや、あまりよく見えてなくて……」
「……宮田の着ていた浴衣にあしらわれた花の刺繍は、リナリアだ」
「リナリア? 初めて聞く花ですけど……」
「正直今はそこを知ってるかはどうでもいい。今は花言葉の意味だけ気にしろ」
「……そのリナリアの花言葉って、何なんですか?」
飯田ははっきりと言った。
「リナリアの花言葉は、『この恋に気づいて』、だ」
鈴村はその言葉を聞いて察した。
鈴村は後ろのほうでソワソワしていたのは気づいていたが、琴原が鈴村に対して浴衣を見せたときのあの仕草、そして花言葉の意味を知り、驚きの顔を見せる。
「もしかして、琴原先輩って……」
「ああ、そうだ。琴原はだな……」
鈴村は言う。
「もしかして誰か好きな人がいるってことですかね!? 緑ヶ丘学園に!」
「…………は?」
何を言ってるんだこいつは、という顔を思わずする飯田だった。
(いやいや、鈍感にも程があるぞこいつ。琴原のあの仕草と花言葉の意味を理解したうえでその結論だと……!? ……バカなのか?)
バカである。
そんなバカは話を続けた。
「いやぁ、あの琴原先輩も好きな人いるんですねー。どんな人なんだろうなぁ。琴原先輩って内気な性格だからやっぱり告白とかしないんですかね」
(だからその相手お前だから! なんでわざわざ花言葉の意味説明してやったと思ってるんだこのバカ!)
とてももどかしい飯田であった。
しかし、とはいえ飯田はここで少し冷静になる。
琴原の気持ちに気づいているのは今の段階だと飯田のみだが、しかしいつから琴原は鈴村のことを好きになったのか。これが気になっていた。
まだ知り合って一週間しか経っていない男子生徒である。それに、この一週間の間に鈴村と琴原が生徒会関連で会うことはなく、また本人たちもプライベートで会うタイミングがないのは知っていた。お互いにこの一週間は予定があることを事前に聞いていたからである。
つまり、琴原は知り合ってからこの一週間のうちに、どこかのタイミングで鈴村のことが好きになっていたことになる。
考えられるのは一つしかなかった。
「…………、そうか、一目惚れか」
飯田は結論に達した。
「何か言いました? 飯田会長」
「……鈴村。いいか、よく聞けよ」
「え? はい、何でしょう」
飯田は鈴村の肩に手を置き、言う。
「この先、何があっても、どんな選択を迫られたとしても、お前はお前自身が望むほうを選べ。絶対に後悔しないほうをだ。それが誰かが悲しむ結果になろうとしても、誰かが幸せになる結果になろうとしても、選んだことに責任を持ち、後悔のないように生きろ」
「なんか変なこと言うなぁ、今日の飯田会長」
「このやろっ、人が忠告してやってんだから真面目に聞けよ」
鈴村は飯田の発言を適当にあしらった。
「そういえば、宮田先輩も浴衣に花の刺繍ありましたよね」
「ああ、あったな」
「あの花はなんだったんですか?」
「あの花は『モモ』だ」
「モモ? あの桃?」
「そっちじゃなくて、『花桃』のほうだな」
「花桃……。初めて聞く呼び方ですね」
「花桃はお前のよく知るあの桃とは違って、主に園芸種として栽培されている品種だ」
「なるほど、それで、その花桃の花言葉は何なんですか?」
「ああ、花桃の花言葉はだな……」
と、言いかけたところで、飯田は言うのをやめた。
「いや、鈍感野郎にわざわざ花言葉の知識を植え付けても意味ないし、教えるのやめた」
「え!? なんでそんな酷いこと言うんですか……、って待ってくださいよ飯田会長!」
「うるせえ、気になるなら自分で調べろ」
「酷くないですか? ……扱い酷くないですか!?」
鈴村は素直に悲しんだ。
花桃の花言葉。それは、「私はあなたの虜」、である。
「……全く、それじゃなんだかヤンデレっぽく聞こえるだろ」
飯田は宮田の気持ちは理解したが、少し嫌な重みを感じたのだった。
*
納涼祭二日目の午前。
鈴村は飯田の連絡を受け、一足早く緑ヶ丘学園に着いていた。
「なんだろう、飯田会長の急な用事って。納涼祭二日目の準備って言っても機材とかは向こうに置きっぱなしだし、ここで今やることって何かあるのか?」
鈴村の頭にはハテナマークがたくさん浮かんでいた。
そこへ、連絡をした飯田が到着する。
「よう鈴村! 突然呼んで悪いな!」
「あ、おはようございます、飯田会長。今日も出店頑張りましょうね! ……で、用事って何ですか?」
鈴村は飯田に問いかけた。
「ああ、用事というよりはお前にお願いがある」
「お願い?」
「ああ、俺からのお願いだ」
飯田は鈴村に向かってはっきりと言った。
「いいか、今日の納涼祭の出店は俺と琴原と宮田で担当する。お前は綾瀬と共に納涼祭を満喫してこい」
「……え? なんでですか?」
「なんでじゃない。俺に問うな。何も考えるな。今は綾瀬と納涼祭を楽しむプランだけ考えておけ」
「いやいや、飯田会長、理由になってないですよ。納涼祭における生徒会の出店は男子生徒が担当するはずでしたよね? 女子生徒は緊急時にのみ対応すると……」
鈴村がそこまで言いかけたところで、飯田は声を張って鈴村に言う。
「いいか! 今がその緊急時だ! 緊急時は生徒会長の判断に従って行動してもらうように決められている!」
「えっと、何が緊急時なんでしょうか……?」
「何も考えるなと言ったはずだぞ鈴村。緊急時なんだ。だから今日は、俺の判断に従って行動してもらう。拒否権はなしだ」
「え、えぇ、そんな強引な……」
飯田は必死に鈴村に伝えているが、その肝心の緊急時が何の緊急なのかを説明できないでいる。
当然である。先日の一件で飯田は鈴村と綾瀬のお互いの気持ちを知っている。そんな中での琴原のあの行動である。飯田は鈴村には琴原ではなく、綾瀬を選んでほしいと考えた。自分勝手な行動であるとは思っていたが、なぜか飯田は直観的にこの行動を取っていた。
「とにかくだ! 俺はその命令をするためだけにお前をこの時間に呼んだ。しっかりと従ってもらうからな」
「それじゃ独裁者と変わらないと思うんですけど……」
「いいから従う! はい、返事!」
「は、はい。わかりました」
しっかりとした理由を説明されていないためあまり納得のいっていない鈴村であったが、本能的に従わないとまずいと考えたのかこの場は素直に返事することにした。
「よし、わかればいい。じゃあ、俺は機材や食材の確認をしに行ってくるから、お前はここでみんなが来るのを待っててくれ」
「わかりました。道には気を付けてくださいね。納涼祭の影響で交通規制してるところあるみたいですけど、それを無視して立ち入り禁止の道路を走る輩がいるみたいなんで」
「おう、心配ありがとうな」
納涼祭はセキュリティ面がとても厳重であった。出店での飲食物の販売は納涼祭開催時間のみ許可されているが、その時間以外にも周辺道路の規制は解除されない。
その影響もあり、日中に通れない道がとても多く、やむを得ず迂回をしないといけない交通規制になっていた。しかしルールを守らない人間は一定数おり、その立ち入り禁止の道路を走る人間もいた。
鈴村は飯田を送り出した後、飯田に依頼されたことを考えていた。
「……あんなことがあってから綾瀬と二人で夏祭りを楽しめって、それ半分無理言ってるようにしか聞こえないですよ」
鈴村はぽつりと呟く。
一週間前、事実上の公開告白を生徒会メンバー、理事長で綾瀬凛の父である綾瀬忠一にしたばかりである。飯田のあの依頼は、「俺らのことはいいからお前らはデートを楽しんでこい」と言っているようなものだった。
「俺にそんなことができたら、未来の俺も苦労はしてなかったですよ……」
鈴村は大学に入ってようやく綾瀬に気持ちを打ち明けた。高校時代はその気持ちを直接綾瀬にぶつけることはなかったのである。タイムスリップなんてことが起きなければ、未来の鈴村は自分が行動しなかったことを大きく後悔することになる。
しかし、今回に限っては過去が変わっている。既に綾瀬凛への思いを、本人がいる目の前で実の父にぶつけたのである。これは鈴村にとってとても大きい経験であり、過去改変に大きく影響していた。
ふと、鈴村は思い出す。
「あれ、そういえばあの日からこの本光ってなくね」
ずっと懐に入れていた『人生の選択肢』だが、そんな一大イベントがあった日から全く光り輝くことがなかった。
『人生の選択肢』が光る瞬間が訪れるということは、鈴村本人とって人生の大きな分岐点に立たされているということになる。それがここ一週間起きていない。起きなさ過ぎてこの本自体の存在を忘れていたのであった。
「もうこれ以降、俺の人生に選択肢が訪れないのかなぁ」
と呟いた瞬間、『人生の選択肢』は光り輝き始めた。
「えっ!? 今!? タイミングわる!」
しかし、幸いにも今この生徒会室には誰もいなかった。周りから見たら挙動不審過ぎるこの反応も誰にも見られていないことになり、鈴村は少し安堵する。
そうこうしているうちに、『人生の選択肢』は輝きを止めた。
「……久しぶりだな、選択肢見るの」
鈴村は記載された選択肢を確認した。
【人生の選択肢】
A.納涼祭を綾瀬凛と共に過ごす。
B.飯田勝翔の言いつけを聞かず、出店の対応をする。
「AとBはまあこのタイミングで出てくるなら納得いく選択肢だな」
そう思いながら鈴村はCの選択肢に目を向ける。
「……え?」
鈴村は提示されたCの選択肢に驚愕する。
C.納涼祭を琴原みどりと共に過ごす。
提示された三つ目の選択肢にはこう記されていた。
「え、琴原先輩……? なんで琴原先輩の名前が出てくるんだ?」
鈴村は困惑した。琴原はただでさえ知り合って間もない人物である。生徒会に入らなければ存在を認識することすら危うく、当然鈴村は琴原のことを何も知らない。タイムスリップしてきたとはいえ、その人生で琴原と関わったことが一度もないからである。
「……タイムスリップによる過去改変で、未来が本当に変わりつつあるのか……!?」
鈴村の出した一つの仮説である。
人生という時間は有限であり、後戻りはできない。故に、選んだ人生は選んだ者にしか結果がわからず、その結果が幸であれ不幸であれ変えられない過去となる。
しかしながら、今の鈴村は事情が違う。過去を変えて未来を変えられる力を持ち合わせているからである。
タイムスリップ前の鈴村は高校時代に綾瀬と接点を持たなかった。そのため大学で散々な目に遭うわけだが、高校時代に積極的に接点を持つという過去改変をした影響により、未来が改変されたのである。
遠い未来までは見えていないが、少なくとも少しばかり未来が変わっている実感はあった。
しかし、そこで過去改変の弊害が訪れる。
過去に選ばなかった選択肢をもし選んでいた場合、今の自分はどうなっていただろう、と考える人間は少なくない。
もしあのタイミングで告白をしていたらどうなっていたか、もしあのタイミングで進学する決断をしていなかったらどうなっていたか、誰しもその選ばなかった選択肢によって得られた未来を想像したことはあるだろう。
言うなれば「パラレルワールド」である。
非科学的だが存在していたかもしれない未来。鈴村には、そのパラレルワールドがどんな未来を待ち受けているのかを知る力を持っている。
そして、一週間前のあの一件である。生徒会に加入し、綾瀬と接点を得られるチャンスを手に入れたことにより、様々なパラレルワールドが作成された。
その一つのパラレルワールドが、今まさに提示されている選択肢で現実になろうとしている。
「と、とりあえずそれぞれの選択肢を選んだ場合の簡易的結果を見るか」
そう言うと、鈴村はその後に記載された【選択の簡易的結果】を確認した。
【選択の簡易的結果】
Aを選んだ場合、鈴村徹は綾瀬凛を納涼祭へ誘うことに成功するが、納涼祭中に綾瀬凛と再開することができず、綾瀬凛と共に過ごす時間を失う。
Bを選んだ場合、飯田勝翔に酷く怒られ、生徒会長命令を破った報復として今後一切の生徒会室への出入りを禁じられる。
Cを選んだ場合、鈴村徹は琴原みどりを誘い、琴原みどりは大変喜んで快く承諾するが、綾瀬凛にその瞬間を見られ、その後鈴村徹は一切綾瀬凛と会話をすることができなくなる。
「…………なんだこれ、どれ選んでも地獄じゃねえか」
どれを選んでも綾瀬との接点を失う選択肢であった。
一難去ってまた一難。
鈴村は再び、人生の大きな選択肢を迫られることとなった。




