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鈴村くんは間違えない  作者: シア
第4章 『気持ち』を大事に

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第47話 『学ぶ』ということ

「皆さん、おはようございます。今日は金閣寺の観光をしますので、それぞれ貴重品や観光に必要なものだけ持って再度この場所に集合してください」


 緑ヶ丘学園高等部二年の修学旅行も二日目を迎えた。


 緑ヶ丘学園高等部生徒会長、飯田勝翔いいだしょうとは修学旅行生が集まるホテルのロビーにて、修学旅行生に対し話をしていた。


 そんな様子を、生徒会書記、綾瀬凛あやせりんが生徒会長補佐、鈴村徹すずむらとおるはすぐ隣で見ていた。


「なんか飯田会長、生徒会長っていうよりもう立派な先生って感じするよね」


 綾瀬はそんなことを鈴村に言う。


「少なくとも理事長よりかは先生らしさが出てるよな。もう飯田会長が理事長でいいんじゃないかと俺は思ってる」


「……誰が俺に先生らしさが出てないって?」


「げっ」


 そんな他愛もない話を、緑ヶ丘学園理事長、綾瀬忠一あやせただかずは後ろから聞いていた。


 理事長は鈴村に軽くゲンコツを食らわせる。


「いてっ……。パワハラですよ理事長……」


「なんとでも言え。俺からすればお前の言葉はモラハラだ」


 どっちもどっちであった。


 鈴村は殴られた自分の頭をさすりながらも、理事長に質問をする。


「なんで今日は飯田会長が指揮を執ってるんですか?」


「あぁ、あれな。飯田は生徒会長の仕事の一環でここにいるだろ? ああいうのもやらせたほうがいいと思ってな」


「それって理事長判断ですか?」


「いや? なんかあいつからやらせてくれって言ってきたんだよ」


「へぇ……。なんか意外ですね」


 鈴村は飯田の行動を不思議に思いながら言った。


「まあでもあれだな。今まで生徒会長が前に出て指揮するなんてことなかったから、来年はお前がやるかもな」


「えっ、そうなんですか」


 鈴村は嫌そうな顔をして言った。


「飯田が前例を作ったからなぁ。前例があり、それが好評であれば続投するのも当然の話だろ。続投するかは生徒会長の仕事として申し分ないか、それを担当することで自分の成長に繋がるかを見て判断するが、まあ続投するだろうな」


「…………それで俺も来年やるってことですか」


 理事長はニヤっと口角を上げながら言った。


「いや? 前にも言ったが、生徒会長が修学旅行の引率をするのは数年に一回だ。今年既にやったから、来年はやらないんじゃないかな」


「……じゃあ俺今ここにいる意味ないじゃないですか?」


「……察せよ徹。お前が今ここにいるってことは、そういうことだ」


「…………へ?」


 鈴村は嫌な予感がしていた。


「まさかとは思いますけど、生徒会長に引率を依頼するかどうかって、理事長の気まぐれで決めてます?」


 理事長はその言葉に、皮肉を込めた笑顔で答えた。


「まさしく、その通り!」


「最低だよこの人」


 鈴村は呆れかえっていた。


 対して理事長は、「失礼だな」と言って話を続ける。


「気まぐれもあるが、引率を依頼するかどうかはそいつの意思を尊重したうえで決めてるんだよ」


「…………というと?」


「生徒会長もその肩書きを取ってしまえばただの学生だ。そんな学生に、修学旅行の引率なんて大役を生半可な気持ちで任せるわけにはいかない。それで、毎年俺は生徒会長に引率をしたいがどうか聞いてるんだよ」


「あぁ、なるほど。一応そこは聞くんですね」


「色々経験したい者、生徒会長としての威厳を保ちたい者、教師を目指すが故に体験したい者、様々な生徒会長が今までやってくれたよ。飯田もその中の一人だ」


「へぇ……、そうだったんですね」


 鈴村は引率係の選抜理由に納得していた。


「で、断った奴がいた場合は、そいつの目の前でサイコロ二つ振って、丁半ちょうはんをさせてる」


「え、気まぐれってそういう意味ですか!? 学生相手になに賭博とばくやらせてんですか!?」


 鈴村は理事長の言う『気まぐれ』の意味を理解して思わずツッコミを入れた。


「まあまあそう怒るなって。人生はギャンブルなんだ。そういう経験もあったほうがいいと思ってな」


「それを経験させるなら他にも方法あったでしょうに……」


 鈴村は理事長の発言に頭を抱えた。


 そんな話をしているうちに、飯田は修学旅行生への説明を終えて鈴村の元にやってきた。


 理事長は飯田に水の入ったペットボトルを手渡しながら言う。


「お疲れ、飯田」


「ありがとうございます、理事長」


 飯田はその水を受け取り、そのまま一瞬でがぶ飲みした。


 飯田は「ぷはぁー!」といい声を出して、話を始める。


「いやぁ、自分から前に出たのはいいですけど、やっぱり緊張しますね。途中から水欲しくてたまらなかったんですよ」


「そ、そうか。お前でも緊張はするんだな」


「そりゃそうです。今まで終業式の日とかに前に立って話すことはありましたが、今は引率者としてここにいます。立場が違うんですから、自ずと自分にのしかかってくる責任も変わってくるもんですよ」


 飯田の言葉を聞いて、理事長は鈴村に声をかける。


「な、言っただろ? これが飯田なんだよ。やっぱり想像以上に器がでかいわ」


「はは、なるほど……。飯田会長がすごいのは十分わかりました」


「お前も飯田を見習って色々学ぶんだな」


「じ、尽力します……」


 鈴村は改めて飯田の偉大さを実感し、少し怖気おじけづいていた。


 その様子を見ていた飯田は、鈴村に言う。


「そこまで気負うことないぞ、鈴村。俺はできる、気にしていることは大したことじゃない、って考えれば、多少は気分が楽になる。それを忘れるなよ」


「正直なところ、飯田会長のその姿を見ていると、自分にもできるのか不安になってます」


 飯田は頭を掻いていた。


「だからだなぁ、その考えが一番ダメなんだよ。誰でも不安ってのは抱くもんだ。俺だって抱く。でも、それに押し負けてちゃ何も成長できないぞ。それを超えてこそ、自分が成長できるってもんだ」


「……そういうもんですかね」


 飯田は鈴村の背中を強く叩いた。


「いったっ…………!」


「ほら、それがダメだ。自分に自信を持てよ、鈴村」


 飯田は鈴村と視線を合わせて言う。




「お前は今、修学旅行生としてここにいるんじゃない。修学旅行生を引率する側にいるんだ。その責任から逃げちゃダメだぞ。生徒会長としての仕事を学ぶのも大事だが、もっと大事なのは、この修学旅行をいい思い出にさせてあげることだ。それだけ考えてれば、何も問題ないさ」




「い、飯田会長……」


 飯田はニッとした笑顔を鈴村に見せた。


 鈴村は飯田の説得力のある言葉を頭に入れ、自分の立っている立場、責任を改めて自覚した。


 鈴村は自分の両頬をパチンと手で叩いて言う。


「俺、頑張ります。ありがとうございました、飯田会長」


「お、いい顔になったな。その意気だぞ、鈴村」


「はい!」


 鈴村は元気よく返事した。


「…………なんか俺が話したときよりもすんなり話が通ってやがるな」


 片や理事長は、自分が説得した時よりも飲み込みが早い鈴村を見て、どこか不満そうな顔をしていた。


 それを見て、綾瀬は言う。


「そりゃそうでしょ。お父さんの言ってた話、いい話そうに見えて結局脅しみたいなものだったし」


「え、そうか?」


「少なくとも私はそう感じたかなぁ。お父さんこそ、飯田会長から学ぶことがいろいろあるんじゃない?」


「………………かもなぁ」


 綾瀬の言葉に、理事長は少し間を空けて申し訳なさそうな顔をした。


 そんな中、鈴村は時計を見て口を開く。


「あ、理事長、飯田会長。もうすぐ出発の時間ですよ。皆もう集まってきてますし、点呼取って出発しちゃいましょう」


「おー、そうだな。鈴村、飯田は二階堂にかいどう先生と共にB組の点呼にあたってくれ。終わり次第、それぞれバスに乗って出発だ」


『わかりました』


 理事長の指示を受けて、鈴村と飯田は早速行動に出た。


 一方、綾瀬は恐る恐る理事長に声をかける。


「あの、私は?」


「ん? ああ、凛はそのままここにいてくれ。B組のバスで行くことになるから、特段何もしなくていいぞ。……あ、荷物だけはちゃんと整理して来てくれ。余計なもの持って行ってなくされたときが一番困るからな」


「はーい」


 綾瀬は自分に仕事がないことに少し安堵しながら、自分の泊まる部屋へと戻って荷物を整理した。




                   *




「おぉ…………、金ぴかだ…………!」


「すごいですね……! 私、本物初めて見ました……!」


 ホテルを出発し、一行は二日目の目的地、金閣寺へ到着していた。


 各々、一日目と同じ小グループに分かれて観光を楽しんでおり、綾瀬、琴原ことはらも同じように観光を楽しんでいた。


「あ、凛ちゃん、写真撮りましょうよ! えっと鈴村君は……」


 琴原は鈴村を探すように辺りを見渡したが、綾瀬はそれを止めた。


「み、みどり先輩? 鈴村君は引率者なんです。きっと仕事で忙しいでしょうから、探すのは大変だと思いますよ」


「そうですかね? じゃあ私たちで撮りましょうか!」


「そ、そうしましょう!」


 そう言って、琴原は綾瀬と共に金閣寺でのツーショットを撮った。


 綾瀬がここまで琴原に鈴村を近づけさせないのには理由があった。


(…………みどり先輩、この前のことがあってから絶対に吹っ切れてる……。昨日のバスでも鈴村君に何かしてたみたいだし……。なるべくみどり先輩を鈴村君に近づけないようにしないと……)


 綾瀬は、琴原の行動力がそれまで以上に跳ね上がっていることを理解していた。


 加えて、琴原は鈴村に直接、「鈴村への気持ちは諦めてほしい」という話をされ、それを承諾している。にも拘わらず、バスでの出来事に綾瀬は違和感を抱いていた。


 このことから導き出された答えは、『未だに綾瀬には恋のライバルが存在する』というものであった。


(自由行動中に鈴村君とみどり先輩を近づけさせたら、何をされるかわかったものじゃない……。ここは徹底的に阻止しないと……!)


 綾瀬は心の中でガッツポーズをしながら琴原のことを見ていた。


 一方、鈴村は二年B組、第二班が全員行動し始めたのを確認してから、自分も観光にいそしんでいた。


「いやぁ、本物の金閣寺はやっぱり迫力あるなぁ」


 鈴村は一人、そんなことを呟きながら金閣寺を見ていた。


 そう。鈴村は今、一人なのである。


 鈴村は『人生の選択肢』が提示した【選択の結果】を思い出していた。




【選択の結果】


 鈴村徹はCを選んだ。


 修学旅行一日目は綾瀬忠一の助力により成功する。


 しかし、二日目は鈴村徹のみで引率をすることを強いられる。


 心せよ。




(二日目の引率は俺だけってそういう意味ね……)


 綾瀬はあくまで鈴村のメンタルケア係である。


 鈴村自身、この修学旅行が始まってから今に至るまで、見様見真似みようみまねで引率者としての仕事をこなしてきたが、特別重大なトラブルに直面しているわけでもなく、特に問題なく仕事を全うしていた。


 このことから、綾瀬も気兼ねなく観光をできているのであった。


(やっぱり『心せよ』ってのが気になるけど……。初めて一人でやる仕事だから気をつけろ、って意味かなぁ……)


 鈴村は『人生の選択肢』に記載されたその一言だけが気になっていた。


 鈴村は鈴歩すずほに直接意図を聞こうとしていたが、未だに鈴歩に干渉する方法がわからない上に、鈴歩の正体を知って以来、鈴歩が全く姿を現さないため、全く会話をするタイミングが来なかった。


「まあ、何かあったら理事長に相談すればいいか……。って思ったけど、理事長そういえばバス酔いしてバスで休んでるだっけ」


 理事長は珍しく金閣寺へ向かう途中で眠ることがなかった。それでいて運悪くバス酔いをしてしまい、鈴村の引率を手伝うどころではなくなってしまったため、バスで療養中であった。


「『強いられる』って書かれたのはそういうことでもあったんだな。困ったときは……、自分でなんとかしてみるしかないか」


 鈴村は自分の立っている立場を理解し、観光しながらも引率者としての意識を持って行動していた。


 そんな中、鈴村は突然トントンと、右肩を叩かれる。


「ねえ、もしかして、徹?」


「え?」


 振り返ると、そこには見覚えのある人物が立っていた。


「えっ、咲良さくら!? なんでここに!?」


 青海学園高等部生徒会書記、木下咲良きのしたさくらがそこに立っていた。


「なんではこっちのセリフだよ! なんでここにいんの?」


 鈴村は驚きながらも木下に状況を説明する。


「俺は次期生徒会長として、生徒会長の仕事を学べって言われて、飯田会長や綾瀬と一緒に修学旅行の引率やってるんだよ」


「まあ、鈴村君、次期生徒会長になられるんですか!?」


 鈴村のその言葉に、木下の後ろを歩いていた青海学園高等部生徒会長、桜庭さくらばみやびが驚いた声を出した。


「そ、その声、もしかして桜庭生徒会長ですか!?」


「はい! お久しぶりですわね。『親睦会』以来でしょうか?」


「お久しぶりです。お二人はなんでここにいらっしゃるんですか?」


 桜庭は鈴村に問われるが、回答に少し困っていた。


 桜庭は木下と顔を合わせた後、間を空けて説明する。


「あの『親睦会』のあと、遠坂君からの提案でうちの生徒会メンバーだけでも親睦会をしないかと提案されまして……。私はそれは良いことだと思ったので承諾したんですが、遠坂君、その一環で柳さんと同棲したいって言いだしまして……」


「ど、同棲!? なんで!?」


 鈴村は大きな声を出して驚いた。


 桜庭の言葉に、木下が続けて説明をする。


「なんでかはわからないよ……。ただ突然遠坂がそんなこと言い出してさ……。その同棲が終わった後、二人はどうなったと思う?」


「え、どうなったの? そんな顔をして言うほど深刻なことなの?」


 木下は神妙な顔をして鈴村に言った。




「なんとね、柳副会長と遠坂、付き合うことになったんだよ」




「は!?」


 鈴村に衝撃走る。


 その声はあまりに大きく、周りにいた人々の視線を浴びるほどであった。


 鈴村は慌てながらも説明を求めた。


「え、ちょ、なんで!? なんであの二人がくっついたの!?」


「知らないよ……。あくまで親睦を深めるための親睦会だったから、友情を深めるだけなんだろうなぁと思ってたんだけど、いざ帰ってきてみたら……」


 木下の言葉はそこで終わった。


 次いで、桜庭が話す。


「なんと、柳さんは遠坂君と恋人繋ぎをして、とても機嫌良さそうにしてたんですよ」


「な、なんてこった……」


 鈴村は開いた口が塞がらないでいた。


 ふと、鈴村は『親睦会』の時に訪れた遊園地にあった『相性占い』のことを思い出す。


 鈴村は意を決して言う。


「も、もしかして、あの『相性占い』って本物……?」


 木下はその言葉に同意した。


「少なくとも嘘は言ってない気がするんだよね……。ただのその場を盛り上げるためだけのアトラクションだと思ってたけど、案外本当に当たるのかも……」


 木下はそう言って、だんだんとテンションが下がっていった。


「え、咲良、大丈夫? なんで話しながら急にテンション下がるの?」


「いや、…………なんでもない。気にしないで」


 木下は、鈴村と『相性占い』をしたとき、『普通より少し上』という結果を得たことを思い出し、だんだんと自分に自信がなくなっていった。


 桜庭は木下の様子を見て「あははっ……」と苦笑いをし、話を続けた。


「それでですね。一応その親睦会は今も続いてまして、今日は私と木下さんの二人の親睦会の最中なんですのよ」


「あ、そうだったんですか。…………今日平日ですよね? 学校大丈夫なんですか?」


「あぁ、それはご心配には及びませんわ。今日と明日は青海学園の創立記念日で二日連続休校なんです。ちょうどいいタイミングだったので、この日を選ばせていただきました」


 鈴村は「なるほど……」と納得した顔をした。


「創立記念日で休校になるのが二日間もあるなんて珍しいですね」


 鈴村は素朴な疑問を桜庭にする。


「それがうちの学園長の意向なんです。細かく事情が知りたかったら、今度学園長とお話することをお勧めしますわ」


 桜庭は笑顔で答えた。


「それで、次期生徒会長ってどういうこと? そんな話聞いてたっけ?」


 そんな中、木下が鈴村に食い気味で質問をする。


 その質問に桜庭も参入した。


「そうですわ! 私も初耳です!」


「え、蒼碧祭そうへきさいのとき飯田会長が言ってませんでしたっけ?」


 鈴村のその言葉に、桜庭と木下の頭の上には「?」マークが浮かんでいた。


 桜庭は少し考えた後、何かを思い出したかのように手をポンと叩き言った。


「あ、思い出しました。そういえば蒼碧祭の三日目、たちばなが現れる前に飯田さんがそんなことを言っていたような……」


「え、桜庭会長覚えてるんですか? 私橘がいつ出てくるのかに集中してたんであまり記憶が……」


 片や木下は、自分の記憶が曖昧になっていることにもどかしさを感じていた。


 鈴村はその様子を見て、改めて二人に説明する。


「あの蒼碧祭のことを経て、俺は理事長と飯田会長から正式に来年度の緑ヶ丘学園高等部生徒会の次期生徒会長として推薦されました。今ここにいるのは、生徒会長の仕事を学ぶためなんです」


「まあ、それは素晴らしいですわ! そのなんでも学んでいこうとする姿勢、私はとても好きです。応援してますね、鈴村君」


「はい、ありがとうございます」


 そう言って、鈴村は差し出された桜庭の手をぎゅっと握った。


 木下は鈴村の説明を聞き、少し感慨深くなっていた。


「そっかぁ、徹が生徒会長かぁ。すごいなぁ」


 そう言って、木下は手を後ろに置き、空を見上げた。


「咲良は応援してくれないのか?」


「もちろん応援するよ。ただ、ちょっと生徒会として負けたなぁって思っただけ」


「負けた? 何に?」


「なんというか…………。経験?」


「なんだそりゃ」


 不思議なことをいう木下に困った顔をする鈴村であった。


「鈴村さーん! ちょっといいですかー!」


 そんな会話をしていると、鈴村のことを呼ぶ声が聞こえた。


「あれは……、うちの生徒か。はい、今行きますー!」


 鈴村は緑ヶ丘学園の修学旅行生に声をかけらえたことに気づき、呼ばれたほうへ歩き出した。


 鈴村は後ろを振り返り、桜庭たちに挨拶をする。


「じゃあすみません、桜庭生徒会長、咲良。俺仕事あるんで、ここで失礼しますね」


「あ、すみませんね呼び止めてしまって。お仕事頑張ってください」


 桜庭は悪びれる顔をしながら手を振った。


「ありがとうございます、桜庭生徒会長。お二人も旅行楽しんでくださいね」


 そう言いながら、鈴村は呼ばれたほうへ走り出そうとした。


 その時、木下は鈴村の袖をぎゅっと掴んだ。


「え、どうした、咲良」


「あ、ごめん、つい…………」


「…………?」


 突然の木下の行動に戸惑う鈴村であったが、木下はその手をすぐに離して言った。


「お仕事頑張ってね。立派な生徒会長になれるよう、私応援してるから!」


 木下は笑顔で言った。


「おう、ありがとう。咲良も旅行楽しんでな。旅行はストレス解消にもいいってよく言うから、リフレッシュできると思うぞ。じゃ、またな」


 そう言って、鈴村は声をかけられたほうへと走って行った。


 その鈴村の後ろ姿と、木下の様子を見て、桜庭は木下に声をかける。


「…………大丈夫です。木下さんは頑張っています。生徒会の仕事も、恋愛についても。色々あったかと思いますが、気負うことはありませんよ」


「…………心配させちゃってすみません。お気遣いありがとうございます。徹の言う通り、今は旅行を楽しみましょう」


「ええ、そうですわね」


 そう言って、桜庭と木下はそれぞれの想いを抱きながら、『親睦会』の延長線上の旅行を楽しんだ。




                   *




「えっと、これで全員……ですかね」


 修学旅行二日目も終盤に差し掛かり、鈴村たちは金閣寺の観光を終えた修学旅行生を送迎バスの近くに集め、点呼を取っていた。


「理事長、B組第一班、全員点呼確認取れました」


「おう、ご苦労。二班はどうだ?」


 理事長は鈴村に問いかける。


「…………あれ、…………あれ?」


 鈴村は青ざめた顔をしていた。


 理事長は異常を察知し、鈴村の元へ駆け寄る。


「どうした徹。なんかあったか?」


 鈴村はその青ざめた顔のまま、助けを求めるような声で言った。




「綾瀬と、…………、琴原先輩が、…………いません」




「は?」


 理事長は耳を疑った。


 そして、すぐさま行動に移る。


「徹、しっかり点呼取ったでいいんだよな。そのうえで、この場に凛と琴原がいないんだよな」


「は、はい。何度も呼びました。ですが返事がなく……、この辺りを探してみたんですが見当たらずで……」


「……まずいな」


 理事長は表情を変えて他の教師に事を伝えた。


「皆、緊急事態だ。B組の女子生徒二名がこの場にいない。まだどこかで迷っている可能性がある。A組、B組の集まっている生徒はバスに乗ってそのまま待機。俺は鈴村と一緒に行方不明の生徒を探してくる」


 理事長の言葉に、二年B組の担任、二階堂彩芽にかいどうあやめが反応する。


「で、では私も一緒に探します!」


「ああ、頼む。飯田にもお願いしたい。できるか?」


「もちろんです。俺も綾瀬と琴原を探しに行きます」


「よし。じゃあ、二階堂先生と飯田はあっちの方向を、俺と徹は反対方向を手分けして探そう。見つかり次第連絡してくれ」


『わかりました』


 そうして、飯田と二階堂は指示された方向に向かって走って行った。


 その間、鈴村はパニックになっていた。


(俺のせいだ……。俺が引率者という立場でいながら、観光にうつつを抜かして…………。これじゃ生徒会長失格だ……!)


 鈴村の頭の中には、これ以外にも自分を後悔する言葉がいくつも浮かんできていた。


 その鈴村の背中を、理事長は強く叩いた。


「いっっっった!!!!!!!!!」


「なんて顔してんだ、徹」


「り、理事長。…………すみません、俺が不甲斐ないばかりに……」


「自分を責めるな。こういう時に自分を責めると、それがトラウマになって今後の生活に支障を来たすこともある。誰だってミスはあるさ。大丈夫だ、凛たちは協力すれば必ず見つかる」


「り、理事長……」


 鈴村は理事長がとても凛々しく見えていた。


「……まあ、正直なところ色々言いたいことはあるが……。今は一刻を争う。まずは凛たちを探そう。電話は繋がったか?」


「それが繋がらないんです……。琴原先輩にもかけてみたんですけど繋がらず……」


「携帯を持ち歩いてないってことはないだろうから、もしかして電池切れか……?」


「もしかして、写真撮影を携帯でやってたんですかね」


「あー、なるほど……。それなら電池切れになるのも納得だ……」


 理事長は少し考えて鈴村に言う。


「よし。俺らが来たのは金閣寺だけだ。ここ以外に行く場所の予定はない。凛たちもそう遠くないところにいるはずだ。もしかしたら少し離れた場所にいるかもしれないから、金閣寺から少し離れたあたりを探そう」


「……わかりました」


 鈴村はそう言って捜索にあたろうとしていたが、その時、『人生の選択肢』が光り輝くのが見えた。


「ナイスタイミングだよ、鈴歩」


 鈴村はそう言って、皆にバレないように、『人生の選択肢』を確認した。




【人生の選択肢】


 A.金閣寺を中心に、綾瀬凛、琴原みどりが通ったであろう道を探す。


 B.金閣寺から少し離れた神社を探す。


 C,手あたり次第に探す。




「……Cはないにしても、AもBもありきたりな選択肢だな……」


 鈴村は鈴歩からヒントを与えてくれたと内心喜んでいたが、綾瀬と琴原が見つかる確証のある選択肢ではないことがわかり、少々がっかりしていた。


 しかし、この選択肢のうち、鈴村はBに関して引っかかるものがあった。


「…………そっか、神社だ」


「え? 神社がなんて?」


 理事長は鈴村の声に反応する。


「神社を探しましょう、理事長」


「神社って、金閣寺以外の神社を探すのか?」


「すみません、確証があるわけじゃないんです。ただ、綾瀬たちはそこにいる気がして……」


「こんな時に神頼みかよ……」


 理事長は呆れ顔で言った。


 理事長は鈴村の前に立ち、目を合わせて言う。


「いいか。起きてしまったことはどうしようもない。過去を変えることはできないからな。問題はこれからどうするかだ。時間も時間だ。夜道を女子供だけで歩かせるなんてありえない話だ。そんな中で、お前は確証もない場所を探すのか?」


「…………っ」


 鈴村は理事長の言葉に言い返すことができなかった。


 理事長の言っていることは正しい。普通に考えて、このタイミングで確証もないところを探しに行くのは時間がかかるし、見つからないリスクも背負うことになる。


 しかしながら、確証はないながらも、鈴村はそこに綾瀬がいると言える根拠が一つあった。


 鈴村は、タイムスリップする前に高校時代の修学旅行で経験した記憶の中で、唯一思い出せる出来事を思い出していた。


(俺が行った修学旅行の二日目で女子と話していたあの神社……。確か縁結びの神社だった気がする……)


 鈴村はさらにヒントを求めようと、自分の記憶を必死に思い出そうとした。


 だんだんと、その神社の特徴が記憶から蘇っていった。


 その神社の本殿の屋根は赤く、その本殿には若干緑がかった装飾が施されている。


 本殿の左右には別の建物があり、それぞれに『ウサギ』の彫刻がまつられている珍しい神社であることを思い出した。


 しかしながら、その神社がどこにあるかまでは思い出せないでいた。


 だが、そのことを思い出した鈴村は、『人生の選択肢』のことはバレないように、理事長に提案をした。


「……携帯も繋がらない中、闇雲に探しても意味がないと思います。俺らは今日『金閣寺』に来ました。もしかしたら、それを連想してどこかの神社にはいるんじゃないでしょうか」


「…………そうは言ってもなぁ……」


「どこかわからないよりも、いそうな場所を探すほうがいいかと思います。理事長は、どう思いますか?」


「………………」


 理事長は考えた。


 どちらの選択を取るのが得策なのか。


 どちらが早く綾瀬たちを見つけることができるのか。


 考えた結論は、すぐに出た。


「……よし、この周辺にある神社を探そう。飯田達にもそう伝えておく。俺らは向こう側にあって、金閣寺から少し離れた神社を探すことにしよう」


「り、理事長……!」


「お前のことだ。確証はないにしても、何かしらの考えはあるんだろ。信じてるぞ、次期生徒会長」


「……はい!」


 理事長はそう言って、飯田と二階堂に捜索の方針を伝えた。


 その最中に、鈴村は『人生の選択肢』に提示された選択肢を選択する。


「……俺はBを選ぶ」


 その声と共に、『人生の選択肢』は輝き、【選択の結果】を示した。




【選択の結果】


 鈴村徹はBを選んだ。


 探すのは困難だろう。


 しかし、綾瀬凛と琴原みどりは必ず見つかる。




 『人生の選択肢』にはそう記載されていた。


「……こんな時まで頼っちゃってごめんな、鈴歩」


 事の発端は鈴村の不注意から起きたことである。鈴村は責任を感じていた。


『謝らなくていいんだよ、鈴村徹』


「え、鈴歩?」


 そんな中、鈴村の頭の中に鈴歩の声が響いた。


 鈴村は辺りを見渡すが、鈴歩の姿は見当たらない。


「ど、どこにいるんだよ鈴歩。直接話したいんだ」


『ごめんね、今はこうやって脳内で話すことしかできないんだ』


「どういうことだよ……」


『詳細は省くね。……綾瀬凛を探すのに、忠一君に縁結びの神社を探そうとは言わないんだね』


 鈴歩は鈴村に真意を突く。


「……俺がいきなり『縁結びの神社を探そう』なんて理事長に言ったら、どんな反応すると思う?」


『うーん……。『お前がいるのに縁結びなんておかしいだろ』、って一蹴いっしゅうされるかもね』


「だろ? 琴原先輩ならわかるけど、綾瀬も一緒なんだ。そんなこと急に言ったら探す候補から外れる可能性もある。だから言わなかったんだよ」


『……それが君なりの、私への気遣い、ってことかな?』


「まあ、そんなところだ」


 鈴歩は『ふふっ』と笑った。


『別にもう私の過去を知ったんだから、私の『意思』がちゃんと伝わってて、こうやって会話してることも打ち明けちゃえばいいのに』


「いずれそうするつもりだよ。でも、今は綾瀬たちが最優先だ」


『それもそうだね。…………頑張ってね、鈴村徹君』


「……ああ、わかってる」


 そう言って、覚悟を決めた鈴村は、理事長と共に綾瀬、琴原の捜索を始めた。

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