第46話 その『正体』は
「鈴歩…………」
京都旅行中の綾瀬忠一は、搬送された病院の一室で静かに眠る鏑木鈴歩の横に立っていた。
もう二度と目の覚ますことのない鈴歩の横に、忠一は何時間も横に立ち、鈴歩の様子を見ていた。
「あのぉ、綾瀬さん……」
「あ、はい」
「鏑木さんはもう、先ほどお伝えした通り……」
忠一が未だ病室から出てこないため、看護婦が声をかけてきた。
忠一は、その言葉にさらに現実を突きつけられ俯いてしまうが、少し間を空けて口を開く。
「……はい、わかってます。諸々やることあるんですよね。ただ、……、もう少しだけここにいさせてください」
「ええ、それは大丈夫です。こちらの準備が整い次第またお声をかけさせていただきますので、それまでは大丈夫ですよ」
「……ありがとうございます」
忠一は看護婦の目を見ず、そのまま礼を言った。
「…………ごめんな、鈴歩。俺があの猫を助けに行くべきだった」
忠一は後悔していた。
自分があの猫を助けていれば。
自分が鈴歩を止めていれば。
自分が、猫も助け、鈴歩も助けられるほどの判断力、行動力があれば。
忠一の頭の中は様々な後悔が駆け巡っていた。
「ごめんな、鈴歩。…………ごめん…………」
忠一はそのまま床に座り込み、ベッドに顔を埋めて涙をこぼす。
その泣き声は病室中に広がっていた。
忠一は笑ったり、怒ったりはするが、人前で泣くことは殆どなかった。
幸い病室内には忠一一人しかいなかったため、忠一はただひとり、その場で泣いていた。
「…………いた、忠一くん」
「……香織……!?」
忠一が病室の入り口を見ると、そこには、お腹が少し大きくなった自宅にいるはずの鈴村香織が立っていた。
「お前、どうしてここに……!?」
「……忠一くんから鈴歩ちゃんのことを聞いて、急いで来た」
忠一は医師から鈴歩の死亡確認を告げられた後、即座に香織に連絡していた。
「急いでって、ここ京都だぞ!? そんな早く来れるわけ……」
「その連絡受けて何時間経ってると思ってるの。忠一くんだって、それからずっとここにいたんだよね」
「…………そうだけど……」
確かに、忠一が鈴歩の訃報を受けてからそれなりの時間が経っているため、新幹線でなら到着していても問題はない時間であった。
香織は鈴歩の眠るベッドの横に立ち、改めて言う。
「……やっぱり、嘘じゃなかったんだね」
「…………縁起でもない嘘ついたら罰当たるだろ。こんなときに嘘なんかつかねえよ」
二人は静かに鈴歩の顔を見る。
途端、香織は我慢できずに泣き出してしまった。
「お、おい、香織……」
忠一は香織に心配の声をかける。
「……ごめんね。でもやっぱり泣かないのは無理だったよ。ついこの前まで、元気よく遊んで、その元気を生徒さんたちに分けていた鈴歩ちゃんが、こんな…………」
香織はそのまま、膝から崩れ落ちながら泣き始める。
「………………悪い、俺のせいなんだ」
「……なんで?」
「清水寺からホテルに向かう途中だったんだ。鈴歩が車通りの多い車道を横切ろうとする猫を見つけて、その猫が轢かれそうになってさ。その猫を助けた代わりに、鈴歩は……」
「……そうだったんだ。でも、なんで忠一くんのせいなの?」
忠一は、唇を噛みしめて言う。
「俺が猫を助けに行けばこんなことにはならなかった。俺が鈴歩を止めていれば、こんなことにはならなかった」
「……こういうときに自分を責めるのはよくないよ。自分のメンタルが崩壊して、自分がおかしくなっちゃうから」
「……気を遣ってもらって悪いな」
「ほんとだよ。忠一くん先生なんだから、そんなんだと生徒さんたちに顔見せできないよ?」
「……そうだな」
忠一は少し笑みを見せて香織に返した。
その時だった。
「大丈夫。忠一君のせいじゃないよ」
『…………え?』
忠一と香織の目の前には、亡くなったはずの鈴歩が立っていた。
窓から差し込む光を浴び、まるで天使のような風貌でその場に立っていた。
「す、鈴歩……? お前……、どうして……」
忠一は目の前で起きていることが信じられなかった。
もうすでに鈴歩は亡くなっている。
そんな鈴歩が、足を床につけ、その場に立って自分に話しかけてきている。
香織も驚いた顔を見せていた。
「これ……、どういうこと? 幻覚?」
「わ、わからん……。鈴歩、お前は鈴歩なのか?」
その忠一の言葉に、鈴歩は笑顔で答える。
「そうだよ。本物の私、鈴歩だよ。……あーでも、『本物』って言いきっちゃうと語弊があるね」
「……どういうことだ?」
「だって、ほら。そこに私寝てるじゃん」
「…………あぁ、そうだな」
鈴歩が指さす先には、自分が横たわっているベッドがあった。
鈴歩は少し説明をするのが難しそうな顔をしたが、忠一たちに説明をした。
「だからまぁ、今の私は……、未練を残した幽霊、みたいな感じかな?」
「…………鈴歩ちゃん!」
「あ、香織!」
香織は我慢できず、目の前に立つ鈴歩に抱きつこうとする。
しかし、鈴歩の体はすり抜け、香織は鈴歩に抱きつくことができなかった。
「…………あっ」
香織はここで、改めて鈴歩が亡くなったことを自覚する。
鈴歩は香織の行動に驚いていたが、笑顔で香織に言った。
「ありがとう、香織ちゃん。でもごめんね、私はもう二人にも、皆にも触ることができない存在になっちゃった」
「か、香織……」
再び泣き始める香織。
忠一は改めて鈴歩に問う。
「なあ鈴歩、俺のせいじゃないって、どういうことだ?」
「ああ、それね。私が事故っちゃったのは、忠一君のせいじゃないよって、そう言いたいだけ」
「でも! 俺があのときあの猫を助けていれば、俺があの時、鈴歩が飛び出すのを止めていれば……!」
鈴歩は叫ぶ忠一に近づき、顔を合わせて言う。
「自分をそうやって責めたらダメだよ。香織ちゃんも言ってたよね。自分のメンタルがおかしくなるって」
「…………ああ、悪い。でも、どうしてもこの責任から逃れることは、できない気がするんだ……」
忠一は自分の胸をぎゅっと掴んで、悲しそうに鈴歩に言う。
鈴歩はその様子を見て、少し微笑んで言った。
「大丈夫。私のことを思ってくれてるんだよね。それだけで嬉しいよ」
「鈴歩…………」
忠一は鈴歩の思い人である。そんな相手から、こんなにも心配され、こんなにも責任を感じてくれて、鈴歩は嬉しさでいっぱいであった。
鈴歩は触れないとわかっていながら、忠一の頭を撫でる仕草を見せた。
香織はその様子を見て、さらに涙が溢れる。
「……香織ちゃん。お願いがあるんだ」
「私に、お願い?」
鈴歩は香織を見て言う。
「私は自分の選んだ人生の選択にとても後悔してる。だから、これから生まれてくる赤ちゃんたちには、そんな後悔をしてほしくないんだよ。……もちろん、忠一君にもね」
「それって、どういうこと……?」
香織は涙を拭きながら鈴歩に問いかけた。
鈴歩は忠一、香織の二人に向けて言った。
「忠一君。香織ちゃん。これから自分の人生に大きな分岐が生じるような選択を迫られたときは、しっかりとよく考えて、どんな未来が来ても受け入れられる覚悟で選択をしてね。たとえ後悔することになっても、その後の選択肢によっては後悔しなかった未来を手にすることもできる。たった一度しかない人生だもの。悩んだり、迷ったりしたら、後悔しない選択をしてね」
そう言い切った途端、鈴歩の体は少しずつ輝き始めた。
「え、何!?」
香織はその輝きに驚く。
「……どうやらお別れの時間が来たみたいだね」
「お、お別れ!? ダメ! 行っちゃダメ鈴歩ちゃん!」
香織は必死で鈴歩の手を掴もうとする。
しかし、それは空振りするだけで掴むことは叶わなかった。
「ごめんね、香織ちゃん。さっきも言ったじゃん。幽霊みたいなもんだって。成仏するときが来たんだよ」
「鈴歩………………」
だんだんと体が消え始めていく鈴歩を、忠一はただただ見ているしかなかった。
「あ、そうだ」
消えゆく鈴歩はその途中、あることを思い出す。
「私の意思を、香織ちゃんと、忠一君の赤ちゃんにも託そうかな」
「……託す?」
忠一は鈴歩に問う。
「さっき私が言ったこと、香織ちゃんと忠一君は守ってくれると思うけど、そう簡単にうまくいかないと思うんだよね。だから、私の意思を赤ちゃんたちに託すよ」
「ど、どういうことだ? そんな魔法みたいなこと……」
「うーん、できるかはわからない。でも、私の後悔してほしくない気持ちが強かったら、たぶんうまくいくんじゃないかな」
「鈴歩ちゃん……」
鈴歩は自分の来る未来を受け入れていた。
鈴歩は数秒目を閉じ、目を開けて言う。
「それじゃ、ばいばい。香織ちゃん。忠一君。楽しかったよ」
鈴歩はとびきりの笑顔でそう言った。
そうして、鈴歩は散り散りに舞う光となって姿を消した。
「鈴歩…………、鈴歩…………!」
忠一はそれを『成仏した』と捉え、悔しさのあまりベッドを叩きつける。
「……やめたほうがいいよ、忠一くん。ベッドが壊れる。それに、鈴歩ちゃんにも悪いよ」
「…………すまん」
忠一は静かに謝った。
忠一は未だ消えない鈴歩の輝きをしっかり目に焼き付けていた。
その中に、赤色と青色の光が混じっているのが見えた。
「…………なんだあれ」
「え?」
香織も忠一の視線の先を見た。
「……あれ、赤と青に光ってるね。他は黄色く光ってるのに」
「なんだあれ……。って、えっ」
そう話している間に、青い光は香織のお腹へ、赤い光は窓から飛び出し、どこかへ行ってしまった。
突然香織のお腹に赤い光が入っていってしまったため驚く香織と忠一であったが、ここで鈴歩の言葉を思い出していた。
「……それが鈴歩の『意思』、ってことか」
「たぶん、そうなんじゃないかな」
香織は自分のお腹をさすりながら忠一に言った。
「鈴歩の意思、伝わってるといいな」
「そうだね……。伝わってなくても、私が伝えるから大丈夫だよ」
「……俺もそうしなきゃだな」
二人はそう言って、静かに眠る鈴歩の顔を見た。
「じゃあな、鈴歩。また会える日が来たら、一緒に遊ぼうぜ」
その言葉を最後に、忠一と香織は鈴歩の病室から退室した。
その数か月後、無事に鈴村徹と綾瀬凛は誕生したのであった。
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「とまあ、これが俺が経験した過去で、お前が知りたかった鈴歩の正体だ」
「……そうだったんですね」
修学旅行中のホテルの一室にて、理事長、綾瀬忠一は生徒会長補佐、鈴村徹に過去にあった話をした。
鈴村は涙を流していた。
「……男のくせに何泣いてんだよ」
「だって、そんな後悔しかない人生で亡くなっちゃったなんて、かわいそうじゃないですか……!」
「……でもこれは、あいつが選んだ人生だ。自分より猫を優先するっていう選択を取った結果だよ」
「だからって……」
「それ以上は言うなよ。鈴歩の思いを汚すことになる」
「…………すみません」
鈴村は冷静になって理事長に謝罪した。
理事長はここまで話して、鈴村に問いかける。
「なあ、徹。お前の今までの人生の中で、鈴歩の意思を感じることってあったか?」
「……意思、ですか」
鈴村には心当たりがあった。
それこそまさしく、『人生の選択肢』の存在である。
これはまだ鈴村がタイムスリップしてから誰にも打ち明けたことはなく、理事長も、鈴村香織も、綾瀬凛もこのことは知らない。
(……ここで黙る理由もないしな)
鈴村は、意を決して理事長に伝える。
「鈴歩さんの意思、俺は感じたことありますよ。それはもう何度も」
「…………それは本当か?」
「はい、本当です」
「そうか…………」
その言葉を聞いた途端、理事長は泣き出してしまった。
「え、ちょ、どうしたんですか!?」
「いや、悪い、ちょっと嬉しかったんだ。お前の中で、鈴歩は今もしっかり生きてるんだってわかったら、感情が溢れてきちゃってな。あんま見ないでくれ、恥ずかしい」
「あ、すみません。でも、それだけ理事長は鈴歩さんを思っていたんですね」
「別に好意はねえよ。ただ、責任はとても感じてる。でも、鈴村のその言葉を聞いて安心したよ。ありがとう」
「……いえ、お礼を言われるようなことはしてないですよ」
鈴村は理事長の顔を見て『人生の選択肢』のことを伝えようとしたが、鈴村はそれをやめた。
「……? どうした徹。何か言いたいのか?」
「いえ、なんでもないです。理事長にはいずれ話します」
「………………? 変な奴だな。今でもいいのに」
「……ちゃんと結果が得られたら、話しますよ」
「お、おう? わかった」
理事長はあまり納得のいく顔をしていなかったが、とりあえず鈴村の言うことを納得した。
理事長は時計を見て鈴村に言う。
「お、そんな昔話してたらこんな時間だ。もう夕食の時間だし、二年のやつら集めてレストランに行くぞ」
「あ、はい。わかりました」
理事長はそう言って、先に部屋から出てしまった。
「……相変わらずこういうところでは行動が早いなあの人……」
鈴村は理事長を追いかけるように部屋を出ようとした。
その時だった。
「私の正体が知れて、君は満足かな?」
「…………鈴歩か」
扉のドアノブに手をかけようとした鈴村の後ろから、鈴歩の声が聞こえた。
鈴歩はベッドに座り、鈴村に言う。
「さっき忠一君が言ってた通り。私は昔この京都で死んじゃった鏑木鈴歩でした」
「でも、死んだお前が俺と話せてるのは、お前が成仏してないからか?」
鈴村は鈴歩に問いかける。
「そうじゃないよ。あの日私はちゃんと成仏した。でも、こうやって話せたのは、君に私の『意思』を伝えられた証拠にもなってるんだよ」
「確かに、証拠にはなってるな」
「君と話すことができるのも、『人生の選択肢』を君に渡すことができたのも、全て私の『意思』が伝わった証拠。咄嗟に思いついた作戦がうまくいって良かったよ」
鈴歩は笑顔で鈴村に言った。
「そんな魔法みたいなこと、お前にできたんだな」
「自分でも少し驚いてるよ。まさかうまくいくとは思ってなかったんだよね、実は」
「よくもまあ、うまくいくかわからないことをやろうと思ったな……」
鈴村は困り顔で鈴歩に言う。
「私があの時飛び出しちゃったのも、咄嗟の行動だったんだよね。君に人生の選択肢を選ばせてる割には、なんか矛盾することしちゃってるね」
「その話を聞くと、お前から出される選択肢を選ぶのに抵抗が生まれるんだけど……」
「はははっ、ごめんね。でも、君に出してる選択肢は、私の『意思』から生まれるものだから、君はその選択肢をちゃんと考えて選んで問題はないはずだよ」
「…………ならいいんだけど」
鈴村はタイムスリップしてから今に至るまでの選択が、鈴歩によるただの思い付きの選択肢に感じていた。
鈴村は鈴歩の顔を見て、状況を整理し始めた。
「つまり、お前は昔ここで亡くなった理事長の友人で、自分の選択してきた人生に後悔し、後から生まれてくる俺のことを案じて、『意思』として俺の中に入ってきた。そして、皮肉なことに俺は人生の選択を一度失敗し、それがきっかけで『人生の選択肢』と共にタイムスリップした、ってことか」
「うーん、まあ、そんな感じでいいかな。大体合ってると思うよ」
「大体って……」
鈴村は困惑していた。
鈴村は鈴歩に問いかける。
「お前が生前のお前自身の『意思』なのはわかった。でも、具現化した姿が俺の母さんそっくりなのはなんでだ?」
「あー、それは私にもよくわからないんだよね。これは憶測だけど、『意思』を伝えられることには成功したけど、具現化なんてことは想定してなかったから、咄嗟に香織ちゃんの姿を貸してもらった、って感じかな」
「……まあ、俺は母さんの息子だからな。母さんの姿そっくりになるのは納得が…………、いかないかなぁ」
「いかないんだ」
鈴歩は困惑する顔をした。
しかし、ここで鈴村は一つの疑問を抱く。
「さっきの理事長の話だと、お前の意思は二つに分かれたんだよな」
「うん、そうだよ」
「一つは俺なのはわかったけど、……もう一つは?」
「おや、ここまで話を聞いて察せないんだね」
「……まさかとは思うけど……」
鈴村は鈴歩に視線を合わせて言う。
「そのもう一つの意思は、綾瀬の中か?」
「……その通り」
鈴歩はニヤりと笑いながら言った。
「ということは、綾瀬が『人生の選択肢』を知るのも時間の問題……ってことか……!?」
「あ、それは大丈夫。綾瀬凛は自分の人生に後悔をしてないみたいだから、私の『意思』が君みたいに形となって現れることはないよ」
「あ、そう」
鈴村は拍子抜けした。
しかし、いずれ綾瀬もこのことに気づくであろうと鈴村は考えていた。
「このこと、綾瀬に話してもいいか?」
鈴歩は鈴村の提案を全力で拒否した。
「それはダメ」
「え、なんで?」
「君に私の『意思』が伝わっているのはわかったけど、綾瀬凛にも同じように伝わっている確証がないから。それに、それを伝えて困るのは君じゃないのかな?」
「もう今更困ることもないだろ……。これだけのことを知ったんだ。むしろ綾瀬にも伝えて然るべきなんじゃないのか?」
「……そっか。まあ、それは君に任せるよ。自分の人生に後悔がない選択をしてね」
「…………あぁ」
鈴歩はそう伝えて、すっと姿を消した。
そのタイミングで、部屋に理事長が戻ってくる。
「お前いつまで部屋にいるつもりだよ……。もう皆集まってるぞ……って、扉の前で何やってんだお前」
「あ、ごめんなさい。これから出るつもりだったんです。すぐ行きますよ」
「全く……。ほんとにそんなんで生徒会長が務まるのかねぇ」
理事長は心配そうな顔を鈴村に向けた。
しかし、鈴村の顔を見た理事長はどこか安心していた。
「……なんか嬉しそうな顔してるな。何かあったのか?」
「いえ、何もないです。それを言ったら、たぶん理事長大はしゃぎして喜ぶと思うので」
「……お前、今俺の事バカにしたか?」
「してないですよ。さ、行きましょう」
「…………なんか腹立つなぁ。まあいいか」
そう言って、理事長と鈴村はレストランへと向かった。
その様子を、静かに鈴歩が部屋の真ん中に立って見ていた。
「忠一君を、香織ちゃんを頼んだよ。鈴村徹君」
鈴歩は鈴村に聞こえない声量でそう言った。
そして修学旅行は、二日目を迎える。




