第36話 気を取り直して
「いやー、やっぱりビュッフェはいいですねー! めっちゃおいしかったです!」
「……みどり、昨晩あれだけ食べたのに、今朝もすごかったわね……。……それだけ栄養がそこにいってるのね」
「? なんで私の胸見るんですか?」
「いえ、なんでもないわ」
宿泊したホテルにあるビュッフェ式レストランにて、親睦会参加メンバーは朝食を終えていた。
緑ヶ丘学園生徒会会計、琴原みどりがあまりの量を一日目の夕食時とほぼ変わらない量を朝食時にも食べていたため、緑ヶ丘学園生徒会副会長、宮田詩織は心配の声をかけていた。
親睦会二日目。
緑ヶ丘学園、青海学園の生徒会メンバーはビュッフェ式レストランの食事をたっぷり堪能し、二日目に何をするかを考えていた。
「さて、今日は何をするんですか? 桜庭さん」
宮田は青海学園生徒会長、桜庭みやびに問いかける。
「そうですねぇ……。本当は私と木下さんの作戦がうまくいった時の事しか考えていなかったので、二日目に何するか決めてなかったんですよね」
「……どんだけ自分の作戦に自信があったんだ」
緑ヶ丘学園生徒会長、飯田勝翔は頭絵を抱えながら言った。
宮田は桜庭の言葉に続けて話す。
「桜庭さんの作戦は無事に失敗に終わったので、今日は何をしてもいいと思います」
「詩織さん、やけに厭味ったらしくそこを強調しますね」
「敢えてそうしてるんです」
宮田は桜庭を睨みながら言った。
「……なんか詩織たち、親睦会が始まってから逆に仲悪くなってないか?」
そんな様子を見ていた飯田が緑ヶ丘学園生徒会長補佐、鈴村徹に声をかける。
「うーん、まあ、恋敵っていう意味でいえば綾瀬と琴原の二人と同じ関係なんだと思うんですけど、宮田先輩は対抗心剥き出しって感じですね」
「もう少し仲良くしてくれないもんかねぇ……。曲がりなりにもうちの副会長と青海学園生徒会長なんだし……。これじゃ『親睦会』の意味がねえや」
飯田は本末転倒なこの状況に呆れていた。
そんな中、青海学園生徒会会計、遠坂湊は手をポンとしながら言う。
「あっ、そうだ。せっかく皆でここに来たんです。桜庭会長の作戦で昨日はグループで行動しましたけど、今日は皆で行動しませんか?」
その言葉に桜庭が反応する。
「……確かにそうですわね。昨日は私の私物化により無理やりグループ分けしてしまいました。その罪滅ぼしと言ってはなんですが、今日は皆さんで仲良く園内を周ることにしましょう」
「でも、この大人数で周れますかね?」
飯田は心配そうな顔をして言う。
「それはご心配なく。今回皆さんにお渡ししたそのパスポートは、『特別招待券』となっています。この遊園地のアトラクションは『優先入場列』というものがあるのですが、一部を除いて有料なんです」
「……あー、なるほど。これがあればそこに並んで効率よく園内を周れると」
飯田はそう言いながら受け取ったパスポートを手に取った。
「飯田さん、その通りですわ。後は皆さんが回りたいところを仰ってくれれば、その通りに動きたいと思っています」
桜庭は笑顔で言った。
桜庭が招待した遊園地のアトラクションには、一般待機列と、優先入場列の二つの待ち列が存在する。
優先入場列は人気のあるアトラクションの場合有料となるため少し高価な買い物になってしまうが、鈴村たちが受け取ったパスポートはどのアトラクションでも自由に、何度でも乗ることができる優れものであった。
「さて、それでは早速行きましょうか」
こうして、何も仕組まれていない二日目の親睦会が始まった。
*
「り、凛さんって本当に絶叫系得意なんだね……」
「そうだよー。私、絶叫系アトラクション大好きなんだ。昨日もいっぱい乗ったでしょ?」
「よくこれで頭ぐるぐるしないね……。私もう限界……」
「……え、あれ、咲良さん!? 大丈夫!?」
親睦会二日目の半ば頃。
綾瀬は相変わらず木下を絶叫系アトラクションに何度もループさせるという行動を取っており、木下は限界に達しそうになっていた。
その様子を見て、鈴村が綾瀬に言う。
「綾瀬……、昨日のあれ見てまだ咲良を付き合わせるつもりなのかよ……」
「いやー、絶叫系アトラクション苦手な人って、乗せ続ければそのまま慣れるってよく言うでしょ? 咲良さんにも慣れてほしいなぁって」
「慣れるまでが拷問だってこと気づいてない?」
鈴村のその言葉に、綾瀬は少し考えて「ハッ」とした顔をした。
「…………やってしまった」
「気づくの遅いんだわ……」
鈴村は呆れていた。
そこに、飯田が割って入る。
「はっはっは! 綾瀬がやってるそれ、俺も前に詩織にやったことあるぞ」
「え、そうなんですか?」
綾瀬が答える。
「俺も絶叫系は大好きでな。そりゃもう何度も詩織と乗ったもんだ」
「…………私としてはそれは拷問でしかなかったわ」
「え、そうなの?」
宮田の言葉に飯田は驚いた。
鈴村は宮田の反応を見て綾瀬に言う。
「ほら、やっぱり当事者からすればこれは拷問なんだよ。あまり咲良に無理強いするのはやめてあげろよな」
「ぶーっ。じゃあ鈴村君が一緒に乗ってくれればいいじゃんかー」
「真っ先に咲良の手を引っ張っていったのお前だろ……」
綾瀬は頬を膨らませながら言う。
それに対し、鈴村は頭を抱えていた。
一方、木下はこの会話を聞いて考え事をしていた。
(……やっぱり徹は、どんなことがあっても、いろんな人に優しいんだね)
木下は未だ鈴村に対する好意が残っている状態である。
元よりこの『親睦会』は木下の気持ちを成就するために催されたものであったが、鈴村の綾瀬に対する気持ちがとても強いことがわかり、直接的ではないものの、木下がこの間に入る余地はなかった。
自ずと木下も、琴原同様に自分の鈴村に対する気持ちを諦めることを強いられていた。
しかしながら、鈴村は誰に対しても優しく接する。この行動が、木下の『決心』を揺れ動かしていた。
(私も、凛さんが琴原先輩に言っていたように、凛さんが一緒だったら、徹と一緒に何してもいいのかな)
ふと、木下はそんなことを考えていた。
状況は琴原と同じである。綾瀬の言い方がまかり通るのであれば、木下もそれは例外ではないであろうと考えた。
「あれ、咲良どうした? 具合でも悪いのか?」
そんな様子を見た鈴村が、心配そうな声で木下に話しかけた。
「え!? あ、うん、大丈夫」
木下は驚き、鈴村に返答した。
……が、木下はそのまま続けた。
「大丈夫……、じゃないかも。ちょっと休憩したいかな。さすがに乗りすぎちゃった」
「え!? ご、ごめんね咲良さん! やっぱり無理させちゃった?」
綾瀬は木下に心配の声をかけた。
「大丈夫だよ凛さん。人間ってあまり慣れないもんだね……。宮田副会長はどれくらいで慣れたんだろうなぁ……」
「私は三回くらいで慣れたわ」
「さ、三回!?」
木下は宮田の回答に驚いた。
その言葉に飯田も驚いていた。
「えっ、三回で慣れてたの? かなりの回数乗ったと思うけど……。……まさかとは思うが、詩織、お前もしかして嘘ついてたのか?」
「うっ、い、いや、嘘はついてないわ。さ、三回って言ってもあれよ。一回の乗車時間が長いものを三回乗ったからそこで慣れたって話よ」
「……俺基本的に短いものしかお前と乗ってないぞ?」
「うぐっ……」
宮田は嘘が下手だった。
綾瀬が宮田の反応を見てすぐに察する。
「あ、なるほど。宮田先輩は飯田会長とずっと一緒にくっついていたかったから、慣れていないフリをしてわざとそういうことを――」
「あーもう! この話は終わりよ! 早く次にいきましょう!」
宮田は綾瀬の言葉を遮り、顔を少し赤らめながら叫んだ。
「……なるほど、そういう手もあるのか」
「綾瀬、いらんこと考えるなよ。俺も絶叫系無理なんだから」
綾瀬は飯田の手法を真似ようとしたが、鈴村がそれを必死に止めた。
「あ、あのっ」
「ん? なんですか? 琴原先輩」
そんな中、琴原は鈴村の袖をクイクイッと引っ張っていた。
「あの、わ、私、鈴村君とあれやりたいです」
「あれ?」
琴原が指さしたのは、綾瀬と木下が体験した『相性占い』だった。
綾瀬はその建物を見て嫌な顔をする。
「……みどり先輩、あれに鈴村君と行きたいんですか」
「え、ダメですか? 単純に鈴村君との相性を知りたいなと思って……。……あ、心配しなくてもいいですよ! 凛ちゃんと一緒であればという約束を守ったうえで行くつもりなので、二人きりになるつもりはないです」
「……ふーん、そうですか」
「……疑ってます?」
琴原は綾瀬に恐る恐る聞く。
「まあ、疑ってないと言ったら嘘になりますかねー。……あ、そうだ。こうしましょう、みどり先輩」
「? なんですか?」
綾瀬はそう言うと、木下を連れて提案した。
「これから私たち三人が順番で鈴村君とあの『相性占い』に挑戦し、誰が一番相性がいいのか勝負しませんか?」
『……え?』
鈴村含め三人は耳を疑った。
「り、凛ちゃん、鈴村君がいるのにいいんですか?」
その言葉に、綾瀬は自信満々に答える。
「もちろんいいですよ。抜け駆けとかそういうのは私がいればいいという約束です。それに、どんな結果になろうと鈴村君を渡す気はないので、これはいわばお試し感覚で相性を確認する、って感じですね」
「……なんか複雑です」
琴原は不満そうな顔をした。
「いいの? 凛さん。琴原先輩の言う通りだよ。むしろあれは徹と二人でやるべきなんじゃ……」
「これは『親睦会』だよ? 私たち三人の親睦も深めないと。……もちろん。何度も言うけど鈴村君のことは絶対に渡さないけどね!」
木下の質問に綾瀬は元気いっぱいで答えた。
「……お前、それ自分の首絞めてるってわかってる?」
「……?」
「そこはわかってないのかよ」
変なところで鈍感な綾瀬であった。
「ま、まあ、凛ちゃんがそれでいいのであれば、行きましょう、『相性占い』に。順番は、私、木下さん、凛ちゃんでいいですか?」
「オッケーでーす」
琴原の質問に綾瀬が答える。
「で、では鈴村君。よろしくお願いします」
「……本当にこれでいいのかなぁ。とりあえず、こちらこそよろしくお願いします」
そうして、綾瀬の提案により、突如として『鈴村と相性のいい人は誰か選手権』が開幕した。
*
数十分後。
鈴村は綾瀬、琴原、木下の三人と二人一組になって『相性占い』を終えた。
結果。
「やったー! 私の勝ちー!」
『……はぁ』
綾瀬の圧勝であった。
綾瀬との相性は『息ピッタリ』であった。道中投げかけられる質問に対しても綾瀬と鈴村は真摯に対応し、問題を解決する策をしっかりと見出した。
琴原はというと、琴原が引っ込み思案な性格なこともあるせいか鈴村がエスコートをして進むような形になり、質問に対しても琴原も意見はするものの、決定的になることを言うのは全て鈴村だったため、相性は『普通より少し上』という判定であった。
一方、木下とのペアリングの際は、木下が鈴村をエスコートしようと迷路を先導して歩こうとしたが、どこを歩いても行き止まりになってしまっていた。そのため道に迷ってしまうことが多々あり、チェックポイントに辿り着いて質問に答えるところは良かったのだが、その回答の内容が少し不透明だったせいか、結果として相性は琴原と同じ『普通より少し上』という判定になった。
木下と琴原は「こ、これで『普通より少し上』……」とショックを受けていた。
綾瀬はどや顔で琴原、木下に言う。
「ふっふーん。どう? これが私と鈴村君の力だよ!」
「…………なんかごめんな、綾瀬の変なプライドの高さに巻き込んじゃって」
鈴村は琴原、木下に対し申し訳なさそうな顔をして言う。
琴原はそれに対し答える。
「いえ、いいんですよ。もともとこれは鈴村君とやりたいなと思ってましたし、今の相性がどれくらいのものなのかも知りたかったので。これからの行動の指標にもなりますしね」
「……やっぱりそれが目的だったんですね」
鈴村は琴原がなぜこのアトラクションを選んだのか初めから理解していた。
琴原は真剣な顔で言う。
「私は今、凛ちゃんにチャンスをもらっている状態です。……もうこの気持ちが叶うことはないですけど、今は精一杯鈴村君との時間を楽しみたいです」
「…………そうですか」
鈴村には琴原の気持ちがまっすぐに伝わってきた。
木下も、琴原と同じ気持ちでいた。
「凛さんに適わないのはもうわかったけど、それでも徹との相性がわかって良かったよ。……徹、私も負けないからね。覚悟しててね」
「もう負けてるぞ」
「そういう意味じゃないんだよ! 全く、徹は女心がわかってないなぁ……」
木下は鈴村に呆れた顔をした。
と、そんな中、後ろから『相性占い』の判定結果が聞こえてきた。
『相性めちゃくちゃピッタリ! 百点満点! あなたたちは素晴らしいカップルです! 結婚したらとても幸せな家庭を築くでしょう!』
「百点満点だって。誰だろう……ね?」
綾瀬はその声を聞いて後ろを振り返った。
そこには、意外な二人が立っていた。
「はははっ、うちら、めっちゃ相性いいらしいッスね」
「……ちょっとびっくりです」
『や、柳副会長と……、遠坂君だ……』
そこには、少し照れながら話す柳と遠坂が立っていた。
柳は鈴村たちがいることに気づき、大きく手を振る。
「あっ、鈴村っちー! こんなところにいたんスねー!」
そう言いながら、柳と遠坂は鈴村の元へ歩み寄る。
「はい、俺らも今この『相性占い』をやってたところなんです。……なんで遠坂君と一緒にやってるんですか?」
「いやぁ、湊っちが面白そうだからって言って興味本位でやってみただけなんスよ」
遠坂がそれに続ける。
「で、いざやってみたらこの結果だったわけです。びっくりですよね」
「……柳副会長。遠坂君」
「え、なんスか、綾瀬っち」
綾瀬は柳、遠坂の肩に手を置いて、俯いた後に言った。
「二人とも、付き合っちゃいましょう」
『…………は?』
柳と遠坂は目が点になった。
その発言を聞き、鈴村は思わず綾瀬の頭を少し優しめに叩く。
「こら。人をそういう風にからかうもんじゃないぞ」
「いたっ。乙女の頭を叩くとは何事か! この『相性占い』ってすごいんだよ! めちゃくちゃ当たるんだよ!」
「はいはい。こういうのは大体、どんな過程があってもランダムに結果を出すだけなんだよ。だからあまりこういうのの結果は信じないほうがいいぞ」
「鈴村君って、夢ないよね」
「失礼な物言いだな!」
鈴村は綾瀬にツッコミを入れた。
と、同時に再び、『相性占い』から占いの結果が聞こえてくる。
『相性めちゃくちゃピッタリ! 百点満点! あなたたちは素晴らしいカップルです! 結婚したらとても幸せな家庭を築くでしょう!』
結果は、柳、遠坂と同じものであった。
「……あれ本当にランダムなの?」
「さあ? ランダムなら連続で同じのが二回出てもおかしくないと思うけど」
綾瀬は鈴村に問うが、鈴村はゲームの理論で答えた。
「でも誰なんだろうね、相性めちゃくちゃピッタリなのって。他にもいたのかな」
出てきた二人を確認すると、そこには見覚えのある二人が立っていた。
飯田と宮田であった。
「い、飯田会長と、宮田先輩じゃん……」
鈴村は驚いた。
綾瀬はその様子を見て目を輝かせた。
「やっぱりあの二人は理想の二人なんだ……! 誰もが羨む完璧なカップル! 私もああいう風になりたいなぁー」
綾瀬はそう言いながら鈴村をチラチラと見ていた。
「……そうなりたいならもっと努力しないとだな。お互いに」
「うん!」
綾瀬は笑顔で答える。
(……いいなぁ、私もそうなりたい……)
そんな中、琴原と木下は同じことを考えていた。
琴原と木下は目を合わせ、少し頷いて鈴村に提案する。
「鈴村君。もう一度あれ、やりましょう」
「えっ!? またやるんですか!? 同じこと繰り返すだけですよ!?」
「徹、最高ランクの占い結果を出すまであれやろ。これじゃ私不満しか残らないから」
「え、咲良まで!? ちょ、綾瀬、何とか言ってやれよ! お前の許可ないとそもそもできないんじゃないのかよ!」
鈴村は琴原と木下に背中を押されながら綾瀬に言った。
が、綾瀬は思わぬ返答をした。
「ま、いいんじゃない? みどり先輩と咲良さんが満足いくまで付き合ってあげなよ」
「…………なんだそりゃ……」
こうして、鈴村は琴原、木下との『相性占い』ループが始まった。
*
『やったー! 最高ランクゲットー!』
「……やっと終わった……」
時刻は夕方五時前。
琴原と木下は結局この時間まで『相性占い』を鈴村とループし、なんとか最高ランクの占い結果を得ることに成功。
これに二人は大満足であったが、同時にこの占いの結果がただのランダムであることが証明されてしまった。
綾瀬が疲れた顔をする鈴村の隣に寄り添う。
「お疲れ様、鈴村君。……やっぱりあれ、ランダムで結果出してるだけだったね」
「だから言ったじゃん……。まあ二人が満足そうならそれはそれでいいんだけどさ……」
鈴村は両手を繋いでぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ二人を見ながら言った。
「それもそうだね。……でも、私たちの相性が本当にいいかって、実際気にならない?」
「……うん、まあそれは正直気になる」
「じゃあ、確認してみようよ」
「どうやって?」
鈴村がそう言うと、綾瀬は柳を連れてきた。
「ほい。では柳副会長、お願いします」
「……いきなり連れてきてうちは何をお願いされてるんスか」
「何も説明しないで連れてきたのかよ……」
鈴村は頭を抱えた。
綾瀬は申し訳なさそうな顔を柳にした後、連れてきた目的を言う。
「柳副会長の『未来予知』で、私たちが本当に相性がいいかどうかを見てほしいんですよ」
「うちの『未来予知』は占いじゃないってわかってるッスよね? お二人の相性がピッタリかどうかなんてわからないッスよ」
「まあはっきりはわからないと思いますけど……。ほら、高校卒業後にどうしてるかとか、その先の未来でもお互いは一緒にいるかとか、そういうので相性が良かったかどうかくらいはわかるんじゃないですか?」
「簡単に言うッスけどねぇ……。蒼碧祭の時にも言ったッスけど、『未来予知』ってかなーーーーり体力使うんスよ……。ただでさえ遊び疲れてるんで、それはまた今度でもいいッスか」
柳は気だるそうに言う。
「……まあ、それもそうですね。柳副会長には負担かけちゃいそうですし、今はやめておきます」
「お、珍しく綾瀬が引き下がった」
「だって確かに体力使うのは知ってるし、ここで私がわがまま言って柳副会長倒れちゃったら大問題じゃん。だから、また別の機会にってことで」
「結局やることに変わりはないんスね……」
「はい! 柳副会長の『未来予知』は絶対に当たるので!」
綾瀬の期待を持った眼差しを見て、柳は少し呆れ顔でいた。
そんな様子を見た鈴村が、柳に声をかける。
「柳副会長、無理に付き合わなくていいですよ……。やっても綾瀬が喜ぶだけで柳副会長に負担がかかりまくります」
「いいんスよ。恋する乙女のお願いなんスから、少しは応えてあげないと」
「……柳副会長が大丈夫ならいいですけど、無理はしないでくださいね」
「鈴村っちは誰にでも優しいッスね。それだからいろんな女の子が寄ってくるんじゃないッスか?」
「困ってる人は助けなさいという父からの教えですよ……。俺の性格でもあるんでしょうけど、狙ってやってるわけじゃないってことは理解してほしいです」
鈴村の言葉に柳は笑いながら言った。
「鈴村っちの家族はいい家族ッスね。全人類見習ってほしいもんス」
「そんな大それたものでもないですけどね」
鈴村は頭を掻きながら言った。
そこに、桜庭含めた生徒会メンバー全員が合流する。
「あら、皆さんここにいらしたのですね。もう時間も五時を過ぎてしまいました。この遊園地は閉演時間です」
「え、ってことは……」
「はい。今回の『親睦会』はこれにて終了となります。皆さん、二日間お疲れさまでした」
そう言って、桜庭は参加者全員に向かって深々とお礼をした。
桜庭は体を起こして言う。
「今回の『親睦会』、皆さんは頼んでいただけましたでしょうか」
「……少なくとも一日目の私物化がなければ楽しめましたね」
綾瀬は桜庭に苦言を呈す。
桜庭は綾瀬の言葉に対し再度頭を下げて言う。
「それに関しては申し訳ありません。ですが、一日目があったからこそ、鈴村君は綾瀬さんを、飯田さんは詩織さんを独占することに成功しました。これは双方にとってはとても良い結果になったかと思いますが、いかがですか?」
「結果的にはそれでよくなりましたけど……。なんかもっとやり方あるような気がしてて……」
「……実はですね」
桜庭は少し俯いて言う。
「私も、柳さんも、飯田さんも、今年で高校生活を終えることになります。来年からは大学生です。最後に楽しい思い出を作りたいという気持ちもあって、この『親睦会』を開催しました。その一部を私物化してしまったことは再度謝りますが、皆さんの中にこれが『いい思い出』として残っていただけていれば、私は嬉しいですわ」
桜庭、柳、飯田はそれぞれ三年生である。
来年の春には卒業してしまい、それぞれの学園に来ることはほぼない。
桜庭は蒼碧祭の開催が決まった時から、この『親睦会』の開催を考えていたのである。
桜庭がその一部を私物化してしまったのは単に桜庭の身勝手な行動であるが、しかしその本質は「皆に良い思い出を作ってほしい」という思いからくるものであった。
飯田が桜庭の言葉に対して言う。
「ま、色々ありましたけど、俺らは楽しかったですよ。この親睦会。俺らが卒業した後も、ぜひ双方の生徒会メンバーで定期的に開催してほしいですね」
「飯田さんからそう言っていただけて嬉しいですわ。今度、綾瀬理事長にもかけあってみますね」
「はい。その時はよろしくお願いします」
そう言って、飯田は頭を下げた。
「では! これを持って緑ヶ丘学園生徒会、青海学園生徒会の『親睦会』を終わりにします! 現地解散のため、皆さんお荷物を係りの者から受け取ってお帰りください。この度はご参加くださり、ありがとうございました」
その桜庭の言葉に、青海学園生徒会メンバー全員が緑ヶ丘学園生徒会に向けて頭を下げた。
飯田が代表して言う。
「こちらこそありがとうございました。お互いが良い関係でいれるよう、これからも親睦を深めていきましょう。今後ともよろしくお願いします」
その言葉に桜庭は微笑んだ。
こうして、緑ヶ丘学園生徒会、青海学園生徒会の『親睦会』は幕を閉じた。
*
親睦会が終わった帰り道。
柳は遠坂と二人で自宅に向かっていた。
「いやー、楽しかったッスねー、親睦会」
「ですね。桜庭会長のあの作戦を聞いた時はどうなるかと思いましたが、結果的に丸く収まってよかったです」
「うちもッスよ……。みやびっちのあれを聞いた時はハラハラしたッス」
「柳副会長は、その話を聞いて『未来予知』しなかったんですか?」
遠坂のその言葉に、柳は少し間を空けて言った。
「……しなかったッスよ。しちゃったら、みやびっちを侮辱するような感じがして、やらなかったッス」
「……それが正解です」
柳は敢えて、桜庭が考えた作戦がどうなるかを『未来予知』しなかった。
結果が良ければそれはそれでいいが、もし悪い結果になっていた場合、柳は桜庭に対してどう接すれば良いかわからなかったからである。
これは木下に対しても同じであった。
柳にとって、生徒会メンバーは友達も同然であった。だからこそ、自分の気持ちがブレないように敢えて『未来予知』はしなかったのである。
一方、遠坂は少し悩んでいた。
(……俺にはいつ彼女ができるんだろう)
今回の親睦会の件で、鈴村、飯田がほぼ同じ状況下にあることを目の当たりにした。鈴村は三人、飯田は二人の女性から同時に好意を持たれており、その答えを出すという鈴村と飯田の立たされている状況が、遠坂にとっては羨ましかった。
遠坂自体、特段モテないわけでもなく、好きな女性がいないわけでもなく、また、告白されたことがないわけでもない。交際経験はしっかりとあった。
しかし、それは長続きしなかった。
彼女ができたかと思えば、数か月後には別れる。また彼女ができたかと思えば、また数か月後に別れるというものを繰り返していた。
だからこそ、青海学園に入学してからは本当の恋愛をしようと決心していた。
しかしながら、そう簡単に運命の相手など見つかりはしない。
人生はそう甘くないと、遠坂は思っていた。
「……そうだ、湊っち。うちから湊っちにお願いがあるっす」
「……え? あ、はい、何です?」
考え事をしていたところを話しかけられた遠坂は、少し間を空けてしまったが柳に返答した。
柳は立ち止まり、遠坂に向かって真剣な顔で言った。
「うちと……、許嫁になってほしいッス」
「…………は?」
遠坂に、突然の春が訪れた。




