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鈴村くんは間違えない  作者: シア
第3章 『親睦会』

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第35話 後悔はない

 青海おうみ学園生徒会長、桜庭さくらばみやび主催の『親睦会』一日目が終わり、青海学園生徒会、緑ヶ丘学園生徒会のメンバーは宿泊先のホテルに到着していた。


「わー、結構豪華ですね! 遊園地からもそれほど離れてないですし、とってもいい場所ですね!」


 緑ヶ丘学園生徒会書記、綾瀬凛あやせりんはそのホテルの内装に目を輝かせていた。


 桜庭がその様子を見て笑顔になりながら言う。


「こちらのホテルは、先ほどまでいた遊園地直営のホテルの中でも一番人気のあるホテルですわ」


「え、ってことは宿泊料もそれなりにするんじゃ……」


 緑ヶ丘学園生徒会長補佐、鈴村徹すずむらとおるが桜庭に問う。


「正直なところ、そう軽い気持ちで宿泊できる場所ではないですねぇ……。一番安くてもお一人十五万はしたと記憶しています」


『じゅ、十五万!?』


 自分の頬に手を当てながら話す桜庭に、綾瀬、鈴村は驚きの声を揃えて言った。


 緑ヶ丘学園生徒会長、飯田勝翔いいだしょうとはその額に驚きならがも、感謝の気持ちを述べた。


「そんな素晴らしいホテルに泊まれるなんて光栄です、桜庭さん。ありがとうございます」


「いえいえ、お気になさらず。お金のことを気にされているのでしたら、微々たるものですのでご心配には及びませんわ」


(微々たるものなんだ……)


 この場にいるメンバー全員が、桜庭が本当にお嬢様なんだと実感した。


 桜庭はそのまま続ける。


「それに、これは『親睦会』。元より緑ヶ丘学園、青海学園の双方の未来を見据えて開催されたものですわ。そんなことでケチケチしてたら、印象悪くなると思いません?」


「随分メタいこと言うんですね……。まあ確かにそうですけど」


 飯田は桜庭の思い切った発言の困惑していたが、桜庭の意見には同意した。


 桜庭は、「さて!」と両手を合わせて言う。


「皆さん今日はお疲れでしょう。宿泊しているお部屋は既に取ってあるので、皆さんは先ほど渡したルームキーでお休みください」


「……え、でも二つしかないですよ?」


 鈴村は言う。


 桜庭はこのホテルに到着したと同時に、綾瀬に一つ、鈴村に一つのルームキーを手渡した。


 つまり、このホテルで宿泊する部屋は二つしかないことになる。


「ええ、そうですわ。これは『親睦会』。緑ヶ丘学園、青海学園の生徒会メンバーが混じって親睦を深めるのもそうですが……。……男子、女子での親睦を深めるのも大事なんですよ」


「……それってつまり」


 綾瀬と青海学園生徒会副会長、柳美奈やなぎみなは声を揃えて言う。




『女子会ってことです(ッス)ね!』




 二人はとても嬉しそうな顔をしていた。


 桜庭は「ふふふっ♪」と笑いながら続けた。


「その通りです。今回は男子メンバー三名、女子メンバー六名の二つに分かれて泊っていただきます。もちろん、お互いのお部屋に行くことは可能ですが、『よからぬこと』をするのはご法度はっとですので、悪しからず」


 桜庭はそう言いながら緑ヶ丘学園生徒会副会長、宮田詩織みやたしおりの顔を見た。


 宮田は桜庭の視線を感じて慌てて言った。


「な、何ですか桜庭さん。私の顔に何かついているかしら」


「いいえ? ただ、詩織さんのことですもの。何か企みそうだなぁって思っただけですわ」


「何か企んでるのは桜庭さんのほうではないかしら」


「あら、そう思われますか。……ふふっ、詩織さんもやはりガードが堅いですのね」


「当たり前です。あんなことがあって、おいそれと桜庭さんを放置なんかできません」


 宮田と桜庭は睨みあっていた。


 飯田は「まあまあ」と二人を宥めながら言った。


「よし、皆も疲れただろ。今日はそれぞれ部屋に戻って休憩だ。桜庭さんの話によれば、夕飯はビュッフェらしいから、その時間になったらレストランに集合としよう」


「びゅ、ビュッフェ……!? やったー!」


 そんな中、緑ヶ丘学園生徒会会計、琴原ことはらみどりは両手を高く上げ、ぴょんぴょんと跳ねながら喜んでいた。


「私お腹空いてたんです! やったー! いっぱい食べられるー!」


 その様子はさながら小動物が喜ぶ姿であった。


「……ことちゃんって、なんだかでたくなるッスね」


「確かにそうですね……。うちの学園でもみどり先輩のことを小動物を愛でるように頭を撫でたりしているところをたまに見るので、そういう印象強いかもしれないです」


 柳の発言に綾瀬が答えた。


「それでは、荷物は係りの者から受け取ってください。またお夕食の時間の時にお会いしましょう」


『はーい』


 桜庭の言葉に全員揃えて返事をし、それぞれ宿泊する部屋に向かった。




               ~~男子視点~~




「……三人で泊まるのにこの広さかよ」


 飯田は、案内された部屋に入るなり驚きの顔を見せた。


 青海学園生徒会会計、遠坂湊とおさかみなとがその飯田の顔を見て言う。


「桜庭会長、今回の親睦会にかなり張り切ってましたからね。『値段は気にしなくていいから、皆さんに満足いただけるお部屋を用意してくださいな』と言われたときは苦笑いしましたよ」


 遠坂は視線は上の空であった。


「そっか、そういえば遠坂君って生徒会会計やってるんだっけ」


「はい、そうです。青海学園の行事関係、部活動や委員会の経費なんかは、俺が管理して決めてますね」


「うちの琴原も会計なんだが、遠坂はどことなく琴原よりも優秀そうに見えるな」


「そうですか? 緑ヶ丘学園生徒会長さんからそう言っていただけて光栄です」


 遠坂は笑顔で飯田に応じた。


「会計の仕事って実際どうなの? 大変じゃない?」


 鈴村は遠坂に問う。


 鈴村も琴原が会計の仕事をしている場面に遭遇したことはあるが、琴原はパソコンが得意且つデータ処理も苦手なほうではなかったので、鈴村からすれば琴原が苦労しているようには見えなかった。


 だからこそ、飯田の言葉には引っかかるものがあった。


「そんなんでもないよ。必要なデータを入れればすぐに計算して予算案出してくれるプログラムを作ったから、それで仕事してる感じ。皆その肝心の『データ』を紙で渡してくるから、パソコンに取り込むのが一番大変なんだよね……」


「あー、ははは。遠坂君ってすごいんだね」


「? これくらい普通じゃない?」


「いや……、うん、少なくとも俺の中では普通ではないかな」


 鈴村は遠坂のITに関するスキルの強さに圧巻されていた。


 飯田は笑いながら遠坂に言う。


「はっはっは! そんなプログラムあるならうちにも分けてほしいもんだ。琴原のやつ、全部手打ちでデータ入れてて、表計算アプリで頑張って作業してるんだぜ。たまに俺と詩織で手伝ったりものするな」


「あ、では今度そのプログラムお渡ししますよ。確実に作業効率上がるはずです」


「ほんとか? サンキュー、助かるよ」


 遠坂は、「では連絡先を……」と言いながらスマホを取り出し、飯田と連絡先を交換した。


 遠坂は飯田の連絡先が登録できたことを確認し、鈴村、飯田に向かい合って話す。


「鈴村くん、飯田生徒会長。お話があります」


「え、何? 急に改まって」


 真剣な面持ちで話し始める遠坂を見て、飯田は驚く顔をした。


「今回の『親睦会』の真の目的は、もうご存じですよね」


「……真の目的? ……あー、なるほど。そういうことね」


 飯田は少し考え、すぐにその質問の意味を理解した。


 鈴村もそれは同じであった。


 飯田はベッドに横たわりながら言う。


「こっちはこっちで大変だったよ。桜庭さんは異常なまでに俺にスキンシップしてくるし、二人きりになろうとするし。完全に詩織から俺を引き離そうと必死だったな」


「それに対して何か心が揺れ動くことはありました?」


「……なんでそんなこと聞くんだよ」


「いえ、興味本位です」


「興味本位でそんなこと聞くかね普通……」


 飯田は呆れ顔をしていた。


「……ま、正直なところ、揺れ動くことはなかったかな」


 飯田のその言葉を聞き、遠坂は思わず目を見開いた。


(……なるほど、それほど飯田生徒会長の中では意思が固まっていた、ってことか)


 遠坂はそう考えた。


「桜庭さんのあの行動が、何からくるものなのかは大体予想ついてたよ。桜庭さん、俺の事好きだったんだろ?」


 飯田は遠坂に向かって言った。


「……はい。蒼碧祭の会議でお初めてお会いした時に一目惚れをした、と聞いてます」


「だよなぁ……。そうでもなきゃあんだけしつこくひっついてくることないしな」


「でも、桜庭会長に対して特に思うことはなかったんですね」


「ああ、ないよ。俺は詩織一筋だからな」


「…………そうですか」


 遠坂は桜庭のことを案じていた。


 結果は既に柳から聞いているのでどんなことがあったかも知っていたが、飯田から改めて聞くとその現実味はさらに増していった。


「なんだよその反応。お前は桜庭さんを応援してたのか?」


「……まあ、曲がりなりにもうちの生徒会長なので。応援したくなる気持ちはありますよ」


「はははっ、ま、そんなことがあってもなくても、俺は詩織から離れることなんてないから、何をされても無意味だけどな」


 飯田は笑いながら言った。


「……一途なんですね」


「そりゃそうだ。たちばなの件聞いただろ?」


「はい、聞いてます」


 飯田は少し間を空けて、自分の思いを口にした。




「あんなことがあって改めて思ったんだよ。俺がしっかりと詩織を守らなきゃいけないって。この先何があっても、どんなに高い壁があったとしても、俺の力で詩織を支えて、その壁を乗り越えようって決めたんだ。だから、桜庭さんにどんなことをされようとも、俺の気持ちが動くことはないんだよ」




「……そのお心、とても素晴らしく思います。飯田生徒会長はとても優しい方なんですね」


「へへっ、そうか?」


 飯田は照れながら言った。


 遠坂はこの話を聞いて完全に桜庭に勝ち目がないことを理解した。


 桜庭自身も、それは理解している。宮田と飯田がキスをしたのをその目で見ているのである。その宮田の気持ちを、桜庭がないがしろにすることはない。


 遠坂は飯田から聞いた話を桜庭に後ほど話すことにし、次は鈴村に目線を向けた。


「で、鈴村くん。結局お化け屋敷は無事に脱出できたんだね。琴原さんと一緒に」


「……えっ、鈴村、お前琴原と二人でお化け屋敷入ったのか……!?」


 飯田は驚く顔を鈴村に見せた。


「まあ、あれは事故というかなんというか……。柳副会長と遠坂君が仕組んだことなので」


「あ、そうなの」


 飯田は安堵する一方、遠坂を少し睨みつけた。


「一応だが説明してもらおうか」


 飯田は遠坂に言う。


「わかってます、説明しますよ。……実は琴原さんの鈴村くんに対する気持ちは柳副会長も理解してました。なので、僕ら二人で琴原さんにチャンスをあげたんですよ」


「チャンス?」


「琴原さんには鈴村くんを諦められない気持ちが残っているように見え、悩んでいるようにも見えました。その気持ちをはっきりさせたいという気持ちが顔に出てましたね」


「……あいつ、そういうところすぐ顔に出るからな……」


 飯田は手を顔に当てて呆れていた。


「……で? その気持ちを整理させるためにわざとお化け屋敷に入れさせたと?」


「まあ、そんなところです。いつまでもそのもやもやを抱えたままでいられても、親睦会に集中できないと思いまして」


「人の恋愛事情に首突っ込んでおきながらよく言うわ……」


 飯田はさらに呆れていた。


「で、鈴村。結局どうなったんだよ」


「……琴原先輩は……」


 鈴村は唇を噛みしめて、お化け屋敷であったことを話した。




「琴原先輩は、まだ俺のことを好きでいてくれてました。それは、『一緒にいると安心できる』という感情にまで発展してました。……してたんですが、俺のことはもう諦めると、そう言われました」




「…………そっか。琴原の中でも決着がついたんだな」


「……はい」


 琴原は鈴村とお化け屋敷に入った際、本当は鈴村に再度アタックをし、自分に意識させようと考えていた。


 しかし、後夜祭で鈴村が綾瀬を選んだこと、お化け屋敷の中で『吊り橋効果』を狙っていたがそれが効果を示さなかったことが琴原の考えを変えることとなった。


 これ以上鈴村に対して何をしても自分に意識を向けさせることはできない、そう考えた琴原は、「鈴村を諦める」という選択を取ったのだった。


 鈴村は琴原に申し訳なさそうな気持ちで言う。


「琴原先輩は後夜祭のあの瞬間からかなり苦しい気持ちを抱えていたと思います。でも、俺は琴原先輩に、綾瀬への気持ちを真正面から伝えました。それを聞いて、琴原先輩はその決断を俺に伝えてくれました」


「なるほどね。……その話は綾瀬も知ってるんだろ?」


「……まあ、お化け屋敷を出た瞬間を綾瀬と咲良さくらに見つかってしまいまして」


「……え?」


「そのままお化け屋敷であったことを全て話すことになりました」


「……えぇ……」


 飯田は困惑した顔で言った。


「……で? 綾瀬はなんて言ったんだ?」


「綾瀬は琴原先輩の気持ちを汲み取ってました。ですが、俺のことは渡さないと。抜け駆けもさせないとも言ってました」


「まあそりゃそうだよなぁ」


 飯田は両手を頭の後ろに持って行き、くつろぎながら言った。


 鈴村はそのまま続けて言う。




「あ、でも、俺を独占したり、キスとかそういうのはダメって言ってましたけど、綾瀬と一緒ならいいって言ってました」




「…………は?」


 飯田に衝撃走る。


 飯田は耳を疑った。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。それ、浮気してもいいって言ってるようなもんだぞ? いくら自分が一緒ならいいとはいえ……」


「まあ、そうなんですけど、綾瀬がいいならいいんじゃないですかね」


「そんな他人事みたいに……。……まさかとは思うけど、綾瀬ってそういう性癖持ってたりする?」


「……? いや、わからないです」


「そうか……」


 飯田は安心していたが、動揺もしており、複雑な感情になっていた。


 その話を聞き、遠坂は思わず笑いだしてしまう。


 その様子に鈴村はムッとした表情になった。


「……なんで笑うんだよ」


「いやいや、なんだか面白くってさ。鈴村くん、やっぱ君は面白い人だ」


「……なんかすごく違和感あるからその言い方やめてほしいんだけど……」


「酷いなぁ。俺はただ羨ましがってるだけだよ。鈴村くんはモテるなって。もちろん、飯田生徒会長もですよ」


 遠坂は飯田にも視線を向けて言った。




「鈴村くんも飯田生徒会長も、二人の女性から好意を持たれ、それぞれその気持ちにどう対応するか考えてました。その結果、最終的に一人の相手を選んでるのはすごいと思います。尊敬に値します」




「なーにを年下が偉そうな口利いてんだよコラ」


 そう言いながら、飯田は遠坂の頭をぐりぐりし始めた。


「痛い痛い痛い! 飯田生徒会長、痛いです! 俺褒めたつもりなんですけど! バカになんて一切してないんですけど!」


「わかってるよ? でもなんか年下に偉そうな態度されたのが癪に障った」


「すみませんってば! 痛いんでやめてください痛い痛い!」


 飯田は容赦がなかった。


 しかし、飯田はそんなことをしながら、内心は安心していた。


「……この親睦会、いろんなことがあったけど、特にトラブルもなく一日目が終わって良かったわ」


 飯田は俯きながら言った。


「後夜祭の後からそれほど期間を空けずにこの親睦会が決まっただろ? 琴原はどんな気持ちなんだろうってずっと考えてたんだよ。……少し残念な結果にはなったが、琴原も覚悟を決められたようでよかった」


「それは飯田会長も同じですよね」


「え、俺も?」


 飯田は自分のことを指さして鈴村に問う。


「飯田会長は桜庭生徒会長にも好意を抱かれてたんですよね。でも、そんな中でも飯田会長は宮田先輩を選ぶと決めた。いくら桜庭生徒会長に言い寄られても、その心が動かず宮田先輩に一途でいられるのはすごいと思います」


「……鈴村、お前なんか勘違いしてないか?」


「え?」


「俺別に、詩織と桜庭さんで迷ってなんかないぞ?」


「……あれ、そうなんですか?」


 鈴村は驚いた顔をした。


「まああれは、なんというか、どちらかというと詩織と桜庭さんが俺を取り合ってた、みたいな感じだな」


「…………なんですかその典型的なモテモテ男子は。俺とは全く立場違うじゃないですか」


「……よくよく考えてみたらそうだな」


 飯田と鈴村は愛想笑いをした。


 それが余程面白かったのか、遠坂はツボにはまってしまったようで大爆笑していた。


「……あのなあ遠坂君。そこまで笑うのは失礼だと思うぞ」


「俺もそう思う」


「す、すみません……。でもなんか、はははははっ!」


 遠坂は笑いが止まらなかった。


 その様子を見て、飯田は頭を抱えた。


「はぁ……。…………あ、そうだ。そろそろ夕飯の時間じゃないか?」


 そう言いながら、飯田は時計を見た。


「あ、そうですね。そろそろレストランに行かないと。……ほら遠坂君。いつまでも笑ってないで行くよ」


「ご、ごめん、すぐ行くから……、はっははははははは!」


『……ダメだこりゃ』


 結局、鈴村と飯田は大爆笑する遠坂を引き連れてレストランに向かった。




               ~~女子視点~~




「さて、それではこれより作戦会議を始めます」


 一方、六名一部屋で集まった女子メンバーは、急遽策戦会議が始まっていた。


「……こんだけ広い部屋を六人で独占できるんスから、うちベッドでゴロゴロしてたいんスけど……」


 女子メンバーは綾瀬を除き、全員窓際に配置された椅子に座っていた。


 柳は気だるそうに座りながら愚痴を述べていた。


「すみませんね柳副会長。これも必要なことなんです。少し我慢してください」


 綾瀬は柳に対し言う。


 それに対し、宮田は呆れ顔で言った。


「綾瀬さん……。みどりの件で以前生徒会室でも同じようなことあったけど、またそれと同じことする気なのかしら……?」


「いいえ、あれとは違いますよ、宮田先輩。私は怒っています」


「怒ってる? なぜ?」


 宮田は綾瀬に疑問を向けた。




「ズバリ、この親睦会が『鈴村君を私から引き離すこと』、そして、『飯田会長を宮田先輩から引き離すこと』が目的だったことに私は腹を立てています」




『申し訳ありませんでした』


 綾瀬の怒りの言葉に、桜庭、木下は土下座をする。


 綾瀬は呆れ顔で言う。


「全く……。『親睦会』って言うから楽しみにしてたのに、真の目的がそれだったなんて信じられないです。本当にこの一日大変だったんですからね」


 綾瀬の言葉に対し、桜庭は申し訳なさそうに答える。


「その件に関しては大変申し訳ありませんでした……。これは私が完全に私物化したことが原因です。皆さまのケアは責任を持って行わせていただきますわ」


 桜庭の言葉に宮田が反応する。


「ええ、ぜひそうしてほしいですね。桜庭さんには()()()()と責任を取ってもらわないと」


「……はい、特に詩織さんの言うことであればなんでも聞く所存ですわ」


 桜庭は宮田に忠誠を誓うように言った。


「……これ、何があったんですか?」


 綾瀬は柳に問う。


「うちは知らないッス。気になるならみやびっちに直接聞けばいいッスよ」


「ぶーっ、いじわるですね」


 嘘をついた柳に、綾瀬は頬を膨らませた。


「それで? 作戦会議って何かしら?」


 宮田は綾瀬に問う。


「はい、今回の作戦会議は、ズバリ、『どこまでを許容範囲とするか』です」


「…………それ、うち抜きでやってくれないッスかね」


「ダメです。第三者からの意見も聞きたいので」


「えぇ……」


 柳は心底嫌そうな顔をした。


 綾瀬は桜庭に視線を向けて言った。


「まず、桜庭生徒会長です。今回、桜庭生徒会長は飯田会長から宮田先輩を引き離そうとしました。これは事実ですね?」


「ええ、そうですわ」


「その後、どういう結末になりましたか?」


「…………そうですね、正直に答えますか」


 桜庭はそう言って、宮田の顔を見ながら言った。




「詩織さんは大勢いるあの遊園地の中で、白昼堂々と飯田さんにキスをしました」




「…………えっ!?」


 綾瀬は思わず耳を疑った。


「そ、それで?」


 綾瀬は作戦会議以前の問題で、『恋バナに興味津々な女の子』としてその話を聞き始めた。


「続きはないですわよ。それで終わりですわ」


「え、終わりなんですか? こう、『私のほうを見てよ!』とか、『私を選んで!』みたいな展開にはならなかったんですか?」


「なんですかその少女漫画みたいな展開」


 桜庭は呆れていた。


「私は詩織さんの度胸あるその行動を見て完敗しましたわ。私にはそんな度胸ありませんもの。私の飯田さんに対する思いは、その程度だったってことですわ」


「……つまり?」


「つまり、私は飯田さんにアタックすることを諦めました。これで詩織さんも心置きなく飯田さんを独占できるという結果になったわけです」


「いえ、心置きなくは嘘になります」


 桜庭の言葉に、宮田が割って入る。


「桜庭さんは()()()()()()()()()()()だけです。さっきも言った通り、飯田君への気持ちは消えていないんですよね?」


「……ええ」


 桜庭は宮田の問いに答えた。


「はぁ……。綾瀬さん。そういうことよ。まだ飯田君に対する危機は消えてないわ。私は引き続き、飯田君が取られないように監視をすることにしたわ」


「ず、随分と複雑な結果になりましたね……」


 綾瀬は少し戸惑った。


 桜庭は綾瀬の言葉に続けた。


「と、いうわけです。……まあ確かに、詩織さんの言う通り飯田さんへの気持ちがなくなったわけではないですが、飯田君は詩織さんにお任せします」


「まるで初めから自分のものだったような物言いですね」


「捉え方は人それぞれですわ。それで捉えられても、まあ仕方ないでしょう」


 桜庭はそう言って席を立って、次は綾瀬に問う。


「それで? 綾瀬さんたちはどうなったんですか?」


「あー、私たちですか? 私たちは……」


 綾瀬はそう言いながら、琴原に視線を向ける。


 琴原は、綾瀬の視線に気づくことなく、自らの口で結果を伝えた。




「私は、鈴村君へのこの気持ちを諦めることにしました」




『…………えっ!?』


 桜庭と宮田はこの琴原の発言に驚きを隠せなかった。


 自分たちが予想もしていなかった結果だったからである。


 慌てながら宮田は琴原に問いただす。


「ちょ、みどり!? 本当にそれでいいの!?」


「いいんです。私が決めたことですから。これは、凛ちゃんも、木下さんも知ってることです」


 琴原は未だ暗い顔をして答えた。


「私が鈴村君を思うこの気持ちは消えないです。もうそれは無理なんです。ですけど、それ以上に、鈴村君はもう私のことをそういう目で見てはくれません。だから、鈴村君のことは諦めます」


「それは、誰かにそう言われたの? 鈴村君に、そう言われたの?」


 宮田はさらに問いただす。


 しかし、琴原は真剣な面持ちで宮田に答えた。


「いえ、これは自分で決めたことです。この決断に、私は後悔していません。……叶えたい気持ちもありましたけど、鈴村君と凛ちゃんにはもう敵わないんだって、もうわかっちゃったんですよ」


 琴原は涙交じりになりながら笑顔で言った。


 その表情を見て宮田は心配したが、琴原の覚悟を汲み取って同情の言葉をかけるのをやめた。


「……みどりがそう決めたなら、それでいいと思うわ。……頑張ったわね、みどり」


「し、詩織……」


 そのまま宮田は、琴原を優しく抱きしめた。


 綾瀬はその様子を見て、結果をまとめた。


「と、いうわけです。……みどり先輩には申し訳ないですが、私は無事に鈴村君を死守することに成功しました」


「でも、綾瀬っち。これで二つの結果がわかったんだから、話はこれで終わりじゃないッスか? 作戦って、なんの作戦をするんスか?」


 綾瀬は柳のその言葉に答える。




「結果はこうなりましたが、私も鬼じゃないです。琴原先輩が鈴村君に対する気持ちをそう簡単に捨てきれないのはわかってます。なので、私が一緒であれば、どこかに行ったり、キスしたり、そういうこともしてほしいと言いました。今回は、その許容範囲をどこまでにすればいいかを決めたく思ってます」




「…………え?」


 桜庭は耳を疑った。


「ちょ、綾瀬さん。それってみどりに浮気してもいいって言ってるようなものじゃ……」


「……なんかこのやり取り前にもやった気がするな」


 綾瀬はポリポリと顔を掻きながら言った。


 宮田は綾瀬の発言に戸惑いながらも、綾瀬に言う。


「あ、綾瀬さん。それは本当に、綾瀬さんとみどりの問題なので、二人で話してもらっていいかしら。私たちが出る幕はないわ」


「いえ、あります」


「なんで!?」


 宮田は思わずツッコミを入れてしまった。


「その、私もそう言ってしまったので、琴原先輩の行動は私がいる場所であれば許そうと思ってるんですけど、その、……、どこまでを『良し』と判断していいか、自分でもわからなくて……。その意見を皆さんからいただきたく……」


「…………はぁ」


 宮田は呆れ顔で溜息をついた。


 宮田は真剣な面持ちで綾瀬に言う。




「綾瀬さん。確かにそれに関しては、第三者からの意見を聞くのも大事だと思うわ。でも、それを決めるのは綾瀬さんとみどりの二人の問題よ。まずは、二人でしっかり話し合うことが大事だと思うわ」




「み、宮田先輩……」


 しかしながら、宮田の言うことは正しかった。


 綾瀬の言う『許容範囲』がどこまでなのかは本人もわかっていない状態であった。


 しかし、それは第三者を巻き込んで、意見を出してもらって決めることではない。


 この問題は綾瀬と琴原の問題である。しっかりと、綾瀬と琴原の二人で話し合って決めることが賢明であると宮田は提案した。


 宮田の言葉を聞き、琴原が口を開く。


「……確かにそうですね。詩織の言う通りです。これは凛ちゃんと私の問題です。まずは私たちでしっかりと話し合わないとダメだと思います」


「みどり先輩……」


「そもそもの話、これは凛ちゃんが私にくれたチャンスです。私がとやかく言える立場ではないと思いますが、私はそのチャンスを活かしたいです。凛ちゃん。また機会を改めて、二人でゆっくり話し合いましょう」


「…………そうですね。そのほうがいいかもしれません。皆さん、貴重な時間を奪ってしまってすみません」


 綾瀬はそう言って、全員に頭を下げた。


「後悔のないような選択をしてくださいね。綾瀬さん」


 桜庭は綾瀬に言う。


「はい。みどり先輩としっかり話し合って決めることにします。今回はすみませんでした」


 綾瀬は再度桜庭に頭を下げた。


 ふと、柳は時計を見て慌てる。


「あっ! まずいッス! もうそろそろご飯の時間ッスよ! 皆準備してくださいッス! 予約してるレストラン、時間すぎるとキャンセル扱いされちゃうんスよ!」


『えっ』


 その柳の言葉に、女子メンバーは慌てて身支度をし、男子メンバーと合流。無事に楽しい夕飯の時間を過ごすことができた。




 こうしていろいろな気持ちが錯綜する中、それぞれの気持ちに決着がついた波乱の『親睦会』一日目が終了し、二日目を迎えることとなった。

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