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鈴村くんは間違えない  作者: シア
第3章 『親睦会』

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第34話 「気持ち」との別れ

「……うっわぁ、めっちゃ暗い……。これ懐中電灯で照らしたら急に脅かしてくるタイプのやつ絶対来るよなぁ……」


 懐中電灯で暗闇を照らしながら、鈴村すずむら琴原ことはらと共に歩を進めた。


 桜庭さくらば主催の緑ヶ丘学園生徒会、青海学園生徒会の『親睦会』も半ばとなった頃、鈴村は別のグループであった琴原と突如お化け屋敷に二人きりで入ることになった。


 琴原は鈴村と二人きりになることを望んでいたが、班決めで別のグループになってしまったためそれは叶わなかった。


 しかし、琴原は同じ班のやなぎ遠坂とおさかのおかげと、偶然も重なり無事に鈴村と二人きりになるタイミングを得た。


「琴原先輩、ちゃんとついてこれてます?」


「は、はい、大丈夫です」


 琴原は鈴村の問いに答える。


(……ま、俺の腕にしがみついてる時点で俺と離れることはないか)


 琴原はお化け屋敷に入り始めたときには怖くて歩けていなかったが、鈴村が手を差し伸べたことで片手を手に、もう片方の手を鈴村の袖の端を掴んでいた。


 しかし、そのまま琴原は鈴村の腕にしがみついていた。


 これは怖さ故か、それとも琴原なりの鈴村のアタックなのか。この行動を取った理由は、鈴村にはわからないでいた。


「とりあえず進みますね。絶対に話さないでくださいねその手。絶対にはぐれるんで」


「わ、わかってます……。懐中電灯それしかないんですよね……。中で撮影とか始める人もいるとかでスマホも入口で没収されちゃいましたし、それがなくなったら失神して倒れる自信あります」


「……そうならないように頑張って出ましょうね」


 思っていた以上にお化け屋敷の中は暗く、懐中電灯なしではまともに歩くことすらできなかった。


 最悪、出られなくなった場合はスタッフに助けを求めれば助けてくれるであろうが、この状況下で助けを求めることが琴原にはできないであろうと鈴村は考えていた。泣きながらその場に座り、延々と誰かが助けに来るのを待っている姿が容易に想像できたからである。


 鈴村と琴原は途中お化けに見せかけたスタッフに遭遇するが、「ぎゃあああああ!!!」「きゃあああああああ!!!」と遭遇するたびに二人で叫ぶを繰り返し、二人の喉がガラガラになるほどになっていた。


 お化け屋敷に入ってから全体の三分の一の地点まで来た頃、ようやく休憩ポイントらしき部屋を発見する。


「あ、見てください、琴原先輩。休憩ポイントですって。こんなのがお化け屋敷にあるなんて親切ですね」


「ほんとですね……。もう私叫びすぎて喉ガラガラです……。もう脅かさないでほしいです……」


 それはお化け屋敷側からすれば無理なお願いであった。


 鈴村たちが到着した「休憩ポイント」は、雰囲気こそお化け屋敷の中ではあるが、しっかりと壁に『お疲れの方でこの先も進まれる方はここでお休みください。リタイアされる方は、こちらのリタイア扉から退出してください』という張り紙がされているセーフティーゾーンであった。


 鈴村と琴原はこの張り紙を見て一安心し、その場にあった椅子に座って休憩をした。


「しかし随分歩きましたね……。これでもまだ全長の三分の一って、さすがは世界最長を謳ってるだけありますね」


 鈴村は未だビビりながらも、その名に恥じない内容のお化け屋敷であることに感銘を受けていた。


 一方琴原は心配そうな顔をしていた。


(……本当に『吊り橋効果』なんてあるんでしょうか……。思い切って鈴村君の腕にしがみついて、その、お、お胸を押し付けたりしてアピールしましたが……。鈴村君自身も怖がっているのでこっちに意識がいってないような気が……)


 琴原は自分が考えていた『吊り橋効果』が本当に発揮できているのかを心配していた。


 本来、『吊り橋効果』とは恐怖等に対するドキドキを一緒にいる相手に対する好意だと誤認することで成り立つものである。鈴村はお化け屋敷が苦手なため、このお化け屋敷に対する「ドキドキ」はあるものと推測できた。


 しかしながら、それがありつつも鈴村からかけられる声は、琴原に対する心配の声ばかりである。


 鈴村が琴原を安全に、何事もなくここから脱出させてあげようという気持ちが、だんだんと琴原に伝わってきていた。


(……作戦、失敗ですかね)


 既に『吊り橋効果』の効果がないことは明白であった。その効果が発揮されているのであれば、今もなお琴原に対し鈴村が「お水飲みます?」などと言うわけがないからである。


 鈴村からすればこの二人きりになってしまったのは事故であり、且つ自分も怖いが琴原も怖がっているため、安全に脱出させてあげることが最優先だと考えていた。


 その心の中に、琴原が抱く思いは伝わっていなかったのである。


(やっぱり、何やってもダメなんでしょうかね。……せっかく柳副会長たちにこんなチャンスもらったのに)


 琴原は半ば諦めていた。


 鈴村のこの反応である。既に心に決めた相手もいる。琴原は、何をしても自分のことを意識してくれないと、自分に好意をまた抱いてくれないと思い始めていた。


(でも……、それで本当にいいんでしょうか)


 しかしながら、琴原は鈴村に好意を抱いたままである。


 諦めるに諦められないこの気持ちを、琴原はどうにかして処理したいと考えた。


(どうせダメなのはわかってます。……でも、このままもやもやしたままでいいわけ、ないんですよ)


 そう考えたのも束の間、鈴村は椅子から立ち上がった。


「琴原先輩、休憩はもう大丈夫ですか? あまり長居しても皆に迷惑ですし、琴原先輩の心の準備ができたら進みましょう」


「…………はい、もう大丈夫です。行きましょうか」


 そう言って琴原は立ち上がり、再び鈴村の腕にしがみついた。


「……やっぱりそれはやめないんですね」


「やめないです。怖いですから」


 これは琴原の本心であった。怖いものは怖いのである。




                  *




「やっと三分の二……」


 鈴村と琴原は二つ目の休憩ポイントに辿り着いた。


 ここにも一つ目の休憩ポイント同様の張り紙がされていた。


「三分の一ずつの場所に休憩ポイントがあるってことは、ここが休憩できる最後の場所ですね。ここからは出口まで休憩できないですけど、琴原先輩、大丈夫ですか?」


「あ、はい、大丈夫です。私は鈴村君さえいればなんでもできるので」


「えっ、それってどういう意味ですか?」


「あっ」


 琴原は思わずぽろっと本音が口に出てしまった。


 これは鈴村に抱く『好意』ではない。鈴村に対する『安心感』であった。


 そう。琴原の中では、鈴村は『隣にいて当たり前の存在』になっていた。


 恋をした人間はその思いを勇気を出して相手に伝え、相手がそれをOKすることで初めてカップルという関係が成立する。


 初めのうちは一緒にいる時間が新鮮で、全ての時間がドキドキし、甘酸っぱい気分になる。しかし、それを繰り返したある日、その甘酸っぱい気分がなくなり始める。


 それは時に「マンネリ化」とも言うが、逆の意味を持つ場合にも成り代わる。


 それが、無意識のうちに『隣にいて当たり前の安心できる存在』という気持ちに成り代わる場合である。


 この気持ちの変化は、相手に対する『好意』の気持ちがさらに進化した状態を意味する。


 琴原の中で鈴村に対する気持ちは、『好き』以上の気持ちになっていた。


 琴原は思わず口に出てしまった本音を誤魔化すように言った。


「い、いえ、すみません。なんでもないです。鈴村君は頼りがいがあるので、一緒にいてくれればなんでもできるなって、そう思っただけですよ」


「……? そうですか。そう言ってくれるとなんだか嬉しいです」


 鈴村は照れながら琴原に答えた。


(……そういう反応もしてくれるんですね)


 琴原は嬉しそうな顔をした。


(そうかぁ……。私の中では鈴村君は『一緒にいて当たり前の存在』なんですね)


 琴原は鈴村に抱く気持ちが変化したことを自覚した。


 しかし、これは逆に自分へ多大なるダメージを与える武器になることを琴原は理解していた。


 自分にとって『安心できる存在』という人間が現れるのは素晴らしいことである。人間誰しも人間関係に距離感を置き、次第にそれが近づいていきやがて親しい関係となる。


 この『安心できる存在』という認識はその先にあるものであるが、琴原の場合、この気持ちの変化は自分への武器になった。


(……凛ちゃんがいる以上、鈴村君はこれ以降、私とは一緒に、二人きりで何かをすることは、ないんでしょうね)


 あくまでこの場が設けられたのは事故である。


 その事故によりたまたま琴原は鈴村と二人きりになれる時間を手にしたが、これももうすぐ終わる。


 鈴村には綾瀬凛あやせりんという心に決めた相手がおり、ここから出たら綾瀬と行動を共にすることは明白であった。


 琴原の、『安心できる時間』は終わりを迎えようとしているのである。


 その事実を理解した瞬間、琴原の目からはぽろぽろと涙が零れていた。


「えっ、ちょ、大丈夫ですか!? そんなに怖かったですか!?」


 その様子を見た鈴村は驚いていた。泣いている理由も、お化け屋敷が怖かったら、と誤認していた。


 鈴村のその反応を見て、琴原は「ふふふっ」と笑った。


「え、今度は笑った。……大丈夫ですか? もしかして幽霊に憑りつかれました?」


 その言葉に、琴原は我慢できず大笑いしてしまう。


「はははっ! 鈴村君、それはちょっと先輩に対して失礼じゃないですか?」


「あ、ごめんなさい……。そんなつもりじゃなかったんですよ……」


「ふふっ、わかってますよ」


 琴原は涙を拭いながら言った。


「……琴原先輩がそんなに楽しそうに笑ってるの、初めて見た気がします」


「そうですか? 納涼祭の時とか、蒼碧祭のあの事件が起きる前とか、ちゃんと笑ってたと思うんですけどね」


「違うんです。確かに笑顔は見ましたけど、琴原先輩の本当の笑顔を見たのが、なんだか初めてだなーって」


「…………え?」


 この言葉は、鈴村が琴原のことをしっかり見ていることを意味していた。


 後夜祭の日、鈴村は綾瀬、琴原の二人どちらと付き合うかをはっきりさせ、綾瀬と付き合うことを選んだ。


 この時点で、琴原は鈴村が自分に対して意識がないと認識した。


 しかし、実際にはそうではなかった。


 鈴村は綾瀬を選びながらも、しっかりと琴原のことを見ていた。


 それは鈴村の罪悪感からくるものだと琴原は考えたが、それでも琴原は嬉しかった。


「あれ、もしかして違いました?」


「……いいえ。私もあまり意識したことないのでよくわからないですが、たぶんですけど、鈴村君の言ってることは正しいと思います」


 琴原は笑顔で言った。


 そして、琴原は自分の気持ちに正直になって言った。


「……鈴村君。私の本当の気持ち、今ここで言ってもいいですか?」


「え、ここでですか? ……お化け屋敷の中ですよ? 別に外に出ても聞きますけど……」


 しかし、琴原は既に決心がついていた。




 この場で、鈴村を諦めるということを。




「いえ、ここじゃないと、今じゃないとダメなんです。今ここで伝えないと……、このままこの気持ちを、未来永劫ずっと引きずることになると思います」


 琴原は真剣な面持ちで鈴村に言った。


「……わかりました。教えてください。琴原先輩の今の気持ち」


「……はい」


 そう言うと、琴原は立ち上がり、鈴村に向かい合って自分の気持ちを告げた。




「鈴村君。鈴村君は私の人生を大きく変えてくれた人です。杏里ちゃんとのあの件、そして、鈴村君が生徒会に入ってくれてから納涼祭、蒼碧祭を経て、私の人生は大きく変わりました。とても感謝しています。ありがとうございます」




 琴原はそのまま続ける。




「後夜祭のあの日、凛ちゃんに負けてしまったのはとてもショックでした。そんな中でも、鈴村君には一部でもいいから私のことを思っていてほしい。そんな気持ちでいっぱいでした。だからこそ、この親睦会でも、私のことを忘れないでくれるにはどうすればいいか、ずっと考えてました」




「………………」


 鈴村は特に返事をせず、琴原の言葉に真摯に向き合った。




「私は鈴村君のことが好きでした。大好きでした。でもいつからか、この気持ちは『好き』から、『一緒にいて当たり前の人』、『一緒にいて安心できる人』に成り代わったんです。これは、『好き』以上の感情だと私は思っています」




「一緒にいて、安心できる人……ですか」


 琴原は「はい」と言って続けた。




「世の中に『一緒にいて安心できる人』が現れるなんてそうそうありません。……言うなれば、これが『運命の人』と認識するって感じなんですかね。でも、鈴村君には凛ちゃんがいる。私がこの気持ちを抱いてしまっても、鈴村君はもうすでに相手がいるので、この気持ちは抱いたままになります」




「……確かに、そうですね」


 琴原は、鈴村に涙を流しながら、自分の気持ちを告げた。




「だから、鈴村君に対するこの思いは、今日でなくそうと思います。この気持ちを抱いていても、鈴村君が応えてくれる日は来ない。……こんな惨めな思いは、したくないんです。なので、鈴村君にアタックするのも、やめにします」




 そう言うと、琴原はその場にしゃがみ込み、涙をぼろぼろと流した。


「琴原先輩……」


 鈴村はその琴原の様子を見て、どう対処すれば良いかわからなかった。


 励ませばいいのか。琴原の気持ちを汲み取って、綾瀬を諦めれば良いのか。


 どうすればこの琴原の気持ちを無駄にしなくて済むかを必死に考えた。


 一瞬、鈴歩すずほの顔が頭に浮かび、『人生の選択肢』に手をかける鈴村であったが、鈴村はそれをやめた。




『ダメ。君が今直面している壁は、私を頼りにしちゃダメだよ。自分の本心に従って、自分の意志で決めないと』




 かすかだが、鈴村の頭に鈴歩の声が響いた。


「……あぁ、そうだよな」


 鈴村はぽつりと呟く。


 琴原は自分の泣き声で鈴村が呟いた声が聞こえないでいた。




 鈴村はそのまましゃがみ込む琴原に近づき、ぎゅっと抱きしめた。




「え、えっ!? ど、どうしたんですか、鈴村君!?」




 思いがけない鈴村の行動に、思わず驚く琴原。


 その鈴村の目には涙が浮かび上がっていた。


 鈴村はそのまま、琴原に思いを告げる。




「……辛い思いをさせてしまって、ごめんなさい。後夜祭のあの日、いずれこんな気持ちになる日が来るんだろうと思ってました。でも俺は、そうなったときどうすればいいかわからなかったんです。だけど、結局俺のあの決断は、自分のわがままだったんだって気づいたんです」




 鈴村はそのまま続ける。




「琴原先輩。俺のせいで、俺のわがままで、余計に傷つけてしまってごめんなさい。俺に『好き』以上の気持ちを抱いてくれてありがとうございます。……でも、琴原先輩の言う通り、その気持ちには答えられません。俺は……、やっぱり綾瀬を選びます。ですが、今はこうさせてください。こうしたほうが、正解かな、って思ったんです」




 鈴村はそう言って、琴原を強く抱きしめた。


 琴原は鈴村の言葉を聞き、さらに涙を流す。


「……鈴村君の気持ち、それは慈悲じゃないって、私わかってます。鈴村君は優しい人です。そんな優しい人を好きになれて、本当に良かった」


 琴原はそう言って、大きな声で泣いた。


 それから数十分。鈴村は琴原が落ち着くまで、体をぎゅっと抱きしめた。




                  *




「落ち着きました? 琴原先輩」


「はい、もう大丈夫です。ひとしきり泣いたので、目は真っ赤ですけどね」


 琴原は笑顔交じりで言った。


「……それ泣いてたのバレバレなんで、もし皆と会ったときに問い詰められたら、『お化けが怖くて泣き叫んだ』ってことにしてくださいね」


「わかってますよ。あまり皆さんにも誤解させたくないですしね。さ、それでは行きましょうか」


 そう言って、琴原は鈴村に手を差し伸べた。


「お、今度は琴原先輩が先導してくれるんですか?」


「いえ、違いますよ」


「えっ、じゃあなんで……」


 鈴村が言いかけたところで、琴原は鈴村の手をグイっと引っ張った。




 そしてそのまま、琴原は鈴村にキスをした。




「…………っ!?」


 突然のことに思考が停止する鈴村。


 琴原は数秒間そのままの状態を維持し、口元を離した。


「ちょ、どういうことですか琴原先輩!」


 鈴村は琴原に対し言及する。


 琴原は俯いて言った。


「…………これで、この気持ちとはさよならです。鈴村君。ありがとうございました。凛ちゃんのこと、悲しませたら許しませんからね。さ、行きましょう」


「…………わかってます。安心してください」


 そう言って鈴村は、琴原と共に休憩ポイントから出た。


 ……が、曲がりなりにもここはお化け屋敷。さらに場所も全体の三分の二ということもあり、お化け屋敷のクライマックスが近づいていた。


「……今さらなんですけど、これ最後にでかいの来ますよね」


「……そうですね」


 さっきまでの雰囲気が一瞬で消え去るほどの恐怖を感じるこの空間に、鈴村と琴原は少し後ずさりしてしまう。


「よし、琴原先輩。走れますか?」


「え、走る!?」


「ここから先、絶対に今まで以上の恐怖が待っているはずです。その脅かしポイントを歩いて進むのではなく、走り去ってしまえば怖がることもないと思いませんか?」


「た、確かに! それは名案です! さすが次期生徒会長!」


「それ今言う必要あったんですかね……」


 そう言いながら、鈴村は琴原を腕にしがみつかせ、ダッシュする体勢になった。


「……準備はいいですか? 琴原先輩」


「……はい、いつでも大丈夫です」


 琴原の確認が取れた鈴村は琴原と目を合わせ小さく頷き、カウントダウンを始めた。


「ではいきますね。三……、二……、一……!」




『ゼロ!!!!!!!!』




 その二人同時の掛け声とともに、鈴村と琴原は出口へ一目散に駆け出す。


 鈴村の予想通り、これまで以上に脅かしに来るスタッフが多くなっていたが、走り去ることによりこの恐怖は全て感じずに通ることができていた。


「あ、見てください! 出口です! あそこまで走れれば……、あれ?」


「あれ、どうしたんですか? 鈴村君」


「……あれ、出口じゃなくないですか?」


「…………え?」


 出口のように見えた扉には、ある文字が刻まれていた。




 本物の出口はこことは別の扉にある。探し出せ。




 出口まで一本道であると思っていたお化け屋敷であったが、本物の出口を探さないと出ることができないという鬼畜仕様のお化け屋敷であった。


「こ、この中で探すんですか……?」


 琴原は絶望していた。


「ここまでは一本道でした……。ということはどこかに分岐点が……? 琴原先輩、歩けます?」


「あ、歩けはしますけど、ちょっと今走ったせいで体力に限界が……」


「あ、ごめんなさい……。俺にしがみついてていいので、ついてきてください」


「わ、わかりました」


 そうして鈴村と琴原は本物の出口の捜索を始めた。


 その捜索から数十分、ようやく『出口』と書かれた場所を発見し、外から光が差し込んでいるのが見えた。


「も、もう無理ですぅ……」


「や、やった、出口だ! 琴原先輩出口ですよ!」


 こうして二人は、無事にお化け屋敷から脱出することができた。




                  *




「と、いうわけでございまして、俺と琴原先輩は無事にこのお化け屋敷から脱出できた、というわけです」


 時計が午後三時を刺す頃、鈴村はベンチで正座をしながら綾瀬、木下に事の顛末を話した。


「ふーん、なるほど。それはそれはさぞかし大変だったねぇ、鈴村君」


 綾瀬は鈴村のことを睨みつけた。


「……で、何もなかったわけではなかったんだね」


「…………はい」


 中であったことを全て曝け出した鈴村は正直に答えた。


「……はぁ」


 綾瀬は深いため息をつく。


「……怒ったか?」


「怒るもなにも……。とりあえず、私は言いたいことがあります」


 綾瀬はそう言って鈴村の頭を撫でて言った。




「鈴村君も大変な思いをしてたんだね。私とみどり先輩の二人の事をしっかり考えていてくれてて、私はとっても嬉しいよ。だから、みどり先輩がキスしたことは水に流します」




「え、いいんですか?」


 琴原は綾瀬の言葉に驚く。


「いいんです。みどり先輩は鈴村君への気持ちを諦めたんですよね? これっきりで終わるのであれば、それくらい最後にさせてあげても、別にいいかなって私は思います」


「り、凛ちゃん……」


 琴原の目には綾瀬が女神のように映っていた。


「みどり先輩。言ったからには、鈴村君にそういうことするのはやめてくださいね。鈴村君は私の恋人なので」


「はい、気を付けます」


「ですが……」


「ですが?」


 琴原は綾瀬の言葉の続きが気になった。


「それでも、鈴村君に対する思いが消え去ったわけないですよね。あんなに鈴村君のことを好きになって、『一緒にいて安心する人』にまで認識するようになった相手のことを、そう簡単に諦められるわけないと思います」


「…………それは、確かにその通りです」


 綾瀬の言うことは的を射ていた。


 これほどまでに琴原は鈴村に対して思いを抱き、その思いを大きくした。


 それをそう簡単に諦められるほど、人間は強くないのである。


 むしろそれで簡単に諦められるのであれば、それは本当の『愛』とは言えないであろう。


 綾瀬は続けた。




「鈴村君を独占したり、キスしたり、そういったことをするのは許しません。ですが、私と一緒なら、それを許すことにします」




「……え?」


「は?」


 琴原と鈴村は同じような反応をした。


 その言葉を聞いていた木下は恐る恐る綾瀬に確認する。


「え、凛さん、それ本当にいいの? 大丈夫? 浮気を許すって言ってるようなもんだよ?」


「いいの。私が一緒にいれば、それは浮気とは言わないでしょ?」


「えぇ……、何その変な屁理屈……」


 木下は少し呆れていた。


「……本当にいいんですか?」


 琴原は再度綾瀬に確認する。


「……そういう反応をするってことは、やっぱり諦められてないじゃないですか。勘違いしないでくださいね。鈴村君を渡すなんて一言も言ってません。ただ、みどり先輩は鈴村君を『安心する人』と捉えたんですよね。私もみどり先輩とは友達でいたいです。鈴村君が必要な時は、いつでも頼ってください、って意味ですよ」


「なるほど、そういうことですか」


 琴原は綾瀬の言葉に納得した。


「ですが! 何度も言いますが鈴村君に用があるときは必ず私にも教えてください! 鈴村君も、みどり先輩から連絡が来たら私に教えてね!」


『あ、はい。わかりました』


 綾瀬のその迫力に、鈴村と琴原は思わず委縮してしまう。


「ほんとにそれでいいのかなぁ……。ま、本人がいいならいっか」


 片や木下はその綾瀬の決断が正しいものであるのか不安であったが、本人が良しとしているのを見て考えるのをやめた。


 こうして、琴原は鈴村へ対する好意を諦めることとなった。




 その様子を、柳と遠坂は遠目で見ていた。


「……なーんだ、結局そうなっちゃうんスね」


「鈴村君もモテるなぁ。いいなぁ、羨ましいなぁ」


「……なんスかその妬ましそうな顔……。キモいッスよ」


「き、キモい!? 俺そんな風に見えました!?」


 突然の拒絶にショックを受ける遠坂であった。


 柳は遠坂がショックを受ける顔を見て笑いそうになったが、同タイミングでスマホに一通のメッセージが届く通知音が聞こえた。


 柳はスマホのメッセージを確認する。


「……そうッスか。みやびっちのほうも決着がついたみたいッスね」


「え、決着? 何の話ですか?」


「教えないッスー。知りたければみやびっちに直接聞けばいいと思うッス」


「そんな度胸俺にあると思ってますか?」


 柳は遠坂をからかいながら言った。


 そのまま柳は、暗い顔をする。


「……そうッスか。みやびっちはダメだったんスね。たぶん、咲良っちもダメだと思うッス」


 元より、この『親睦会』は飯田に好意を抱く桜庭と、鈴村に好意を抱く木下の思惑により決行されたものである。


 しかし、今目の前で結論づいた鈴村に対する綾瀬、琴原の出来事を鑑みると、どう考えてもこの中に木下が付け入る隙はなかった。


 言葉に出していないだけで、木下も既に鈴村のことを諦めていたのである。


「あーあ、せっかくの親睦会なのに」


「……なんでそんな残念そうなんですか、柳副会長」


「そりゃ残念ッスよ。この日のためにいろいろ考えてきたんスから」


「……もしかして、琴原さんのことですか?」


「それもあるッス」


「それ()、なんですね」


 遠坂は柳の回答を聞き察した。


「ま、人生なんてそんなもんスよ。うちが見る『未来予知』だって、その人に必ず訪れる未来が見れるだけッス。その未来を変えられはしないんスよ」


「……でも、その未来を変えられたら、嬉しい人は山ほどいますよね」


「……そりゃそうッスよ。自分の望む未来が来ることがわかっているなら、皆過去をこぞって変えたがるッス。そんな超人、いたら世界的大問題ッスよ」


「それもそうですね」


 遠坂は鈴村の顔を遠目で見ながら柳に返答した。


 柳は立ち上がって遠坂に言う。


「さ! そろそろホテルに行く時間ッス! まだ遊園地は開いてるッスけど、うちらはこれからホテルで過ごす予定ッスよ」


「ああ、そういえばもうそんな時間でしたね。皆を集合させますか」


「頼むッスー」


 柳がそう言うと、柳と遠坂はそのまま鈴村たちと合流。遠坂は桜庭に連絡をし、そのまま合流をして、全員で宿泊ホテルへ向かった。

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