第33話 作戦を阻止せよ
「えっ、綾瀬!? 咲良まで!? なんでここに!?」
「……それはこっちのセリフだよ……、鈴村君。……しかもなんでみどり先輩と一緒にいるのさ」
緑ヶ丘学園生徒会、青海学園生徒会の親睦を深めるために決行された『親睦会』。
それぞれのメンバーは三人一グループにそれぞれ分かれることになり、それぞれ別行動をすることになった。
B班である綾瀬、木下、鈴村は途中まで一緒に行動していたが、突如C班の柳からの連絡を受け、鈴村は綾瀬たちと別行動をとることになる。
柳からの連絡は、共に行動する琴原が体調が悪そうなので面倒を見てほしい、というものであったが、実際それは嘘であった。
琴原と行動を共にする柳、遠坂は琴原を応援するため、わざとこの嘘をつき、鈴村とお化け屋敷に二人きりにすることに成功した。
そのお化け屋敷から出てきた直後、鈴村、琴原の二人で一緒にいるところを、嫌なタイミングで綾瀬、木下に見られてしまうのであった。
木下は呆れ顔で鈴村に言った。
「徹さぁ……。よくもまあ凛さんというものがありながら堂々とそんなことできるね……」
「ちょ、待て待て誤解だって! これは罠にハメられたんだよ! ……ん? 凛さん?」
鈴村は木下のその言葉に一瞬違和感を覚えた。
「罠ぁ……? そんなに琴原先輩がっつりしがみつかせちゃって、本当はやらしいことしてたんじゃないの?」
「違うわ!」
木下はからかうように鈴村に言ったが、鈴村はそれに対し猛反発した。
「とにかく話を聞いてくれ! これは柳副会長にかけられた罠なんだよ!」
「え、柳副会長が?」
「正確には、柳副会長と遠坂君だけど」
「…………これは説明してもらう必要がありそうだね」
もし好きな人が浮気をした場合、どうするか。その答えを綾瀬と木下は先ほど出したばかりだが、その瞬間はすぐに訪れた。
そうして鈴村は、事の顛末を綾瀬、木下に説明した。
「……別に罠でもなんでもないんですけどね……」
片や琴原は、これが罠と捉われていることに不満を感じていた。
*
「ふーむ、なるほど。柳副会長が嘘の電話をしてきて、鈴村君はみどり先輩のところに駆けつけたら本当はそうじゃなくて、柳副会長と遠坂君に無理やりこのお化け屋敷に入れられたと」
「そうなんだよ……」
鈴村の必死の説明を受け、綾瀬と木下はお互いに見つめ合って少し頷いてから言った。
『そんなの信じられるかー!!!!!』
「えぇっ!?!?」
鈴村にとっては予想外の反応であった。
綾瀬と木下はこの件を真摯に受け止めていなかった。
綾瀬は鈴村に近寄り怒りを露わにしながら言う。
「どうせそんな嘘ついて、本当はみどり先輩とイチャイチャしたかったんでしょ! 私というものがありながら!」
「だから違うんだって! さっき説明しただろ! 琴原先輩も反論してくださいよ!」
鈴村はそう言って、琴原のほうに視線を向けた。
琴原は依然、鈴村にしがみついたまま手を離さないでいた。
俯いた状態で、琴原は言う。
「……鈴村君の言っていることは本当です。確かに柳副会長と遠坂君に騙されて、無理やりこのお化け屋敷に入れられたんです」
鈴村は琴原が弁解してくれると確信し、安堵の顔をした。
……しかし、それも束の間の話であった。
「ですが、無理やりとはいえ、鈴村君は私と二人きりになるのを嫌がらなかったんです」
「…………え?」
琴原のその発言に、綾瀬の動きが止まる。
琴原は綾瀬の顔を見てそのまま続けた。
「本当に私といるのが嫌なら、このお化け屋敷に入るのを拒むでしょうし、そもそも私のところには来ないはずです。ですが、鈴村君は来てくれた。それに、お化け屋敷が苦手なのにも関わらず、私と一緒に入ってくれた。……これがどういう意味か、凛ちゃんにならわかるはずです」
「………………」
綾瀬は黙る。
木下は「で、でも!」と話に割って入った。
「それって単純に心配しただけですよね? 琴原先輩もお化け屋敷は苦手と聞いてます。徹は困っている人が目の前にいたら助ける人です。琴原先輩がお化け屋敷に入りたかったから、一緒に入ってあげただけじゃないですか?」
木下の発言に対し、綾瀬は反論する。
「咲良さん。それが通るのであれば、本来なら柳副会長と遠坂君がみどり先輩と入ればいい話だよ。わざわざ鈴村君を呼び出して、二人きりにさせたのはちゃんと理由があるはず。……みどり先輩、正直に答えてください」
綾瀬は琴原を睨みつけるようにして言った。
「本当は鈴村君と二人きりになる時間を作りたかった。でも自分で作る勇気はない。だから、柳副会長たちに協力してもらってそうなるように仕向けたんじゃないですか?」
「そ、そうなんですか? 琴原先輩」
鈴村は恐る恐る琴原の顔を見る。
綾瀬の言ったことは半分間違いであるが、半分は本当である。琴原は鈴村との二人きりの時間を作りたかった。しかしグループ分けが終わりこれが変更できないとわかった瞬間、ほぼそれを諦めていたのである。
しかし、偶然にも柳、遠坂のおかげでそれは叶った。これは琴原にとっては嬉しいものであった。
それと同時に、綾瀬のことを裏切る行為にもなり得た。
琴原は綾瀬に正直に答える。
「凛ちゃんのその質問は、半分正解で、半分間違いです。柳副会長たちには協力してもらってはいません。たまたまそういう話になっただけです。……ですが、鈴村君と二人きりの時間を作りたかったのは本当です」
「………………」
綾瀬はその琴原の回答に黙り込んでしまった。
「あ、綾瀬……?」
心配そうに鈴村は綾瀬に声をかける。
綾瀬は鈴村の顔を一瞬見た後、琴原に向かって言った。
「……本当は、みどり先輩のことを怒鳴りたいです。何勝手なことやってるんですかって、怒鳴りつけたいです。私はそれくらい怒ってます。……前に飯田会長が言ったこと、覚えてますか? 『フェアにいこう』、って。私は、こんなことでみどり先輩との関係を崩したくありません。みどり先輩がまだ鈴村君のことを諦めていないのはわかっています。手段はやっぱり許せないですが、みどり先輩は頑張ろうとしてるんですよね。その気持ちは、汲み取ってあげます」
「……凛ちゃん、いいんですか? 私、凛ちゃんを裏切ることをしたんですよ?」
綾瀬は顔をポリポリと掻きながら答えた。
「うーん、……まあ正直、本当は許したくないんですけど……。みどり先輩もこんな形で自分の気持ちを諦めたくないでしょうし、私もみどり先輩とは仲良くいたいですし……。これでいいかなぁー、なんて」
「…………凛ちゃんは優しい人ですね」
琴原は気づかぬうちに涙が出ていた。
その様子を見て、綾瀬は琴原の頭を撫でた。
「もう、みどり先輩って涙もろいですね。どれだけ泣けば気が済むんですか」
「ふふっ、すみません。そういう性格なんですよ。許してください」
琴原は泣きながら、笑顔で応えた。
「ま、これで一件落着ですかね」
鈴村はそう言ったが、しかしそれは綾瀬、木下が許さなかった。
「鈴村君。今私はみどり先輩と和解をしました。この件については一件落着しました」
続けて木下が言う。
「だけどね徹。それとこれとは話が違うんだよ。確かに凛さんと琴原先輩の件は解決したけど、……中であったこと、しっかり話してくれないとダメだよ? それとこれとは話が違うよ?」
「あー、あはは。やっぱり?」
『当然』
鈴村は困り顔で言ったが、綾瀬と木下は息を合わせて鈴村を問い詰めた。
『入り口から出口までずっと一緒だったの!?』
『みどり(琴原)先輩はずっとしがみついてたの!?』
二人は矢継ぎ早に鈴村に質問をする。
そして、最後に二人は大きな声で質問をした。
『本当に! この中で! やらしいこととかなかったんだよね!?』
「ま、まあ落ち着けって。とりあえずこの話は、別のところでしよう。俺らも疲れてるんだ」
そう言って、鈴村は未だしがみつく琴原を連れて近くのベンチまで歩いて行った。
「……これは絶対なんかあったよね」
「あったね、絶対になんかあった。でないとあそこまで琴原先輩が離れないのもおかしい」
綾瀬と木下は、鈴村たちのその様子を後ろから見ながらベンチへ向かった。
一方鈴村は、『人生の選択肢』に提示された【助言】のことを考えていた。
【助言】
この旅行で何があっても、鈴村徹は間違った選択をしてはならない。
また、それは飯田勝翔も同様である。
しっかりとよく考えて選択し、行動すること。
(この【助言】……、いったい何をしたら正解なのか全くわからん)
鈴村はこの【助言】が出てからずっと考えていた。どう行動するのが正解なのかと。
この琴原の一件は咄嗟に鈴村が取った行動のため、考える時間はなかった。
綾瀬、木下に問い詰められているこの現状が、【助言】を聞かなかったことによるものなのか、と鈴村は結論付けようとしていた。
(この『親睦会』、安易な気持ちで行動するとややこしいことになりそうだな……。……飯田会長にもこのことを早く伝えないと……)
鈴村はそう考えた後、琴原を無理やり引き剥がし、綾瀬と木下に言った。
「ごめん! 話をする前に、飯田会長に伝えたいことがあるんだ! ちょっと電話してくる」
「また電話? ……まあいいけど。すぐ戻ってきてね」
「悪い、すぐ戻る」
そう言って鈴村は、その場から少し離れた場所で飯田にこの件を伝えた。
~~桜庭班視点~~
(はぁ……、桜庭さん、なんでこんなに飯田君に積極的なの……?)
宮田はそう考えながら、飯田と手をつなぎながら前を歩く桜庭を睨みつけていた。
(ここまでずっと桜庭さんのことを監視しながら行動を共にしてきたけど、明らかに飯田君へのアプローチが多い……。絶対に何かあるわ……。それこそ、飯田君に好意を抱いているような、そんな感覚が……)
宮田が考えていたことは正解であった。
桜庭は飯田に対し好意を抱いている。桜庭は飯田に意識してもらうため、好意を抱いてもらうためにこの『親睦会』を提案し、決行に至った。
片や木下も鈴村に好意を抱いており、綾瀬と鈴村の関係を知っていながらその気持ちは諦めていなかった。
この『親睦会』は、その二人の思惑によって決行されたものなのである。
宮田は桜庭の思惑を察知し、さらにその作戦を阻止しようと努力していた。
しかし、どこに行くにも飯田の隣は桜庭が占領することになり、宮田が付け入る隙はなかった。
「うっわー、すっげー美人」
「お嬢様なのかな。隣歩いてるの彼氏か? 羨ましいなぁ」
「後ろにいるのは……、美人さんの付き人か?」
そんな声がすれ違った男性グループから聞こえてきた。
(……この人は私の彼氏よ。私は……、桜庭さんの付き人でもないわ……)
宮田は悔しい思いでいっぱいだった。
宮田が初めて感じるこの感情は『屈辱』であった。
飯田は緑ヶ丘学園高等部生徒会長。成績は常にトップで運動神経抜群、誰もが憧れる生徒の代表であった。
それも相まってか、飯田に恋する女子生徒は数知れず、告白を受けた回数は数えきれないほどになっていた。
その告白は宮田という相手がいることを知っていながらも行う女子生徒もいたが、宮田には敵わない、ということを理解したうえでの告白だったため、いわばダメ元で告白をしているようなものであった。
しかし、桜庭は違った。
桜庭は宮田という存在がありながら、それでも飯田を自分に振り向かせようとあの手この手を使って行動していた。その行動力、度胸は今まで宮田が見てきた中では断トツであり、それはまるで、飯田に自分のことを見てほしい、と言っているようなものであった。
「ふふっ、飯田さん、私の彼氏に見られてるみたいですよ」
「そんだけくっつかれたらそう見られますって……。勘違いされても仕方ないですよ……」
(……やっぱり、飯田君は勘違いされて嬉しいのかしら)
ふと、宮田はそんなことを考えてしまう。
宮田は嫉妬していた。
そんな時、飯田が桜庭に決意のこもった言葉が発せられる。
「すみません、桜庭さん。詩織もいるんで、少し離れてもらえますか。これ以上彼氏と間違われると、詩織が傷つきます」
「…………え?」
宮田は耳を疑った。
桜庭はその言葉を聞き少し驚いたが、冷静を装い飯田に従う。
「あら、ごめんなさいね。いつまでも飯田さんを占領してしまって。今は詩織さんの彼氏さんですものね。あまりこんなことをしてしまっては詩織さんに悪いですわ」
そう言って、桜庭は飯田から手を離した。
「あの、桜庭さん」
「はい? どうかされました?」
宮田は我慢できなくなったのか、桜庭に怒鳴りつける。
「一体どういうつもりなんですか。飯田君は私の恋人です。この親睦会が始まって、グループ分けが終わってから今に至るまで、ずっと飯田君にくっついてますよね。わざと二人しか乗れないアトラクション選んだり、二人きりになれるアトラクション選んだり……。それに、『今は』ってなんですか。今も、これからも、飯田君は私の恋人です」
「し、詩織……?」
飯田は宮田の迫力に驚いていたが、桜庭はそれを聞いて少し睨みつけるような表情をしていた。
桜庭は自分の身なりを正し、宮田に言う。
「お気遣いが足りなく申し訳ないです。詩織さんの言う通りですわ。飯田君は詩織さんの恋人。そんな人が目の前にいて、こんなことをしてしまった私を許してください。お詫びはいくらでもしますわ」
そう言うと、桜庭は宮田に対し深々を頭を下げた。
「ちょ、桜庭さん、私は何もそこまで言ってはなくって……」
「あら、じゃあなんでそんなこと言うんですか?」
桜庭はそう言うと、飯田に視線を向けた。
「……ああ、なるほど。詩織さん、嫉妬されてたんですね」
「なっ……」
宮田は桜庭に自分の気持ちを言い当てられ、動きが止まる。
桜庭は「やっぱり……」と不敵な笑みを浮かべて言った。
「この際だからはっきり言っておきますわね」
そう言うと、桜庭は宮田に近づいて、飯田に聞こえないように言った。
「私、飯田さんのことが好きなんですの」
「…………やっぱり、そうだったんですね」
「あら、やっぱり気づかれてましたか。さすがは常に飯田さんを支えているお方。その執着心は人並み以上ですわね」
「しゅ、執着心って言い方はやめてください。桜庭さんの飯田君に対する気持ちは薄々感づいてました。この親睦会が始まってから異常なまでの飯田君へのスキンシップ、二人きりになる時間を作るチャンスの多さ、明らかに狙ってました。これで察せないほうがどうかと思います」
「ふふっ。常に冷静沈着、クールビューティな詩織さんでも、そのように取り乱すこともあるんですのね」
「……私のことからかってます?」
「からかっているわけではないです。『宣戦布告』ですよ」
ふとその言葉に、宮田は蒼碧祭の時に桜庭から渡されたハンカチのことを思い出した。
「……やっぱりあの時いただいたハンカチは、そういう意味だったんですね」
「あらまぁ! 花言葉にも理解があるんですね! 博識な方は話が早くてありがたいですわ。そうです、これは詩織さんへの宣戦布告です」
桜庭はニヤっと笑いながら宮田に言う。
「飯田さんと詩織さんのお互いを思う気持ちは理解しています。それは応援されるべきですし、私も応援するべきです。……ですが、好意を抱いてしまった場合、果たして応援だけで話が済むでしょうか?」
「そ、それは……」
宮田は思わず戸惑ってしまう。
桜庭は宮田の困る様子を見てから言った。
「今回の親睦会で、私は絶対に私のことを飯田さんに意識させるつもりです。必ず成功させます」
「……それは、柳副会長の『未来予知』を使ってもやるんですか?」
「そんな姑息な手段は取りませんわ。相手は詩織さんですもの。正々堂々と戦いたく思っています」
「…………そうですか」
宮田はその桜庭の言葉を聞いて、一目散に飯田の元へ駆け寄った。
「ん、どうしたよ詩織。…………え、ちょ、何!?」
宮田は黙ったまま、飯田の手をぎゅっと掴んだ。
「……目を瞑って」
宮田は呟く。
「え? 何?」
「いいから! 目を瞑って!」
「は、はい!」
飯田は宮田の言う通り目を瞑った。
そして。
大勢がいる中、宮田は桜庭に見せつけるように、飯田に深い口づけをした。
「……あらまぁ」
その行動に思わず驚く桜庭。
「……ぷはっ、ちょ、詩織急に何すんだよ! 皆見てるんだぞ!」
驚きながら、しかし照れながら飯田は宮田に言う。
宮田は飯田のことはお構いなしに、桜庭を指さして叫ぶ。
「桜庭さん! これが私の覚悟です! 私の飯田君への気持ちは生半可なものではありません! 桜庭さんは、これに対抗できますか?」
宮田は桜庭の宣戦布告を受けた。
これに対し、初撃から桜庭を戦闘不能にさせる行動を取った。
桜庭は宮田の思い切った行動に、思わず拍手をした。
「ふふっ、はははっ! 詩織さん、素晴らしいですわ。この大勢の人がいる中、そんなことができるなんて素晴らしいです。感服いたしました」
「………………」
宮田は黙って桜庭の言葉を聞く。
「さすがに私もそんなことをする度胸はどこにもありません。それがないということは、まだまだ飯田さんへの思いが強くないことを示します。……この時点で既に勝負は決まっているかもしれませんね」
桜庭はどこか諦めた顔をしながら言った。
「でしたら、もう飯田君のことは諦めていただく、ということでいいですね?」
宮田は桜庭に心の真相を聞いた。
桜庭は悩んだ。答えがすぐ出ることはなく、無言の時間が過ぎていった。
たまに吹く風が、山々の木々を撫でる音を奏でていた。
そうして、桜庭は覚悟を決めたように宮田に言った。
「ええ、飯田さんへアタックすることは諦めますわ。詩織さん、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「桜庭さん……」
宮田は安堵した。
……が、違和感が残った。
「……桜庭さん、飯田君へのアタックを諦めるって言いました?」
「ええ、言いましたわ。これで飯田さんへアタックすることはないので、飯田さんは詩織さんが独占できます」
「……でもそれって、飯田君への気持ちは諦めてない、ってことですよね」
「…………っ」
桜庭は言葉に詰まる。
「少し安心しそうになりましたが、そうもいかなそうですね。……私は桜庭さんが完全に飯田君を諦めるまで監視しますからね。覚悟しておいてください」
「……ふふっ、これは結構難しいことになりましたわね……」
桜庭は改めて宮田の気持ちの強さを実感した。
そんな時、飯田に一本の電話が入る。
「あ、すまん、電話だ。……鈴村から? なんだ? こんな時に」
そう言って、飯田は鈴村からの着信に応答する。
『あ、飯田会長! 今お時間大丈夫ですか?』
「おう鈴村。どうしたよ急に」
『いえ、ちょっと飯田会長にお伝えしたいことがあって……』
「俺に伝えたいこと?」
『はい。……この親睦会で飯田会長に何か大切な選択を迫られたときは、しっかり考えて選択をし行動してください』
「……なんだそれ。占いの結果でも見たのか?」
『ま、まあそんなところです』
鈴村は『人生の選択肢』のことは伝えられないため、少しはぐらかしながら言った。
飯田はその言葉を聞き、宮田と桜庭の顔を見てから言った。
「……心配することはないと思うぞ、鈴村。恐らくその瞬間が俺にも訪れるんだろうが、今はその心配はなさそうだ」
『え、それってどういう意味ですか……?』
「話すと長くなるし、お前に話しても意味ないから黙っとくわ」
『えっ!? ちょ、その言い方、絶対に何かありましたよね!?』
鈴村は焦りながら飯田に問う。
飯田はその鈴村の反応と、目の前で起きていることが面白くなり笑ってしまった。
『な、なんで急に笑うんですか』
「ははっ、いや、お前が生徒会に来てくれてから、いろんなことが起こるなと思ってな」
『どういうことですか?』
「うまくは説明できないんだが……。たぶん、お前が生徒会に入ったことも、今こうやって親睦会をやれているのも、お前がいなかったら起こらなかったことだ。……いろいろと問題は起きてるみたいだが、これも青春、ってことだな」
『……何言ってるんですか飯田会長』
「お前今、俺を憐れんでる顔してるだろ」
『そ、そんなわけないじゃないですか』
図星である。
「要件はそれだけか?」
『あ、はい。それを伝えるために電話しました』
「鈴村の心配には及ばねえよ。大丈夫だ、もしそんなときが来たら、ちゃんと考えて行動するから」
『であればいいんですが……。じゃあ、俺、綾瀬と木下待たせてるんで、これで』
「おう。……あ、そうだ、俺からも一つお前に言いたいことが」
『なんですか?』
飯田は少し間を空けて言った。
「綾瀬の事、大事にしてやれよ」
『……もちろんです』
飯田の言葉に、鈴村は電話越しながら、真剣な面持ちで答えた。
「じゃあ、電話切るわ。俺らも移動することになったから」
『あ、はい、わかりました。それじゃこれで』
そう言って、飯田は電話を切った。
「……ほんとに青春だなぁ。鈴村が生徒会に来なかったら、今ごろ俺は何してたんだろうな」
飯田は空を見上げながら、そんなことを言う。
「……少なくとも、青海学園との関わりはなかっただろうな」
そんなことを言いながら、飯田は宮田と桜庭の元へ合流した。
~~鈴村班視点~~
「電話終わったの?」
「ああ、さっき終わった。待たせてごめん」
飯田との電話を終え、鈴村は綾瀬、木下、そして琴原がいるベンチへ戻って来た。
綾瀬は鈴村が戻ってきたことを確認し、改めて鈴村に問う。
「で? 本当にお化け屋敷の中で、みどり先輩とは何もなかったんだね?」
「琴原先輩とは何もなかったんだよね?」
綾瀬に続けて、木下も食い気味で問う。
「ちょ、ちょっと待って……、順番に話すから……」
鈴村はそう言って、綾瀬達にあったことを話そうとした。
だが、突然琴原がそれを止める。
「……やっぱり、これ話さないとダメですか?」
綾瀬はその言葉にムッとした。
「当たり前です。私、仮にも鈴村君の恋人ですよ。それを抜け駆けされたんです。確かに私はみどり先輩の気持ちは汲み取りました。ですが、それとこれとは話が別。やってしまったんなら、何があったかはちゃんと説明してもらわないと困りますよ」
「で、ですよねぇ……」
琴原は綾瀬の意見に困ってしまった。
鈴村は綾瀬と木下の表情にビビりながらも、お化け屋敷であったことを話し始めた。
*
「うぅっ……、やっぱり怖いです……」
「めっちゃ暗いですね……、この懐中電灯ないとほぼ何も見えないじゃないですか……」
お化け屋敷に入って早々、思った以上に中が暗く、懐中電灯で足元を照らさないと歩くことさえままならないような状況に二人は怯えていた。
ところどころにチカチカと光る蛍光灯が、懐中電灯以外の唯一の光源であった。
そのチカチカと蛍光灯が光るたびに、そこら中に血でできた手形やそこで行われていたであろう拷問器具などを照らしていた。
「……めっちゃ雰囲気出てますね」
「………………」
「どうしました?」
「目…………、開けられないです……」
琴原はあまりにも怖くて目が開けられず、進めないでいた。
琴原にとってこれは相当怖いものだったのである。
(仕方ないか……)
そう鈴村は考え、琴原に手を差し伸べた。
「琴原先輩、俺の手、掴んでてください。俺についてくれば、とりあえず迷わないと思うので」
「…………はい」
そう言って琴原は、差し伸べられた手を片手で掴み、袖をもう片方の手できゅっと掴んだ。
(……相当怖いんだな)
鈴村は琴原が想像以上に怖がっているのがわかっていた。
かくいう鈴村も怖がっていたが、琴原を見ているとその怖さも和らいでいた。
(そう、怖いのは俺だけじゃない。琴原先輩も同じなんだ。俺が怖がってどうするんだ)
そう考えながら、鈴村は琴原を連れて歩を進めていた。
と、その瞬間。
琴原は、鈴村の腕にぎゅっとしがみついた。
「え、ちょ、琴原先輩!?」
思いがけない行動に驚く鈴村。
しかし、琴原はその手を離さなかった。
(む、胸が……、柔らかいのが腕に伝わってくる……!)
悶々とする鈴村であったが、琴原はそれをお構いなしに鈴村を見て言った。
「で、出口まで、こうしてて……いいですか?」
「うぐっ……」
上目づかいで言う琴原のこの言葉は、鈴村の心を大きく動かす要因になった。
鈴村は気が動転しそうになったが、冷静を保ち続け琴原に言う。
「だ、大丈夫です。そのまま、そのままでいいです。離れちゃったら琴原先輩、出れなくなると思うので」
「……ありがとうございます」
鈴村の腕からは、柔らかい感触と共に、琴原の心臓の鼓動が直接伝わって来た。
(……これは、そういう意味のドキドキなんだろうか。それとも怖いから……? わからない……、どっちなんだ……)
そんな悶々とする鈴村と琴原のお化け屋敷散策が、ついに始まった。




