第32話 相性
「それでは、この懐中電灯を使ってゴールを目指してください。中はとても暗いので足元にはお気をつけて。もしかしたら踏んではいけないものが転がっているかもしれませんので」
「……なんて脅しだ……」
突如として決行された、青海学園生徒会長、桜庭みやびによる緑ヶ丘学園生徒会、青海学園生徒会のメンバー同士による『親睦会』。
A班 飯田・宮田・桜庭
B班 鈴村・綾瀬・木下
C班 琴原・柳・遠坂
親睦会はこの三班に分かれて行動することになった。
琴原は鈴村とは別の班になってしまい憂鬱になっていたが、柳、遠坂の気遣いにより急遽、琴原と鈴村でこの遊園地ではとても有名な『全長がとても長いお化け屋敷』に入ることになった。
「いいんですかね、わざわざ班分けたのにこんな勝手なことして」
鈴村はくじ引きでグループ分けをした意味がないと主張を始めた。
事情を知らなければ当然の行動である。
「や、柳副会長がいいならいいんじゃないですかね。うん、いいんだと思います」
琴原は、鈴村にもう一度アタックするチャンスを与えてくれた柳、遠坂に感謝をするとともに、本当は苦手だから入りたくなかった、という余計なお世話をされたことによる憤りを感じていた。
(うっ……、お化け屋敷苦手だから敢えてこっちのほうには来ないようにしてたのに……! ……でも、これはチャンスです……! ここで『吊り橋効果』を狙って鈴村君にもう一度私のことを意識させます……!)
吊り橋効果。
恐怖によって心拍数が上がっている状況下で、そのドキドキを一緒にいる相手への好意だと誤って結びつける心理現象である。
琴原はこの作戦を使って鈴村に自分のことを意識させようと考えていた。
しかし、琴原は少し引っかかる部分があった。
(でも、柳副会長、どういう理由で鈴村君をここに呼んだのでしょうか? 柳副会長が鈴村君に連絡をしてからすぐに来てくれたということは、それなりの理由だと思うんですけど……)
琴原は恐る恐る鈴村に問いかける。
「す、鈴村君は、なんで急いで私たちの班のところに来てくれたんですか?」
「え? そんなの単純ですよ」
鈴村は琴原に向かい合い、琴原の肩をガシッと掴んだ。
(えっ……!? も、もしかして、私のことを本当にまだ考えていてくれてるんですか……!?)
鈴村は真剣な面持ちで琴原に言う。
「琴原先輩、柳副会長たちに絶叫系アトラクションをループさせられたらしいじゃないですか!」
「……ん? あれ?」
琴原の口はぽかんと開いていた。
鈴村は琴原を心配するような顔で言う。
「俺も絶叫系アトラクション苦手なんですよ……。ついさっきも咲良が綾瀬に小さいジェットコースターめちゃくちゃループさせられてて、やばいことになりそうだったんですよね……」
「あー、ははは、そうだったんですねー」
琴原は棒読みで返す。
「その様子を目の前で見てたんで、無意識のうちに被害者が増えてしまったんじゃないかと思って、急いで様子を見に来たんです。……でも実際のところ、琴原先輩元気そうじゃないですか。俺柳副会長に嘘つかれたんですよ」
鈴村はそう言いながら柳への怒りを抱いた。
片や琴原は、想定外の回答をされて少し悲しんでいた。
(……やっぱり、気のせいでしたね。私のことを、そういう意味で心配してくれたわけじゃ、なさそうですね)
琴原は『まだ鈴村には自分に好意があるから心配して駆けつけてくれた』と考えていた。
しかし、その考えは琴原にとって都合の良く考えたものであり、現実はそうではなかった。
「ま、でも元気そうで良かったです! 後夜祭のことがあってから琴原先輩、あまり元気無さそうだったんで、ちょっと心配してたんですよね」
「…………え?」
それは琴原にとって、思いがけない言葉であった。
鈴村は綾瀬、琴原の二人と付き合うと決断し、その間琴原は綾瀬に負けないよう必死にアピールを繰り返してきた。しかし、後夜祭にてその努力は儚く散った。
この時点で、琴原は既に鈴村から好意を抱かれていないと決めつけていたのである。
だからこそ、この親睦会で鈴村にアタックするチャンスを今か今かと伺っていた。
しかしながら、この鈴村の発言は、琴原の考えていたことを全て覆すものであった。
普通、そのような選択をした場合、選ばなかった相手のことは考えないものである。ましてやそれから様子を見るなど、ほとんどすることはないであろう。
だが、鈴村は違った。後夜祭でのことがあってからも、しっかり琴原のことを見ていた。
これは、鈴村が「悲しませたく、苦しませたくない」という考えがあったからこそ取った行動である。
まさしくこの鈴村の発言は、今もなお琴原に好意がある、少なくとも、意識はしているという証拠に他ならなかったのである。
(……遠坂君の言っていたことは、本当だったんですね)
ふと、琴原は遠坂の言っていた言葉を思い出していた。
鈴村はまだ、自分のことを思ってくれている。まだこれは琴原の憶測に過ぎないが、しかし心配する必要はなく、琴原を前進させてくれることであった。
「……どうしたんですか? 琴原先輩。怖くて動けないんですか?」
「すみません、考え事してて。……鈴村君、来てくれてありがとうございます」
「え? いやいや、気にしないでください。琴原先輩、お化け屋敷入りたかったんですね。……柳副会長たちも一緒に入ってあげればよかったのに……。これじゃグループ分けした意味ないじゃないですか」
「まあまあ。誰でも苦手なものはありますって。……ちなみにですが、鈴村君」
「はい、何ですか?」
琴原は少し間を空けて言った。
「鈴村君って、お化け屋敷、苦手ですか?」
この質問は、琴原の吊り橋効果作戦の成功率を把握するためのものである。
もし鈴村がお化け屋敷が苦手であれば、吊り橋効果は期待できる。しかし、そうでない場合、吊り橋効果にはほぼ期待できなくなってしまう。
せっかく柳と遠坂が作ってくれたこのチャンスを、しっかり活かせるかを確認するための重要な質問であった。
その質問に対し、鈴村は真面目な顔で答える。
「……お化け屋敷、正直全然無理です。なんならこの懐中電灯返して今すぐにでも帰りたいくらいです」
鈴村はお化け屋敷が大の苦手であった。
一方琴原は、心の中でガッツポーズをしていた。
「……どうしたんですか、なんかすごく嬉しそうですけど。……もしかして俺がお化け屋敷苦手なのバカにしてます?」
「い、いや! そんなことは全然ないです! わ、私も苦手なので……!」
「……? 苦手なのに入りたかったんですか? ここ日本でもかなり有名なめちゃくちゃ怖いお化け屋敷ですよ?」
「そ、そうなんですよ! いつかは克服しなきゃなーとは思っていて、どうせなら難易度の高いものにチャレンジすれば一気に克服できるかなー、なんて思いまして」
琴原は見え見えの嘘をついた。
しかし鈴村は、その琴原の考えに感動していた。
「自分の苦手なものを克服するために、敢えて高すぎる壁を乗り越えようとするその度胸……、素晴らしいです! 感動しました! 俺も琴原先輩を見習います! それじゃあ行きますか!」
「は、はい。よろしくお願いしま……す?」
琴原は「ま、まあこれでもいいですかね……」と呟きながら、お化け屋敷へと入っていった。
~~綾瀬班視点~~
「鈴村君、戻ってこないですねー」
綾瀬は突然走ってその場を離れてしまった鈴村を探していた。
木下も同様に、鈴村を探し回っていた。
「この広い敷地内で一人の人間を探すのは相当苦労しますよ……。ほんとにどこ行ったんだか、徹のやつ……」
鈴村は柳から連絡があってから、特に綾瀬たちに行き先を伝えずに走り去ってしまった。
綾瀬達は鈴村がどこにいるのかがわからなかったのである。
「……仕方ない、探しても時間の無駄ですし、私たちだけで行動しますか」
「そうですね、徹が心配ですけど、とりあえず今は楽しむことに集中しますか」
そう言って、二人は次に乗るアトラクションを探していた。
が、木下はあまり乗り気ではなかった。
(……次に乗るアトラクションは私が決めよう……。いくら小さめのジェットコースターと言っても、あんなに何回もループさせられたら身がもたない……。軽めのアトラクションを提案するのが一番いいかな……)
木下は綾瀬に次に乗るアトラクションの提案をする。
「綾瀬さん! 次何乗ります? 私あれがいいかなーと思うんですけど」
「え、あれですか?」
木下が指を差したのは、ウォークスルーで体験できるタイプのアトラクションであった。
ここで乗り物に乗らず自分のペースで楽しむアトラクションを選ぶことによって、綾瀬から絶叫系アトラクションから意識を逸らすことが目的であった。
綾瀬はそのアトラクションを見て少し困惑しながら言う。
「い、いいですけど、本当にあれでいいんですか?」
「え?」
木下は改めてその指さしたアトラクションを見た。
「……『相性占い』…………?」
木下が特に何も考えず指さしたアトラクションは、二人一組で施設内に入り、ところどころにあるチェックポイントで出される質問に答え、その結果に応じて二人の『恋愛相性』を占うというものであった。
(やってしまった……)
木下は頭を抱えた。
これを綾瀬とやっても全く意味がないからである。
だが、木下は逆にこれをチャンスと考えた。
(あれ、別にこれって『恋愛相性』と謳ってるだけで、要は二人の相性がどうかを占うものだよね……。恋のライバルとして、相性が良いのか占うのは、ある意味ありなんじゃ?)
占いの中にある『相性占い』というものは、お互いが今後関わる中で大きな問題をかかえるきっかけを作りやすくはないか、作った場合、それを力を合わせて乗り越えられるかが間接的にわかるものである。
それは恋愛対象ではなく、友達としても有効である。
つまり、ここで綾瀬と木下の相性を占っておけば、今後どのようにして木下が鈴村にアタックするかを考えることができる絶好のチャンスであると木下は考えた。
「そ、そうなんです! これ綾瀬さんとやりたいなーって!」
「……ふーん。いいですよ、やりましょうか」
「ほ、本当ですか? ありがとうございますー!」
そう言って二人は入口へと向かった。
「では、こちらの端末を持って中にお入りください。中は迷路になっています。迷路の途中には三か所のチェックポイントがあるので、そのチェックポイントを全て通過できれば脱出することができます」
「そのチェックポイントでは何もしなくていいんですか?」
綾瀬はスタッフに問いかける。
「そのチェックポイントではランダムな質問がされます。その質問に対しお互いが意見を出し合い、納得のいく回答を出してシステムがOKを出せばチェックポイント突破です。出された質問は何か、それに対する答えは何かは、その端末にも表示されます」
「へー、結構ハイテクですね」
そう言いながら木下は手渡された端末を見る。
「脱出できた後、あの機械に端末を差し込んでください。お互いの相性がわかります」
「なるほどねぇ……。じゃあ木下さん、行きますか」
「よろしくお願いしますね、綾瀬さん」
そう言って、二人は施設に入った。
*
「中、結構入り組んでますね……」
「まあ迷路って言ってましたからね……。それにしかも結構わかりづらい……」
意気込んで迷路に飛び込んだはいいものの、中は思っていた以上に長く、それでいてチェックポイントも見つからないため、二人は迷子になっていた。
「本当にチェックポイントなんて見つかるんですかね? 端末にも迷路の道順なんて書かれてないし……、ヒントもなし……」
木下は少し疲れた顔をしながら言った。
「そりゃ道順書かれてたら迷路の意味なくなりますよ。……私に考えがあります」
「考え?」
綾瀬はそう言うと、通路の右側に手を当ててそのまま進み始めた。
「えっと、綾瀬さん?」
「『右手の法則』って知りませんか? 迷路の中で通路の右の壁に手をついて歩いていれば、いずれゴールに辿り着くというものです」
「あー、なんか聞いたことあります」
「外から見た感じだと、中は入り組んでいますが広さはそうでもないです。この空間に三つのチェックポイントを散りばめられるとは考えられません」
「……というと?」
綾瀬は名探偵気取りで答える。
「つまりですね、スタートからゴールまでは一本道。当然その途中でチェックポイントを通過できる、というわけですよ」
「……おー、なるほど。それでいきましょうか」
木下は信憑性がないその綾瀬の考えに少し戸惑ったが、疲れもあってか綾瀬の意見に賛同した。
この綾瀬の作戦が偶然にもうまくいき、ようやく一つ目のチェックポイントに到着した。
「やっと着きましたね……」
「ですね……。えっと、ここに端末を差し込めばいいんですね」
そう言って木下は、古代遺跡の偶像のようなオブジェの下に用意された端末を挿入する箇所に端末を差し込んだ。
途端、偶像から声が聞こえる。
「ようこそ。第一の関門へ」
「チェックポイントって言わないんだ」
綾瀬はいらぬツッコミをした。
「ここではお前たちの『想像力』を試す。今から出す質問にお互いで意見を出し合い、回答すればこの関門を通過できる」
「なるほど、そういう感じかぁ」
綾瀬は面白そうな内容にわくわくしていた。
「でもこれランダムで出題されるんですよね? もしかして試されるものもランダム?」
「さあ、どうなんですかね。試すものは同じで、質問がランダムってだけなんじゃないですか?」
木下の問いに綾瀬が答えた。
偶像は閉じていた目を開いた。
「では質問」
そう言って、偶像は二人に質問をする。
「今、お前たちは宇宙の中である星を探している。目に見える星は様々な色に輝き、どれが自分の望む星かわからない状態だ。そんな中、お前たちの目の前にはひと際目立つ星が見つかった。さらにその色は、星を探している中で自分では認識のしたことのない色だ。その色は何色か答えよ」
「……ん? どういうこと?」
「なんで急に宇宙の話?」
偶像に突然宇宙の話をされ、困惑する二人。二人は質問の意図が汲み取れていなかった。
「と、とりあえず考えますか。場所は宇宙なんですよね。無数の星の中で星を探していて、どれが自分が探している星かわからない……」
「でも、その中でひと際目立つ星が見つかった。……その色を答えろって、どういう意味……?」
二人はこの質問に悩む。
綾瀬は木下に自分の考えを述べた。
「木下さん。この『相性占い』って、お互いの『恋愛相性』を占うものなんですよね」
「え、ああはい、そう聞いてます」
「であればですよ。自分が好きな人のことを考えればいいんじゃないですか?」
「……? なんでですか?」
木下は理解ができていなかった。
「ここで言う星というのは『無数の異性』です。色というのは……、その人に対するイメージでしょうか」
綾瀬の言葉を聞き、木下は察しがつく。
「あっ、なるほど。ということは、その人に対するイメージを色で答えればいいってことですね」
「そういうことです」
綾瀬はそう言いながら頷いた。
そうして、二人は偶像に同時に回答をする。
『黄色』
「……回答を認識した。次へ進め」
偶像はそう言うと、ロック状態にあった端末からロックを外し、取り外せるようにした。
「……まさか、考えていた色が同じだなんて思わなかったですよ」
綾瀬は木下に向かって言った。
「私もです。……徹に対して、そういうイメージを持ってたんですね」
「私は鈴村君のことを『勇敢な人』だと捉えてます。私の中で『勇敢な人』とイメージつくのは黄色だったので、そう答えた感じですね」
「……びっくり。私と同じです、それ」
「え?」
綾瀬は驚いた。
木下はそのまま続ける。
「私の中での徹は、勇敢な人そのもの。蒼碧祭の取り決めを進んでやってくれた時も、橘と飯田生徒会長の件があったときも、それを解決しようとしたときも、鈴村君はまっすぐな目で立ち向かっていました。そして、後夜祭のあの時も。私はそういう人のことを、『勇敢な人』と考えてます」
木下は綾瀬に対し、鈴村へ抱く人物像を伝えた。
綾瀬はその言葉に少したじろいだが、そのまま木下に思いを伝えた。
「……なるほど。私も同じ考えです。あれほど勇敢な人でないと、あんな行動はできないと思いますね。その後もみどり先輩と普通に話しているのを見ると、やっぱり肝が据わってるというか……。頼れる存在に見えます」
「ははっ、私たち、もしかして相性いいのかもしれないですね」
木下は笑いながら綾瀬に言った。
綾瀬もそれにつられて笑ってしまう。
「さ、次に行きましょうか。割かし『右手の法則』は正解かもですね」
「ですね。引き続きこれでいきましょうか」
そう言って二人は、二つ目のチェックポイントを目指した。
*
「着きました」
一つ目のチェックポイントから歩くこと十分。
綾瀬の提案した『右手の法則』は役に立ったようで、想像よりも早く二つ目のチェックポイントに辿り着いた。
「ようこそ、第二の関門へ」
「あ、今度は女性の声だ」
目の前に現れたのは一つ目のチェックポイントと同じ姿形をした偶像であったが、そこから聞こえる声は女性の声であった。
「ここではお二人の『協調性』を試します。二人とも、よく考え、話し合ってから回答するように」
綾瀬と木下は目を合わせ、頷いてから言った。
「お願いします」
「では、質問」
偶像は目を開いて質問を始める。
「お二人はとあるアパートで同棲をしています。端末を持つあなたは働いており、もう一方を養っています。ですがある日、養われている方が貯金していたお金を自分の娯楽に大量に使ってしまいました。この時、どのようにしてこの問題を解決するか、答えてください」
「……なんか妙にリアルな設定ですね」
綾瀬は少し困惑しながら言った。
木下はその質問を聞き、理解をする。
「なるほど……、だから『協調性』……」
「どうしたんですか?」
何かに気づいた様子を見せる木下に、綾瀬は疑問を抱く。
「この問題、要は同棲してたカップルか夫婦がいて、男性側……、今の設定だと『端末を持つあなたは』と言っていたので、おそらく私でしょう。その私が働いてて綾瀬さんのことを養っている中で、綾瀬さんは私が汗水垂らして稼いだ貯金を自分の娯楽のために使ってしまった。つまりは、夫婦間、カップル間でいずれ遭遇する『お金』の問題について考えろ、ってことですよ」
「はー、なるほど……。これは『恋愛占い』を謳ってるだけありますね」
木下の説明に、綾瀬は納得した。
「しかしお金の問題かぁ……。私が働いてる側だったら、それはちょっと許せないかなぁ」
「どうしてですか?」
綾瀬は木下に問う。
「だって、自分が稼いだお金ですよ? もう片方の相手は働いている設定がなかったので、完全に養われている状態です。そんな状況下で、自分の娯楽のためにお金を使われたら、普通腹が立ちません?」
「うーん、……まあ確かにそうですね。そうなんですけど、娯楽に使ったのにもしっかり理由があると思うんです」
「理由?」
木下は綾瀬の問い返した。
「細かい設定が説明されてなかったので何とも言えないですが、使った側にも理由があるはずです。『娯楽』は人それぞれ捉え方が違うので一概には言えないですけど、『娯楽』にお金を使うってことは、それ相応のストレスを溜めていたと思うんです」
「……なるほど」
木下は綾瀬の話に興味を示しながら聞く。
「私がもし働く側だったとして、相手にそんなことをされたら、確かに腹を立てる瞬間があると思います。でも、問題はそこじゃないと思うんです」
綾瀬は少し間を空けて言った。
「使った側にも、それ相応のストレスが溜まっていた。つまり、そのストレスを解消してあげることが、一番平和的に解決できる方法だと思うんです」
「ストレスの、解消……」
木下はこの考えには至っていなかった。
自分が当事者と設定されたという理由もあるかもしれないが、木下は自分が稼いだお金を勝手に使われることは許せない性格でいた。
木下はその考えがあるおかげで、平和的に問題を解決するという目的が欠如していた。
綾瀬はそのまま続ける。
「ここでの問題は『協調性』です。現実的な話ですが、本当に付き合っているカップル、結婚している夫婦であれば、必ず一度はそういったトラブルに遭遇すると思うんです。お互いのことを思っているのであれば、まずはその関係を崩さず、且つこの問題が解決した後も同じトラブルを起こさないように対策案を考えるのが賢明ではないでしょうか」
「なるほど、綾瀬さんの答えは一理あります。大事なのは『関係を崩さない』、そして、『再発しないためにはどうするかを話し合う』ってことですね」
「そういうことです」
綾瀬と木下はニコッと笑い合った。
途端、偶像は喋り出す。
「回答を認識しました。次へお進みください」
偶像はそう言うと、再び端末が取り出せる状態にした。
「……どうやら二つ目のチェックポイント突破みたいですね」
木下は端末を取り出しながら言う。
「これ妙にリアリティあって面白いですねー。『恋愛占い』っていうより、本当にその二人がしっかりとこの先の将来を共に過ごせるかを試しているかのように見えますね」
綾瀬の言葉に対し、木下は返答する。
「それが目的なんじゃないですかね。さっきの『想像力』といい『協調性』といい、付き合っていくにはピッタリな要素じゃないですか。『想像力』はその人と息ピッタリか、『協調性』は自分たちの将来をどれだけ真剣に考えているか。そこら辺をはっきりさせるためにあるんじゃないですかね」
「……にしてはリアルすぎるし話が重いような……。こんな遊園地に置いておく施設でもないような気はしますけどね……」
綾瀬は困惑しながら言った。
「とりあえず! 次でラストです! 『右手の法則』で進んでいきましょうか」
木下はそう言って、『右手の法則』を使って前に進んでいった。
「……これ、鈴村君と一緒にやりたかったなぁ……」
綾瀬はぽつりとそんな言葉を呟きながら木下を追いかけた。
*
「ようこそ、第三の関門へ」
『右手の法則』は見事成功し、そこまで時間もかからず無事に三つ目のチェックポイントに到着した綾瀬と木下。
木下は綾瀬と目を合わせて頷いた。
偶像はそのまま話し始める。
「ここではお前らの『度胸』を試す。今から出す質問に、直感で回答すること。なお、ここでの回答は双方異なっても良いものとする」
「最後は『度胸』……ですか」
「ま、将来を考える仲なのであれば様々なところで『度胸』は大事ですもんね」
綾瀬と木下が話しているのも束の間、偶像は目を開いて質問を始めた。
「質問。お前らの愛する相手が浮気をした際、お前らはどうする。次の中から選べ」
「……え、選択問題?」
偶像はそのまま選択肢を与えた。
【偶像の選択肢】
A.浮気した本人を罰する。
B.浮気相手を罰する。
C.自分が足りなかったことを問いただし、真摯に受け止め、件について話し合う。
「…………なんですかね、この選択肢」
「さぁ……」
三つ目のチェックポイントで出された質問は、二つは当事者に直接罰を与えるというもの、残り一つは、浮気した人を咎めることはせず、浮気をさせた自分が悪いと考えてこの件を話し合うという選択問題であった。
「なんか、なんというか、どれも選べないような……」
綾瀬は困っていた。
「で、ですよね……。これ本当のカップルや夫婦がやったらそれこそ喧嘩になるんじゃ……」
木下も同様であった。
しかし、綾瀬はこの質問の趣旨を思い出していた。
「……『度胸』……」
「え、どうしたんですか?」
ぽつりと呟いた綾瀬に、木下は聞き返す。
「ここでは『度胸』を試すと言ってました。もし自分の愛する相手が浮気した場合、自分はどの選択をするのか、その選択をする『度胸』はあるのかを、ここでは試されてるんだと思います」
「そんなこと言っても……、一つ目と二つ目はどう考えても結局、裁判沙汰じゃないですか」
木下は頭を抱えていた。
しかし、綾瀬は困っていなかった。
「そこですよ。一つ目と二つ目はどっちにしても裁判沙汰になります。でも三つ目はどうでしょう。……これ、二つ目のチェックポイントと試されているものが似ている気がします」
「え、どこがですか?」
木下は理解できないでいた。
「結果的な話です。二つ目のチェックポイントは『協調性』。あそこでは結果的に、『話し合うことで和解する』というものになりました。ここで試されている『度胸』も、『話し合いを提示する度胸』があるのかどうかを試されている気がします」
「まあ、それは確かにわからなくもないですが……」
綾瀬は「それに……」と続けた。
「それに、この質問に対しては『直感で答えろ』と言ってました。つまり、私たちの意見は合わせる必要はなく、自分たちの立場になって考えたときに、直感的にどう動くかを試されていると思います」
「……なるほど」
綾瀬の言葉に、木下は納得したようで小さく頷いた。
そして、二人は声を揃えて答える。
『Cです』
「……回答を認識した。出口を目指せ」
偶像はそう言うと、端末のロックを解除した。
木下はその端末を何も話さずに取りに行く。
「……意見、合いましたね」
綾瀬は木下の顔を見ずに言う。
「ですね。綾瀬さんも、やっぱり話し合いたいと思う派なんですね」
「そりゃそうですよ。二つ目のチェックポイントの時も言いましたけど、『関係を崩さない』のが一番です。こんなことで咎めてる暇があるなら、それは本当に愛してるとは言わないと思います」
「そんなことしてないで、話し合って、自分に向き合ってほしい、って思うのが普通ですよね」
綾瀬と木下はそう言いながら、だんだん笑いがこみあげてきていた。
綾瀬は笑いそうにながらも、木下の手を掴んで歩を進めた。
「さ! あとは出口に向かうだけです! 行きましょう! 咲良さん!」
「……っ!」
突然の綾瀬からの呼び方の変更に、思わず驚く木下。
驚いてはいたが、すぐに表情は笑顔になり、こう返した。
「はい、行きましょうか。凛さん」
二人はそのまま、出口を目指した。
*
「二人の相性は……………………」
『……………………』
『相性占い』の出口にある機械にて、木下は端末を置いた。
二人は機械の占い結果が発表されるのを黙って待っていた。
「相性ピッタリ! お二人はお似合いのカップル! 結婚しても困らないこと間違いなしです!」
その機械の占い結果に、二人は爆笑していた。
「ははははっ! ま、そうなりますよね!」
「予想はしてましたけどね! ここで『相性最悪ぅー』とか言われたら、それはそれで面白かったですけど」
綾瀬と二人はさらに腹を抱えて爆笑していた。
「お二人ともお疲れさまでした! 『相性ピッタリ』が出るのなんて久しぶりです! すごいですね! もしカップルなら本当に結婚しても問題ないと思います!」
「はははっ、ありがとうございます」
木下はそう言いながら端末をスタッフに渡し、その場を後にした。
「しっかし、本当にリアルなアトラクションでしたねー」
「ですねー。あのアトラクション、定期的に喧嘩しながら出てくるカップルとかいそうですね」
その様子は容易に想像できた。
木下は綾瀬とのやり取りを経て、一つの提案をする。
「あの、凛さん」
「? なんですか?」
「あの、これは一つの提案なんですけど」
木下は少し照れながら綾瀬に言う。
「私たち、一応同い年なんですし、タメ口で話しません? その……、今まで他校の生徒っていうことで敬語で話してましたけど、なんかもう少し距離感詰めてもいいかなー、って……」
木下はそう言いながら、綾瀬の様子を伺った。
……綾瀬の表情は笑顔であった。
「いいんですか!? あ、じゃなかった。いいんだね! いやー、実は前から私も気になってたんだよー。一応咲良さんは恋のライバルですけど、なんかこう、似たところあるなーと思ってたから、どこかでその話はしたいなと思ってたんだよね」
「……じゃあ……!」
「もっちろん! これからもよろしくね! 咲良さん!」
「……うん!」
こうして、恋のライバルながらも親睦を深めた綾瀬と木下であった。
と、親睦を深めたのも束の間、目の前から見覚えのある人物が二人、姿を現す。
「も、もう無理ですぅ……」
「や、やった、出口だ! 琴原先輩出口ですよ!」
『…………浮気だ』
綾瀬と木下は声を揃えて、冷たい声で言う。
そこには、お化け屋敷から脱出成功した鈴村と琴原が、琴原が鈴村にしがみついた状態で立っていた。




