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鈴村くんは間違えない  作者: シア
第2章 『蒼碧祭』

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第24話 知られたくない関係

飯田いいだ会長! 大丈夫ですか!? 飯田会長!」


 蒼碧祭開催まで一週間を切り、どのクラスも準備が佳境に入った緑ヶ丘学園の校舎裏にて、緑ヶ丘学園高等部生徒会長、飯田勝翔いいだしょうとは雨に打たれながら横たわっていた。


 頬には痛々しい切り傷が残り、血が雨水と交じり合っていた。


「……す、鈴村すずむらか」


「はい! 俺です! 鈴村です! 何があったんですか!? 顔の傷やばいですよ!」


 鈴村徹すずむらとおるは蒼碧祭の準備を同じクラスの綾瀬凛あやせりんと行っていたが、その休憩中に学園内に不審な人物が侵入したことに気づく。


 明らかに怪しいその人物を鈴村が見た瞬間、鈴村が所持している『人生の選択肢』が光り輝くのが視界の端に見えていた。


 直観的に危険だと察し、綾瀬は教室に残るよう伝えて鈴村は教室を飛び出して、『人生の選択肢』に記載された内容を確認した。




【人生の選択肢】


 A.緑ヶ丘学園校門付近にいた人物を追いかける。


 B.緑ヶ丘学園校門付近にいた人物を追いかけず、見て見ぬふりをする。




 これが今回、『人生の選択肢』に記載された内容であった。


 これに対する【選択の簡易的結果】は記載されていなかったが、これがこのタイミングで記載されている理由は明白であった。


 ここで選択をしないと、鈴村の人生が大きく左右することになる。鈴村はそれ以上に、自分以外の人間にも危害が及ぶと考えた。


 結果、鈴村はAの選択肢を選び、不審者が現れたと思われる場所へと辿り着いた。


っ……てぇ……。やけにいてぇと思ったら顔に傷できてんのか……」


「ちょ、ちょっと待ってくださいね! ハンカチ持ってるんで、一旦傷口押さえます!」


 そう言って鈴村はポケットからハンカチを取り出し、飯田の顔についた傷口を止血するように力を少し込めて押さえた。


「飯田会長、立てますか? とりあえず保健室に行きましょう! こんな雨ですし風邪引く危険性もあります! ……それに、何があったか説明してほしいんです」


「……悪いな、鈴村。立ちたいんだが……、結構な力で殴られたっぽくて、頭が少しクラクラするんだ。そのせいかもしれないんだが、すまん、立てない」


「えっ!? ……わかりました、ちょっと俺人呼んできます。もう先生くらいしか残ってないと思うんで、職員室行ってきますね」


「あぁ、悪いな」


 そう言って鈴村は、職員室へ向かおうとした。


 しかしその時、鈴村の前に一人の男が現れた。


「……その必要はないぜ、徹」


「……綾瀬のお父さん!?」


「今は理事長って呼んでほしいわ」


 緑ヶ丘学園理事長、綾瀬忠一あやせただかずであった。


 思わず人物の登場に飯田は驚愕する。


「り、理事長……。なんでここに……」


「なんでそんな驚いた顔してんだよ。驚いてんのはこっちのほうだ。あの力自慢の飯田がぶっ倒れてるなんて、明日は雪でも降るんかね」


「すみません、理事長……」


「……とりあえず保健室運ぶぞ。徹、手伝ってくれ」


「あ、はい!」


 そうして、飯田は理事長と鈴村の二人がかりで保健室に運ばれた。


 その様子を、青海学園高等部生徒会長の桜庭さくらばみやびと、副会長の柳美奈やなぎみなが見ていた。


「……うちが見た未来そのまんまッス……」


 飯田が倒れていたその姿を見て、柳は恐怖のあまり涙を流していた。


「やっぱり誰かに殴られてたんスね……。あの怪我、相当のものッスよ」


「……飯田生徒会長」


 雨が降る中、傘を差さず二人は運ばれる飯田の様子を見ていた。


「やはり……、先ほどすれ違った、あの男性の方……でしょうか」


「……そう見てたぶん間違いはないッス。こっちのほうから逃げるように出て行ったし、何よりこの雨の中傘を差してないなんて怪しさ満点ッス。あの人で間違いないッスね」


「でも、見かけない顔でしたね……。飯田生徒会長とどういうご関係なのでしょうか……。とりあえず、私たちも保健室に行きましょう。飯田生徒会長が心配です」


 そう言って桜庭は保健室へ向かおうとするが、柳はその手を掴んで桜庭を止めた。


「……ほんとに行くんスね。みやびっち」


「私たちが関わったらいけない、というお話ですか? ご心配は感謝します。ですが、今現状、目の前で起きていることを見て見ぬフリはできません。お手伝いできる人数は多いほうが良いです」


「……でも、今回限りは本当にやばい気がするッス。未来を見たときに直観的に思ったんスよ。これはあまりにも危険で、関わったら本当に今後の人生に関わることになるって……」


 柳は神妙な面持ちで言った。


 しかし、桜庭は恐怖こそあったものの、それを表に出さず立ち向かおうとしていた。


「私はあの人が去るときに、『蒼碧祭に関すること』を口に出していたのを耳にしました。あの人が飯田生徒会長とどういうご関係で、何を企んでいるのかはわかりませんが、これだけは確実に言えます」


 桜庭は真剣な顔で言った。




「あの人は私たちの、飯田生徒会長の敵です」




「そ、それはそうッスけど……」


「蒼碧祭のことを口にしている、飯田生徒会長を殴った疑いがある。こんなことをしておいてあの人を野放しにはできません。確実に蒼碧祭中にあの人は再び姿を現し、事件を起こすでしょう。私たちはその解決の手助けをしなければなりません」


 桜庭の体は震えていた。


 それは雨で体が冷えているわけではない。


 桜庭も本能的に、飯田を殴った相手が危険な人間であることを察しており、恐怖しているがために震えていたのだった。


 しかし桜庭は、それを覚悟して柳に言った。


「……体、震えてるッスよ、みやびっち」


「こ、これは……! あ、雨で体が冷えただけですわ」


「嘘つくの下手ッスね、みやびっち」


「う、嘘なんかでは……」


 桜庭は自分の腕を逆の手で掴み、顔を俯かせながら言った。


「……ちゃんと覚悟してるんスね、みやびっち。この先に起こる未来に立ち向かう覚悟が」


「……ええ、もちろんですわ」


「わかったッス。うちもついていきます」


「い、いや、それでは柳さんも危険な目に……」


「なぁーに言ってんスか。うちは生徒会副会長ッスよ? うちはどんな時でも生徒会長のみやびっちを支えられる覚悟があるッス。危険なのはわかってるッスよ。……()()()()から」


「……そう、そこまで()()んですね」


 柳は桜庭に強そうに言うが、しかし柳も桜庭と同様恐怖でいっぱいだった。


 しかし、桜庭の姿を見て柳は決心する。


「とりあえず、うちらも保健室行きましょう。飯田生徒会長が心配ッス」


「ええ、そうですね。行きましょう」


 そう言って、二人は保健室へと向かった。




                   *




「……、ん、あれ、……ここどこだ……?」


「おはよう、飯田。気分はどうだ」


「……理事長。最悪な気分です」


 飯田は保健室のベッドの上で目を覚ました。


 その横には飯田が眠っている間ずっと看病をしていた理事長と、鈴村が立っていた。


「飯田会長! よかった、目が覚めたんですね!」


「あぁ、おかげさまでな。……悪かったな」


「いや、なんで謝るんですか! 俺がもっとあの不審者に気づいてれば、もっと早く飯田会長と合流できてれば、こんなことにはならなかったのに……」


 鈴村は拳を強く握って自分の不甲斐なさを恨む。


 飯田は鈴村の言った言葉を聞いて察した。


「……あいつが来たの、気づいてたのか」


「蒼碧祭の準備の休憩中外を見てたんです。そしたら、うちの制服でも、青海おうみ学園の制服でもない制服を着た男が入ってきたのが見えて……。やばいと思ってあいつを追いかけてました」


「んで、辿り着いた時には俺が倒れてたと」


「……本当に申し訳ないです」


「謝らないでくれ、鈴村。俺がぶっ倒れるくらいの相手だ。恐らく鈴村が助太刀に入っても、逆にのされて終わりだ」


「……俺ってそんなに頼りないですか?」


 少し自信がなくなる鈴村であった。


 その言葉に理事長は爆笑していた。


「はっはっは! 確かにあいつ相手にしたら徹は即KOだろうな。むしろ遭遇しなくて正解だったと思うぜ」


「こんな時に笑えるなんてどうかしてますよ、理事長。確かに理事長の言う通りかもしれないですけど、話し合って解決する方法だってあったと思います」


「それで解決してたら飯田はここに寝てないんだがな」


「…………それは……」


 鈴村は黙り込んでしまった。


「……飯田、あいつが来たんだな」


「理事長、あいつのこと知ってるんですか」


「ああ。そういう目をつけておかないといけない不良どもの様子を伺うのも俺の仕事でな。緑ヶ丘市に存在する学校にいる不良たちの情報は全て持ってるぞ」


「……プライバシーってないんですかね」


 少し不安になる鈴村だったが、それは飯田を殴った相手に同情してしまうことになってしまうため考えるのをやめた。


「それで、飯田会長をこんな目にしたのは、誰なんですか?」


「……飯田」


「……いいですよ。どうせいずれどこかのタイミングで逆恨みが爆発して襲ってくるだろうと思ってましたし。……このタイミングは最悪ですけど」


「だろうな。蒼碧祭まで残り数日ってときにやってくるんだ。あいつにもいろいろ考えがあるんだろう。それこそ、飯田を思う存分痛めつけ、蒼碧祭を台無しにするくらいのことを考えてるんだと思うぜ」


「蒼碧祭を……台無しに……!?」


 と、そのタイミングで保健室の扉が力強く開いた。


「飯田君! 大丈夫!? 飯田君!」


「……詩織しおりか」


 飯田のパートナーであり、緑ヶ丘学園高等部生徒会副会長の宮田詩織みやたしおりだった。


 宮田は飯田の件を聞き、走って保健室まで辿り着いた。少し息を切らしていたが、徐々に落ち着きを取り戻し始め、ゆっくりと飯田の元へ歩み寄った。


「……大丈夫なの……? 飯田君」


「ああ、大丈夫だよ、心配すんな。……と言いたいところなんだけど、ちょっと今回はキツいわ」


 飯田は顔を引きつらせながら言う。


「顔はいてえし体はバキバキだし。あの一発食らっただけでこの様なんて、俺も鍛えなおさないとなぁ……」


「ここに来る途中、まだ校内にいた生徒たち全員が不審者を見たって話していたわ。私は急いでいたからその話をしっかり聞くことができなかったけど、桜庭生徒会長たちと合流して確信に至ったわ」


「桜庭生徒会長……?」


 飯田がそう言うと同タイミングで、桜庭と柳が保健室に到着した。


 桜庭は飯田のその無惨な姿に、思わず顔を隠してしまう。


「……飯田生徒会長、大丈夫……、じゃなさそうッスね」


「来てくれたんですね、桜庭生徒会長。柳副会長」


「……えぇ、柳さんの『未来予知』で飯田生徒会長に悲惨な未来が待ち受けているとお聞きし、様子を見に来た次第です」


 鈴村は桜庭の言った言葉が理解できなかった。


「ちょ、ちょっと待ってください、桜庭生徒会長。心配してここに来てくださったのは感謝します。ですがちょっと聞き流してはいけない言葉が出た気が……」


「徹。その話はあとだ。いくらでも説明できる。今は飯田に集中しろ」


「うちは別にいいッスよ。……あんま知られたくないッスけど、ここにいる人たちだけが知ることになるなら問題ないッス」


「じゃあ、私たちが知っても問題ないですよね?」


 その声は綾瀬であった。


 綾瀬は鈴村が勢いよく教室から飛び出してしまったことにびっくりしていた。


 綾瀬は少し驚いた後、しっかり鈴村の言うことを聞いて作業をしていたが、その数十分後、至る所から嫌な噂が飛び交うのが聞こえていた。


 その噂が飛び交うのと同時に、鈴村が追いかけていたはずの不審者が行内から出て行くのを綾瀬は見ていた。


 これはただことではないと考え、綾瀬は鈴村を探すことを決意。噂を聞きつけた琴原ことはらとも合流し、鈴村を探した結果、保健室へ辿り着いた。


「綾瀬さんに、琴原さんッスか。まあ、生徒会メンバーであれば問題ないッスね。いいッスよ。教えます。うちの秘密」


 柳は全員がいる目の前で自分の秘密を打ち明けた。




「うち、未来が見えるんスよ。『未来予知』って単純に呼んでるんスけど、言ってしまえば超能力……みたいなものなんスかね」




「ちょ、超能力?」


 綾瀬は耳を疑った。


「何言ってるんだって顔してるッスけど、事実ッス。うち、少し集中するとその先に起こる未来が見える特異体質なんス。集中しまくればするほどその見える未来はより鮮明になり、見える未来の時期も特定できます」


「そ、そんな超能力者みたいなこと、本当にできるんですか?」


 琴原は半信半疑だった。


「ま、普通の人は信じないッスよね。今実演してもいいんスけど……。あまりそういう空気じゃないので遠慮しておくッス。ここで会話しているうちに証明することにもなるので」


「じゃあ、柳副会長がここに来たのは、その『未来予知』を使ったから、ってことですか?」


 鈴村は柳に問う。


 その問いに桜庭が答えた。


「えぇ。その通りですわ。私は先ほどまで、飯田生徒会長と共に蒼碧祭の準備をしていました。その時、飯田生徒会長が不審者を発見して教室から出たんです。少し嫌な予感がして、私から柳さんに『未来予知』をお願いしました」


「ということは、桜庭生徒会長は柳副会長の秘密を知っていたってことですか?」


 鈴村は今度は桜庭に問う。


「はい。そして柳さんの『未来予知』の結果、『飯田生徒会長が誰かに殴られて大けがをする』という未来が見えたそうです」


『なっ……!?』


 その『未来予知』は、まさしく鈴村が目撃した様子そのものであり、飯田の顔についた傷がその『未来予知』の真相を物語っていた。


「そこで心配になって私たち二人は飯田生徒会長の後を追った、というわけです」


「結果的にうちの見た未来通りになってしまったッス。……ごめんなさい」


 桜庭と柳は飯田に深々と頭を下げた。


「いいんですって。相手が相手ですから。こうなるのは覚悟してました」


「飯田会長。いい加減教えてください。飯田会長を殴った相手って、誰なんですか」


 鈴村は、憤る感情を抑えきれない様子で飯田に聞いた。


「……あいつのことはあんま皆には知られたくないんだけどなぁ」


 飯田は天井を見ながら言う。


「飯田君」


「ん? なんだよ、詩織」


 宮田はベッドで横になる飯田のすぐ近くに寄り添って言った。


「来ちゃったのね、あいつが」


「……ああ」


「え、宮田先輩も知ってるんですか?」


「……えぇ。私も二度と会いたくない男よ。……飯田君、もうここまで来たら隠す必要もないわ。話しちゃいましょう」


「それもそうだなぁ。隠しててもしょうがないし。知っててほしいことでもあるしな」


 そう言って、飯田は体を起こし、全員に向かって事の顛末を話した。




「俺のことを殴った相手は、俺が中学の時に同級生だった『橘光たちばなひかり』だ。中学当時にちょっとしたいざこざがあってな。それからあいつは俺のことを恨むようになったんだ。ただの逆恨みに近いが……。で、その逆恨みをしに来たってところだな」




「さ、逆恨みって……。いくら何でもやっていいことと悪いことが……」


 鈴村は言うが、飯田はその発言を否定した。


「あいつは鈴村の言う『やっていいことと悪いこと』の区別なんてつけられないんだよ。自分が気にくわないと思ったことに対しては全て暴力で解決する。そういう男なんだ」


「なんですか……、その古臭いヤンキーみたいな考え……」


 鈴村の発言に、飯田は思わず笑ってしまった。


「ぶはっ! ははははは!! あいつ年下にこんなこと言われてやがる! やっべー、笑いすぎて涙出てきたわ。録音して聞かせてやりたいくらいだぜ」


「ちょ、飯田会長! 俺は真面目に……!」


「ああ、わかってるよ。ありがとう。お前の気持ちはよく伝わってる。俺のために怒ってくれてありがとうな」


 そう言って、飯田は鈴村の頭を撫でた。


「理事長も橘っていう人を知ってたんですか?」


 琴原は理事長に向かって聞いた。


「ああ。橘光。確かに飯田の言う通り、中学は飯田と同じだったらしく、その時から全てを暴力で解決して、その時に点在していた不良集団のおさをやってたらしいぜ。飯田も似たようなことをしてたみたいだけどな」


「そうなんですね。……って、えぇっ!? 飯田会長もそういうことしてたんですか!?」


「……理事長、あんま余計なこと言わないでください」


「え、これって今隠すこと? 言ったほうがいいと思ったんだけど」


「はぁ……」


 飯田は理事長の行動に呆れていた。


「仕方ない。全部話すしかないかなぁ」


 飯田は何かを諦めたかのように言った。


「よしわかった。俺とあいつ、橘の関係を全てここで話してやるよ」


 そうして、飯田は橘に逆恨みをされる原因ともなり、宮田と交際をすることになったあの事件のことを全て話した。




                   *




「み、宮田先輩と飯田会長にそんな出会いが……!?」


「あのなぁ鈴村……。今の話の論点そこじゃねえだろ……」


「あ、すみません。なんかすごくロマンチックっていうか、不良ながらも女の子を助けるその姿がすごく男らしく感じたというか……」


「……あんまそういうの繰り返し言わないでくれ。恥ずかしい」


 そう言って、飯田は少し視線を逸らした。


 一方宮田は途中から恥ずかしくなり、保健室の端のほうで丸くなっていた。


 飯田は手をポンと叩いて言った。


「まあそんなわけだ。皆には迷惑をかけて申し訳ないと思ってるが、これは俺の問題なんだ。心遣いはありがたいんだけど、これ以上お前らを危険な目に遭わせるわけにはいかない。これは、俺だけで解決する」


「飯田君……」


 飯田の言葉に、宮田は心配の声をかけようとした。


 しかしそれよりも前に、鈴村が先に口を開いた。


「……何言ってるんですか、飯田会長。確かにこれは飯田会長の問題かもしれないですが、その橘ってやつは蒼碧祭を壊そうとしてるんですよ。飯田会長だけにすべてを任せるなんてできません」


「じゃあなんだ? お前が先陣きって橘と真正面からやりあって、大勝利をしてくれるのか? 俺が一発KOした相手だぞ?」


「うぐっ……、それは……」


「話を聞いてくれた通り、俺は昔は喧嘩が強かった。考えはあいつと違えど、問題は全て力でねじ伏せてきたんだよ。そんな男が今生徒会長やってるんだぜ」


 と、飯田はそこまで言って、顔を下に向けて言った。


「……失望したよな」


 その言葉は、飯田が一番恐れていることだった。


 緑ヶ丘学園高等部生徒会長。それは学力が全校生徒でトップで、運動神経も抜群。人望もあり、様々な人から頼られる全校生徒の憧れの存在であった。


 しかし、飯田は自分の過去を知られることで、そのイメージが崩れることが怖かった。


 飯田としては、特にそのイメージが壊れたところで思うところは何もなかった。その過去は事実だからである。


 だが、イメージが壊れても、人から失望されるということは避けたかった。


 だからこそ、この過去は知られたくなかったし、話したくもなかったのである。


「飯田君、今回はタイミングが悪かったと考えましょう。気持ちを切り替えて、あいつが来ないことを祈って蒼碧祭を乗り越えるしかないわ」


 宮田はそう言うが、飯田はそれを否定した。


「いや、あいつは必ず蒼碧祭を壊しにこの三日間のどこかで必ず現れる。刃物持って暴れる……ってのも考えられなくはないが、大騒ぎにするくらいのことはするだろう」




「よし、それじゃ蒼碧祭は中止だな」




「お、お父さん!?」


 飯田の言葉に理事長は告げる。その言葉に綾瀬は思わず反応してしまった。


「だってそうだろ。蒼碧祭やったら逆恨み犯罪者予備軍がやってきて、考えたくないが警察沙汰になるんだろ? それじゃ蒼碧祭やる意味がない。生徒の安全のほうが第一だ。この結論は至って普通だと思うけどな」


「そ、それはそうですけど……」


 綾瀬は困ってしまった。確かに理事長の言い分には一理あり、それに反論する術はなかった。


 しかし、飯田は理事長の意見を否定した。


「理事長。俺はやりますよ、蒼碧祭」


「……お前、自分が何言ってるかわかってんのか?」


「はい、重々承知の上で言ってます」




「バカにするもの大概にしろよクソガキ!!!!!!!」




「…………っ!」


 理事長は大声で飯田に怒鳴った。


 その迫力に、飯田は黙り込んだ。


 周りにいた人たちも、その圧に黙り込んでしまった。


「あのな。確かにこれはお前の問題だ。だけどその標的がお前から蒼碧祭に、うちと青海学園の生徒全員に移ってんだよ。お前のそのガキみたいなわがままで蒼碧祭開催して、取り返しのつかないことになったらどう責任取るつもりだ」


「…………」


「お前の! そのわがままで! うちの生徒、青海学園の生徒に被害が及んだ時! お前はどう責任を取るんだって聞いてんだよ!」


「…………それは」


 飯田は言葉に詰まった。


 確かに飯田は蒼碧祭を開催させたかった。それは全校生徒が心待ちにしている文化祭を無事に開催させたい思いもあり、高校生活最後の文化祭を開催させたい思いもあった。


 だが、実際は理事長の言う通りである。蒼碧祭を開催する以上、橘が蒼碧祭に現れ、問題を起こすことは明白であった。


 飯田の子供じみたわがままは、大人の理事長に通るわけがなかった。


「……いえ、やりましょう。蒼碧祭」


「……あ?」


 そう言ったのは鈴村であった。


「……徹。お前もクソガキの仲間入りか? 話聞いてたか? 俺はお前の学力を見込んで生徒会に入れたつもりだ。その頭脳はただ勉強ができるだけにあるのか?」


 圧をかけて鈴村に問いかける理事長だったが、しかし鈴村はそれにおくさなかった。


「そんなわけないじゃないですか。俺だって、飯田会長だって、今までの話を聞いてなお、生半可な気持ちでやるなんて言ってません」


「じゃあなんだ、蒼碧祭を無事に開催して、何事もなく平和に終わらせられる作戦でもあんのかよ」


「ええ、ありますよ。ね、柳副会長」


 そう言って、鈴村は柳の顔を見た。


「えっ、うちッスか!?」


 柳は突然話を振られ驚いた。


 その様子を見て宮田は察しがついたのか、「なるほどね……」と呟いた。


 鈴村は理事長に向けて言う。


「俺らが何も考えないで蒼碧祭をこのままやろうなんて思ってないです。しっかりとした作戦があります」


「……言ってみろよ」


「柳副会長の『未来予知』を使うんです。橘の目的は『蒼碧祭を壊すこと』。であれば、三日間ある蒼碧祭のうち一番重要なタイミングで姿を現すと予測できます。その姿を現す日や時間、場所を柳副会長の『未来予知』で予知してもらい、先にこちらから撃退するんです」


「なるほどなぁ……。まあ、確かに作戦としてはいいだろう。で、具体的な撃退方法は? 気にくわないことに対しては暴力で全てを解決してくる奴が相手だぞ? どうやって撃退するんだよ」


「向こうは暴力を武器にしてきます。かといって、こちらも暴力で解決しようとしたら、それは来年以降の蒼碧祭開催に支障が出ます。では、精神攻撃だったらどうでしょう」


「精神攻撃?」


 理事長は理解できない顔をしていた。


「柳副会長。俺は大体予測できていますが、念のため軽くでいいので橘が現れる日を『未来予知』してもらっていいですか」


「……鈴村っち。簡単に言ってくれるッスけどねぇ、最大四日後までの未来を見るのってかなーーーーーり体力使うんスよ。ただでさえ疲れてるのに」


「わかってます。お礼ならいくらでもします。お願いします」


 そう言って、鈴村は柳に頭を下げてお願いをした。


「……仕方ないッスね。うちの見た未来は絶対に、誰がどう過去改変しようと捻じ曲げることのできない、言ってしまえば『確定している未来』ッス。……まあうちもあらかた予想はついてるッスけど……」


「すみません、お願いします」


 そう言って、柳は目を瞑り、集中を始めた。


「……本当にこれで未来が見えるんですか?」


 綾瀬は未だ半信半疑であった。


 その言葉に、桜庭が答える。


「さっきも言いましたわ。私と柳さんは、柳さんが未来を見たからここにいると。そうでもなければ、この大雨の中、傘も差さずに外には出ませんわよ」


「……確かに。それ聞くと信憑性上がりますね」


「加えてこの結果です。柳さんの特異体質のことを最初に聞いた時は驚きましたが、柳さんの力は本物です。今は、柳さんを信じましょう」


「……はい」


 綾瀬はその言葉に納得した。


「…………ハァッ、ハァッ。……見えたッス」


 柳はゆっくりと目を開き、息を切らしながら言った。




「橘は蒼碧祭三日目、緑ヶ丘学園高等部の体育館に姿を現します」




 そう言って、柳はその場に倒れた。


 思わず鈴村は柳の元に駆け寄る。


「ごめんなさい、柳副会長……! 無理強いしちゃって……。今ベッドに運びます」


 そう言って、鈴村は桜庭と協力し保健室の空いているベッドに横たわらせた。


「いいんスよ……。これも未来のためッス。……で、鈴村っちの予想と一致してたッスか?」


「……はい、ドンピシャです」


 鈴村はにっこりと笑った。


「蒼碧祭を壊す最大のチャンス。それは蒼碧祭三日目です。三日目は俺が提案した通り、劇などの出し物はもちろん、お互いの学園の良いところ、アピールしたいところなど、お互いの学園を一般のお客さんにも知ってもらう時間を設ける予定です。そこで橘は、無差別な暴力事件を起こすと思ってます」


「……そこで何するかはお前の憶測だろ?」


 理事長が言う。


「はい。柳副会長には申し訳ないですが、体力が回復でき次第、具体的に何をするかを『未来予知』で見てもらいます。その結果をもとに、俺らは奴に精神攻撃を仕掛け、これ以上うちにも、青海学園にも近づけないようにさせます」


「でも、それだと逆に鈴村君が逆恨みされるんじゃない……?」


 綾瀬は心配そうな顔で鈴村に言った。


「それは心配いらないよ、綾瀬。それは俺も思ったけど、しっかりと策があるから」


 鈴村はそう言いながら自分の懐にある『本』に手をそっと置いた。


「そっか、それならいいんだけど……」


「ここまでが俺の考えた作戦です。どうですか、理事長」


 鈴村は理事長に対して同意を求めるように言った。


「うーん……。確かに柳さんのその力は本物だと思っている。今現状、その姿がそれを物語ってるからな。……でもな、徹。未来は今自分が取る行動でいくらでも変えられるが、いくら過去を変えても変えられない未来ってのは存在する。それだけは忘れないでくれ」


「はい、承知してます」


「……でもまあ、お前ならそんな未来も簡単に捻じ曲げてくれそうだわ。よしわかった。お前を信じよう」


「理事長……!」


 理事長は鈴村の肩に手を置いて言った。




「うちの生徒を、青海学園の生徒を、蒼碧祭を頼んだぞ、徹」




「……はい!」


 鈴村はその理事長の言葉に、凛々しい顔で答えた。


(……私のことは頼ってくれないんだね)


 ふと、鈴歩すずほの声が鈴村の頭に響いた。


(お前そんな感じで俺に干渉できんのかよ……。お前の姿が見えない限りこっちから干渉できないもんだと思ってたわ)


(ふふっ、一応君からも私に干渉できる方法はあるんだけどね。君はまだ気づいてないみたい)


(方法があるなら教えてくれ……。……で、頼ってくれないってどういう意味だよ)


 鈴村は鈴歩に問いかける。


(いやぁー、こういう時に『人生の選択肢』に頼らないのかなぁーって)


(じゃあ聞くけど、なんであの不審者が出てきてから今に至るまで、選択肢は一回しか出さなかったんだ?)


(あれ、そうだっけ?)


 鈴歩はとぼけた顔をした。


(ああ。お前は俺が橘の姿を見たときに選択肢を二つ提示してきた。でもそれから飯田会長の話を聞いて今に至るまで、全く選択肢を出してこなかった)


(それは君の人生に関わることじゃないからじゃない?)


(本当に俺の人生に関わらないのなら、そもそも俺に橘の存在を認識させる必要もなかったはずだ。でもお前は、わざと俺に橘の存在を認識させるような選択肢を出した。あれは俺個人の『人生の選択肢』じゃない。俺に関わる別の人の『人生の選択肢』だったんじゃないのか?)


(………………)


 鈴歩は黙り込む。


(この問題が起こることをお前はわかってた。そして、これを野放しにすると、俺自身に取り返しのつかない未来が訪れるってわかってたんだろ? それこそ、タイムスリップする前のあの出来事に至る以前の未来が訪れるって。だからお前は、わざとあの選択肢を出した。あれじゃ二択じゃない。一択の選択肢を選べって言ってるようなもんだ)


(…………君は頭がいいのに、なんでタイムスリップ前はあんな人生を送ってたんだろうね)


(うるせえ。あれが俺の性格だったんだから仕方ないだろ)


 鈴村のその言葉に、鈴歩は「ふふっ」と笑った。


(その通りだよ。鈴村徹。この先の未来、君が行動をしないと誰も幸せにならない、悲惨な未来が訪れる。私は君にそれを阻止してほしかったんだ)


(やっぱりな……)


 鈴歩は鈴村に、頭を下げて言った。




(お願いだよ、鈴村徹。皆を助けてあげて。飯田勝翔を、宮田詩織を、みんなの未来を、助けてあげて)




 この鈴歩の願いは、鈴村にしかできない願いであった。


 これは生徒会メンバーの関係者に関わる未来であり、鈴村本人にも関わる未来である。


 鈴歩は結果的にではあるが、その悲惨な未来が鈴村に訪れることを恐れていた。


(大丈夫。もしかしたら鈴歩にも協力してもらうかもしれないけど、俺がみんなを助ける)


(何その言い方。結局私の事頼るんじゃん)


(まあ、やってることは柳副会長とあまり変わらないし……)


 その言葉に鈴歩は大笑いした。


(確かにそうだね。でも、柳美奈の力は未来を捻じ曲げることができない。だけど、君は未来を捻じ曲げることができる。……頼んだよ、鈴村徹)


(……ああ)




 様々な人が橘に立ち向かう覚悟を抱く。


 蒼碧祭を壊されたくない、皆の気持ちを踏みにじられたくない。そんな思いが皆の気持ちを一つにしていた。


 鈴村はさらに考えていた。




(飯田会長の高校生活最後の文化祭……、台無しにはさせない……!)




 かくして、蒼碧祭は当日を迎えるのであった。

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