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鈴村くんは間違えない  作者: シア
第2章 『蒼碧祭』

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第19話 ライバルからの挑戦状

 夏休みも終わり、タイムスリップした鈴村徹すずむらとおるの二度目の高校一年の二学期が始まった。


 緑ヶ丘学園高等部の生徒会メンバーは始業式を終えた後、生徒会室で会議をしようとしていたが、そこに青海おうみ学園高等部生徒会書記であり、鈴村の数少ない友人である木下咲良きのしたさくらが訪ねてくる。


 その目的は緑ヶ丘学園と青海学園で合同文化祭を行いたいというものであり、青海学園の学園長であり緑ヶ丘学園の理事長、綾瀬忠一あやせただかずと古い友人の水嶋宗一郎みずしまそういちろうも同席し、その会議は様々な意見が飛び交う白熱した会議となった。


 そんな中、鈴村の意見が見事に通り、これで緑ヶ丘学園と青海学園の合同文化祭、通称「蒼碧祭そうへきさい」の開催が決定された。


 その帰り道、鈴村は木下に呼び止められ、信じられないことを問われる。




「徹さ、彼女いるでしょ。しかも二人」




 鈴村が緑ヶ丘学園高等部生徒会書記で鈴村の幼馴染の綾瀬凛あやせりんと、同じく生徒会会計の琴原ことはらみどりと付き合っていることは緑ヶ丘学園の生徒会メンバーしか知らず、他校の生徒が知るすべはどこにもない。


 しかし、木下はその真実を言い当てた。


 鈴村がその問いに戸惑うのと同時に、『人生の選択肢』が鈴村に選択肢を提示した。




【人生の選択肢】




 A.木下咲良に「綾瀬凛と付き合っている」と伝える。


 B.木下咲良に「琴原みどりと付き合っている」と伝える。


 ※なお、今回は【選択の簡易的結果】は示さない。


 ※これ以外の選択肢を選ぶことは許されない。




 いつもは最低でも三つ提示される選択肢であったが、今回はなぜか二つのみ。さらに、その選択肢の内容は木下、そして綾瀬、琴原の三人に嘘をついてしまうものとなっていた。


「で? 実際どうなんだい? 鈴村徹君?」


 木下は興味津々で鈴村に詰め寄るが、鈴村は回答に困った。


(くそっ、なんでよりによってこの二つの選択肢しか出てこないんだ……! 正直に『綾瀬と琴原、二人と付き合っている』って言えばいいだけの話じゃないか……!)


 鈴村の考えはその通りであった。わざわざここで、木下に対して嘘をつく選択肢を選ぶ必要はないのである。


 しかし、選択肢の中にその内容はない。『人生の選択肢』に提示された選択肢を選ばなくても、自ら別の行動をすればそれが『自分の選択』として扱われ、その選択を選んだことになる、というルールがある。


 鈴村はこの行動を取ろうと考えていたが、注意書きの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という記載のおかげで行動できないでいた。


 鈴村は、木下に、そして、綾瀬と琴原の二人に嘘をつく選択肢を迫られていたのである。


(……鈴歩すずほ、もしかして、ここでどちらを取るかはっきりしておけ、って言いたいのか……?)


 鈴村は鈴歩との会話を試みたが、鈴歩と会話できる条件、そもそも、姿を見ることができる条件が判明していないため、それは叶わなかった。


(……やっぱ、二人同時に付き合うなんて無茶な話だったんだ。もともと、どっちかを選ぶしか、俺の選択肢にはなかったんだよ)


 鈴村は綾瀬、琴原の二人の気持ちを汲み取り、且つ自分の気持ちを掛け合わせて二人と付き合うと決めた。それは一瞬の幸せであり、一瞬の解決に至った。


 しかしそれは、あくまでその一瞬だけが解決しただけであり、この選択が後に問題になりえることは鈴村が一番よくわかっていた。だが、その問題になるタイミングやきっかけがどこにあるかまでは予測がついていなかった。


「おーい、徹? どうしたの? まさか無視? あ、答えられない理由とかあった?」


「……そんなのない」


「そう? じゃ、実際どうなのか教えてよ」


 キャピキャピしたギャルの印象から一変、木下は真面目な表情に変わって鈴村に再度問いただした。


「俺は……」


 鈴村は、少し考え、意を決して言った。




「俺は、綾瀬と付き合ってる」




 鈴村は、自分に、木下に、綾瀬、琴原に、様々な人に嘘をついた。


「……ふーん、そうなんだ。二人とは付き合ってないけど、綾瀬さんとは付き合ってるんだね」


 鈴村は木下の『綾瀬さん()()』という言葉が引っかかった。


(……やっぱり、こいつ気づいてるだろ……)


 鈴村は真面目な顔で答えたが、しかし、木下は笑顔になった。


「そっかー、徹にも彼女ができたかー! いやぁー、春ですねぇー」


「……秋だが?」


「言葉の意味を理解しないとダメだよ、徹」


「いや、意味はわかってる。ツッコミをしただけ」


「え、めずらし。徹ってそんなキャラだったっけ。あんだけ陰キャだった徹が」


「……それを言ったら咲良だって俺と似たようなもんだっただろ。なんでそんなギャル、っていうか、陽キャな容姿になったんだよ」


「うーん……、ま、徹の女事情を聞いたら答えるっていう約束だもんね。いいよ、教えてあげる」


 そう言って、木下は夕焼け空を見上げながら言った。




「私ね、中学のときに失恋したんだよね。それでそのとき、『今の自分じゃダメだ』と思って、自分を変えることにしたんだ」




「……それって……」


 鈴村には思い当たる節があった。


「そ、覚えてる? 中学卒業を間近に控えたあの日のこと」




「……ああ、覚えてるよ。お前が失恋した原因、俺だよな」




「……ご名答。あのことがあったからショックで立ち直れなくてねー。でも、自分が変わらないとダメって気づいたんだよ。だから今はこんな風になっちゃったんだ」


「……ごめん、俺のせいで」


 鈴村は謝罪をした。


「いいのいいの! もともと私もあんな陰キャから卒業したかったし。ちょうどよかったんだよ」


「……咲良がいいならいいんだ」


「おやおや? もしかして責任感じてくれてるのかな?」


「そ、そりゃそうだろ……」


「嬉しいなー。その責任は、私のことを考えてくれてるからこそ抱いてるものだよね」


「うーん、まあそういうことになるな」


 そう言うと、木下は不敵な笑みを浮かべて言った。


「よーし、徹の彼女が綾瀬さんなら、私、綾瀬さんに宣戦布告しよっかなぁー」


「…………は?」


 鈴村は耳を疑った。


 木下は鈴村の前に立って言う。




「一応言っておくね。私の、徹を思う気持ちはあの時から変わってないんだ。まだ徹のことを諦めてない。だから、チャンスがあるならそれを掴み取りに行くよ」




「えっ、それどういう……」


「ということで! まずは綾瀬さんと仲良くなるところからだ! おーい、綾瀬さーん!」


「ん? どうしたんですか、木下さん」


 木下はそう言いながら、前方に歩く綾瀬のところへ走って行った。


「……こりゃ厄介なことになったな……」


 鈴村は頭を抱えた。


(だけど、まだ咲良が俺のことを好きって、本当のことか……? 確かに中学卒業前のあの日、俺は咲良をフった。それでああなってしまったのは少し責任を感じたけど、それでも諦めてないって、本当なのか……?)


 鈴村は木下の気持ちがわからないでいた。


(……でも確かにあの日、俺が咲良をフった後、何か言ってたような……)


 鈴村は当時のことを思い出していた。




                  *




 鈴村徹が中学の卒業式を迎える二日前。


 鈴村は、木下に校舎裏に呼び出されていた。


「なんだよ咲良、こんなところに呼び出して」


「え、えっとね、徹! だ、大事な話があって……」


 陰キャで引っ込み思案な木下は、おどおどとした様子で鈴村に問う。


「あ、あのね徹。徹って、好きな人……いる?」


「好きな人?」


 鈴村はその問いに、口元に手を当てた。


 鈴村は既に綾瀬に好意を抱いていた。そのため、その回答に考える時間はそれほど必要ではなかった。


「うん、好きな人はいるよ。ずっと前から片思いだったんだ」


「……そっか、徹、好きな人いるんだ。しかも片思い、か……」


 木下の顔は少し曇った。


「……それって、どんな人?」


「え? それ聞く?」


「うん、まあ、どんな人を好きになったのかなーって」


 木下は恐る恐る鈴村に質問をした。


「んー、友達のお前だから言うけど、元気いっぱいで、趣味が合って、一緒にいて楽しい人、かな」


「……趣味って、ゲームとか、そういうの?」


「そう! やっぱゲームって楽しいし、その楽しさを共有できるのってさらに楽しいじゃん? あ、あと漫画とかもそうだなぁ」


「……そう、なんだ」


 木下は顔を下に向けた。


(……私は友達という友達がいない。もともと積極的に行動する性格じゃないし、女の子は皆ゲームとかしないし、漫画の話で盛り上がったりもしない。……この楽しさを共有できるのは、徹だけだと思ってたのに)


 木下は女友達がいなかった。というのも、性格上の問題もあったのだろうが、自分と趣味を同じにする人がいなかったのである。さらに、男子に話しかける勇気もなかったため、その話で盛り上がれる人物は現れなかった。


 しかし、ある日鈴村と会話をしたことをきっかけに、趣味が同じであることを知る。木下は、初めて()()()()()()()()()()()()()を発見することができた。


 それからというもの、木下は鈴村に積極的に話しかけるようになり、鈴村もそれを嫌な顔せず受け入れ、互いに仲良くなっていった。


 そして、いつしか木下の心の中には、鈴村に対する好意を抱くようになっていた。


(徹の好きな女の子のタイプ、私じゃダメだったのかな……)


 鈴村の発したいくつかの条件に当てはまるものは『趣味が合う』こと。木下は、鈴村が自分と一緒にいて楽しいかを知らなかった。


 木下はさらにここで鈴村に問いかける。


「もう中学も卒業じゃん。今まで私たち、ゲームの話とか漫画の話とかで盛り上がってたよね。それこそ、家に行ったりして遊んでたよね」


「あー、そうだなぁ。二日後には卒業かぁ。確かに咲良と家でゲームしたり、学校で漫画の話をしたりしてたのは楽しかったかな」


(……そっか、楽しかったんだ)


 条件の中の『一緒にいて楽しい』に合致することがわかり、木下は安堵した。


「じゃ、じゃあさ!」


「ん? なんだよ」


「その……、えっと、わ、私も楽しかったよ、徹との時間。友達がいない私と友達になってくれてありがとう」


「どうしたんだよ咲良、改まっちゃって」


 木下は、意を決して言った。




「あ、あのね! 徹が言ったその好きな人って……、わ、私の、こと……?」




 木下は怖気づいたのか、下を向いて目を瞑ってしまった。


 鈴村はその問いに、少し間を空けて答えた。




「……ごめん、咲良。俺が好きな人は、咲良じゃない」




 木下は、時が止まった感覚になった。


「そう、なんだね……」


 木下は声を振り絞って言った。


「俺さ、昔からずっと片思いだった女の子がいるんだ。でも、なかなか勇気出せなくて、もう何年も片思いを続けてる。そんで、進路希望調査の話があったとき、そいつは緑ヶ丘学園に進学するっていうのを聞いたんだよ」


「み、緑ヶ丘学園!? あの名門校の!?」


「あいつにも叶えたい夢があるらしいんだ。だけど、俺にとってはあいつと離れる未来が想像できない。離れたくない。片思いでもなんでもいいから、ずっとそばにいたいって思ったんだ」


「……そっか。じゃあ、私はやっぱり『友達』止まりなんだね」


「……そういうことになる。ごめん」


 鈴村は木下に頭を下げる。


「いいの、いいんだよ、徹。私が勘違いしてただけだし。私は徹のことを応援することしかできないから。……この中学生活、とても楽しかったよ。ありがとう」


 そう言う木下の目からは涙があふれるように出ていた。


「……俺も、楽しかった。辛い思いをさせちゃってごめん」


「じゃ、じゃあせめてさ! 私のことをもっと知ってほしいな! 私、青海おうみ学園に進学することになったんだけど、徹はどこに進学するの?」


「ああ、それなんだけどな……」


「おーい鈴村ぁ。そこにいたのか。探したぞ。お前のご両親と三者面談をしたいからこっちに来てくれ」


 と、言いかけたところで、鈴村の担任が校舎の窓から話しかけてきた。


「あ、はい、わかりました。今から行きます」


 鈴村はそう言って、その場を立ち去ろうとした。


「あ、待って!」


 木下は鈴村を呼び止めようと叫んだ。


 だがしかし、その声は鈴村には届かず、鈴村はそのまま校舎へと入っていってしまった。


「待って、……待ってよ、徹……。私を置いてかないで……」


 泣きながら木下は言った。


 ずっと想いを馳せていた異性から、『友達』止まりの関係として見られていた事実を、木下は受け入れられないでいた。


「元気いっぱいな子……。誰だろう……」


 木下は泣き崩れながら、鈴村が言っていた『鈴村の好きな人』の特徴を思い出していた。


「趣味が合う、一緒にいて楽しい、この二つはクリアしてる。問題は『元気いっぱいな子』……。私とは真逆の性格だ……」


 しかし、木下はあることを心に決める。




「……決めた。私変わる。変わって、徹にもう一度告白して、私が徹に一番相応しいってことを証明するんだ……!」




 そう木下が決意した二日後の中学卒業式。木下が散髪し、制服の着崩し、ネイルまでし始める俗にいう『ギャル』になって登場したのは、その日それなりに話題になったのであった。




                  *




「うーん、結局あのあと、担任に呼ばれたから咲良がなんて言ってたかわからないんだよなぁ……。卒業式当日になってイメチェンして現れたときはびっくりしたけど、まさか俺が原因だったとは……」


 鈴村は頭を抱えた。


 木下はまだ鈴村のことを諦めていない。故に、木下が文化祭の件で緑ヶ丘学園に現れたのは本当に建前で、真の目的は『鈴村に再度会い、気持ちを確かめ、チャンスがあるかどうかを確認しに来た』というものであった。


「……俺の知る咲良なら、俺が綾瀬と付き合ってると知った時点で諦めているはずだ。でも、今あいつは綾瀬と隣同士で楽しそうに話をしている。本当に自分が変わって、自分で未来を変えようとしてるんだ」


 鈴村は木下があの日の一件から、木下自身が変わったことを実感した。


「でもどうする……? 俺は本当は琴原先輩とも付き合ってる。……言い方は悪いけど二股だ。その事実を知って、咲良はどうするんだ?」


 鈴村にとってこれは一番知りたいことで合った。


 鈴村は木下に嘘をついている。真実を伝えていない。


 このため、木下は綾瀬に対しアクションを起こそうとしているが、同時に琴原のことはノーマークということになっている。


 つまり、このままでは木下が行っている行動は半分意味を成すが、もう半分は無意味になってしまう。琴原と付き合っている事実は変えられないからである。


(……いっそ正直に話すか……?)


 しかし、その選択を取ると『人生の選択肢』に提示された選択から逸れる行動を取ることになる。


 その行動を取ることは『人生の選択肢』から禁じられているため、それをすることができなくなっていた。


(でも、なんで正直に話すのがダメなんだ? 『人生の選択肢』って、……鈴歩って、俺自身なんだろ? だったら、正直に答えたほうがいい未来に繋がるんじゃないか?)


 そう考えていた矢先、鈴村の視線の先には見覚えのある人物が立っていた。


「……鈴歩」


「やっほー。やっぱりあの選択肢、困った?」


 鈴村の潜在意識であり、『人生の選択肢』を具現化した女性、鈴歩であった。


「すみません! ちょっと用事あるんで先に帰っててください!」


 鈴村はそう言って帰宅方向とは別方向に歩いて行った。


「お、おう? 気をつけてな!」


 飯田は鈴村に対して手を振った。


 その鈴村の様子を見て、綾瀬は疑問を抱いた。


「なんだろう、鈴村君。急に用事なんて。もうこのまま帰るだけだと思ってたのに」


「いいんじゃないですか? 徹にも用事の一つや二つ、できるもんですよ」


 綾瀬の発言に、木下は軽く答えた。


「しかもまた一人でぶつぶつ何か言ってたし……。やっぱりあの人と関係あるのかな」


「あの人?」


 木下は綾瀬の言葉に反応した。


「夏休みに生徒会に入ることが決まって少ししてから、鈴村君、『鈴歩』っていう名前の……、女の人? と話してるみたいなんですよ」


「……鈴歩?」


 木下の知らない人物が現れ、木下は少し焦りを感じていた。


「そう、鈴歩。鈴歩さんのほうが正しいのかな。私も実は鈴歩さんを見たことはあるんですけど、あれは見たっていうか、現実にいるかも怪しい人なんですよね」


「え、それ幽霊とかじゃないですか?」


「幽霊……とは違うんですよ。私も寝ぼけてたのであまりよく覚えてはないんですけど、でも確かにそこにいるようには感じました。だけど、実際触ろうとするといないみたいな、そんな感じです」


蜃気楼しんきろうとか、幻覚に近いって感じですかね」


「んー、それに近いですね。いずれにしても私もみどり先輩も、誰一人としてその『鈴歩さん』のことを知らないし、鈴村君に聞いてもはぐらかされるので、その人がどういう人なのか、鈴村君とどういう関係なのかがわからないんですよ」


「……綾瀬さんは、はっきりさせたくないですか?」


「え?」


 木下は真面目な表情で綾瀬に言った。


「さっき徹から聞きました。綾瀬さん、徹と付き合ってるんですよね」


「えっ!? 鈴村君、言っちゃったんですか!?」


「言っちゃったというか、私から言わせた、が正しいです」


 木下のその発言に、綾瀬は戸惑った。


 同時に、琴原も戸惑っていた。


(す、鈴村君、凛ちゃんと付き合ってるって言ったんですか……? 私と凛ちゃんの二人と、ではなく……? そりゃ、二股と思われるのが怖くてそう言ったのかもしれないですが……。……ではなぜそこで凛ちゃんの名前を……)


 仮に鈴村が付き合っていることがわかっていたとして、それが誰かを答えるとき、琴原の考えでは綾瀬、琴原の二人と付き合っていると答えると思っていた。


 しかし、一般的にそれは二股であり、仮にも友人にそんな事実は押し付けたくはないだろう、と琴原は考えた。


 であれば、どちらかと付き合っていると答えるのが流れであるが、琴原はここで自分の名前ではなく、綾瀬の名前が出ていたことに不満を感じていた。


(もしかして、まだ優劣がつけられているんでしょうか……)


 あまり考えたくないことが琴原の脳裏によぎった。


 木下は綾瀬に続けて話した。


「徹が女の子と付き合ってるんだろうなとは、今日生徒会室に行って徹の顔を見たときに薄々と感じていました。昔と印象が全く違ったので。だからさっき、徹に直接問いただしたんです」


「……それで、私の名前を出したと」


「そうです」


「……確かに、私は今、鈴村君とお付き合いしています。とはいっても、付き合い始めてまだ半月くらいしか経ってませんけどね」


「あれ、そうなんですか?」


「色々あったんですよ……。ほんとに」


 綾瀬は木下から目を逸らしながら言った。


「綾瀬さん。単刀直入に言いますね」


 木下はそう言うと、綾瀬と、そして琴原の前に立って言った。




「生徒会室に来て言った『徹にアタックしに来た』ってやつ、あれ本当です」




『…………え!?』


 綾瀬、琴原は驚く。琴原はさらに、この話を()()()()()()()ことに驚いていた。


「私、中学のとき徹に片思いしてたんです。中学時代は私友達いなくて、本当につまらない毎日だったんですけど、ある日徹と話すようになってから、趣味も合うしよく遊ぶようになって、毎日が楽しかったんです。それから、徹のことを好きになりました」


「それで、どうしたんですか?」


 綾瀬は問う。


「中学卒業の二日前くらいのときに徹に告白しました。それで、見事にフられました」


「…………そう、だったんですね」


 綾瀬は木下と目が合わせられなかった。


「理由を聞いたんですけど、徹には既に好きな子がいて、その人の特徴も教えてくれました。徹とは中学の時にいろいろ話をしてたので、それまでに関わった人の事も教えてくれましたよ」


「………………」


 綾瀬は黙り込む。


 木下はそんな綾瀬に、真実を問いかけた。




「綾瀬さん。徹があの時からずっと片思いしてた相手って、綾瀬さんですよね?」




 そしてさらに、木下は続ける。




「そして、琴原みどり先輩。あなたも、徹と付き合ってますよね」




「……へ?」


 琴原はそれを聞いて、この話を自分にされている理由を理解した。


(……そうですか、木下さん、わかってるんですね、私たちの関係のことを)


 木下は全てを見抜いていた。


「正直、徹がなんで半分嘘をついたのかは私にもわからないです。でも、今は綾瀬さんと琴原さんの二人と付き合っている。……一般的には二股と言われても仕方ないですけど、私は徹のことをわかってるつもりです。徹なりにいろいろ考えた結論がこれだったんでしょうね」


「木下さん……」


「その綾瀬さんの言う『鈴歩』って人がどんな人なのか気になりますが、これだけは言えます」


『な、何でしょうか……?』


 綾瀬と琴原は嫌な予感がしていた。




「私、徹の事まだ諦めてません。まだチャンスはあると思ってます。だから、今日は徹に会いに来るのもそうですが、その付き合っている相手に宣戦布告をしに来ました」




『……え?』


 二人はきょとんとした顔をした。


「一度はフられましたが、前と今では状況が全く違います。徹の好きな人の条件も判明してますし、私にはいろいろと作戦があります。もちろん、お二人に負ける気なんてどこにもありません。正々堂々、徹を奪ってみせますので覚悟しておいてくださいね!」


 そう言って、木下は二人を指さした。


「……ええ、いいでしょう、木下さん。その宣戦布告、受けて立ちます」


 綾瀬は言った。


「わ、私も! ……鈴村君へも思いは誰にも負けません。木下さんがどんなに優れていようと、私は負ける気ないです!」


 琴原も、木下の宣戦布告を受けた。


 木下は「あはっ♪」と笑いながら言った。


「じゃ、今日からこの三人はライバル関係ということですね。お互い、恨みっこなしですよ」


「あ、でも待ってください」


 琴原は挙手をして言う。


「そもそもなんですけど、現時点で既に私と凛ちゃんは鈴村君と付き合ってます。片や木下さんは片思い止まりで、鈴村君に意識してすらもらってないです。もうこの時点で勝敗が決まっているのではないでしょうか」


「あ、確かに」


 琴原の意見に、綾瀬は妙に納得した。


 しかし、木下はそれに反論した。


「ふっふっふー。それはわかってます、琴原先輩。今の時点では勝ち目はないだろうと。……だからこそ、私が直談判しに来たんですよ」


『ま、まさか……!?』


「そう! 緑ヶ丘学園と青海学園の合同文化祭『蒼碧祭』の開催を提案した理由には裏の理由があります! それは、この蒼碧祭で徹に近づき、徹に私のことを意識させること! そして、付き合ってもらうことです!」


「そ、そんな大がかりな……。そこまでしなくても……」


 木下は綾瀬の言葉に返した。


「だって……、緑ヶ丘学園って基本的に部外者立ち入り禁止じゃないですか」


「ああ、確かに」


「なので! 合法的に接触できる方法を考えた結果がこれなわけです!」


「……なんだか頭いいんだか悪いんだかわからなくなってきましたね」


 琴原は木下の行動力に頭を抱えていた。


「そもそも、私は徹の進学先を知らなかったんです。聞こうとしたんですけど邪魔が入って……。緑ヶ丘学園に通ってるのを知ったのも夏休みが終わる少し前でした。私は、この思いを抱えたまま高校生活を終えるなんて嫌なんです。どうせなら、この思いに白黒つけたい。そう思ったんですよ」


 木下は続けて言う。


「だからこそ、綾瀬さんと琴原先輩という二つの大きな壁を乗り越えて、徹を自分のものにします! それじゃ、また次の打合せの日に会いましょう!」


 そう言うと、木下は駅のある方向へと走って行った。


「…………なんかすごい人でしたね、木下さん」


 琴原が言う。


「そうですね……。鈴村君のお友達、あんな人だったんだ……。……ていうか鈴村君、小さい時からモテモテじゃん」


 いらぬことに気づく綾瀬であった。


「でも、宣戦布告されてしまった以上、木下さんを無視できなくなりました。ここは二人で一致団結して、鈴村君が取られるのを阻止しましょう」


「そうですね! この蒼碧祭でもいろんなイベントがあるでしょうし、みどり先輩、頑張りましょう!」


 二人は手を挙げて、「えい、えい、おー!」と叫んでいた。




                  *




 一方その頃、鈴村は鈴歩と帰路とは別方向に歩きながら話をしていた。


「一体どういうつもりなんだよ鈴歩……。あれじゃ木下、綾瀬、琴原の三人に嘘をついてるのと同じじゃねえか」


「そうだよ? そうしたほうが面白いかなって」


「あんたの面白さはここで求められてないんだよ……」


 鈴歩の行動に、鈴村は困惑した。


「なんで『綾瀬と琴原の二人と付き合っている』っていう選択肢を出さなかったんだ? しかも、その選択肢を俺自ら取ろうとするのも拒んだよな」


「うん、そうだね。それが君の人生の分岐点だからさ」


「それってどういう……」


「君さ、やっぱり綾瀬凛か、琴原みどりか、どっちかを選ばないといけないって悩んでるよね」


 鈴歩は真相を知る目で鈴村に言った。


「……なんでそんなことがわかるんだよ」


「君の潜在意識だからだよ。あの日、君は結果的に二人を選んだことにしたけど、本当は二人との関係を対等にできてないんじゃない? だから、さっきの選択肢で君は綾瀬凛を選んだ」


「………………」


「あの二つの選択肢で綾瀬凛を選んだということは、少なくとも今君の中では綾瀬凛のほうが気持ちが大きいということになる。だけど君は、琴原みどりを悲しませたくないという理由で二人を選んだ。この考えと行動には矛盾するものがあると思わない?」


「……確かに、それは鈴歩の言う通りだ」


 鈴村は鈴歩の発言に賛同した。


「やはり君の中ではまだ綾瀬凛と琴原みどりに対し優劣がつけられている。これをどうするかについては、君自身が決めるんだ」


「……いつもみたいに『人生の選択肢』で選択肢を選ばせないのか」


「それでもいいけど、今回は自分との対話を大事にしてほしいかな。君が綾瀬凛を、琴原みどりをどう思っているのか。もう一度、気持ちの整理をつけたほうがいいと思うよ」


「……なんというか、潜在意識という割には俺とは違う別人格って感じがするな、鈴歩は」


「んー、なんかそう言われるとそうかも。……もしかしたら君は中二病なのかもね」


「からかってる?」


「うん」


 即答であった。


「それじゃあ、私から一つヒントを……」


 と言いかけたところで、鈴歩は突然姿を消した。


「……え、あれ? 鈴歩? どこ行った? ヒントってなんだ?」


 鈴村は慌てて辺りを見渡すが、そこに鈴歩の姿はなかった。


「なんだよあいつ、急に出てきて急にいなくなりやがって……」


 と、そんなとき、後ろから声がした。


「いた! やっと追いついたよ徹!」


「……咲良?」


 そこには、走って追いかけてきた様子の木下がいた。


「はぁ……、はぁ……。私の最寄り駅こっちのほうだから歩いてたんだけど、徹が歩いてるのを見て追いかけてきたんだよ!」


「お、おう、そうか」


 まだ暑さが残る九月初めである。こんな日に運動すれば、当然汗はかく。


 その汗が、木下の着ている制服を透けさせていた。


(やばい……、木下の制服が、透けてる……)


 その様子を思わず鈴村はまじまじと見てしまっていた。


「ん? どうしたの徹……、って、あ、これかぁ。走ったもんなー。汗びっしょり……。……見た?」


「み、見てない見てない!」


「その嘘はさすがに無理だよ」


 木下は笑いながら言った。


「徹のえっち」


「だから見てないって!」


 木下はからかいながら言った。


「ねえ、徹」


「……なんだよ」


 木下は、鈴村に上目遣いで言った。




「今日さ、うちに来ない?」




「……は?」


 突然の木下の誘いに、困惑する鈴村。


「……ほら、早速考えるチャンスが訪れたよ、徹君」


 その様子を遠目で鈴歩は見ていた。

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