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鈴村くんは間違えない  作者: シア
第2章 『蒼碧祭』
18/20

第18話 提案

「それでですね! 今度の文化祭、うちの学校と合同でやってほしいんですよ!」


 青海おうみ学園高等部生徒会書記の木下咲良きのしたさくらは、緑ヶ丘学園高等部の生徒会室でお茶を飲んで言った。


 鈴村徹すずむらとおるのタイムスリップから一カ月。季節は秋。夏休みも明け二学期を迎えた。


 これから緑ヶ丘学園高等部の生徒会メンバーは今年の文化祭について話し合う予定だったが、突然、鈴村徹すずむらとおるの数少ない友人である木下咲良が生徒会室に現れる。


「青海学園と、合同で文化祭をやる……? どういうことか説明してもらっていいか?」


 木下のその提案に、緑ヶ丘学園高等部生徒会会長の飯田勝翔いいだしょうとは問いかける。


 ギャル恐怖症のため、体はブルブルと震えていた。


「……あれで大丈夫なんですかね、飯田会長」


「いいのよ。何かあったら私たちがいるし」


 鈴村と緑ヶ丘学園高等部生徒会副会長の宮田詩織みやたしおりは飯田の横で小さく会話していた。


 木下は話を続ける。


「うちと緑ヶ丘学園ってそれほど距離遠くないじゃないですか。うちも長年文化祭やってきたんですけど、最近集客率が悪くてですねー。生徒会長の提案で、どこかの学校と合同でできないかって話になったんです」


「なるほどなぁ。……でも、そういう話って普通生徒会長が直々に交渉しに来るべきなんじゃないか? 木下さん、生徒会書記なんだろ?」


「それは私も思うところなんですよねー。ほんとは会長も一緒に来る予定だったんですけど、今日はタイミング悪く体調崩してて……」


「そういうことか……。副会長は?」


「副会長は会長の看病をしているため来られないとのことで、私が来た次第なんです」


「なるほどね」


 木下の説明に飯田は納得した。


「しかし生徒会書記さんが一人で交渉に来るなんてすごいな。度胸は認めてやる」


「ありがとうございます。でも、私一度も一人で来たなんて言ってないですよ?」


「え?」


 その木下の言葉と同時に、生徒会室の扉が開いた。


「おーっすお前ら。元気にしてたか?」


「り、理事長!? ……と、誰?」


 そこには、緑ヶ丘学園の理事長、綾瀬忠一あやせただかずと、スーツをピシッと着用し、髪を七三分けにした見知らぬ男性が立っていた。


 飯田の反応を見て、理事長はその男性の紹介を始めた。




「そういや飯田も誰も会ったことなかったな。紹介するよ。こちら、青海学園の学園長である水嶋宗一郎みずしまそういちろうだ。俺の古き友人でもある」




『お、青海学園の学園長で、理事長のご友人!?』


 緑ヶ丘学園生徒会メンバー全員が驚く。


「いいねぇその反応。な? やっぱり少し遅れて登場したほうが面白かっただろ?」


「面白くないぞ忠一……。私は曲がりなりにも青海学園の学園長だ。大事な交渉の場に遅れてやってくるなど、本来あってはならん。全く、なんでいつもお前の気まぐれに付き合わなければならんのだ……」


「悪い悪い。そう怒んなって」


 水嶋はそう言ってズレた眼鏡を調整した。


「緑ヶ丘学園高等部生徒会の皆さん。この度はこの男のせいで到着が遅れてすまなかった。改めて、私は青海学園の学園長を勤めている水嶋だ。よろしく頼むよ」


『よ、よろしくお願いします』


 理事長とは正反対な姿勢を取られ、緑ヶ丘学園生徒会メンバーは全員戸惑いながらもお辞儀をした。


「り、理事長とはなんというか、性格が真逆ですね」


 飯田が言う。


「そうだろうとも。私は由緒正しい青海学園の人間だ。その学園を代表する人間がしっかりしていなければどうする。緑ヶ丘学園の学園長もしっかりした方だが、理事長をなぜこんな奴が勤めることができているのか、私には理解に苦しむな」


「なーんでそんなストレートに悪口言うかなぁ。俺とお前の仲じゃんか」


「それとこれとは話が違うんだよ忠一。公私混同こうしこんどうつつしんでくれ」


 そう言って、水嶋は肩に置かれた理事長の手をはたいた。


「り、理事長と水島学園長は仲がいいんですか?」


 鈴村が問う。


 理事長はその問いに答えた。


「ああ。宗一郎もこんな風にあしらってるけど、休日はよく酒を飲みかわす仲だ。こんなんだけど、ちゃんとした俺の友人だよ」


 理事長のその回答に水嶋はそっぽを向いていたが、理事長は『いつもの事』と判断して気にしなかった。


 水嶋は「こほん」と咳払いし、本題に戻る。


「それで、木下君。例の話はできたかい?」


「はい、今しがた文化祭の件を飯田生徒会長に提案したところです。……会長と副会長が来なかったことに不満を感じられていたそうですが」


 飯田は木下のその言葉に続けた。


「今回の件は他校と合同で文化祭を執り行うという提案だとお聞きしました。であれば、生徒会書記である木下さんではなく、青海学園生徒会長、副会長が交渉に来るのが道理かと思われます」


「うむ、私も本当は二人に行かせたかったんだが……、木下君からも聞いているとは思うが、生憎あいにく生徒会長は体調不良、副会長はその看病でつきっきりでね。今日予定が合うのが木下君しかいなかったんだ」


 木下はさらに続ける。


「しかし、生徒会書記一人だけ行かせるには交渉には何の力も発揮できない。だから私が来たんだ。これで十分ではないかね?」


「た、確かに、学園長直々に交渉に来られたのであれば、それは話が変わります」


 飯田は食い下がった。


「それに、この場には忠一もいる。この話を直接聞いてくれるんだ。何も問題はないと思うが」


「そうですね……。わかりました。とりあえず話を聞きましょう。……というか、その話であれば理事長と水島学園長が直接会話すれば良いのでは?」


 飯田はそう言うが、その言葉に理事長は笑ってしまう。


「はっはっは! あのな飯田。何度も言うがこれは他校同士の問題だ。生徒会役員だけで会話して成り立つ話じゃねえんだよ。もともとこの話はうちの生徒会、青海学園の生徒会、そして俺と、宗一郎で会話するつもりだったんだ。俺だってそれくらいはわきまええてるさ」


 飯田は「本当かなぁ……」という顔をして見せた。


「では本題に戻ろう」


 そう言って、水嶋は話を切り出した。


「木下君の話した通り、昨今、わが校の文化祭は集客率が極端に低下傾向にある。それに対し対応策を講じた結果、うちの生徒会長が『他校との合同文化祭をすれば良いのではないか』と提案してね。私は反対したが、しかし今までにやったことのない新しい試みでもあったんだ。だから、私はその提案を許可し、今ここで交渉しに来ているというわけだ」


「低下傾向にあるっていうのは、何か理由があるんですか?」


「もちろんだとも。……この男のせいだよ」


 そう言って、水嶋は理事長を指さした。


 理事長は「ははは」と笑いながら誤魔化していた。


「この緑ヶ丘市には緑ヶ丘学園、青海学園の二つの名門校が存在する。そんな中、綾瀬グループは夏の風物詩である『納涼祭』を買収したと聞いた。それどころか、この緑ヶ丘市には綾瀬グループが買収、関連する物が山ほどある。つまり、忠一が私物化していると言わざるを得ない」


「それ言いすぎじゃね?」


 理事長はツッコミを入れたが水嶋は続けた。


「私はその行動に腹を立てた。忠一が私物化した影響により、『この街で行われている行事や建物は全て緑ヶ丘学園のもの。つまり、緑ヶ丘学園がこの街の全てである』と印象付けられてしまったんだよ」


「……なんか水嶋学園長、めっちゃ怒ってない?」


 綾瀬はボソッと鈴村に言った。


「……うん、なんかそんな感じする。ていうか、絶対に怒ってる」


 水嶋からすれば理事長の勝手な行動により市で行われていた行事や商業施設を奪い取られ、結果的に青海学園に直結するきっかけを奪われたことになる。


 しかし、事を大きくしたくなかった水嶋はそれには対抗しなかった。それこそ、それをしてしまえば緑ヶ丘学園と青海学園の全面戦争が始まってしまうからである。


 だからと言って、水嶋の気分が治まるわけではなかった。


「その私物化によってうちの学園にはあまり人が寄らなくなった。文化祭はもちろんのこと、学外に公開している行事や受験志願者も減少傾向にある。ではどうすれば良いか。そこで現時点でできる改善策として、『合同文化祭』が提案されたというわけだ」


「なるほどです。……心中、お察しします」


「なに、気にしないでくれ。元はと言えばこの男の気まぐれから始まったものだ。その打撃を食らっているだけだよ。ダメージは受けたが、それを打開する方法などいくらでもある」


 そう言って、水嶋はネクタイを締めなおした。


 飯田は水嶋の話に対し回答を始める。


「お話はわかりました、水嶋学園長。これは俺個人の意見なのですが、正直なところ、毎年同じような文化祭を行っても面白くないと思ってました」


「……飯田、お前それどういう意味だ」


 飯田の言葉に理事長は少し怒りを交えて言った。


「だってそうでしょう、理事長。夏祭り買収して『納涼祭』なんて名前にしてややこしくして、文化祭も毎年出し物とかやるだけ。そりゃ楽しいですけど、俺らも一度しかない人生を謳歌する学生です。しっかりと思い出に残ることをやりたいんですよ」


「気持ちはわかるぞ飯田。俺だってお前らの思い出に残るよういろいろと努力してるんだ。だからこそ、今回の宗一郎、というより青海学園生徒会長の提案は素晴らしいなと思ったんだよ」


「じゃあ、初めから理事長はこの提案を受け入れるつもりでいたんですか?」


「ああ、そうだよ? 反対する理由もないしな」


 理事長はそう言いながらお菓子を食べ始めた。


「……理事長、お菓子食べたいなら外で食ってください」


「堅苦しいなぁ飯田。これくらい許してくれよ」


「では席を外してください。俺らは真面目に話してるんです。理事長と言えど、そんな態度でここにいられては、青海学園に示しがつきません」


 飯田は真面目な顔で理事長に言った。


(全く、頭がいい癖に変なところで堅苦しくなるなぁこいつ。メリハリつけてるところはいいんだけどさ)


 そう考えながら、理事長は取り出したお菓子をしまった。


「すまん、悪かった。真面目に話そう。ちゃんと話し合わないと、せっかくここまで来てくれた宗一郎に迷惑がかかるからな」


「そう思うなら初めからそうしてくれないか。飯田生徒会長が一番困ってるように見えるぞ」


 水嶋は呆れ顔で言った。


 重苦しい空気になる中、木下は手を「ポン」と叩いて仕切り直す。


「と、いうわけで! 今年の文化祭は緑ヶ丘学園、青海学園の合同文化祭を執り行うということでよろしいですね?」


 木下の問いに、飯田は答えた。


「ああ、もちろんです。俺ら三年もこれが最後の文化祭だ。とびっきり面白いものにしようじゃんか。よろしく頼みます。青海学園の皆さま」


 そう言って、飯田は木下、水嶋に手を差し出した。


「そう言ってくれて嬉しいよ、飯田生徒会長。こちらこそよろしくお願いする」


「よろしくお願いします! 飯田生徒会長!」


 二人はその手を握った。


 かくして、青海学園の直談判により、緑ヶ丘学園、青海学園の合同文化祭の開催が決定した。




                   *




「じゃあ、私はこれで失礼するよ」


「え、水嶋学園長、もう帰られるんですか?」


 合同文化祭の開催が決定したところで、水嶋は立ち上がって言った。


 飯田はその行動に驚く。


「私はあくまでこの交渉を成立させるために来たんだ。交渉が成立したのであれば、後のことは君ら学生に任せることにするよ」


「それでいいんですか?」


 飯田が問う。


「ああ。君も言っていたな。『三年にとっては最後の文化祭である』と。合同文化祭の開催が決まった以上、その内容は君ら生徒たちに任せることにするよ。大人の私たちが決めたところで、それは生徒たちの思い出作りにはならんからな」


「……そう言っていただけで嬉しいです。お心遣い、感謝いたします」


 飯田は深くお礼をした。


「それじゃ木下君、あとは頼んだよ」


「はい、わかりました。学園長もお気をつけて」


 そう言うと、水嶋は手を振り生徒会室を後にした。


「……さて、合同文化祭の開催は決定したのはいいが……。……何する?」


 飯田は険しい顔をして言った。


「あんなこと言っておいて、飯田会長、何も考えてないんですか……」


 鈴村は呆れ顔で言った。


「ま、まああれはあの場のノリというかなんというか……。し、しかしいつもと違うことしたいなーと思っていたのは事実だ」


「でも、何も考えてないのよね」


「うっ」


 宮田の言葉に飯田は言葉に詰まった。


「んー、合同でやるんですし、どうせだから派手にやりたいですよねー。それこそ、うちと青海学園を行き来できるような感じで」


「それならスタンプラリーとかどうですか? お互いの校舎を周って、スタンプを集められたら豪華賞品をプレゼント! みたいな」


「琴原、その案はいいと思うが、うちの校舎めちゃくちゃ広いの知ってるだろ? それに、今調べたが、青海学園も中等部、高等部の校舎があって、広さもうちとあまり変わらん。これじゃスタンプラリーするだけで一日が終わるぞ」


「そ、それもそうですね……」


 琴原は勇気を出して提案をしたが、飯田の言葉に少し委縮してしまった。


「んー、でもやっぱりコンテスト感は出したいですよね。やっぱクラスごとの出し物はありにしません? ていうか、それでこそ文化祭ですよ」


 綾瀬が元気よく提案する。


「まあ、やはりそこは捨てるに捨てきれないか……。仕方ない、出し物はそれぞれのクラスでやることにしよう。木下さんもそれでいいか?」


「はい、私は賛成です。むしろそれがあってこその文化祭ですから」


 綾瀬の提案に、木下は快く承諾した。


「あとは、合同でやるからには合同でしかできないこと、だよなぁ……」


「うーん、劇とか? それか、キャンプファイヤーとかはどうですかね」


「いいとは思うんだが、それは別に合同でなくてもできると思うぞ」


 綾瀬は必至に提案するが、どの案も合同らしさが感じられないものであった。


「あ、あの、一ついいですかね」


「お、なんだ鈴村、案もあるのか?」


 そんな中、鈴村は手を挙げた。


「せっかく合同でやるんですよね。なら、いつもみたくクラスごとの出し物じゃなくて、クラスも合同にしちゃえばいいんじゃないですか?」


「…………どういうこと?」


 飯田は理解ができていなかった。


 鈴村は飯田に説明を始める。


「つまりですね、何をとっても結局、『たまたまうちと青海学園の文化祭が被っただけ』で終わっちゃうと思うんですよ。だったら、うちのクラスと青海学園のクラスを混同させて……、例えばうちの一年A組と青海学園の一年A組を混ぜ合わせて、そこで出し物をやる。そうすれば、人数は倍になりますが出し物の数はいつもと変わらないはずです」


 そう言いながら、鈴村は木下に確認を取る。


「なあ咲良。うちの全クラスの数と青海学園の全クラスの数って一緒だったよな」


「え? うん、確かそうだったはずだよ」


「であれば都合がいいと思いませんか? 合同文化祭の案の一つ目は『出し物を互いのクラスごちゃ混ぜで行う』でいかがでしょう」


「ふむ……」


 飯田は少し悩んで答えた。


「確かに、それはそれで面白そうだ。結局やることになる出し物のバリエーションは変わらないだろうが、お互いの生徒が交流することで生まれるものもあるだろう。それでいこう」


「ありがとうございます!」


 飯田は鈴村の提案を快諾した。


 鈴村は「それとですね……」と提案を続ける。


「確かうちの文化祭の開催は三日間だったはずです。咲良、青海学園はどうだ?」


「うちはー、二日間だったかな」


「じゃあ、この開催期間を三日間に合わせましょう。それで、その日ごとにやることを変えるんです」


「ほう、なるほど」


 飯田は興味津々で鈴村の話を聞いた。


「……なんか、鈴村君のほうが生徒会長に向いてる感じがするね」


「綾瀬さんもそう思う? 私も、今に限っては、飯田君より鈴村君のほうが生徒会長に相応ふさわしく感じるわ」


 珍しく宮田が同意していた。


 鈴村は提案を続ける。


「一日目はクラス合同の出店含めた出し物。二日目以降もそれは継続で良くて、二日目はさらに琴原先輩の提案したスタンプラリーを行うことにします」


「え、私の意見に賛同してくれるんですか?」


「はい。これにはちゃんと理由があって、まず初日の出し物は俺ら生徒の交流を深めることを目的とします。そして二日目は、お互いの学園のことを知ってもらうことを目的とします。一般の方も来場可能ではありますが、あくまで主役は俺らです。一般来場者にもうちと青海学園の様子を感じてもらいながら、俺ら生徒たちもお互いの学園の良いところを探す、というのが目的です。いかがですか?」


 飯田は少し間を空けて言った。




「……鈴村、生徒会長の座、お前に譲ろうか」




「……飯田会長、冗談はやめてください」


「いや、なんというか、そこまでちゃんと考えてくれてるの見てると、なんか惨めになってきてな……」


 飯田はだんだんと自信をなくしていっていた。


「ふふっ、飯田君のあんな姿、見るのは久しぶりだわ」


 そして相変わらず楽しそうに見物する宮田であった。


「んで、三日目はどうするんだよ」


「恐らく二日目は初日で回り切れなかった出店、出し物やスタンプラリーで忙しくなると思います。初日はそもそも忙しくて手が回りません。そこで三日目に、劇などの『けん』を主とするイベントを用意します」


「ほう、そこで劇とかやるのか」


「三日目となれば飲食店を出しているクラスなんかは売り切れで時間が空くと思います。スタンプラリーも、残りを押しに行けばOK、と考える生徒が多いと思います。そこで、三日目は劇などの出し物をしてもらいます」


「でも、劇だけなの?」


 綾瀬が問う。


「劇だけじゃありません。これはあくまで一例で、今回は合同文化祭です。お互いの校風を知ってもらう一大チャンスにもなります。それこそ、委員会の紹介、部活の紹介なんかもしてもらってもいいと思います」


「なるほど、自分らの学園でやっていることを紹介する場を設ける、ってことか」


「そういうことです。どうですか? これは俺からの一つの提案として受け取ってほしいんですが、他にあればお願いします」


「私はそれでいいと思いまーす」


 と、木下は鈴村に返答する。


「正直、合同文化祭やることになったのはいいけど、やるにしてもそれぞれの学校で出店出したり、出し物やったり、その学校だけでやりきって終わりだと思ってたんですよね。でも、徹の意見はいいと思います。他校の生徒と交流できますし、一般の方も学校のことを知ってもらえる。もちろんうちだけじゃなく、緑ヶ丘学園のことも知ってもらえます。いいと思いますよ」


「木下……」


「私も、鈴村君の意見に賛成です」


「わ、私も……」


「私も鈴村君の意見に異論はないわ。面白そうね。これから忙しくなりそうだわ」


「みんな……」


 皆からの賛同を得ることができ、鈴村は感動していた。


 その様子を見ていた理事長が話し始める。


「……徹にしては面白いこと考えるじゃねえか。いいぜ、その提案乗った! 宗一郎には俺から言っておくから、木下さんはそっちの生徒会長さんたちに話しておいてくれ」


「はい、わかりました」


 木下は理事長に返答する。


「い、いいんですか、綾瀬のおとうさ……、理事長」


「おう、いいぞ。うちの学園は『生徒の考えを尊重する』のが校風だ。それが努力であれどんな形であれ、俺らは協力するつもりだぞ」


「……ありがとうございます!」


 鈴村は頭を下げた。


「よし! じゃあこれで合同文化祭の大まかな流れは決まりだな! 後は名前だが……」


「ただの『文化祭』だと面白みがないですよねぇ……」


「……理事長が『納涼祭』なんて名前を夏祭りにつけなければこんなことで悩まなかったんですよ」


「だって夏祭りっぽくてよかったんだもん」


 飯田の言葉に、理事長は子供じみた口調で言った。


「あ、こんなのはどうです? 『青緑祭せいりょくさい』! 緑ヶ丘学園の『緑』と、青海学園の『青』を取りました!」


「そんな安直な……。秋なんだし、もっと秋感がある名前がいいな」


「じゃあなんですか? 収穫祭を意味する『ハーベスト』にでもします?」


「それはなんかなぁ……」


 と、ここで琴原から一つ提案が出る。


「要は『青』と『緑』が連想できればいいんですよね。であれば、漢字が違いますが意味は同じの『あお』と、『みどり』を合わせた『蒼碧祭そうへきさい』はどうですか?」


「おー、なんかいいねそれ。秋ながらも夏らしさを感じるし、いいと思うぞ」


「理事長、まさかその名前も何かの行事に流用しようとしてます?」


「い、いやそんなことはしようとしてないぞ? いらん疑いをかけるんじゃねえよ」


「ですよねー、さすがにこれ以上余計なことされたら怒るところでしたよ、理事長」


「……飯田の目が笑ってない」


 飯田は本気で理事長を怒るところであった。


「じゃあ、緑ヶ丘学園と青海学園の合同文化祭の名前は『蒼碧祭』で決定! 他に異論ある奴はいるか?」


『ないでーす』


「よし! じゃあこれで一回目の蒼碧祭の打合せは終わり! 木下さん、向こうの生徒会メンバーへの周知、よろしくな」


「はい! 任せてください!」


 木下は自分の拳を胸にドンッと当てて言った。


「それじゃ今日はこれで解散でいいかな。お前ら気を付けて帰れよー」


『はーい』


 こうして、緑ヶ丘学園、青海学園初の試みである合同文化祭『蒼碧祭』の開催が決定した。




                   *




「徹、ちょっといい?」


「ん? どうした?」


 そんな打合せが終わった日の帰り道。鈴村は木下に呼び止められる。


「徹って、本当に生徒会やってるんだね。なんか、昔と比べると随分変わったね」


「そ、そうかな」


 木下は鈴村のその姿を頭の先からつま先まで舐めまわすように見た。


「そ、そういう風にじろじろ見られると、恥ずかしいんだけど」


「あ、ごめんごめん。徹って女子慣れしてないんだよね」


 その木下の言葉に鈴村は肯定しそうになったが、夏休み中の綾瀬と琴原との出来事を思い出し、即答することができなかった。


「……おやおや? その反応……、もしかして徹、彼女でもできた?」


「ち、ちがっ、彼女なんてできてないわ!」


 嘘である。


「はははっ! だよねー。徹に限ってそんなことないよねー」


「ははは、そうだよ、そんなことないよ」


 鈴村は愛想笑いをした。


「……でも、女の勘をナメちゃいけないなぁ」


「女の勘って……。そもそも、お前中学のときからそんなキャラだったっけ? 容姿も昔とだいぶ変わったし……」


「……ああ、それ今聞いちゃう?」


 木下は困りながら言った。


「まあ答えてもいいんだけど……。それは徹の女事情を聞いてからかなぁ」


「お、俺の女事情?」


「徹さ、正直に答えてね」


 木下はそう言って、鈴村に顔を近づけて言った。




「徹さ、彼女いるでしょ。しかも二人」




「……は?」


 まさしく、鈴村が隠していることを木下は言い当てた。


 そしてこの瞬間、このタイミングで『人生の選択肢』が光り輝いた。


(えっ、今……!?)


「どうなの? ねえ、どうなの?」


 木下はニヤニヤしながら問い続ける。


「そ、それは……」


 鈴村は答えを躊躇ためらいながらも、『人生の選択肢』に記載された選択肢を確認した。




【人生の選択肢】


 A.木下咲良に「綾瀬凛と付き合っている」と伝える。


 B.木下咲良に「琴原みどりと付き合っている」と伝える。


 ※なお、今回は【選択の簡易的結果】は示さない。




(……は? 二つだけ……? しかも、『二人と付き合ってる』っていう選択肢がない……? 注意書きも書いてあるし……、どういうことだよ鈴歩すずほ……)


 この提示された二つの選択肢は、どちらを選んでも正しいことを伝えられる選択肢ではなかった。


 それに、今回に限って【選択の簡易的結果】が提示されていない。選択した場合に鈴村だけがわかる、その選択をした場合の『必ず訪れる未来』が記載されなかったのである。


(この注意書き、いつもはなかったけど……。鈴歩のやつ、何考えてるんだ……?)


 いずれにせよ、どちらを選んでも鈴村は木下に、そして、綾瀬、琴原のどちらかに嘘をつくことになってしまう。


(……そうだ! 選択肢にない行動を取れば、それが選択肢になるルールが……)


 と、鈴村は行動に移そうとするが、時すでに遅しであった。




【人生の選択肢】


 A.木下咲良に「綾瀬凛と付き合っている」と伝える。


 B.木下咲良に「琴原みどりと付き合っている」と伝える。


 ※なお、今回は【選択の簡易的結果】は示さない。


 ※これ以外の選択肢を選ぶことは許されない。




 注意書きが一つ追加されていた。


(……あんの野郎……!)


 自分の潜在意識である鈴歩に対しに、鈴村は怒りを感じていた。


「で? 実際どうなんだい? 鈴村徹君?」


 木下は鈴村を下から見つめて再度問い詰めた。


「え、えっと……」


 鈴村は、前を歩く鈴村と綾瀬に視線が行く。


(俺は、どうすればいいんだ……)


 自分に嘘をつくことを強いられた鈴村。


 鈴村の、本心が問われる瞬間であった。

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