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鈴村くんは間違えない  作者: シア
第2章 『蒼碧祭』

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17/21

第17話 秋の始まり、恋の続き

鈴村は綾瀬に失恋したショックにより高校一年の年にタイムスリップし、綾瀬と出会って『人生の選択肢』とともにその未来を変えようと奮闘する。

その最中、綾瀬と距離を近づけたことにより琴原からも思いを伝えられることになる。

鈴村は悩みに悩んだ結果、綾瀬、琴原の二人と付き合うことを決断。

こうして夏休みが終わり、物語は文化祭へと続く。


第2章 『蒼碧祭』


開幕です。

「それではこれより、第二学期の始業式を始めます」


 暑さが残る九月。様々な生徒がそれぞれ充実した夏休みも終わりを迎え、ついに二学期が始まった。


 未だ夏服ではあるが、一カ月も経てば気温も下がり、だんだんと生徒たちは冬服になるであろう。


 季節はいろいろなところで感じることができる。


「まずは、理事長のお言葉です」


 二学期の始業式が始まり、早々に緑ヶ丘学園の理事長の話が始まった。


「おうお前ら。元気だったか? 日に焼けたやつも結構いるなぁ」


 そう言いながら緑ヶ丘学園理事長、もとい綾瀬凛あやせりんの父である綾瀬忠一あやせただかずは全校生徒が集まる体育館の中を見渡した。


「理事長、相変わらず視力いいですね」


 琴原ことはらは理事長の視力の良さを改めて感じながら言った。


「これだけ広い体育館でも人の顔が判別できるなんてすごいですね……。でも中等部と高等部集める必要あるんですかねこれ」


「何言ってんだ鈴村すずむら。これは全校生徒が集まる立派な始業式だ。中等部、高等部だけで行うわけにはいかない。緑ヶ丘学園全体の集会だからな」


 生徒会長、飯田勝翔いいだしょうとは鈴村に言った。


「いやまあ、毎回なんで一緒にやるんだろうとは思ってましたけど……。体育館の広さもうまく利用してますし」


「逆にこんな暑い中外で始業式とか嫌だろ? 理事長も中等部、高等部それぞれ分けてやるの面倒なんだよ。これが一番理にかなってるってことよ」


「はぁ、まあそれならいいですけど……。……で、なんで俺らその生徒の前に座ってるんですか」


 鈴村含めた緑ヶ丘学園中等部、高等部の生徒会メンバーは、全校生徒の前方の席に他生徒に向かい合うように座っていた。


「まあこれもこの学園の仕来しきたりみたいなもんよ。俺ら生徒会は生徒の代表。お手本なんだ。それをしっかり見てほしいと理事長は考えてて、いつもこういった集会では前に座らされてる」


「……あぁ、なるほど、お手本ですか」


 鈴村は高校時代、始業式、終業式の時に前方に生徒会メンバーが座っていたことを思い出していた。


(そういやあの時も飯田会長いたな……)


 飯田の言う通り、この学園において生徒会は生徒の立派なお手本でなくてはならない。生徒会は生徒の代表という決まりがあるため、常にしっかりとしている必要がある。理事長はその姿を見習い、このような生徒になってほしいという意味を込めて毎度このようなスタイルを取っている。


「お前もこの生徒会の一員なんだ。しっかり皆のお手本になれるように頑張れよな」


「なんか荷が重いっていうか……。まあ入ったからには頑張りますが……」


 少し責任を重く感じる鈴村であった。


 そんな話をしていると、いつの間にか理事長の話が終わっていた。


(何も聞いてなかった……。これがお手本になれるのか……?)


 飯田の言葉の影響もあってか、更に責任を感じる鈴村であった。


「それでは次に、高等部生徒会長、飯田会長からのお言葉です」


 そのアナウンスが聞こえると、飯田はスッと立ち上がった。


「え、飯田会長話すんですか?」


「お前夏休み前の終業式見てなかったのかよ……。いつも俺はこういう集会で前に立って話してるぞ」


「……、すみません、あまり覚えてなくて……」


「ったく……。まあいいや。じゃ、言ってくる」


 少し困った顔をした飯田であったが、飯田はそのまま壇上へと上がった。


「えー、ご紹介に預かりました。高等部生徒会長の飯田です。皆、夏休みは楽しめたか?」


 飯田の言葉に「楽しかった!」「もっと休みたい!」など、様々な声が上がった。


「おーおーお前ら威勢がいいなぁ。元気なのはいいことだ。関心、関心!」


「……なんか、飯田会長ってどことなく理事長に似てますよね」


「そうですか? まあ、口調とかはそっくりですけどね」


 鈴村は琴原に同意を求めたが、琴原はやんわりとその意見を否定した。


「まあ、もっと夏休みが欲しいのは俺も同じだ。でもな、二学期は始まらなきゃいけない。特に三年生、俺もそうだが、お前らは受験生だ。休むのも大事だが、勉学に励まないといけない一番大事な時期でもあるんだよ」


「……そっか、飯田会長も受験にちゃんと向き合わないといけない時期になったのか」


 鈴村の心には寂しさが残った。


「なんて顔してるのよ、鈴村君。飯田君は三年生。飯田君もその自覚はあったわ。実際、この夏休みは勉強づくめだったけどね」


「……だったけどね……? もしかして宮田みやた先輩、ずっと飯田会長の勉強に付き合ってたんですか?」


「勉強に付き合ってたんじゃないわ。ずっと一緒にいたのよ」


「ずっと一緒に!? いた!?」


 思わず大きな声を出してしまう鈴村であった。


「なんだよ鈴村……。俺が話してるんだから話を遮るようなことすんなよ」


「あ、すみません……」


 飯田に怒られる鈴村を見て、宮田はクスクスと笑っていた。


「……宮田先輩、もしかしてわざとやりましたね」


「さあ、なんのことかしら?」


 そう言いながら、宮田は不敵な笑みを浮かべた。


「こほん。さて、話を戻すが、俺ら三年は受験生だ。中等部の三年はそのまま高等部の受験を考えてる奴らがほとんどだろうが、この学園は生徒それぞれの意思を尊重する学園だ。お前らが今後人生でどうしたいか、どうなりたいかは自分で決めるんだ。後悔のないように人生選択に励めよ」


 飯田は中等部がいる方向を見て言った。


「そして、俺含めた高等部三年ども。お前らもしっかり将来を考える時期になった。大学受験を考えてるやつもいれば、そのまま就職を考えてるやつもいるだろう。それはお前らの自由だ。お前らも例に漏れず、後悔のない人生を歩んでほしい」


「飯田会長は進路どうするんですか?」


 飯田の話の途中で、一人の男子生徒が質問をした。


「……んなこと今ここで聞いてどうすんだよ……。俺の進路ねぇ……」


 飯田はそう言いながら、宮田の顔を少しチラ見した。


「うーん、まあ、ここで言う必要もないだろ。ていうか、知ってる奴は一定数いるだろうし、そいつに聞け」


「えー、何ですかそれ」


 会場からは笑いが溢れていた。


「とーにーかーく! もう季節は秋だ! いつまでもお休み気分でいたら後悔するってことだけ覚えておけよ!」


 飯田は『後悔する』というところを特に強調して言った。


 飯田はそのまま壇上から降りようとしたが、「あっ、そうだ」と再びマイクの前に戻った。


「あ、あのぉ、飯田生徒会長、どうされました?」


 司会進行役の教員が言う。


「そういえばだな、この夏休みで生徒会に新たなメンバーが加入したんだ。どうせだしここで紹介しておこうと思ってな」


 その言葉に、全校生徒どころか教員全員がざわつき始めた。


(……この反応、理事長誰にも周知してなかったな……?)


 そう思いながら飯田は理事長を見たが、理事長は「ごめんっ」と言わんばかりの顔をしながらペロッと舌を出した。


(あんの理事長……、忘れてやがったな……)


 理事長に呆れながらも、飯田は新生徒会メンバーを紹介した。


「というわけで紹介しよう。高等部生徒会に加入した『鈴村徹すずむらとおる』だ。大きな拍手で迎えてくれ」


 そう飯田が言うと、体育館中に拍手が響いた。


「えっ、俺ここで話すなんて聞いてないんだけど……」


「まあまあいいじゃん鈴村君。ちゃんと自分の存在を示すチャンスだよ」


「……自分の存在を示すチャンス、か」


 確かに鈴村は、これまでの人生の中で『自分が目立つきっかけになる行動』を自ら取ったことはなかった。故に陰キャを極めていた鈴村であったが、この二度目の学生生活を謳歌している鈴村にとってこれはチャンスであった。


(……琴原先輩も綾瀬も変わってるんだ。俺も変わらないと……!)


 そして、鈴村はガチガチに緊張しながらも壇上へと上がった。


「あ、えっと……。は、初めまして、高等部一年の鈴村です。夏休み中に生徒会に入りました。よ、よろしくお願いします」


(そんな簡単すぎる挨拶あるかよ……)


 飯田は鈴村の自己紹介を聞き、頭を抱えていた。


「鈴村? 知ってるか?」

「知らないなぁ……。ていうか一年だってよ」

「一年ってことは一学期の学期末試験の成績良かったってことじゃね? でもなんで夏休み中なんだろうな」


 様々なところから多種多様な意見が飛び交う。


 時には否定的な意見も聞こえていた。


(……やっぱ俺は、周りからはそういう風に見られているんだな)


 鈴村は勘違いしていた。高校一年の夏休みにタイムスリップしてからというもの、綾瀬凛への公開告白、納涼祭、熱海旅行を経て、鈴村はこの短期間で今まで過ごした人生とは真逆の人生を歩むことになった。


 それもこれもすべては『人生の選択肢』による選択のおかげでもあったが、同時に鈴村は『自分自身が特別な存在である』と勘違いしていたのだった。


 だがしかし、この現実は生徒会のメンバー、特に綾瀬と琴原しか知らない事実。他人から見れば、鈴村はただの新入生で、突然生徒会に加入したイレギュラーな生徒なのである。


 他の生徒からのこの反応は正しいものであった。


「おいおい、少しは歓迎してやってくれよ」


「……飯田会長」


 飯田はそんな体育館内の様子を見て、鈴村のもとへ歩み寄った。


「お前らが不思議に思うのもわかる。『なんで新入生が?』、『入ったのなら一学期末に周知するべきでは?』、『そもそも誰?』。そんな意見がよーく聞こえる。だがな、これは全て俺ら生徒会メンバー、そして理事長が決めたことだ」


『えっ、理事長が!?』


 全校生徒の視線が理事長に向く。理事長は「いぇい」と言いながらブイサインをして見せた。


「何も俺も理事長も身勝手な理由で鈴村を生徒会に迎え入れたわけじゃない。鈴村も相当の覚悟と意思で生徒会に入ることを決めてくれたんだ。ちゃんと緑ヶ丘学園の生徒代表として前に立ち、お前らの手本になるって言う覚悟を持って今ここに立ってくれてるんだよ。その思いを踏みにじるのはちょっと許せないかなぁ」


 飯田のその言葉に、再び場はざわつき始める。


 そこへ、生徒会副会長の宮田が壇上へ上がる。


「確かに、鈴村君とは私も、飯田君も会って間もないわ。でもね、彼はとても立派な人だわ。あなたたちが思っている以上にね。一度生徒会室に来て、その目で彼の活躍を見るといいわ。彼の凄さがわかるから」


「み、宮田先輩……!」


 鈴村は泣きそうになっていた。


「まあそんなわけだ! 皆誰しも赤の他人に対し第一印象は持つし、それはなかなか覆らないだろう。そんなに疑わしいなら、今の鈴村の活躍を見ればいいさ。すぐにそのすごさがわかる」


 飯田はそう言ってその場を綺麗にまとめた。


「あ、そうだ。これ言えば伝わるんじゃねえかな」


 飯田はふとあることを思い出して言った。




「『夏祭りに現れた天才のセールスマン』って聞き覚えないか?」




「……あっ」


 鈴村はそのキーワードに聞き覚えがあった。

 そう。納涼祭の際にSNSでトレンドに上がっていたキーワードである。


 あの納涼祭での出店をものの見事に成功へ導いた男、鈴村徹のことを指すキーワードであった。


 そのキーワードに、様々な生徒が反応を見せる。


「あー、あの納涼祭の時の!」

「すごい勢いで焼きそば売ってた人だよね!」

「どこかで見たことあると思ったら、生徒会の人だったんだ!」


 疑いをかけていた人たちの意見が、だんだんと変わっていった。

 飯田はその反応を見て言う。


「そう! あの納涼祭の、あのぼったくり焼きそばをしっかりノルマまで売り切り、さらにその上まで達成させることができたのは、紛れもない鈴村のおかげだ!」


 そう言って、飯田は鈴村を指さした。


「鈴村の行動力はすごい。それに対する度胸も評価できる。これは普通の人にはできないものだ。俺と理事長はそれを見たうえで、鈴村を生徒会に迎え入れたんだ。だから否定的な意見はなしだ。それでも疑うなら、これからの鈴村の活躍をしっかり見ていてくれ」


 その言葉に、一人、また一人と拍手が上がった。


 次第にそれは体育館全体に広まっていった。


 飯田は鈴村を見て言った。


「ほらな、お前はすごいんだよ。周りの視線なんか気にするな。お前のことを評価してくれる人間はいくらでもいる。自信持てよ。でないと、綾瀬や琴原に顔向けできないぞ?」


 鈴村はその言葉に涙が零れそうだった。


「……ありがとうございます、飯田会長。俺、自分のこと過大評価してました。でも、ちゃんと見てくれてる人もいるんですね」


「ああ、だから安心してここにいていいぞ。お前は俺らの未来だ。どんと胸を張れ」


「……はい!」


 そう言って、鈴村は深々とお辞儀をした後、飯田、宮田と共に壇上から降りた。


「……全く、変なことしやがって」


 理事長は飯田の行動に戸惑いを見せていたが、鈴村の行動力は認めていたようで、心の中で拍手をしていた。


「それでは、これで始業式を終わりにします。各自教室へ戻り、担任の先生の指示に従って下校してください」


 そのアナウンスを最後に、二学期に始業式が終わった。




                   *




「いやぁー、一時はどうなるかと思いましたよー」


 始業式の後、生徒会メンバーは生徒会室に集まっていた。


 そんな中で、何かを安堵したのか綾瀬は言った。


「まあそう言うなって。鈴村も頑張ったんだ。褒めてやれ」


「そうですねー。鈴村君、頑張ったね!」


「あ、あぁ……」


「でも泣いてたわね」


「宮田先輩、心抉ること言わないでください……」


 一瞬綾瀬に励まされた鈴村だったが、宮田の一言でさらに心が抉られていた。


 飯田はその様子を見ながら、生徒会の仕事を始める。


「さて、他の生徒は部活でもない限り今日は強制下校だが、俺らはそうもいかない。一か月後の文化祭に向けて準備しないといけないことが山ほどあるんだ」


「具体的に何するんですか?」


 鈴村は飯田に問う。


「まず各クラスの出し物のアンケート。それに対する予算調査。それに、そもそもその出し物を行っていいか理事長に打ち合わせをする必要があるし、やることは盛沢山だ。休んでる暇はないぞ」


「……そんな予定いっぱいで、飯田会長は受験大丈夫なんですか?」


「え? 俺?」


 鈴村は素朴な疑問を飯田にぶつけた。


「ああ、俺は大丈夫。もう東大の推薦受けたから」


『な、なんだって!?』


 宮田以外のメンバー全員に衝撃走る。


「ちょ、推薦って!? なんですかそれ!」


 鈴村は驚きのあまり飯田に詰め寄る。


「ち、近いぞ鈴村……。言わなかったっけ? 俺東大受けるって」


『初耳ですよ!』


 鈴村、綾瀬、琴原は声を揃えて叫んだ。


「結局言ってなかったのね、飯田君」


「あっれー、言ってたと思うんだけどな……」


 飯田はポリポリと頭を掻いた。


「実はな、理事長と一学期末に話したんだよ。今後の進路について。んで、俺が東大に行きたいって言ったら、『じゃあ夏休み終わりに東大の入試問題出すから、それで合格点出したら推薦状出してやるよ』って言われたんだ」


「あぁなるほど、だから勉強づくめだったんですね」


 飯田の夏休みの過ごし方に納得する鈴村であった。


「で、結果は見事に合格。無事に推薦状を書いてもらえて、今朝方受理してもらったってことだ」


「じゃあ、飯田会長はとりあえず進路大丈夫なんですね!」


 琴原は言った。


「ああ、これで心置きなく生徒会活動に集中できる。……もうあの勉強地獄は懲り懲りだわ……」


 飯田は地獄を見た顔をして言った。


「さて、んじゃ早速文化祭の打合せを……」




 コンコンッ




 と、飯田が言いかけたところで、生徒会室の扉がノックされた。


「あら、お客さんかしら」


 宮田がそう言いながら生徒会室の扉を開けに向かう。


「んー? 今日誰か来るって話あったか……?」


「飯田会長、また忘れてたりしてません?」


「もしかして綾瀬、俺をバカにしてる?」


「いえ、忘れっぽいのが最近垣間見えてたので疑っただけですよ」


「少しバカにしてるよなそれ……」


 飯田は少し怒りそうであった。


「はいはい、今開けるわね。ちょっと待ってて……」


 と、宮田が扉を開けようとしたが、宮田がドアノブに手をかける前に生徒会室の扉が開いた。




 そこには、緑ヶ丘学園高等部の制服ではない、別の学校の制服を身に纏った女子生徒が立っていた。




「えぇっと、どちら様?」


 宮田は少し戸惑いながらその場に立つ女子生徒に問う。


 その女子生徒は、元気よく答えた。




「どーも、初めまして! 私、青海おうみ学園高等部生徒会書記の木下咲良きのしたさくらって言います! よろしくお願いします!」




 そう名乗る女子生徒は、礼儀よく深々と生徒会メンバー一同にお辞儀をした。


「……、ギャ、ギャルだ……」


「え? どうしたの飯田君……」


「ギャルだあああああああ! 来るなあああああああああ!」


「え!? どうしたんですか飯田会長!?」


 突然の飯田の行動に驚く綾瀬であった。


 しかし、その女子生徒、木下咲良は腰にカーディガンを巻き、胸元を広めに開け、指に着け爪とネイルまでするという典型的なギャルの姿をしていた。


 宮田はその様子を見て綾瀬たちに説明をした。


「そういえば言ってなかったわね。飯田君はね、ギャル恐怖症なのよ」


『ギャル……、恐怖症……!?』


「昔いろんなことがあってね。その中でも、ギャルという存在は飯田君の人生の中でとてつもないほど大きいトラウマを植え付けられたのよ。今でもそれが克服できてなくて、この様だわ」


 宮田は椅子の影でビクビク怯える飯田を見ながら言った。


「い、飯田会長も苦労してるんですね……」


 琴原が言う。


 突如現れた木下は飯田の行動に少し驚いたが、自分が何かをしでかしたのかと思い慌てて謝罪した。


「ご、ごめんなさい! 突然アポイントも入れないで来ちゃって……。えっと、ここが緑ヶ丘学園高等部の生徒会室、で合ってますよね?」


「あ、あぁ。いかにもここがお前が緑ヶ丘学園高等部の生徒会室だ。……ここに何の用だ。しかもお前、うちの生徒じゃないだろ。どうやって入ったんだよ」


 緑ヶ丘学園は基本的に学園の関係者以外は立ち入り禁止である。他校の生徒でもあれば、しっかりとした手続きをしないと立ち入ることは許されていない。


 そう、()()()には、である。


「理事長さんには話つけてあるんで大丈夫ですよ! そこはご心配なさらず!」


「あ、そうなの。理事長に話がいってるなら……、って理事長も随分軽く認めたな……」


 飯田は理事長の適当さに呆れていた。


「それに、私がここに来たのはちゃんとした用事があったからです!」


 そう言って、木下は鈴村に歩み寄った。




「久しぶり! 徹! 探したよ!」




 その行動に、綾瀬と琴原は目を丸くする。


「鈴村君と……!?」


「謎の女子生徒が……!?」


 そして、声を合わせて言った。


『し、知り合い!?』


「は、はは……。久しぶりだな、咲良」


『な、名前呼び!?』


 さらに驚く二人であった。




                   *




「なーんだ、鈴村君のお友達だったのかー。それを早く言ってよー」


 綾瀬は木下の隣に座って言った。


「ごめんねー。飯田生徒会長の行動にびっくりしちゃってー。あ、写真撮っていい? SNSに上げてもいいかな」


「……悪いがこの生徒会室ではそういう目的でのスマホ使用は禁止だ」


「あ、そうなんですね。すみませーん」


 そう言いながら、木下はスマホをカバンにしまう。


 飯田は生徒会長席の物陰に隠れてその様子を見ながら、鈴村に小声で話しかける。


「おい、鈴村……。本当にお前の友人でいいんだよな……」


「……あまり信じてないですか?」


「そりゃそうだろ! あのお前がだぞ! あんなギャルと友人なんて信じられるか!」


「……飯田会長ってたまにストレートに酷いこと言いますよね」


「あ、悪い」


 無意識に出た悪口を飯田は謝罪した。


 鈴村は改めて、飯田に説明する。


「……木下は中学まで一緒だった、俺のただ一人の友人です。今でこそあんなギャルになっちゃいましたけど、中学卒業までは普通の女の子だったんですよ」


「え、そうだったのか?」


「そうですね、身近な人で例えると、琴原先輩の引っ込み思案が少し解消された感じ、ですかね。……いや、もっと根暗だったかな」


「……似た者同士だな」


「飯田会長、そうやって息するように悪口言う癖やめたほうがいいですよ。なんでそれで生徒会長やれてるんですか」


「……すまん」


 飯田は再度謝罪した。


「木下とはたまたま授業で一緒の班になった時に初めて話しました。……飯田会長の言う通り俺と似た性格をしてたので、たぶんそこで協調性を感じたんだと思います。俺となら話せるって思ったんじゃないですかね。俺もそれは悪く思ってなくて、それから徐々に仲良くなり、だんだん遊ぶようになりました」


「お前……、綾瀬というものがありながら……」


「あ、綾瀬は別です……! 木下はただの友達なので……! 俺は、綾瀬一筋でした」


「でも今は二股だよな」


「飯田会長その言い方やめてください……。人生何が起きるかわからないんです。俺だって覚悟決めてその決断したんですから」


「悪い悪い、そう怒るなって」


 飯田はそう言いながら鈴村の頭をポンポンと叩いた。


「まあでも、お前の友人なら安心だな。……ギャルはやっぱり抵抗あるが」


「なんであの根暗だった木下がギャルになったのかはわからないんですよねぇ……。少なくとも中学卒業手前くらいまでは普通だったんですけど、急にあんな風になっちゃったんです」


「ほぉー」


 飯田は鈴村の過去に興味津々だった。


「まあ、その話はまた別の機会に詳しく聞こう。今日はお前に用があって来たようだし、用事を済ませて帰ってくれないと俺らの活動にも支障が出る」


「そ、そうですね。とりあえず用事聞きますか」


 そう言って、飯田と鈴村は隠れていた生徒会長席から出てきた。


「あ、徹そこにいたの! 会長さんも!」


「あ、ああ、ちょっと話をね」


 木下のその馴れ馴れしさに、綾瀬と琴原はムッとしていた。


「……凛ちゃん、この子どう思います?」


「確かに鈴村君にはただ一人の友人がいるという話は聞いてました。……しかしそれが女の子だったなんて……。しかも、私たちとはまた別次元な……」


 綾瀬と琴原は自分の容姿をお互いに見た後、先ほど木下を見たときの第一印象と比べて顔が曇る。


『やはり勝てる気がしない……』


 二人は声を揃えて言った。


「い、いや、でもですよ凛ちゃん。別に木下さんは鈴村君に用事があっただけで、別に好きともなんとも言ってません。それに、それで言うならその勝負には私と凛ちゃんのほうが大きくリードしています。そこまで焦る必要はないです」


 琴原は声を震わせながら言う。


「そ、そうですよねみどり先輩。昔の友人が突然現れたからといって、特別な気持ちなんてないですよね」


 二人はそう言い合い、「ははははは」と薄っぺらい笑いを交わした。


 そんな折、木下は鈴村の問いに答えた。




「実はね、徹のことをずっと探してたんだよ。やっと見つけた……。どの高校に行くか進路も教えてくれなかったから、探すの大変だったんだよ……!」




『な、なんですって!?』


 綾瀬、琴原に電撃走る。


 そして同時に小声で話し始める。


「ま、まずいです凛ちゃん! これはまずいことになってきました!」


「こりゃやばいですね……。ノーマークでした……。でも普通に考えれば納得できます。曲がりなりにも他校の女子生徒が、二学期始まって早々にわざわざこの生徒会室に、鈴村君に会いに来たんです。それなりの理由があってもおかしくはありません」


「た、確かに……。でもこのままだと、なんでかはわかりませんが鈴村君を取られそうな気がします……!」


「私も同じ思いです……。ここはひとつ、二人で会話に入って阻止しましょう」


 二人は頷き、鈴村、木下の会話に割り込む。


「わ、わー、鈴村君に話ってなんでしょうか。ねー、凛ちゃん」


「そ、そうですね、私も気になるなー」


 二人は棒読みでそう言った。


 鈴村はその様子を見て「なんだこの人たち……」と言わんばかりの顔をした。


「で? 俺の事を探してたってどういうこと? 咲良には俺の進路言ったと思ってたけど……」


「えっ、えっと、聞き逃してたー、みたいな?」


「? あの距離で話してて聞こえないわけないと思うけど」


『あの距離で!?』


 二人は声を揃えて言った。


「……あの人たち、事あるごとに声を揃えて驚いてて面白いわね」


「詩織、あんまそういうの面白がらないほうがいいぞ。他人の不幸を笑うといずれ自分にも降りかかる」


「確かにそれも一理あるわね。でも私は今のこの状況がたまらなく楽しいわ」


 宮田はなぜか高揚感に浸っていた。


「で、用事ってのはね……」


 木下は少し間を空けて言った。




「と、徹にアタックするために、ここに来ました」




『や、やっぱりダメだ! この人アウトだ!』


 綾瀬と琴原はさらに声を揃えて言った。


「ふふふっ、これはまた面白い展開になってきたわ」


「……お前、自分がこの先の未来どうなっても知らないからな」


 宮田の反応に、飯田は心底呆れていた。




 かくして、綾瀬と琴原の目の前に、さらなる恋のライバル、木下咲良きのしたさくらが現れたのだった。


「アタックって……、なんの話……?」


 そしてそれを全く察しない鈴村であった。

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