第15話 旅行のその後 ~綾瀬編~
「ただいまー」
鈴村徹、綾瀬凛、琴原みどりの三人は、生徒会長、飯田勝翔の提案により、三人でのデート、もとい熱海旅行を提案した。
鈴村は綾瀬と琴原に対する気持ちを整理することができ、綾瀬と琴原二人と同時に付き合うという結論を出した。
これが鈴村なりの答えであり、綾瀬と琴原はその答えを快く引き受けた。
その旅行も終わり、綾瀬凛は自宅に到着していた。
「おう、おかえり凛。どうだったよ旅行は」
「それはもうとっても楽しかったよ! あ、はいこれお土産ね!」
「おう、ありがとな」
そう言って綾瀬凛は、父、綾瀬忠一に土産を手渡した。
「あれ、普通に平然と渡しちゃったけど、なんでお父さんいるの? 仕事は?」
「俺を何だと思ってるんだ凛は。今日は特別な日だからな。仕事はとっとと片付けて帰ってきたんだ」
「……それ、部下の人とかにお仕事押し付けてないよね?」
「え!? お、押し付けてないぞ、うん。押し付けてない」
綾瀬はその反応を見てすべてを察した。
「はぁ……。まあいっか。珍しくお父さんもいるわけだし」
「そう! 俺は珍しく今家にいる! この家に!」
「お父さんのそのテンション、学校でも思うんだけどやめたほうがいいと思うよ。なんか理事長って感じがしない」
「え、ダメ? 俺堅苦しいの苦手だから、このスタイルのほうがやりやすいんだけど」
綾瀬忠一はそう言いながら困った顔をした。
「なんかこう、威厳を持ってほしいっていうか……。私の中でのイメージだと、理事長ってこう、キリッとしてて、スーツピシッと着てて、『おい、例のものを』とか言って接待相手に貴重品私渡す人って感じがするんだよね」
「お前の理事長のイメージどんだけ堅いんだよ。そんなのこっちから願い下げだね」
「……まあ、それもお父さんらしいというか。それはそれでいいんだけどさ」
綾瀬凛は、実の父の立ち振る舞いをそこまで嫌と思っていなかった。
自分らしさを貫き通す父の姿は、『個人を尊重する』という緑ヶ丘学園の校風にピッタリであった。理事長も立派な緑ヶ丘学園の一員なのである。
「…………で? どうだったんだ、旅行は」
「え? だから楽しかったって言ったじゃん」
「ああ、それは聞いた。で、どうだったんだ? 徹とは何かあったのか?」
「……あー、そういう意味ね」
綾瀬忠一は鈴村の綾瀬凛に対する気持ちを知っている。生徒会メンバー全員がいる生徒会室で、鈴村は綾瀬忠一に直接綾瀬凛の気持ちを伝えているからである。後に『公開告白』と呼称されるようになったこの一件で、綾瀬忠一はさらに鈴村に綾瀬凛を取られたくない気持ちが高まっていた。
そんな折、生徒会長の飯田勝翔から鈴村、綾瀬凛、琴原の三人で熱海に旅行をする話が綾瀬忠一の耳に入る。
当然その報せを聞いて綾瀬忠一は猛抗議に出たが、飯田の熱意ある交渉によりこの旅行は決行されることとなった。
綾瀬忠一は渋々食い下がったが、しかし綾瀬凛を取られたくない気持ちはいっぱいであった。
そう、これは実の娘に恋人ができてしまったかもしれない、自分の傍にいてくれなくなるかもしれないという、綾瀬忠一が抱く娘が男に取られるという不安である。
綾瀬凛は実の父に向って言った。
「私ね、鈴村君と付き合うことになったんだ」
ルンルンで言う綾瀬凛。しかしその言葉を聞いた綾瀬忠一は……。
「あ、そう……」
絶望感で体が崩れていた。
(そうか……、そうだよな……。もともと徹は凛が好きだったんだ。それで俺の目の前でちゃんと凛に対する気持ちを俺に伝えた。それだけで十分気持ちは伝わっていたさ……)
「ちょ、大丈夫? お父さん」
「ああ、大丈夫だ。ちょっとびっくりしただけで」
「びっくりって……。生徒会室であれだけのことを鈴村君から言われて、それで今回のこの旅行で、鈴村君が気持ちを整理しないわけないでしょ。鈴村君のことナメちゃダメだよ」
「徹のことだから、ヘタレて何もしないで帰ってくるもんだと思ってたよ。しかも今回は凛だけでなく琴原さんの娘さんと一緒だったらしいじゃんか。尚のことだ」
「でも、鈴村君はちゃんと答えを出してくれたよ?」
「うぐっ」
その恋する乙女のキラキラとした眼差しに、綾瀬忠一は倒れそうになっていた。
「……ああ、俺も覚悟はしていた。徹が公開告白をしてから凛が徹に告白されるまでは時間の問題だろうってな」
「じゃあいいじゃん! お父さん公認ってことで!」
「それとこれとは話がちがああああう!」
突然叫びだす綾瀬忠一。それにただただ綾瀬凛は驚いた。
「ちょ、え、どうしたのお父さん」
「俺は確かに凛の気持ちを聞いた。しかしそれは俺が『理事長』として聞いただけの話! 父として徹の気持ちを聞いたわけではない!」
「何よその屁理屈……」
綾瀬凛は呆れていた。
「だから俺は、父として徹から凛の気持ちを聞くまでは、徹に凛はやらん!」
「そんな昭和の頑固親父みたいな考えしなくても……。それに、そう言うってことは、少なくとも『理事長』としてのお父さんは鈴村君のことを許してるんでしょ?」
「え」
「だってそうじゃん。あの話聞いたの『理事長』なんでしょ? ならちゃんと鈴村君の気持ちを理解してOK出してるようなものなんじゃないの?」
「……あのなぁ凛よ。よーく思い出せ。俺は『友達止まりの関係』を許しただけだ。その先の関係になりたいなら『努力で理事長を説得しろ』って言ったはずだぜ」
「今日のお父さん屁理屈しか言わないなぁ……。ほんとはそのお父さんの言う『努力』を認めてるんじゃないの? 生徒会に入って最初の仕事も大成功に終わったんだし」
「うぐっ、た、確かにそれはそうだが……」
「素直になりなよお父さん。私はちゃんと気持ちを整理した鈴村君から本気の言葉が聞けて嬉しかったよ。長年の想いが叶ったんだもん」
「凛……」
綾瀬凛は確かに、鈴村に出会う前までは施設でも家でもあまり楽しそうにしていなかった。綾瀬忠一は実の娘がゲーム好き、漫画好き、そのほかこの綾瀬家で禁止されている娯楽のほとんどが好きなことを知っていた。しかしルールはルール。それを守るように徹底して教えてきた。
そのため、綾瀬凛は自分のやりたいと思った好きなことを自由にすることができず、ルールに縛られた生活を送っていた。
しかし、鈴村と出会って生活は一変した。鈴村も綾瀬凛と同じくゲームが大好きであった。同じ趣味を共有できる友達ができて、綾瀬凛はとても嬉しそうにしていた。綾瀬忠一もそのことを知っており、『とても楽しそうに過ごしている』と報告を受けていた。
綾瀬忠一は鈴村にわずかながら感謝の気持ちを抱いていた。そして、この旅行の結果である。綾瀬凛の帰ってきたときの笑顔を見た綾瀬忠一は安心していた。この旅行で何があったか察しがついていたからである。旅行がどうなどと、聞くまででもなかった。
綾瀬忠一は、本当は実の娘の恋が実ったことを心から祝福したかったのである。
「……そうだな。凛、お前は昔から徹のことが好きだった。徹も凛のことが好きだった。そして、この旅行で両想いになれた。良かったじゃねえか」
「お父さん……!」
「まだ許したわけじゃないが、その、なんだ。あまり羽目は外しすぎるなよ」
「……うん! ありがとうお父さん!」
綾瀬凛はとびきりの笑顔で言った。
(……徹はしっかり証明して見せたんだな。凛に対する気持ちを。これは賞賛に値するな)
綾瀬忠一は鈴村に対し賞賛の拍手を心の中で送っていた。
「あ、そうだ。これも言わないといけないんだけどね」
「おう、なんだ凛。なんでも言ってみろ」
「えっとねー……、たぶん今のお父さんなら許してくれると思うけど……」
「なんだよ、そんな改まって」
綾瀬凛は言った。
「鈴村君ね、一緒に旅行に行ったみどり先輩とも付き合うことになったんだよ」
「…………は?」
綾瀬忠一は耳を疑った。
「ふ、二股……だと……!?」
理解が追い付かず、頭を抱える綾瀬忠一であった。
「ちょ、ちょっと待って! これにはちゃんと理由があってね!」
「許さん……、許さんぞ徹……! 少しはいい男だと思っていたが、まさか堂々と二股をするとは……」
「お父さん聞いて! 話を聞いて! この結果には私もみどり先輩も納得してるの!」
「…………納得はいかないが一応聞いておこうか」
そう言って、綾瀬忠一は椅子に座った。
「ふぅ……。お父さん、心の準備はできた?」
「おう、どんなこと言われても俺はもう驚かないぞ」
「そんなびっくりするようなこと言わないよ……。私は鈴村君の決意を代弁するだけだから」
そう言うと、綾瀬凛は鈴村の気持ちを話した。
「鈴村君ね、お父さんが知ってる通り昔から、あの施設に来た日から私の事好きだったらしいんだ。私も一目惚れだったからそれはびっくりしたんだけど、それに関してはちゃんと気持ちを伝えてくれたの」
「おう。それで、なんで琴原さん……、みどりちゃんだっけ? が出てくるんだよ」
「それがね、生徒会に入って私たちと一緒に過ごしていく中で、みどり先輩、鈴村君のことが好きになっちゃったみたいなんだ」
「な、なんだって……!?」
綾瀬忠一に衝撃走る。
「さっき驚かないって言ったのに……。それで、納涼祭の花火大会の日、私は鈴村君と花火を見るつもりだったんだけど、結果的に鈴村君、私、みどり先輩の三人で見ることになったんだ」
「どうしてそうなった」
「偶然かな」
「偶然で片付けられないだろそれ……」
しかしそれは偶然であった。
綾瀬は続ける。
「お父さんは納涼祭の花火大会の噂、知ってる?」
「……ああ、二人きりでその花火を見ると結ばれるっていう迷信だろ? まさか信じてたのか?」
「うん、信じてたよ? 鈴村君も、みどり先輩も信じてた」
「マジかよ……」
綾瀬忠一はその若々しい考えが理解できなかった。
「まあ、結局三人で見ることになっちゃったからその噂の条件を満たすことはできなかったんだけど、そこで私とみどり先輩が鈴村君に間接的な告白をしたんだよね」
「な、なんだって……!?」
綾瀬忠一に衝撃走る。
「それさっきもやったよね……。……それで、たぶんそこからじゃないかなぁ。鈴村君がみどり先輩のことも意識し始めたのは」
「ということは、徹はその一件からみどりちゃんのことも好きになってしまったと。でも凛のことも諦めきれないと」
「そういうこと。それで、今回の旅行で鈴村君の気持ちをはっきりと聞いたんだ」
「……それが二股か?」
「その言い方やめてよ……。……鈴村君もね、ほんとはどちらかを選びたかったんだ。でも、それって選ばれたほうは嬉しいけど、選ばれなかったほうはショックを受けるでしょ? 最愛の相手に選ばれなかったんだもん。最悪、不登校になるくらいのショックは受けるんじゃないかな」
「凛はそこまでショック受けるほど徹のことが好きなのか?」
「うーん、そうだなぁ……。私は不登校になるかな」
「そ、そこまでお前は徹のことを……」
綾瀬忠一はただただ困惑した。
「鈴村君はね、私たちに苦しい思いをしてほしくなかったんだって。悲しい思いをしてほしくもないって、そう言ってた。だから、鈴村君はどちらかじゃなく、私とみどり先輩二人を選んでくれたんだよ」
「……その答えに、みどりちゃんも納得したのか」
「さっきも言ったじゃん、納得してるって……。お父さん大丈夫? 話聞いてる?」
「四割くらいはショックで耳から抜けてる」
「それじゃダメじゃん! ちゃんと真面目に聞いて!」
綾瀬忠一は愛娘に叩かれた。
「みどり先輩も鈴村君の意見にちゃんと納得してくれてる。むしろ、みどり先輩は鈴村君が私を選ぶだろうと思い込んでいたから、不安でしょうがなかったんだって。でも鈴村君の答えを聞いて、とても喜んでたよ」
「……そうだったのか」
綾瀬忠一は少し複雑な心境であった。
「そんなこんなで、私たち三人は正式に付き合うことになったのでした。……まあ、将来的には結局どちらかを選ばないといけないと思うんだけど、今はこれでいいかなって」
「……どういう意味だよ」
「そのまんまの意味だよ? 人生、何が起こるかわからないからね」
綾瀬凛は、何かを悟ったかのように言った。
「ま、とりあえず今は私たち三人を応援してよ! 大丈夫、お父さんが思ってるほど鈴村君はダメな男じゃないよ。ちゃんと私たちのことを考えてくれてる。行動してくれてる。恋する乙女にとって、こんなに嬉しいことはないよ」
「……そうか。わかった。人生は一度きりだ。悔いのないように生きろよ」
「うん! ありがとね、お父さん」
そう言って、綾瀬凛は自室に向かった。
「……今度徹に会ったときは一回殴らないとダメだな」
表向きは応援していたが、やはり許していない綾瀬忠一であった。
*
「いやー、本当に楽しかったなー」
そう言って、綾瀬は自室のベッドで転がりながらスマホで撮影した写真を眺めていた。
「思えば、友達とこうやってどこかに行ったの久しぶりだな。どこかに行くにしても、お父さんが許してくれなかったし」
綾瀬は綾瀬家の厳しいルールがあることを思い出しながら言った。
「それに、仮に行けたとしても、それは生徒会の活動だったり、うちの使用人が付き添いで来たりであまり落ち着けなかったし。だからこそ、飯田会長にも今度お礼しないとダメだね」
飯田は今回の旅行を理事長に提案した際、必ず拒否されると予想し、あらゆる手を使って理事長に交渉をした。
長時間の交渉の末、飯田は見事に理事長を納得させることに成功。しかも、綾瀬家の使用人や綾瀬家の関係者を同行させないというルール付けまで成功していたのであった。
全ては、綾瀬と琴原、そして鈴村のために取った行動である。努力は必ず報われることが証明された瞬間であった。
同席していた宮田詩織も大層喜んだ。
「あ、そういえば長谷川先輩にもあったね。長谷川先輩、まさか熱海に実家があって、しかもそれが豪華旅館だなんて思いもしなかったよ」
綾瀬は長谷川とのツーショット写真を見ながら言った。
「……思えば、鈴村君がきちんと決断してくれたのは、長谷川先輩のおかげでもあるんだよね」
元より鈴村はとある旅館に男女別々で宿泊する予定だったが、長谷川がその旅館をキャンセルし、実家の旅館に招待する形となった。
そこで鈴村たちは三人同室となり、鈴村の気持ちを整理する大きなきっかけを作ることとなった。
「……私、やっぱり裸、見られてるんだよね」
ふと、露天風呂でのことを思い出す。
「そうじゃん、私、鈴村君に裸見られてるどころか、みどり先輩の裸も見てるし、す、鈴村君のも見てるじゃん!」
突然冷静になったのか、綾瀬は露天風呂のことを鮮明に思い出してしまい、顔を赤らめる。
「……男の子のアレってほんとにあんな風になるんだね……。保健体育の授業では聞いたことあったけど、本物見るのは初めてだったな」
それは琴原も同じであった。
「……ああなってたってことは、ちゃんと私のことを『女』として見てくれてる、ってことだよね。……みどり先輩の裸見てああなってたら怒るけど」
綾瀬は琴原の魅力的なボディを思い出しながら言った。
「でも、結果はどうであれ、ちゃんと意識してくれてることはわかったし、私のことを、私たちのことをしっかり考えてくれてることは分かった。それだけでも大進展かな」
そう言って、綾瀬は仰向けになる。
「……いつかは私にも、そういうことをする日が来るのかな」
ふと、綾瀬は恋人同士になったその先のことを想像した。
したが、あまりそういうことを考えたことがなかったため、綾瀬は恥ずかしくなりその想像をやめた。
「いつか、いつか来るとは思う。その時に見られるの慣れなきゃとは思うけど、やっぱり恥ずかしい……!」
綾瀬は顔を赤らめた。
「……でも、本当にそういうことをする日が来るのかな。…………本当にこのまま、平和なままで過ごすことができるのかな」
綾瀬には一つの不安があった。
それは、鈴村が今後の未来でどのような選択肢を取るかであった。
鈴村は綾瀬と琴原の気持ちを汲み取り、且つ悲しんでほしくないという思いで二人と付き合うことを選んだ。しかしそれは、その瞬間は二人が喜ぶ結果になったが、果たしてそれはいつまでも平和に続くのだろうか。
もしかしたら、どちらかが熱烈なアピールをして独占しようとするかもしれない。
もしかしたら、それに嫉妬してよからぬ問題に発展するかもしれない。
綾瀬はそんな不安を抱いていた。
「これは、鈴村君のことを信じるしかないよね」
綾瀬は目を腕で隠しながら言う。
「鈴村君、私は鈴村君の全てを信じていいのかな。これから、この先の人生、全て鈴村君に捧げてもいいのかな。私、ほんとは怖いんだ」
綾瀬は本音を呟く。
この本音は、綾瀬が不安を感じたときから抱いていたものであった。
「私は鈴村君を諦めないよ。……でももし諦める日が来るとしたら、それはそれで悲しいな」
ポロっと涙を流しながら綾瀬は言った。
「これ以上鈴村君のことが好きな人が増えなければとりあえずいいんだけどねー。長谷川先輩とか、結構危ういところまでいってたみたいだし」
琴原は中学時代に問題を抱えており、長谷川はその問題の元凶であった。長谷川は長い期間琴原のことをいじめており、それは中学にまで続いていた。
しかし、鈴村の言葉により長谷川は改心し、今では琴原と長谷川は親友にまでなった。
そんな長谷川の人生を変えた相手だからこそ、鈴村のことを好きになるのではないか、と考えていた。
「うーん、でも新しい旅館に案内してくれたのは長谷川先輩だったし……。あの後一度も私たちに接触してこなかったし……。大丈夫なのかなぁ」
綾瀬は旅行中に長谷川と連絡先を交換していたため、真相を聞こうと電話をしようとしたが、これ以上今悩みを増やしたくないと考えてやめた。
「……あ、そういえばもう一人いたな、危ない人」
そう言って、綾瀬は宿泊部屋で深夜に見た女性のことを思い出していた。
「あの『鈴歩』っていう女の人、いったい誰だったんだろう……。寝ぼけてたから幻覚かなと思ったけど、それにしては声が鮮明に聞こえたし……。でもあの部屋に音もなしに入ることなんてできないもんなぁ……」
綾瀬は一つの仮説にたどり着いた。
「……もしかして、鈴村君の守護霊?」
それは強ち間違いではなかった。
鈴歩はある意味鈴村の守護霊のようなものである。
「ま、考えても仕方ないか。どこかのタイミングで聞けばいいし。……とりあえず、私たちの気持ちが一つになってよかった」
綾瀬はそう言いながら、ベッドの上でストレッチをした。
「また行けるといいな、旅行。今度はもっと、大胆にいこうかな」
そう言って、綾瀬は眠りに着いた。
こうして、綾瀬の旅行の振り返りは終わった。
……一方、未だ旅行の振り返りをしている人物が一人。
「旅行楽しかったです! もう一回行きたいです! 今度は鈴村君と一緒に! 二人で! 三人でも一緒に行きたいですけど、やっぱり二人のほうが自分を曝け出せるというか……!」
琴原であった。
次回、「旅行のその後 ~琴原編~」、開始。




