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鈴村くんは間違えない  作者: シア
第1章 『人生の選択肢』

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第12話 選ばれたのは

『鈴村君。お願いです。私たち二人と、お付き合いをしてください』




「…………え?」


 鈴村徹すずむらとおる綾瀬凛あやせりん琴原ことはらみどりの三人は、飯田勝翔いいだしょうとの提案により「鈴村へのアタックをフェアに行う」をモットーにした熱海旅行に来ていた。


 そこで鈴村は鈴村が中学時代に知り合った長谷川杏里はせがわあんりの提案のもと、長谷川の実家の大型旅館で三人同室で宿泊することとなった。


 混浴OKとされているこの旅館で鈴村は綾瀬と琴原の誘惑に負け、三人で入浴することを決めるが、そこで鈴村はこの二人から信じられない言葉を聞いた。


「え……っと、それってどういうことでしょうか……?」


 照れながらも、困る気持ちのほうがまさっていた鈴村は綾瀬と琴原に聞いた。


「どういうことって……、言ったことがすべてだよ?」


「だからそれが理解できないから聞いているわけで……」


 困惑する鈴村に対し回答をする綾瀬であったが、回答になっていないため鈴村はさらに困惑していた。


「凛ちゃん、ちゃんと順を追って説明してあげないとダメですよ。鈴村君が困るだけです」


 琴原が言った。


「た、確かに、それもそうですね……。鈴村君、急にごめんね」


「い、いや、俺は大丈夫なんだけど、その、びっくりしたというか……。……ていうか、そろそろ目のやりどころに困るんで、あの、前隠してもらっていいです……?」


『え?』


 思わず立ち上がって鈴村に告白をした綾瀬と琴原であったが、何も隠さずに立ち尽くしていたため何もかも丸見えであった。


「あ、あのぉ……、ごめんなさい!」


 そう言って、照れながら綾瀬は風呂の水面下まで潜った。


「……私は、別に鈴村君にいくら見られても、何も思わないですよ?」


「琴原先輩は何も思わなくても俺が困るんです! とりあえず風呂入ってください! 立つなら立つで前隠してください!」


 どこか大胆になる琴原であったが、しぶしぶ浴槽に座り込んだ。


「……とりあえず訳を聞きましょうか」


 鈴村は改めて二人に話を聞くことにした。


「えっと、私とみどり先輩で一回話し合ったんです。これからどうやって鈴村君と接していこうかって」


「どういうことだよ」


「私とみどり先輩は鈴村君のことが好きっていう、偶然だけど覆すことのできない事実がある。だけど、同じ相手を好きになってしまった以上、私とみどり先輩のどちらかは鈴村君に選んでくれない未来が訪れることになっちゃう。これは私も、みどり先輩も受け入れたくないことなんだよ」


「まあ、誰しもそれはそうだと思うけど……」


「私もみどり先輩も鈴村君に選ばれない未来は望んでない。でも、仮に選ばれなかったとしてもその時はお互い恨みっこなしで、鈴村君が選んだ相手をしっかり心から応援しよう、って決めたの」


「……その結果がさっきの言葉なのか?」


 綾瀬は、「まさしくその通り!」と鈴村を名推理した探偵を賞賛するように言った。


 綾瀬の言葉に琴原が続けた。


「では、二人がお互いに傷つかない、苦しまない選択肢はないのか、と二人で考えたわけです。その答えが、『鈴村君に私たち二人を選んでもらうこと』だったんです」


 鈴村は少し考えながら言った。


「……それは確かに一つの回答ではあると思います。ですが……」


「ですが?」


 鈴村は言葉に詰まった。


 綾瀬と琴原の提案である『二人を選ぶ』という結論は、鈴村の中にもあった一つの結論でもあった。


 思いがけないところで意見が合っていたが、鈴村にはその結論を出すにはとても勇気が必要だった。


 やはり、どちらかが悲しむ顔は見たくない。ただ、どちらも選ぶという選択肢は、()()()()()()()()使()()()()()と思われてしまうのではないか、と鈴村は考えていた。


 元より鈴村は周りの目を気にして今まで生きてきた。今でこそ鈴村は綾瀬や琴原と普通に接しているが、鈴村にとってこの「普通」はタイムスリップをしたことにより習得できたものであり、人として一歩成長をした証でもある。


 だがしかし、自分の性格はそう簡単には変えられない。根元に張り付いている性格であれば尚更である。


 鈴村は、迫られた選択肢に恐怖を感じていた。


「……すみません、綾瀬、琴原先輩。少し一人にさせてもらってもいいですか」


 鈴村は下を向きながら二人に言った。


「……うん、わかったよ。しっかり考えて、鈴村君の決めた『本心』を聞かせて」


 綾瀬は鈴村の気持ちを汲み取って言った。


 琴原も綾瀬に続いて言う。


「わかりました。私たちも、こんな難しいお願いに対してすぐに答えを聞かせてほしいわけじゃないです。鈴村君の人生を大きく左右する選択ですから。しっかり考えて答えを聞かせてください。……それがどんな答えであっても、私は覚悟してますから」


「……ごめん。じゃあ、俺先出てますんで」


 そう言って、鈴村は浴槽から出た。




                  *




「……はぁ」


 鈴村は旅館のロビーにある椅子に座り、頭を抱えて悩んでいた。


「俺はどうすればいいんだ……」


 綾瀬、琴原の告白に対し、ちゃんと答えを選ぶことができない鈴村。いくら考えても鈴村は答えを出すことができなかった。


「……なんでこういう時に限ってお前は光ってくれないんだ」


 そう言って、鈴村はふところから『人生の選択肢』を取り出した。


 タイムスリップしてから今に至るまでの間、この本は鈴村が鈴村の人生を大きく左右する選択肢に直面した際に必ず光り輝き、鈴村に様々な選択肢を与えていた。


 鈴村はその選択肢の中から自分の願いを叶えられるであろう選択肢を選んできたが、このタイミングになって『人生の選択肢』は鈴村に選択肢を提示しないでいた。


「今ここで選択肢が出てこなかったら、俺はどうすればいいかわからないままだ……。二人を悩ませ、困らせるだけだ……」


 うつむき、涙を浮かせる鈴村。




「私を呼んだ? 徹」




「………………え?」


 鈴村が前を向くと、そこには鈴村徹の母、鈴村香織すずむらかおりが立っていた。


 しかし、それはよく見ると鈴村香織ではなく、それに似た人物であった。


「か、母さん? ど、どうしてここに……」


「母さん? 私は君のお母さんじゃないよ?」


「は?」


「鈍いんだねぇ。ほら、君がさっきまで見てた本、どこ行ったの?」


「……あれ、そういえばいつの間にか無くなってる……。……もしかして、『人生の選択肢』なのか……?」


「ピンポーン、せいかーい」


 そう言って、鈴村香織に似たその女性は指を丸にして見せた。


「な、なんで母さんの姿なんだよ、この本って母さんに関係ないだろ。それに、なんで話せるんだ」


「そうねぇ。君のお母さんには関係ないかな。今君が見ている私は……、うーん、なんて言うんだろう……。……幻覚?」


「俺をバカにしてるのか?」


 鈴村は怒りそうな顔をして言った。


「ごめんごめん、冗談。私は君が持っていた『人生の選択肢』っていう本でもあるけど、君の中の潜在意識でもあると思うな」


「どういう意味だよ、それ。ていうか、母さんじゃなければお前の事なんて呼べば……」


「名前? 名前かぁ……。君自身であって君自身じゃないからなぁ。悩むなぁ……。名前ねぇ……」


 見知らぬ女性は手を顎に当て、悩み始める。


「あっ、じゃあこんなのは? 『リング』!」


「リング……?」


「『すず』でもいいよ。もともとは君の潜在意識なんだ。君の名前の『鈴村』からそのままとって『鈴』でもいいし、『リング』でもいいし、どっちでもいいよ」


「……でも『鈴』って読み方変えたら『リン』だよな。それだと綾瀬と同じ名前になっちまう」


「そうだと思ってあえて読み方は『すず』にしたんだ。逆に、私のことを『りん』と呼んで綾瀬凛を思い出すのであれば、それは君がそれほど綾瀬凛のことを思っていることになるよ。でも、もう一つ『りん』と読める漢字があるんだ。わかる?」


 鈴村は少し考えてから言った。


「……もしかして、『はやし』か?」


「ピンポンピンポーン! 正解でーす!」


 拍手しながら見知らぬ女性は言った。


「そう、『はやし』! これは『りん』とも読める。ここから連想できることは?」


「……琴原みどり先輩だよな」


「その通り! やっぱり君頭いいね!」


「そんな小学生でもわかることで褒められてもなぁ」


 鈴村はあまり嬉しくなさそうな顔で言った。


「よし、わかった。お前のことは『鈴歩すずほ』と呼ぶことにする」


「鈴歩……? かわいくないからやだ」


「なんだよそのわがまま……」


「だったら『鈴香すずか』とかがいいなぁ。……あ、でもそれだと君のお母さんの名前略しただけになるね。それじゃダメか」 


「鈴歩にしたのには理由がある。確かに俺の苗字から『鈴』を取るのはいいが、お前は俺に『人生の選択肢』を与えてくれた存在だ。歩む道を示してくれている。だから『歩む』を付け加えて『鈴歩すずほ』だ」


「……なるほどねぇ。まあ、それでもいいかも」


 鈴歩は嬉しそうに言った。


 鈴歩は鈴村の隣に座り、問いかける。


「君ってさ、人生をどう思ってる?」


「……は?」


「タイムスリップするまでの人生を、どう思ってる?」


「……なんでタイムスリップしてることを知ってるんだ」


「はぁ……。とことん鈍いなぁ。そもそも君があの大惨事を経験してからタイムスリップすることができたのは、君自身の力のおかげなんだよ?」


「俺の力……?」


 鈴歩は鈴村の心を指さしながら言った。


「君は大学一年の夏休み、綾瀬凛とカップルになって初デートをした。でもその初デートで、君はフられた。なんでかわかってる?」


「……綾瀬にとって俺はただの普通の男に過ぎないからか?」


「ぶっぶー、違います」


 鈴歩は手を胸の前でバツにして言った。


「君がフられた理由は君がよく知ってるはずだよ。そのためにタイムスリップしてすぐの日、一年A組の教室に行くことを選んだんでしょ?」


「……俺の今までの人生の中に、『綾瀬と直接関わった』という接点は考える限りほとんどなかった。一方的に俺が綾瀬のことを好きだったんだ。向こうからしたら、『突然告白してきた昔少しだけ遊んだ人』にしか見えないはずだ。だから俺は、綾瀬からのあの言葉を聞いた時から、『接点の無さ』を後悔したんだ」


「そう、恋は全ていきなり始まる。だけどそれは個人的な問題に過ぎないんだよ。その恋を実らせるためには、まず自分のことを相手に知ってもらう必要がある。君はタイムスリップする前の綾瀬凛にどう思われていたか知らないよね?」


「……知ってたらそもそもここにいないだろ」


「その通りだね。じゃあ特別に教えてあげるね。綾瀬凛はタイムスリップする前、君の事を……」


 と、言いかけたところで鈴歩は言うのをやめた。


「やっぱやめた。ここで私が答え言ったら、君のためにならない」


「な、なんだよそれ」


「ていうか、君が意識を失う前、綾瀬凛が言っていた言葉聞いてなかった?」


「あ、あの時はショックで意識が朦朧としてて、何も聞こえてなかったと思う」


 鈴歩は「あちゃー」と言いながら困った顔をした。


「まああれだけの人生を歩んできた中での失恋だもんねー。ショック死しててもおかしくないよね」


「他人事のように言いやがって……」


「……勘違いしないでね。私は君の潜在意識なの。私は君みたいなものなんだよ。あの時の気持ちが私にもわからないとでも思ってる?」


 そう言って、鈴歩は鈴村に近寄った。


「君が傷つくと私も傷つく。君が嬉しいと私も嬉しい。そう、私は嬉しいんだよ。だから君にチャンスを与えたんだ」


「……『人生の選択肢』をくれたのは俺自身だったのか」


「ま、言ってしまえばそんなことになるかなー」


 鈴歩は伸びをしながら言った。




「どの道を歩むも君の人生! 選んだ道は変えることができない! だから、自分を信じて。恐れないで。大丈夫。鈴村徹は間違えないんだから」




「俺は、間違えない……」


「じゃ、私の役目は終わったみたいだし。これで失礼するね」


「え、いやちょっと待ってくれ! まだ話したいことが!」


「ごめんね。今回について、私が協力できることはこれまで。後は、君が決めるんだよ」


 そう言って、鈴歩は姿を消した。


 その鈴歩がいた足元には、『人生の選択肢』が落ちていた。


「……俺は間違えない。恐れない。大丈夫、俺は大丈夫だ」


 鈴村はそう言って、部屋に戻った。


 鈴歩の足元に落ちていた『人生の選択肢』は本が開いており、そこには「Good Luck!」という文字のみが記載されていた。




                  *




「あ、鈴村君お帰り。結構長かったね」


「おかえりなさい、鈴村君」


 鈴村が部屋に戻ると、綾瀬と琴原は笑顔で鈴村を迎え入れた。


「それで、落ち着いた? その、色々と大丈夫?」


「ああ、落ち着いた。……色々って何の話?」


 鈴村が綾瀬に問いただすと、綾瀬は「い、いや! 何でもない! 気にしないで!」と顔を赤らめながら言った。


「綾瀬、琴原先輩。ちょっといいですか」


 鈴村のその言葉に、綾瀬と琴原は覚悟を決めた。


「……やっと、決心がついたんだね」


「鈴村君の答えがやっと聞けるんですね。大丈夫です。私はどんな答えだって受け入れます」


 どこか自分を選ばない選択をしたのかと思い込んでいるようなことを琴原は言っていたが、それでも本人は真面目であった。


「さっきの二人の、『二人と付き合ってほしい』っていう告白のことだけど……」


『……はい』


 二人は、覚悟を決めて鈴村の言葉を聞いた。




「二人同時に付き合うってどこか変な感じもするけど、二人を悲しませたくはないんだ。だから、俺は二人の気持ちをちゃんと受け止めます。こんな俺で良かったら、ぜひお願いします」




 鈴村はそう言って、頭を下げた。


 その言葉を聞き、綾瀬と琴原は思わず涙が出る。


 そして。




『や、やったー!!!!!!!』




 綾瀬と琴原は飛び跳ねて大喜びした。


「そ、そんなジャンプするほど嬉しいものかね……」


「何を言うんだい鈴村君! これほどまでに人生で嬉しいものなんかないよ!」


「そうですよ鈴村君! 私もう凛ちゃんに鈴村君取られて終わりの未来しか見えてなかったんですからね……! ほんとに……、嬉しいです……!」


 そう言って、二人とも笑顔でいながらも涙をぼろぼろと流していた。


「二人の笑顔が見れて、俺も嬉しいよ。改めてですが、これからよろしくお願いします」


 三人の笑顔は絶えなかった。


「あ、そうだ。一つ私から提案が」


 そう言って、綾瀬は鈴村に対して挙手をした。


「なんだよ綾瀬、改まって」


「それだよ、それ! 私たちに対する呼び方!」


「呼び方?」


「あー、確かに。これで正式私たち鈴村君の彼女になれたわけですし、呼び方変えてほしいですね」


「あぁ、ええっと、そのことなんだけど……」


「ん? 何か思うことでもあるの?」


「その、この旅行があった後に呼び方とか変えたら、飯田会長や宮田先輩に悟られて、その、恥ずかしいなって……」


「乙女かっ」


 鈴村は綾瀬にチョップをくらっていた。


「そんなのあの二人は気にしないよ。もともと、私とみどり先輩のギクシャクした関係を解決するためにこの旅行は用意されたわけだし」


「そうですよー。……まあ、性格上私は敬語で話すのが抜けないのでこのままでいきますが、もっとフランクに接したさはありますね。それこそ、鈴村君のことを名前呼びしたり、私たちだけしか許されない呼び方で呼び合ったり」


「何それいいですね! めっちゃ恋人って感じします!」


「いいや、悪いんだけど、呼び方とかその辺はいつも通りで。……決心がついたとは言っても、俺も不安でいっぱいなんだ。だから、恋人でいてはほしいけど、いつも通りでいてほしい。でないと、崩れたときのショックがでかい」


「……ヘタレか」


「ヘタレですね」


 鈴村は二人に鋭いツッコミをくらっていた。


「でもまあいっか! それはそれで!」


「え、いいんですか? 凛ちゃん」


「いいんですよ。呼び方はどうであれ、しっかりと私たちのことを考えて決めてくれたことですし。まずはそっちに感謝しないと。呼び方だって、最初は慣れないだろうから定着しづらいですからね」


「……まあ、それもそうですね」


 琴原は頷いた。


「と、いうわけで。正式にカップルになれたわけだし、混浴OK、添い寝OKのこの空間でやること言えば一つ!」


「え!? いや、ちょっと待って! さすがにそこまでは心の準備が!」


 綾瀬は服を脱ごうとしたが、それをギリギリのところでやめた。


「……やっぱりごめん、疲れたから寝るね」


「え? お、おう。わかった」


「……ごめんね。鈴村君もみどり先輩も、早く寝たほうがいいよ。明日も行くところあるから」


「? そ、そうですね。ささっ、今日はもう寝ましょう!」


(……綾瀬、どうしたんだ?)


 鈴村は綾瀬の少し悩んだ表情が少し気になったが、三人はそのまま就寝することにした。




                  *




 そんな日の真夜中。


 鈴村は眠れないでいた。


 部屋についているバルコニーで、鈴村は夜の海を見ながらつぶやいた。


「……結局、この答えしか俺の中ではしっくりこなかったな」


 綾瀬だけを選ぶ選択肢、琴原だけを選ぶ選択肢、そのどちらも鈴村には納得がいっていなかった。


 ()()()()()()()()こそが、鈴村が一番納得のいく最適解だと考えていたのだった。


「やっほ。うまくいったみたいだね」


「……鈴歩か」


 気づくと、隣には『人生の選択肢』の具現化した姿の鈴歩が立っていた。


「ああ、鈴歩のおかげで、自分の中で決心がついたよ」


「知ってるよ。君は私だもん。そういう答えを出すってわかってた」


「俺がお前ねぇ……。そうやって答えを知ってるなら、その先にある未来を教えてくれてもよかったんじゃないか? それこそ、いつもみたく【選択の結果】で」


 鈴村がそう言うと、鈴歩は「ちっちっち」と指を振りながら言った。


「それはできない相談だよ、徹。私が提示している【人生の選択肢】は君に『こういう未来が来る』という答えを与えているだけ。そう易々と答えを教えちゃったら、それは君のためにならない」


「俺はお前なんだろ? なら渋る必要もないだろ。俺が悲しむとお前も悲しむって、さっき言ってたじゃんか」


「……そういうことじゃないんだよ、徹。そういうことじゃないんだ」


 真剣な面持ちで鈴歩は言う。


「これだけは徹に言っておくね。私は君に変わってほしいんだ。これから訪れる様々な選択肢のために」


「これからのため……?」


「そう。君はこれからいくつもの『人生の選択肢』に直面する。私はそれに都度都度答えてあげられるほど優しくはないつもりだよ。私の力を頼らず、自分の力で壁を乗り越えてほしいんだ」


「…………今までは慈悲でやってたってことか」


「そういうことじゃない。今までは、もし不正解を選んだ場合、君には死ぬ未来が訪れることになるんだよ。だからそれを阻止するために選択を提示し、君に選ばせた。もちろん、しっかり考えさせてね」


「……あの『死』に直結する選択肢って、本当に俺が死ぬ未来だったのか」


「そうだよ? 私も信じられないんだけど、この力不思議でね。君が『人生の選択肢』に直面するたびに、私は『選択肢』と『それぞれの未来』を見ることができるんだよ」


「それ、信じていい話か?」


「それは信じるも信じないも君次第だよ」


 そう言って、鈴歩はにっこりと笑った。


「頑張ってね、徹。私は君。君は私。君がこの先の未来でどんな選択肢を迫られても、君は間違えないと思ってる。もちろん、私もできる限り力を貸すよ。ただ、君に変わってほしいことに変わりはない。その時は、『選択肢』は出さないから覚悟しておいてね」


「……ああ、わかったよ」


 鈴歩のその言葉に、鈴村は決意を強めた。


「ありがとうな、鈴歩。俺の背中を押してくれて」


「やめてよ、恥ずかしいな。じゃ、明日も早いんでしょ? こんな真夜中に起きてないで、寝たほうがいいよ」


「ああ、そうする」


 鈴村の言葉を聞いて、鈴歩は姿を消した。


「……絶対に二人は悲しませない。これだけは約束するよ」


 そう言って、鈴村は布団へ入った。


 ……その様子を、綾瀬が見ていたことに鈴村は気づかなかった。

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