第4話 ダメ神様は買い物中
ASMRに使う器具や専門用語を書いています。
分からなかったら戻って見るためのものなので、今は飛ばしてもらっても構いません。
※USBマイク・・・パソコンや一部のタブレット・ゲーム機などに「USBケーブル一本」で直接つないで使えるマイクのこと。
※ダイナミックマイク・・・マイク内部の「コイル」と「磁石」を使って音(空気の振動)を電気信号に変えるタイプのマイクのこと。電源が要らず頑丈で、ライブやカラオケなどでよく使われている。
※コンデンサーマイク・・・電気をためる「コンデンサー」という仕組みを使って、空気の振動を電気信号に変えるマイクのこと。レコーディングスタジオや配信、ナレーション収録などでよく使われている。
※KU100・・・人の頭の形をした模型の両耳にマイクが入っていて、人がその場で聞いているような立体的な音(バイノーラル録音)を収録できる。ASMR配信やシチュエーションボイス、立体音響の研究などでよく使われている。
※バイノーラルマイク・・・人間の「左右の耳」で聞いているのに近い形で音を録るためのマイクのこと。左右にマイクカプセルを2つ配置し、耳の位置や頭の形の影響を再現することで、ヘッドホンで聞いたときに「前後・上下・距離」まで分かるような立体的な音場を再現する。(「コンデンサーマイク」に分類される。)
「ふぅわぁぁ....。」
ぼくは家電量販店の待ち合わせスペースで大きく口を開けて眠気を放つ。周りの客たちがぼくを迷惑客と認識した今、ちょうど時計の針が1時を表す。
「そろそろなんだと思うけど....」
ぼくはスマホの時計に目を落としてその瞬間を待つ。画面上に数字が写っているだけなのに、頭で『チクタク』という音を想像してしまう。しかし、昨日にある人とメール待ち合わせ時間を決めている。だからもうすぐ来るはずなのだが...
「......ドタキャンすんなとか言ってたけど、もしかしてあっちが...」
「ん?...5分なんて誤差だよ、紺場崎くん。」
「うわっ!!」
驚きと恐怖で腰が椅子から離れる。「ドタバタ」といううるさい足音を数回鳴らした後に、ぼくは後ろを恐る恐る振り返る。太陽の光を含んだかのような黄色の瞳がぼくをまっすぐと見つめる。
「きょ、今日は髪型違うんですね...?」
「うん、その前に私はドタキャンなんてしないし、5分は遅刻とは言わないよ。」
「あっ.....す、すいません。」
あっさり丸め込まれてしまった。大人の女性って怖いっ。
ぼくはそんな怖い女性に頭を下げる一方、顔色を疑うかのように顔を上げる。私服も可愛いが、それよりも髪型だ。ミディアムだった髪型がサイドテールに変わっている。大幅な変化でこちらも話の話題にしやすい....話変えられたけど。
相変わらずサラサラとした髪が一層とたなびく。髪色は黒と青黒が混じり、とても清楚でクールな一面を醸し出す。砺波先輩はそれを見せつけるかのようにターンしてぼくに背中を見せつける。数秒の間が開いた後にクルッと振り返って顎に人差し指を当てる先輩。
「どう、可愛いでしょ?」
そ、それはずるいですよ。
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ぼくたちは両サイドを家電製品に囲まれた道を歩いていた。
「ねぇ、ネットで良かったんじゃないの?」
「ダメです、こういうのは生で見ないと損をしてしまいます。」
「けぇ、ケチだね。」
「....本当に借金している人の言うことですか?」
ぼくは内心でウンザリしながら歩みを進める。洗濯機、テレビ、冷蔵庫、三種の神器のパネルを通り越したところでぼくたち2人は上を見上げる。
『マイク』
「ありましたね。」
「ねっ。」
マイクと書かれたパネルが天井からぶら下がっている。その下にはカラオケで使うものアーティストがライブなどで使うものなど、多岐多様にわたる種類のマイクが売られていた。
「ねぇ、『ASMR』のマイクなんて売ってるの?」
「はい、案外売られてるものらしいですよ。」
「へぇー....」
ぼくたちは両脇に置かれているマイクを品定めするように眺めていく。しかし、最近のマイクは『ASMR』に限らず進化のスピードがとてつもなく速い。ほとんどのものはノイズ低減と騒音対策がしっかりしていて、音割れなんてことは故意じゃない限りほとんど起こらない。
「す、すごいね。」
「そうですね、こういう家電系はすぐ新しいモデルみたいなのが出ますから。」
そんなたわいの無い会話、先輩と個人で話せていることの幸せ、全てが川に流れる水のように過ぎ去っていく。そんな中、ぼくたちは歩みを止める。
「あっ、これですよ。」
「.....こ、これ?」
「はい。」
ぼくらが止まったのは『※USBマイク』が並ぶ商品棚の前。一口に『USBマイク』と言っても大きく2つの種類があり、『※ダイナミックマイク』と『※コンデンサーマイク』が存在する。『ASMR』の定番マイクといったら後者になるため買っておいて損はないだろうが....
「ねぇ、なんか思ったのと違うんだけど...」
「えっ?なんか別のもの欲しいんですか?」
「いや....私も色々調べたんだけど、顔の形のマイクが...」
「ダメです。」
「えっ?けど、配信者の人たちはみんなそれ使って...」
「ダメです。」
砺波先輩が「えぇ〜...」と言いながら残念そうに顔を曇らせる。おそらく先輩が言ってるのは『※KU100』のことだろう。あれは『※バイノーマルマイク』のため初心者にとって扱いが難しく、なにせ値段がとてつもなく高い。最低でも100万円からのスタートになるためトップ配信者ぐらいしか使用していない。
「だってだって、それ使ったらトップの人たちと肩を並べられるじゃん!」
「.....はぁ...」
「あぁっ!ため息ついた!」
「先輩....本当に借金してるんですか?あと、道具が同じなだけで肩を並べられると思わない方がいいですよ。」
「だ、だって...」
「先輩がやってるのは子供の駄々と変わりありませんよ。」
「うっ....うぅ。」
「とりあえず、先輩はこれを使ってください。」
凹む先輩をよそにぼくは商品棚の下から箱を取り出す。中にはちゃんと商品が入っているため重みが感じられる。ぼくが手に取ったのは4000円台の『コンデンサーマイク』だ。使い勝手が良く、初心者にとっても手に取りやすい価格だ。
「わ、分かったよ。」
「ぼくが許可を出すまで『KU100』は禁止です。」
「嘘でしょ〜....てか、君ってそんなに私に言える立場?」
砺波先輩が小悪魔みたいに笑いながら、下からぼくの顔を覗き込む。あまりのインパクトにぼくは一歩後ずさったが、先輩のためにもここで覚悟を決めないといけない。
「ダメです!そもそもここは職場ではないので関係ありません。」
「えぇ?けど私は男の子からリスペクトされたら嬉しいけどなぁ。」
「くっ.....だ、ダメなものはダメです!」
「なんだよ〜...面白くないな。」
先輩はそう言ってぼくの手から商品を奪い取る。そして箱の上下左右をじっくり見てから買い物カゴに入れた。
それを見たぼくは安堵とともに胸を撫で下ろす。先輩が納得してくれたことがなにより嬉しかったぼくは興奮気味に先輩にあることを言う。そう、馬の前に人参をぶら下げるのだ。
「じゃ、じゃあ、『モウビー』のチャンネル登録者が70万人超えたらぼくがご褒美として買いますよ。」
「本当に!?えへへ、それなら一時期は頑張れそうかな。」
「ずっと頑張ってください。」
「ほっんと、君って可愛げないよね〜。」
「先輩にだけは言われたくないです。」
確かにぼくは可愛げがないのは自覚している。てか、みんなからもそう言われて生きてきた。でも、そんなぼくでも人は救えるんだと証明してやるさ。
「じゃあ、それを買いましょう。収録とか、配信とかの仕方はメールで教えますので。」
「えっ?何言ってんの...?」
「はい...?」
ぼくの言葉に先輩は疑問を示す。
あ、あれ?へ、変なこと言ってないよね?
えっ、ぼく地雷踏んだ?
そう考えるとともにぼくは焦りと罪悪感に襲われる。早く謝らなくては、先輩が悲しんでしまう。
「.....なんか、先輩の嫌なことでもぼくしましたか?」
「...?.....あぁ、そういうこと?」
「?」
「いや、ごめんねー。言葉のチョイスが唐突すぎたかも。」
「ど、どういう....」
「うん、メールめんどいから私の家に来て教えてくれる?」
「へ?」
突然すぎる言葉にぼくはピタリと動きを止めてしまう。固まりすぎて今なら銃弾が弾けるぐらいに。だが、銃弾が飛んでくることはなく、その代わりに先輩のパワーワードがぼくに飛来する。
「えぇー、なになに!?そんな小豆バーみたいに固まっちゃって...もしかして、『女の子の家』に行くの初めて?」
「.......」
「いや〜、初心だねー。」
耳に入る言葉の一つ一つに舐め腐ったような態度が感じ取れる。まぁ、分かりやすく言うと...『クソガキ』というところだ。
「そんじゃ、行こうか。」
すると、先輩がぼくの手首を掴んで歩き出す。行き先は場所的にレジだ。しかし、最終的な行き先は違うのだろう。
「ちょ、先輩っ....!!」
「あれれ、おかしいね。」
先輩は流れをぼくに渡そうとせず、一方的に話しかける。そして、次にかける言葉は一瞬でぼくの心を溶かした。
「小豆バーなのに....手、あったかいね。」
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