㉘ 少女の行き先
「総督! 蔵にいた子ども二人を保護しました!」
外に出ると、別の隊の騎士たちが駆けてきた。その先頭を並んで走る二馬には、セナとカイリがそれぞれ騎士に支えられて乗っている。
「よかった! 二人とも無事だったんだね!」
「二人?」
キーラは不意に眉間に皺を寄せた。そして騎士の手を取って馬から慎重に下りる少女をじっと見つめた。
「……この娘は?」
「あの蔵の地下にいたんだよ! 記憶を……失っているみたいで、名前もどこから来たのかもわからないんだ」
ヤクが説明すると、キーラはすぐさま答えた。
「そうか。ならばこちらで保護しよう」
「うん、」
「何⁉︎」
承諾しかけたヤクの隣でハツが憤った。
「なんでお前が保護するんだよ? オレが見つけたんだ、オレの屋敷に連れてく」
「え?」
ハツの発言にヤクはびっくりして目を丸くした。
「ハツくん、その、キーラさんに任せた方が安心じゃないかな? この子についても何かと調べやすいし……」
「ヤクの言う通りだ。ハツ、お前は自分でこの娘の素性を調べたうえで適切な対応ができるか? お前の勝手な拘りで決めていいことじゃない」
キーラは些か厳しい口調でそう言い聞かせた。しかしハツはムスッとしたまま少女に目をやり、それから目を見張った。
「どうしたんだ? お前……」
少女は下りたばかりの馬にしがみつくようにして身をすくませながら、開ききった目でキーラを見つめていた。キーラがそちらを向くと、息を呑んで蹲ってしまった。
「?」
「そいつ怖がりだからな。お前のこと怖がってんだろ」
「でも、それにしても……」
地下室で怯えていた時の比ではない。少女の顔は今にも泣き出しそうに、というより絶望したように色を失って震えていた。
「……っ」
周りの視線を一身に浴びた少女はますます身を縮こまらせて後ずさった。近くの騎士が困ったようにキーラを見る。ハツが鼻で笑った。
「こんな状態でどうやって保護するって? 素性確かめる前に恐怖で死ぬぜ、こいつ」
「ハツくん……」
「なあお前、こいつとオレん家どっちがいい?」
ハツは一歩進み出ると、自分と兄を交互に指差しながら嬉々として少女に尋ねた。少女は馬の陰からキーラとハツとを順番に見やって、それから首を横に振った。
「どっちも、イヤ」
「……あ?」
少女はぱっと駆け出すと、ヤクの腕を掴んだ。
「きみのとこがいい」
「え、僕?」
突然土俵に投げ込まれたヤクは混乱の色を浮かべた。すると背後からシキの声が飛んできた。
「それはダメだ。こいつのところは他所者が好きに出入りできるとこじゃない」
「……」
少女が悲しげな目でヤクを見上げた。しかしこればかりはヤクも首を振るしかなかった。
「ごめん……僕の家には、君は入れないんだ……」
「……じゃあ、きみ」
少女はセナを指差した。
「僕? ってなると……」
「オレん家だな!」
ヤクを睨みつけていたハツが途端に胸を張った。
「……?」
「セナくんはハツくんの家に住んでるんだよ」
「……」
またも色を失いかけた少女にヤクは慌てて付け足した。
「僕も会いに行くよ! 毎日!」
「……ほんと?」
「うん、ほんと」
「……じゃあ、そうする」
少女が頷くやいなやハツは得意げにキーラを見上げた。
「聞いたか? オレん家がいいってよ」
お前はそれでいいのかよ、とツッコミかけたシキを除く四人に見つめられたキーラは渋々頷いた。
「……わかった。その娘の精神状態が落ち着くまではお前たちに任せよう」




