㉗ 奴隷の焼刻印
しかし、あの鉄の扉を開けて中を覗くとそこはもぬけの殻だった。
「あれ? ……誰もいない」
「本当にこんなところに奴隷が?」
ハツが胡散臭そうに言う。
「ほんとだよ! ほんとにいたんだって! 痩せ細ってたけど、まだ息はあって……」
「それは本当みたいだな」
床にかがみ込んだキーラが言った。
「確かに、人がいた形跡がある。大人じゃなくて子どもだ、三人くらいか? かなり小さいな……それに、鎖の跡」
「! そうだ、鎖で縛られてたんだよ! 自分たちで逃げ出せるはずないのに……」
「連れ去られたようだな」
「えっ」
「大人の靴跡がいくつかある。ブルースレイの仲間か?」
「仲間は……ジェイストの人たちが全員倒したみたいだけど」
「ならばジェイストが連れ去ったのだろうな」
「そんな……! どうしよう」
さあっと青ざめるヤクを見て、キーラは複雑そうな顔をした。
「まあ、ほっときゃいいだろ」
「……え?」
「はぁ?」
あまりに投げやりなキーラの言葉にヤクだけでなくハツまで抗議の声をあげた。
「見捨てるっていうのか⁉︎ 遅刻した上に敵逃しまくって子どもの救出すらしねぇってそれでもトキジヤかよ?」
「見捨てるわけじゃない。来るのが遅れたのは悪かったな。というかお前たちはなんで俺たちより早くに来れたんだ?」
「それは……」
言い淀んだハツを見やったキーラは、その胸元で揺れるペンダントに目を留めた。それで大体の事情を察したらしく、まあいい、と流して説明を続けた。
「奴隷に関してはジェイストに任せても問題ないだろう。奴らは子どもには……特に平民以下の子どもには情けをかけるからな。実際、家族を亡くした平民の子どもなんかはジェイストの支援で孤児院に入れられているなんて噂もある」
「じゃあ、あの子たちも孤児院に……?」
「孤児院は平民の子どもを迎え入れる施設だ。奴隷は対象としていない。だが奴らと水面下で契約した一部の施設は奴隷用の孤児院として機能してるみてぇだな」
「それってほんとなの? 実は無理やり戦わせてたりしないの?」
「……前に怪しいと睨んで締め上げた店があったんだがな、そこはジェイストと契約した奴隷の子どものための保護施設だった。子どもたちは戦いを知らず、無邪気に走り回って遊んでいたよ。年相応の子どもらしく……。今もまだ『営業』してるから、気になるなら覗いてみたらいい」
「……」
「ジェイストの言う身分制度の瓦解ってのには奴隷も含まれるってことか」
ハツが呟いた。キーラが頷く。
「おそらくそうなんだろうな。だから子どもたちについては心配はいらないだろう。奴隷ならそれ専用の、まだ焼刻印を押されていないのなら平民の子どもとして家に帰すか孤児院に入れるか……。こちらが下手に保護するよりも子どもにとっては良いかもしれないな。こういう件の対処については奴らの方が精通している」
「……」
ヤクはなんとも言えずに黙っていた。
(あの子たちは、僕では……僕たちでは救えなかった……? でも、ジェイストは平気で人を傷つける人たちなのに……)
「そもそも、今回奴らが絡んできたのもそれが原因かもしれないな」
「……向こうにも奴隷がいたみたいだった」
「奴隷? ジェイストに?」
「うん、でも……」
イオとのやりとりを思い出してヤクは口篭った。
「その奴隷って、どんな奴だ?」
「え? えっと、まだ子どもで……白かった。髪も目も肌も、全部……」
「アルビノか。なるほどな」
「?」
キーラは納得したように頷いた。
「特能や容姿が希少な者は第一級品の奴隷として高値で取引されるんだ。そこんとこで、ブルースレイは自身の催眠の特能と奴隷の焼刻印の効果とを組み合わせ、人間を従順な“商品”へと変える__一流の奴隷商売人だ。ゆえに奴は第一級奴隷を主に扱っていた。そのアルビノの奴隷は元々、ブルースレイが売り払った商品だったのかもしれんな」
「じゃあ、復讐ってこと?」
「それもあるだろうが、ジェイストは所詮平民の集まりだ。限られた者しか知らない奴隷の焼刻印のシステムを完全に把握できていなかったのだとしたら、商売人を問い詰めれば可能だと思ったのかもな……」
「可能って……何が?」
キーラが答えるより先にシキが呟いた。
「焼刻印の解除__奴隷身分からの解放だ」




