㉔ 救助申請
ヤクたちは屋敷を飛び出し、ここへ来る途中でも通った小道を走っていた。
「待ってハツくん、シキくんが……」
「……」
「ハツくん!」
引かれている手を思いっきり引っ張ると、ようやくハツはこちらを振り返った。
「いいから今は走れ! シキだって言ってただろ、あいつの目的はお前だ。目をみりゃわかる」
「でも、邪魔になったらシキくんを殺すよ!」
咄嗟にハツは言い返すことができなかった。
(奴は誰を殺すにも躊躇がない……それも、目をみりゃわかる)
「……だからといって、あそこにオレたちがいたって何もできないだろ。それならせめてあいつが心置きなく特能を使える状況にしてやった方がいい」
「それは……そうかもしれないけど……」
そこでハツはふと立ち止まった。ヤクはそのままの勢いで危うくハツの肩に激突しそうになり、つま先に力を込めてなんとか踏みとどまった。
「ハ、ハツくん?」
「オレは何も言わねぇから。お前が言えよ、助けてってな」
「え?」
ヤクが尋ねようとしたところで、何やら騒がしくなったかと思うとあたりに砂塵が舞った。と同時に頭の上から張りのある声が降ってくる。
「ヤク⁉︎ それに……ハツまで……。お前らなんでここに?」
「あ……キーラさん!」
信じられないものを見たような顔で馬上からこちらを見下ろしていたのは、アルトニヤ当主にしてハツの兄、キーラだった。後ろに二人ほど騎士がおり、こちらもまた驚いた様子で二人を見つめている。
「さっき暴れていた馬を保護したが……あれはお前のだったのか」
「……」
ハツはそれには答えず、馬の方を見やっただけだった。
(人数が少ないな……いくつかの隊に分かれて多方向から攻め込むつもりなのか)
「馬は向こうの方の木に繋げてあるから帰りがけに拾え。で、お前らはなぜここに? その怪我は……」
「それよりキーラさん、今すぐあそこのお屋敷の奥の部屋へ行って! シキくんが危ないんだ!」
「何? どういうことだ」
「すごく強い大男が剣で襲ってきたんだ、早くしないとシキくんが殺されちゃう!」
「わかった、ジェイストか?」
「ううん、たぶん」
たぶん違う、と言おうとしたヤクの言葉をハツが引き継いだ。
「多分騎士団の奴だ」
「え?」
「何だと?」
二人の視線を浴びて、ハツは半分睨みつけるようにしながらキーラを見上げた。
「剣術がそうだった。お前んとこから離反したんじゃねぇの?」
「心当たりはないが……まあ見りゃわかるだろ。お前たちは安全なところにいろよ」
キーラは怪訝そうな顔をしながらも、手綱をとって馬を走らせていった。




