㉑ 説得
勢いよく開かれた扉が壁にぶつかって、大きく軋みながら跳ね返った。ヤクはそのままの勢いで駆け出しながら、出せる限りの声で叫んだ。
「待ってシキくん!」
「__ヤク⁉︎」
一斉に視線が集まる。へぇ、とアスサが笑った。
「なーんだ、こいつの仲間がまだ残ってんのかと思ったら君かー。よく生きてたね」
「ヤク、お前、どうやってここに……」
(地下室で足止め食らってると思ったのに……もう抜け出してきたのか!)
心の中の動揺をなるべく悟られないよう、シキは再会の喜びを装った。
「……助けに、来てくれたのか! だが今は危ないから、ちょっと下がってろ」
「下がらないよ! だって僕は君を助けに来たんだもん!」
そう言ってヤクは一歩踏み出し、シキの隣___をすり抜けて、ソファに縛られた男の前に立ち塞がった。
「……ヤク?」
「シキくん、落ち着いて話をしよう。いきなりこの人を殺しちゃ、ダメだ」
「お前……!」
「大丈夫、この人たちにも渡さない」
ヤクはそう言って、目の前に立つジェイストの面々をキッと見つめた。直後、リュウムの剣先がヤクに突きつけられる。
「この男を殺さないという意見には賛成だ。だが、俺たちの邪魔をするのならばまず貴様に消えてもらう」
「待て、そいつに手を出すな! 俺が説得する!」
シキが叫んだ。左手には特能で作り出したらしい刃物のような氷が握られている。面倒事は避けたいらしく、リュウムはひとまず剣を下ろした。
「ヤク、よく聞け。その男は奴隷密売人だ。そいつが俺やセナを攫って、奴隷として商品にしようとしたんだ。実際、セナは他の奴に売られたも同然の扱いを受けた」
地下室でのことを思い出して、ヤクは黙って頷いた。
(やはりこいつ、ある程度のことは知ってるな。セナから直接聞いたのだとしたら、あいつらは無事だったのか)
シキが少し肩の力を抜いたように見えて、ヤクは首を傾げた。しかし再び、その鋭い声が耳元を揺らした。
「そいつは国の承認なしに奴隷を売り捌き、莫大な利益で私腹を肥やす外道中の外道……貴族の面汚しだ。ゆえに今、ここで始末する」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 殺さなくても……」
シキは舌打ちすると、ヤクをほとんど睨むようにして声を荒げた。
「お前はなぜそいつを生かそうとするんだ? お前は許せるのか? そいつのしたことを……平凡な幸福を得るはずだった子どもを連れ去り、そいつと同じクズどもに売り払ってその人生を屈辱と絶望に塗り替えた罪を! 許せるか? 許す権利がお前にあるのか⁉︎」
「___っ」
ヤクは言葉に詰まった。ここまで激昂するシキを見たのは初めてだった。
我に返ったのか、シキは肥大化した氷を投げ捨てると前髪を掻き上げてため息をついた。
「……だからヤク、そこをどけ」
「それは、無理だよ」
「何故っ」
シキだけでなく、ジェイストからも刺すような視線が向けられているのをひしひしと感じる。しかし、それでもヤクがその場から動くことはなかった。
「シキくん。僕は君に、人を殺してほしくないよ」
「……何?」
「この人を殺したら、君は必ず苦しむことになる。命が失われるって、そういうことだよ」
「……綺麗事を」
シキが忌々しそうに吐き捨てた。
カチャ、と音がして目を向けると、リュウムがヤクに剣を向けていた。
「説得は失敗のようだな。退かねば殺す」




