⑳ 再会は無事
幸い誰にも気付かれることなく扉のそばへと辿り着いたヤクは、その隙間から中の様子を窺いつつ耳をそばだてた。
玄関ホールの半分ほどの大きさの部屋は客室らしく、日に焼けて色褪せたボロボロのソファがひとつ置かれていた。さらにそこに括り付けられるようにして一人の男が座っている。そしてヤクに対して背を向ける形でジェイストの四人が彼を取り囲んでいた。
(……? 誰だろう、あの人……なにか、揉めてる?)
リーダーであるリュウムが何か言って、男が首を振った。アスサが珍しく真剣な顔で喋っている。ミグロも険しい顔をして脅しをかけるかのように剣に手をかけた。しかし男は口元を固く結んでまたも首を振った。
(もうちょっとで……聞こえる……)
ヤクはそっと扉を押し開けて、一歩前に踏み出した。
「仕方ないな。連れ帰るぞ」
リュウムがそう言ったのが聞こえた。続いてアスサの声がする。
「ま、こうなっちゃったらねぇ。いいですよ、新しい楽しみができた」
「やりすぎるなよ。こいつの特能が絡んでいる可能性もある」
「任せてくださいよリーダー、精神だけってのも唆りますね」
「お前、ほんと拷問好きだな……」
ミグロが呆れたように言う。拷問、という言葉にヤクはびくっとした。どうやら彼らはあの男を自分たちのアジトへ連れて行き、何やら問い正すつもりらしい。
(見過ごすわけには……でも、あの中に僕一人で出てっても絶対に勝てない。ああ、せめてシキくんがいてくれれば……)
そう願った時だった。
「!」
突然リュウムが剣を取り、何かを斬り払うような仕草をした。と同時に、キン! と高い音が響いてあたりがキラキラと煌めいた。
「……氷?」
ミグロの呟きにヤクはハッとした。
(まさか!)
「お前は……!」
アスサが声を上げる。その目線の先を追って、ヤクは言いようもない喜びでいっぱいになった。
(シキくん!)
部屋の奥にさらに部屋が続いていたらしく、向かって左の扉から姿を現したシキはまっすぐに男を見据えた。
(無事だったんだ……! シキくん、自力で逃げ出せたんだ! よかった……)
思わず呼びかけたくなる気持ちをグッと堪えて、代わりにドアノブを強く握りしめる。
(あの人をジェイストから守るつもりなんだ! 僕も助け……)
しかし、リュウムの声にヤクは扉を押し開けようと当てていた手をぴたりと止めた。
「なぜ貴様がこの男を殺そうとする?」
アスサの声が続く。
「君、こいつに攫われたんでしょ? 恨みを持つのはわかるけど、君がのんびりしてる間に俺たちがここまで追い詰めたんだから俺たちに譲ってよね? 仲間が多くて大変だったのだよ」
「お前は見てただけだろ」
ミグロのツッコミを無視してアスサは意地悪そうな笑みを浮かべた。
ヤクは後ろに張り付く血のにおいをちらりと振り返った。
(じゃあ、この人たちを殺したのはジェイストの人たちで……あの男の人はこの人たちの仲間でシキくんを攫った誘拐犯……ってあれ? じゃあジェイストの人たちがシキくんたちを攫ったわけじゃないの?)
頭がこんがらがってくる。しかしシキの声が聞こえてすぐさま思考はそちらに向いた。
「あんな雑魚どもにかまけていたお前たちの事情などどうでもいい。お前たちがその男を殺さないのならば俺が殺すまでだ」
「そういうわけにもいかんな。この男にはまだ聞きたいことがある」
リュウムが一歩進み出た。シキも身構える。イオやミグロも各々の武器にそっと手をやった。あたりに緊張が走る。
(まずい! あのリュウムって人はハツくんだって倒せなかったくらい強い人だ……いくらシキくんでも、一人じゃ勝てない!)
気付けば、両手が扉を押し開けていた。




