⑱ 仲間?
地下室を出ると、埃っぽいにおいが鼻をついた。
「大丈夫?」
ヤクは登ってきた階段を振り返って、ハツに肩を支えられて進むセナに声をかけた。
「うん、なんとかね……」
そう言って無理やり笑顔をつくるセナを見て、ヤクは心を決めた。
「やっぱり、みんなはここで休んでいて。僕はシキくんを探してくる」
「え……一人で?」
「うん。セナくんはもちろん、ハツくんだって大きな怪我はまだ治っていないでしょ? そしたら危ないよ。もしかしたらジェイストの人たちと鉢合わせするかもしれないし……」
ヤクは少女を見やって、これ以上君を巻き込むわけにもいかないし、と付け加えた。
「けどお前、そんな手で……」
ハツが眉を顰めてヤクの手に目を向けた。ここに来る途中のジェイストとの戦いで、溶けるほど熱された鉄杖は持ち手のカバーを貫いてヤクの手を焼いていた。光に照らしてよく見てみれば、手のひらが赤く腫れあがっていて少し触れただけでチリ、と痛みが走った。
「……まあ、なんとか逃げてみせるよ。ほら、鉄杖が溶けてなんだか鍵みたいな形になってるし? これで秘密の扉とか開けて逃げ込めば大丈夫!」
「なんだそれ……」
先端の曲がりくねった鉄杖を取り出して得意そうにするヤクに、ハツは呆れ混じりのため息をついた。しかし、その手が震えているのに気付いて口を噤んだ。
(だが確かに、オレが今ほとんど戦えねぇのは事実だ。怪我もそうだが、あの暴走ハイマを一時でも受け入れたダメージが意外とデカい……それに、こんな状態のセナを危険な場所に連れて行くわけにも、かといって置いて行くわけにもいかない)
ハツはヤクをじっと見つめた。それから懐をごそごそとやって何か取り出すと、ヤクの方へ投げてきた。
「わっ⁉︎」
なんとか抱きしめるようにしてキャッチする。その軽い感覚に見下ろしてみれば、それは小ぶりな剣だった。
「これは……」
「オレの予備用の剣だ。軽いけど切れ味はいい。お前のその手でも振れるだろ」
「……剣を……いいの?」
「お前のその針金じゃ寝てる奴だって殺せねぇよ。それ持っとけ」
予備とはいえ、屈指の剣士でもあるアルトニヤの彼が自分の剣を預けるというのはおいそれとできることではなかった。ヤクは胸に熱いものが込み上げてくるのを感じながら、小刀を鉄杖を入れていたところに差した。
「ありがとう、絶対にシキくんを見つけて戻ってくる!」
「早めにあいつを見つけろよ。腕が立つからな、二人でいた方がまだマシだろ」
「あ、そのことなんだけど……」
セナが遠慮がちに口を開いた。
「僕、連れ去られた後シキくんと離れ離れになって、それから気を失って……気付いたら手術するみたいにあの地下室のところの台に寝かされていてね。でも意識が朦朧としていたし、状況が掴めなかったからしばらく寝ているフリをしていたんだ。そしたら、シキ君の声が聞こえて……」
「え⁉︎ じゃあシキくんも地下室に⁉︎」
「ううん、シキ君は少ししていなくなったから、多分外に出たんだと思うんだけど……なんだか変だったんだ」
「変?」
「誘拐犯……かはわからないけど、僕の周りにいた人たちと普通に話していたんだ。その……まるで、仲間みたいに」
「……なかま」
「うん。いや、僕あの時寝ぼけてたし何かの勘違いだとは思うんだけど……でも、シキ君の家ってなんかちょっと、怖い噂も聞くから……」
セナはもごもごと言って俯いた。
「じゃあ今回の事件、シキが関わってるかもしれないってことか? 敵の方に」
「……そうとは、思いたくないけど……もしかしたら……」
「考えてみりゃ、そもそもお前はシキと会っていて攫われたんだもんな。確かに怪しいぜ」
「……」
シキへの疑いを隠すどころが煽るようなハツの言葉も、すぐには否定できないのがもどかしかった。ヤクはどくどくと胸が脈打つのを聞きながら、ぐっと拳を握りしめた。
「シキくんがこんなことするわけないよ」
「そうは言ってもな……」
「それにもし、セナくんやハツくんの言う通りだとしても……僕はシキくんを助けに行くよ」
「助けに行くって……そもそも、シキ君は助けを必要としていないかも……」
「ううん、必要だよ」
ヤクは力強く頷くと、鉄杖を握り直して蔵の扉の方へ足を向けた。
「友達をこんな目に遭わせないといけないなんて……そのくらい、苦しんでるんだ。それくらい、困ったことがあるんだよ。だから僕は、シキくんを助けに行く!」
「あっ待て!」
ハツの制止を振り切って、ヤクは駆け出した。扉を開くと外の光が一気に差し込んできて目が眩む。瞬きしてその光を馴染ませながら、ヤクは屋敷の方へ一歩踏み出した。




