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一翼のハイマヴィス  作者: かる
誘拐事件
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⑰ せっかちな待ち人

 「ハツくん! セナくん!」

 二人に駆け寄って肩を優しく叩くと、セナが曖昧な返事をしながら目を開いた。

「……ヤク、君」

 セナがぼんやりとヤクを見つめた。

「もう大丈夫だよ! 暴れていたハイマはもうなくなったんだ!」

 声を弾ませてそう言えば、セナはゆっくりと微笑んだ。

「そっかぁ……。ありがとう、ヤク君」

「いや、僕は何も……この子が」

 そう言ってヤクは少女を指し示したが、セナと目が合うと少女はヤクの背後に隠れてしまった。

「どうもありがとう。それに……」

 セナは視線を前に向けた。

「はーくんを助けてくれて……ありがとう」

 ハツは眠っているように目を閉じてぐったりしていたが、肩が僅かに動いていて息があることを示していた。セナがゆっくりと手を伸ばす。その動きはただの不調による緩慢というわけではなく、どこか怯えたような、おそるおそるといった調子のものだった。

「……大丈夫だよ、セナくん」

 ヤクがそっと言った。少女は黙って二人を見つめている。

 躊躇いののち、セナの指がハツの頰に優しく触れた。すると、その指先を中心に切り傷がだんだんと塞がっていく。

「わあ……」

 初めて間近で見るセナの特能に、ヤクの瞳がきらりと光った。少しずつではあるが、頰、首、肩、腕と治癒の輪が広がっていく。

「……ン」

 ハツが小さく呻いて目を開けた。

「ハツくん!」

「……お前……あ」

 ハツは自身の頰と手とに触れるセナを目の前に捉えて言葉に詰まった。セナも何も言わない。ただ黙ったまま、ハイマを流し込みハツの傷を治していく。

「……セナ。お前、生きてるのか」

「生きてるよ。はーくん」

 ハツは瞬きもせず固まっていたが、不意に姿勢を崩して倒れ込んだ。

「えっちょ、はーくん⁉︎」

「……ったくなんだよ……びっくりした……はは、なんだ」

 ハツが小刻みに笑い出したので、ヤクとセナは顔を見合わせた。

「はーくん?」

「ハツくん? どうしたの?」

「……」

 ハツは仰向けに寝転んだまま、右腕を上げて両目を覆った。

「なぁセナ」

「なに? はーくん」

「……お前の言ったこと、聞いてさ」

「うん」

「ちょっと、合ってるかもしれないって」

「うん」

「オレ、ちょっと間違ってたかもしれない。って、思った」

「……うん」

「……悪かった」

「…………」

 セナは答える代わりにハツに跨るようにして身を乗り出すと、顔の上に乗ったその腕を持ち上げた。

「っ⁉︎」

「はーくんって、本当のこと言う時は目を合わせないよねぇ」

 力の抜けたハツの腕をそっと置いて、にっこり笑う。

「でもね、僕が本当のことを話すのは目を合わせてる時だよ」

「……そうかよ」

 ハツは不貞腐れたようにそう言ってセナを睨み上げたが、目を逸らしはしなかった。

「はーくん、僕の方こそごめんね」

 セナは自分の手を、周囲の血溜まりを、男の去っていった先を見て続けた。

「君は君の苦しみよりも……生命よりも……そしてあの人を殺すことよりも、僕を優先してくれた。プライドの高い君が……いつもすぐに怒る君が……」

「……セナ、もしかしてまだ怒ってるのか?」

 さりげなく中傷を交えた言葉に、ハツは少しびくびくした。けれどセナは、からっと笑った。痩せ我慢でも作り笑いでもない、あの雨上がりの空のような顔で。

「何もかも許したって言ったらウソになるかもしれないけど。もうちょっと、君に直してほしいところはあるけど。でも……」

「わ⁉︎」

 セナはハツの腕をぐいっと引っ張って身を起こさせた。同じ高さになった瞳が楽しげに揺れる。

「僕はもっと君を信じてよかったみたいだ。それがわかったから、今はいいや」

「……そうだぜ。お前、気付くの遅すぎだ……」

 悪態をつく口とは裏腹に、その顔には嬉しそうな笑みが溢れていた。腕が掴まれたままなのが不服なのか、反対にセナの腕に手を伸ばし包み込むようにして掴む。今の体勢を支えるようなその位置と力加減に、セナの中で懐かしさが込み上げてきた。

(ああそうだ。いつだって君は、僕の傷が治るまで待っていてくれたね)

 痛いほど眩しかった照明が少し弱まって、四人を優しく照らしている。先ほどよりもこぢんまりとした地下室に、心地の良い静寂が流れていった。

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