⑫再会の無事
(この地下室、どこまで続いているんだろう)
ハツが炎を灯してあたりを照らしてくれてはいるものの、一向に突き当たりらしきものが見えない。
「誘拐犯のやつ、どこにいるんだ? 奴だって何かしらの明かりを灯していそうなものなのに」
ハツがぼそりと溢す。
「もしかして、ここにいないのかな? セナくんだけをここに置いて、自分は他の所にいるとか……」
「他の所ってどこだよ?」
「さあ……仲間のとことか……?」
もごもごと口籠っていると、不意に腕を強く掴まれた。振り返れば、後ろからついて来ていた少女が怯えた顔で前方を見つめていた。
「どうしたの?」
「……誰か、いる」
「えっ」
ヤクは慌てて前の方に目を凝らしたが、何も見えなかった。
(この子もすごく目が良いのかな)
そう思ってハツを見たが、彼もまた怪訝そうな顔をして前を睨みつけていた。
「何も見えねぇけど。どんな奴かわかるか?」
少女はヤクの背後にぴったりとくっついて顔を埋めた。
「……こわい、ひと」
「こわい?」
少女の声は震えていた。緊張が走る。ハツは前屈みになって先を見つめた。ヤクもまた気を張り詰めてそろりそろりと進んでいく。背後で少女が小刻みに震えているのが分かった。
「!」
不意に、少し離れた所からカツ、と物音がした。
「誰だ!」
ハツが剣を構える。しかし、その先からはのんびりとした声が返って来た。
「あれ? はーくん? それに、ヤク君……と、誰?」
炎に照らし出された顔を見て、ヤクは泣きそうになった。
「よかった、無事だったんだ……セナくん」
セナはにっこりと笑って、大きく頷いてみせた。
「セナ、お前、本当に何もないのか……? どこも怪我してないか? 何もされてないのか? 痛いとこないか?」
ハツがほとんど詰め寄るようにしてセナに畳み掛けた。セナはその勢いに気押されながらも、こくこくと頷いた。
「うん、大丈夫だよ! ほらこの通り!」
セナは力こぶを作るようにして腕を曲げてみせた。
「それで、その子は? その子も攫われたの?」
「それが……よく分からなくて」
少女との出会いの顛末を軽くかいつまんで話すと、セナは興味深そうに少女を見つめた。大きな瞳に見つめられて、少女が肩をすくめる。
「セナくん、シキくんがどこにいるか知ってる?」
「ううん、シキ君はすぐに僕と違う所に連れて行かれたから……」
セナが暗い顔で答える。ヤクの中で再び不安が首をもたげた。
(シキくん……どこにいるの? お願い、無事でいて……! )
すると突然、セナが声を上げた。
「はーくん⁉︎ 怪我してるの⁉︎」
「え? あ、ああ、まあな」
少女によりある程度傷は治ったものの、肩の深い傷や細かな裂け目はまだ生々しく残っていた。セナはぐっとハツの肩を引き寄せると、両手を重ねて置いて大きく息を吸った。
「____⁉︎」
次の瞬間、肩に激痛が走ってハツは思わずのけぞった。一呼吸分遅れて心臓がどくどくと波打つ。
「ハツくん? どうしたの?」
ヤクが顔を覗き込むと、ハツは額に汗を滲ませてゆるゆると首を振った。
「……い、いや。セナ、もうちょっと優しく触れてくれ」
「……わかった」
セナは傷口を包み込むようにしてそっと手を置くと、同じように特能を使った。
「っ」
ハツが苦痛に呻いた。ギリ、と奥歯を噛み締める音がする。思わぬ光景にヤクは愕然としていたが、ふとあることに気付いてゾッとした。
目に見えてハツが苦しんでいるというのに、セナは顔色一つ変えていない。
「セナくん! 一旦ストップしよう! なんか、ヘンだよ!
しかしセナは、ヤクに目をやることなく抑揚のない声で言った。
「ヘンじゃないよ。僕は、ただ治してるだけ。いつもみたいに、いや、いつもよりずっと」
「はな、せ、セナ……!」
ハツはセナの手を払い除けようとしたが、うまく腕が動かなかった。見かねたヤクがセナの手を掴んだが、びくともしない。
「セ、セナくん……?」
傷口だけをひたすらに見つめ続けるセナの瞳は、僅かに残って床に転がった炎をちらちらと映して虚ろに開かれていた。胸がざわざわする。少女がぽつりと呟いた。
「……そのコのハイマ、ヘン。しんじゃうよ」
「え?」
「その……ハ、ツ、のハイマをとりこんで、暴れてる」
「取り込んで、暴れてる……? ハツくんが苦しんでるのはそのせい? 死んじゃうって……?」
ヤクは続けざまに尋ねたが、少女は口をつぐんでしまった。ヤクは何かに取り憑かれたかのように一点を見つめるセナと苦しげなハツを前に顔を歪めた。
「セナくん! しっかりして、セナくん! ……ひっ」
セナの瞳に暗い光が宿っているのに気付いてヤクは息を呑んだ。それは憎しみが渦巻いて濁ったような、普段の彼に浮かぶべくもない色だった。
「どうしたの? セナくん……。一体、どうしたら……」
「セナを殺せばいいんです」
あっけらかんとした声が響いてヤクはびくりと肩を震わせた。と同時に目の前が真っ白になって目が眩む。
「っ」
「おや、眩しかったですか? 失礼しました」
咄嗟に顔を覆うとそんな声が聞こえてきた。恐る恐る目を開けると、数歩離れたところにランプを掲げた男が立っていた。ランプといってもヤクが知っているものではなく、表面は波打つように様々な角度から小さなガラスが嵌め込まれていて一つのランプによる明かりとは思えないほどの眩い光を放っていた。




