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一翼のハイマヴィス  作者: かる
誘拐事件
69/95

⑥なんかしたっけ?

 ビュンビュンと耳元をよぎる風のにおいが、微かに変わったような気がした。

「よし、もうすぐだ! ヤク、覚悟はいいな?」

「うん! 準備OK!」

 ヤクは腰に手を当ててそう答えた。かちゃ、と金属同士が触れる音がする。短剣ほどの大きさで、細長い棒状のそれはヤクの護身用鉄杖であり、学園での猛獣騒ぎの際に壊れたものを新調したのだった。殺傷能力は低いが、相手の隙を突くくらいのことはできる。

 一時間ほど馬を飛ばし、ようやくハツのペンダントが指す位置に近づこうとしていた。となれば、そろそろ誘拐犯の一味と鉢合わせしてもおかしくない。ヤクが鉄杖を握りしめた時だった。

「ヒヒーーンッ」

 馬が大きく鳴いてのけぞった。ハツが勢いよく手綱を引いたのだ。急な停止にヤクは後ろに転げ落ちそうになり、慌ててハツの身体を掴んだ。

「どっどうしたの、ハツくん⁉︎」

「……早速出てきやがったぜ」

 緊張と好戦的な笑みとが綯い交ぜになった表情を浮かべて、ハツは前を見つめたままそう言った。

「え……」

 あたりを見回してみるものの、木々に覆われたこの小道に人影はない。しかし。

「伏せろ!」

 そう声が聞こえるやいなや、ヤクは馬から引きずり落とされて地面に転がった。と同時に、ヒュンッと何かが空気を切って奥の木へと刺さった。矢だった。

「あーまた避けられた。ミグってほんと弓下手だよねえ?」

「なんだと? ならお前がやってみろ!」

「やだね、俺拷問専門」

「俺だって近距離専門だ!」

 聞き覚えのある声がしてハツとヤクは思わず顔を見合わせた。木々の間から人影が二つ姿を現す。

「久しぶりだね、今日は二人だけ?」

 ハツが二人を睨みつける。

「アズサ、マグロ……」

「アスサとミグロね?」

 すかさずアスサが訂正する。しかしハツは気にした様子もなく続けた。

「お前たちに関わってる暇はねぇんだよ。大人しく道を開けるか斬られるか選べ」

「おー怖いね。でも君たちを行かせるわけにはいかないんだ」

「フン、そう言うと思ったぜ。まあいい、手っ取り早くお前たちを捕まえて、セナの居場所を吐いてもらおうか」

「えっセナ?」

 きょとんとしたアスサの前にミグロが進み出て、剣を構えた。ハツが剣に手をやったからだ。

「ヤク、お前はそこにいろ。とっとと片付けてやる!」

 そう言うなりハツは地面を蹴って、一気にミグロとの距離を詰めた。二人の剣がぶつかり合い、音を立てる。

「じゃ、その間に俺はこっちの相手をするかな」

 アスサがヤクに目を向けた。

「ちっ、ほっとけってんだ!」

 ハツが一瞬、アスサの方へ剣先を向けた。と同時にそこから火が放たれる。

「わ、と。あっぶなーさすがアルトニヤ。ねぇミグ、やっぱ俺たち二人でって厳しくない?」

「……」

「ってことで、あとお願いしまーす!」

 アスサは突然、後ろを振り返ってそう叫んだ。しかし違和感にハツが反応するより前に、何かが首元へ飛んできた。咄嗟に身体を捻って避ける。それは耳元を掠めた程度だったが、その隙をついてミグロが一撃を入れてきた。なんとか剣で受け止めるものの、この崩れた体勢のまま押し合いを続けても勝てそうにない。ハツは一気に相手の刃を流して弾くと、ひとまず後ずさって距離をとった。すぐに体勢を立て直して相手を確認する。

「……お前は、この間の……それと、誰だ?」

 新たに現れた敵の一人は、以前森で一線交えた白い少年、イオだった。先程の攻撃も彼のものだろう。さらに、その隣には黒いロングコートに身を包んだ長身の男が立っていた。

「あーそっか、君たちは初めましてだっけ? 紹介しよう、彼こそが我らがリーダー、リュウムさまだ!どう? 昼間なのにこの暗さ」

 アスサのおどけたような他己紹介に似合わず、男は陰鬱な面持ちを変えることなく口を開いた。

「アスサ、ミグロ、お前たちは先に行け。終わり次第合流だ」

「イエッサー! じゃ、がんばってねお二人さん!」

 ハツとヤクにウィンクすると、アスサはミグロを引き連れて小道の先へと駆けて行った。

「待てっ」

 追いかけようとしたハツを牽制するように、リュウムが僅かに動く。ハツはリュウムに視線を戻した。

「リーダーってことは……お前がジェイストの親玉か。じゃあお前を倒せば全て解決ってわけだ」

「どう考えようが構わん。ここで死んでくれるのならば」

 そう言って、リュウムは剣を構えた。その切先は真っ直ぐにハツに向かっている。

「イオ、お前はフロンタイトを拘束しろ」

 血の気すら引いたようなイオの白い顔からは表情が読み取れない。彼はリュウムの言葉に黙って頷くと、ゆっくりとヤクの方に目を向けた。

「……っ」

「フン、リーダー直々にお相手ってわけか。オレなんかしたっけ?」

 ハツもまた剣を構える。表情のないリュウムの瞳が、一瞬金色に光った。

「もう二度と、アルトニヤに邪魔はさせない」

 それが、戦闘開始の合図だった。

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