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一翼のハイマヴィス  作者: かる
聖石争奪戦
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㉔渡し物

 「いきなり呼びつけてすまなかったね。身体の方は大丈夫なのかい? ルーヴィン君」

「あんなのでダメになるほどヤワじゃないですよ。それより何の用ですか? 僕だって暇じゃないんですけど」

 ノイバーの作業小屋へと足を踏み入れたルーヴィンは、つっけんどんにそう言った。

「長くはかからないよ。渡したいものがあるだけだからね」

「?」

 怪訝そうな顔をしたルーヴィンに、ノイバーは小さな木箱を手渡した。ルーヴィンは警戒するように少しずつ蓋を開いていったが、中を見るなりはっと息を呑んだ。

「……これは」

 木箱の中身は、シキに壊されたはずの笛だった。真っ二つにされた笛はよく目を凝らさなければわからないほど丁寧に繋げられ、細かな破片が抜け落ちた部分はよく似た材質のものに取り替えられている。

「僕の笛……どうして……」

「礼ならミグロ君に言うといい。落ちていた君の笛を拾って私の元へ届けてくれたのは彼なのだから」

「ミグロが?」

「大切なものなんだろう? もちろん、完全に元通りとはいかなかったが……なるべく元の形から離れぬよう直したつもりだ。継ぎ目にも強力なものを使ったから、音は変わらないし以前より強度も増しているだろう。……どうかな。受け取ってくれるかい?」

 ルーヴィンは瞬き一つせずに手に取った笛をじっと見つめていたが、不意にゆっくりと手を伸ばして笛を取り上げた。それから口元へと近づけ、息を吹き込む。鳥の囀るような、風が木々の間を走り抜けるような、澄んだ高い音が零れ落ちた。

 静寂が訪れる。ふと、ルーヴィンが呟いた。

「母の形見なんです」

 笛をしまった胸元を服ごと押さえるルーヴィンを、ノイバーは黙って見つめた。ルーヴィンは顔を背けると、どこか拗ねたような声で続けた。

「悪かったとは思ってますよ。ここにあった貴方の試作品を持ち出したのは僕です。最大火力の爆弾がほしくて……アイツらを、どうしても倒したかったから」

「わかっているよ。そう思うのも当然のことだし、私は気にしていない。ただ、まさか耳飾りにつけるとは思わなかったな」

「……」

「責めているわけじゃないんだ。君は自分のベストを尽くそうとしただけ。リーダーも、君の働きぶりを褒めていたよ」

「でも、結果はコレだ。聖石は結局奴らの手中にあるままじゃないですか」

 ルーヴィンの口調がきつくなる。

「だいたい、アスサといいリーダーといいあまりにあっさりと引きすぎなんですよ。人命優先もここまで来てちゃ革命なんて夢のまた夢です」

 きっぱりと言い切るルーヴィンにノイバーは苦笑した。

「厳しいな、君は。まあ一理あるが、あれはリスクとリターンをうちの天秤にかけた結果なんだ」

「それはどういう……」

「聖石はジェイストが入手して初めて脅威となる物なんだ。あちらには聖石を軍事利用する技術はないからね。彼らが聖石を保持していても、それは我々にとって即座に脅威になるわけじゃない。だからリーダーは、今回は無理に入手を強行せず引いたんだろう。またの機会はこの先いくらでもある。他の聖石もね」

「……」

「神石の件はもっと明快だ。元々あの作戦の目的は、神石の入手ではなくハイマのサンプルの入手だったんだよ。さすがに神石に宿る膨大なハイマは我々の手にも負えないからね。あれは神石のハイマを手に入れてサンプルとして探知器に組み込み、同じハイマを持つ聖石の探索を行うための__つまり今回のための下準備だったんだ。あの学園を襲った時、君が敵を引きつけてくれている間にミグロ君とアスサ君が神石のハイマを入手することができたから、作戦は成功していたんだよ。ルーヴィン君、君のおかげだ」

「そんなこと……一言も……」

「やっぱりそうか。アスサ君はどうも作戦の本質を味方にまで隠したがるたちでね。君のことを信頼していないわけじゃないんだろうが」

 ノイバーは困ったようにぽりぽりと頭を掻いた。

「とにかく、神石のハイマサンプルがある以上こちらにまだ勝機はあるというわけさ。探知器だってまた作れる」

「呑気なものですね……」

 ルーヴィンは呆れたようにそう呟いたが、いつものような棘はなかった。

「用事はこれで終わりですか? 僕はもう行きますけど」

「ああ、引き止めて悪かったね」

 戸口まで行きかけて、ルーヴィンは不意に足を止めた。

「ノイバー、アスサがどこにいるか知っていますか?」

「君たちの方にいないのなら、森の方じゃないか? 野暮用が残っていると言っていたからね……まあ待っていればじきに帰ってくるさ、ミグロもね」

 質問の真意を理解したらしいノイバーの言い方にルーヴィンは少々ムッとしたものの、今日は静かに扉を閉めて去っていった。

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