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一翼のハイマヴィス  作者: かる
聖石争奪戦
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⑧シキ先生

 「君たち、ここで大人しくしていることだ。要件が済んだら出してやる」

 ギギギ……と重そうな石造りの扉が閉まる直前に、チガヤはそう言い捨てて行ってしまった。足音が遠ざかっていく。暗闇に閉ざされた地下室は木造りの地上の部屋とは違って全方向を石で囲まれており、ひんやりと肌寒かった。ヤクはすぐに扉に飛びついて開けようと試みたが、ガチャガチャと錠前の硬い音が虚しく響いただけだった。

「開かない……! 早く行かないと……ヤコが……!」

「落ち着けヤク」

 血の気の引いた顔でなおも扉に縋るヤクの肩に、シキはそっと手を置いた。暗い地下室の中で、アメジストのようにその瞳がきらりと光る。

「このくらいの設備、俺たちにはなんの問題もない。だが今すぐ出て行ったら奴らに気づかれる。そうなったらヤコがやられる可能性が高い。少し待つんだ」

 一つ一つの言葉を言い聞かせるようにして話す。その落ち着いた口ぶりにヤクは少し平静を取り戻した。

「うん……わかった」

「よし。じゃあ待ちがてら今後の動向を決めよう」

 シキがセナとハツの方を振り返る。と、二人はぽかんとしてこちらを見つめていた。

「? なんだ間抜けな顔して」

「シキ君……なんか先生みたいだね」

 セナが感心したような揶揄うような声で言った。ハツが呆れたように言う。

「そいつのお守りが板について来たんじゃねぇの。ご立派な先生だな」

「は……」

 思わぬ言葉にシキは口を挟み損ねた。代わりにヤクがたしかに! と声を上げる。

「シキくん、色んなこと知ってるし先生っぽいかも」

「なんだそれ……というか俺はお前のお守りも護衛も引き受けた覚えはないがな」

 ヤクというよりは彼の護衛騎士たるハツに暗に向けた反論は、セナによって打ち切られた。

「シキ先生! 質問があります!」

「おい、その呼び方やめろ」

 暗闇の中でシキのしかめ面が見えなかったのか単に無視したのか、セナはそのまま続けた。

「チガヤさんたちが言ってた『聖石』ってなんですか?」

 少し緩んでいた空気が再び引き締まる。シキの方へ向けられたヤクとハツの視線は、二人が同じ疑問を持っていることを示していた。

「そうだな……お前たち、神石のことを前に国王から聞いただろう?」

「この国のハイマの循環を担う存在……だよね」

 記憶を辿りながらそう言ったヤクに、シキは軽く頷いてみせた。

「そうだ。そして聖石は、その神石に準じるもの……簡単に言えば神石によるハイマの循環を補佐するものなんだ。国内に複数点在していて、個々の生物のハイマと神石のハイマの経由点となる。この森にあるのはそのうちの一つなんだろう」

「マジかよ? そんな大事なもんあるなんて聞いたことねーぞ」

「聖石は神石と同じく、国の根幹に関わる秘匿事項だ。ごく限られた者しかその場所は知らないだろう。だが思えば、都市開発の進むこの王都でこんな森が残されているのは少々不自然だったな」

「聖石があるからだったんだね……」

「ああ。神石と違い、聖石は周囲の環境に影響を受けやすいと聞いたことがある。自然に囲まれたこの空間が、ここの聖石が機能するために不可欠なんだろうな」

「でも、シキ君はなんでそんなに詳しいの?」

 セナがふと疑問を漏らした。

「そういやそうだな。お前、オレやヤクでさえ知らない情報をどこで仕入れてんだよ?」

 心なしかきつくなったハツの目を不快そうに見やって、シキは説明した。

「神石及び聖石の管理は、ジェージニアント家が一部を担っているんだ。そうでなければ学園の地下に神石を置いたりはしないだろ。まあ関わっているのは俺の祖父や父で、俺は二人の話を聞き齧っただけだが」

「なるほど……そういうことだったんだ」

 納得するセナの横で、ヤクは首を傾げた。

「でもさ、それならジェイストの人たちはなんで聖石や神石の場所を知ってたんだろう?」

「そりゃスパイがいるんだろ」

 歯に衣着せぬハツの物言いにシキは眉を顰めた。

「決めつけるのは早くないか? 平民ばかりのジェイストの構成員と国家機密を知る高位貴族のどこに接点がある?」

「でも、陛下は内通者を疑ってるんじゃないのかなぁ」

 ヤクはびっくりして聞き返した。

「父上が? なんでそう思うの?」

「うーん、なんとなくだけど……」

 セナが曖昧に宙を見上げる。シキが口を開いた。

「まあ今はその話はいいだろ。それよりそろそろ、ここを出るぞ」

 その言葉に三人は黙って頷いた。ヤクが尋ねる。

「出て……その後どうする?」

「森の奥に行く。チガヤは、あのフードの男を聖石のある場所へ案内すると言っていた。その直後向かおうとしていたのは森の奥の方だったから、奴らはそこにいるはずだ。ヤコもな」

「足音もそっちに行ったみてーだし、それで良さそうだな」

 ここに閉じ込められてからしばらくハツが壁に耳を当てていたのを思い出してシキは納得がいった。

(アルトニヤは聴覚も獣並みってわけか)

「よし、そうと決まればあとはここを壊すだけだな」

「え? 壊す?」

 思わず聞き返したヤクをハツが乱暴に押し退けた。

「邪魔。下がってろ」


 地鳴りのような振動と熱風が過ぎ去ってから目を開けると、目の前には扉だったモノがあちこちに散らばっていた。

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