⑤ゴリ押しでGo
「それで、肝試しのつもりで入ってみたら道に迷ってしまった……、と」
ヤコが即興で捻り出した言い訳に、男は手を顎に当てて訝しむようにヤコたちを見下ろした。ヤクが被っていたフードの下に潜るようにして顔を俯かせる。男はランプを持ち直すと、まあいい、と小声で呟いた。
「ならば森の出口まで送ろう。ただし、もう二度と遊び半分で森に入るんじゃないぞ。特に夜の森には、な」
言い聞かせるようなその口調に思わず頷きそうになって、ヤクははっとした。
(でも、今ここで帰るわけにはいかない……)
ヤクたちが返事を渋っていると、セナがあ、と声を上げた。
「腕が痛い! 変な虫に刺されちゃったかも!」
「なんだと⁉︎ 見せてみろ!」
ハツがセナの腕をとろうとしたが、セナはランプの灯りが届かない闇の中でハツをぐいっと押しやった。固まってしまったハツの隣でセナは目を潤ませて金髪の男を見上げる。
「どうしよう! 腫れてきちゃった……僕、このまま死んじゃうのかなぁ……」
涙ぐんだその声にピンと来たらしいヤコが便乗する。
「まあ、どうしましょう⁉︎ 家に帰ったところで、治療の仕方もわからないしお薬だってないわ……」
シキが呆れたようにため息をついた。ヤクとハツは置いてけぼりを食らったような気分で立ち尽くしている。しかし、騒ぎ立てるセナとヤコにとうとう男が折れた。
「それなら僕の家で治療しよう。まだ歩けるかい?」
二人はぱああっと笑顔になった。
「うん! ありがとう!」
男は、ついてきてというように手をひらりと振ると、さらに森の奥へと進み出した。ヤコとセナはしてやったりという笑みで目配せしている。男がこちらを振り向いた。
「僕はチガヤ。この森の管理をしている。君たちは?」
五人がそれぞれ名乗ると、チガヤは暗闇の中で目を凝らしてみせた。
「君たちは友達なのかい?」
「ええ、そうよ!」
チガヤは元気よく答えたヤコをじっと見つめていたが、やがてふいっと目を逸らして前方に向き直った。なんとなく無言で歩き続ける。ヤクはそっと辺りを見回した。
(ヤコを襲った人たち……もう帰っちゃったのかな。今のところ全然そんな気配ないけど)
と、不意にシキが後ろを振り向いた。その顔は僅かに強張って、暗い紫色の瞳が視線の先を睨みつけている。
「どうしたの? シキくん」
ひそひそと尋ねると、シキはいや、と言って首を振った。
「誰かに見られているような気がして……まあ、気のせいだったようだが」
ヤクは恐る恐る後ろを振り返ってみた。だが、足元の地面も見えないような暗闇の中では、見ている先が遠くの木々の隙間なのか目の前の闇なのかすら判別がつかない。
「ほら、よそ見してないでちゃんと歩け」
シキにそう促されたところで、チガヤがこちらを振り向いた。
「到着だ。中で休んでいくといい」
ランプの光に照らし出されたそこには、こぢんまりとした木造りの家が建っていた。
「いたた……」
「そら、動かさない。腕じゃなくて足を刺されてるじゃないか……待ってろ、今薬をとってくるから」
チガヤが奥の部屋に入っていってから、セナの周りにわっと四人が集まった。
「セナ、本当に刺されてたのね……」
「あの時は平気だったんだけどなぁ……やっぱりこの時期って虫が出るよねぇ」
セナが困ったように笑う。ヤクは感心して言った。
「すごいねセナくん。セナくんが咄嗟にああ言ってくれたから、僕たち帰らずに済んだんだ。よく思いついたね……」
「まあ経験だよ経験」
セナがにこっと笑ってみせる。と、チガヤが小瓶を抱えて戻ってきた。ヤコが興味津々といった様子で尋ねる。
「それって、ナムヒウグサかしら?」
チガヤは少し目を見開いてヤコを見た。
「よくわかったね。春から初夏にかけて生えるんだ。乾燥させてこんなふうに粉末状にしたのを塗ってやれば、たいていの虫刺されには効く」
言いながらチガヤはてきぱきとセナの足に包帯を巻いて立ち上がった。
「毒をもったやつじゃないからまあ数日すれば完全に治るだろう。それで、君たち……」
チガヤは五人をぐるっと見回してから、窓の外に目をやった。
「良ければ泊まっていくかい?」
「え、いいんですか?」
「僕だって、こんな夜更けに子どもを外に追い出すほど鬼じゃないさ」
そう言ってチガヤは初めて笑った。
(笑うと子どもみたいな顔するのね……)
ヤコも思わずつられて微笑んだ。




