②訪問者は反抗期
今夜は少し風が強い。日の光を失って久しい夜気はひんやりと冷えて遠くで口笛を吹いている。そんな旋律を掻き消すようにして、郊外の古びた小屋に少年の声が響いていた。
「単純な話でしょう⁉︎ 奴らを抑えたいなら爆弾の威力を上げればいい!」
「まあまあ、焦りは禁物だよ。とりあえずそこに座るといい、ルーヴィン君」
少年__ルーヴィンは指し示された木造りの椅子を一瞥すると、座りもせず乱暴に足で押しのけた。そのままズカズカと相手に近づき、作業机をバン、と叩いてみせる。何かの部品やら書類やらが重々しく乗っていた机はミシリと軋んだ音を立てて僅かに揺れた。
「ノイバー、貴方は自分の役目を理解していないんです! 戦力で圧倒的に奴らに劣るこの組織は技術力で対抗するしかない! いわばこの戦いの要を担うのが、ノイバー、技術者である貴方なんですよ! それなのに……」
ルーヴィンは机に叩きつけた拳を握りしめて顔を歪めた。
「貴方は手を抜いた! これはジェイストへの裏切りと言っても過言ではない!」
「ルーヴィン君、」
「言い訳は無用ですよ! 僕は知ってるんだ、王立学園を襲撃した時、貴方が僕に渡した爆弾……意図的に威力が抑えられたものだったと! 何故ですか⁉︎ まさか、あの貴族どもの巻き添えを憂慮して……」
「落ち着くんだ、ルーヴィン君」
ルーヴィンに一方的に責め立てられていたノイバーは角張った手のひらを掲げて、毛を逆立てた猫をあやすように目の前の少年を諌めた。彼がぐ、と押し黙ったのを見て、ゆっくりと口を開く。
「君の言う通り、前回君に渡した爆弾の威力をあえて最小限のものにしたのは事実だ。だが、それはあの場を訪れていた貴族たちの身を案じてのことではないんだよ」
「じゃあ何故っ」
「君の身を守るためさ」
「……は」
思わぬ言葉にルーヴィンは目を見開いて固まった。ノイバーは続ける。
「爆弾を仕掛けるのはルーヴィン君、君の役割だったね。だがあれは君のための特別な仕掛け、つまり特定の音に反応して起爆するという構造を持っていた。わかるかい? きっかけは音だ。もし何かの手違いで、君があの爆弾から十分な距離を取らないうちに起爆してしまったら? それに君は、自分で音を鳴らし爆弾を追手に食らわせたんだろう? もし威力の高いものを使用していたら、音が十分に届くような距離にいた君もただでは済まなかっただろう」
「ふ……つまり貴方は、僕の特能が不確定要素の多い欠陥品だと言いたいんですね? 爆弾の威力を上げられないのは僕のせいだと?」
「そうじゃない。私が言いたいのは……」
ノイバーは白髪混じりの頭をポリポリと掻いた。その拍子に後ろに撫で付けていた髪が数本解けて額に滑り落ちる。ルーヴィンは苛ついた様子を隠そうともせず、もういい! と叫んだ。
「とにかく今度こそ、最大威力の爆弾を作って僕に渡してください! 茶番は終わりです、これからが本番なんですから……また手を抜いたら、問答無用で貴方は裏切り者ですよ!」
入って来た時と同じように乱暴に閉められた扉がギィィと低く唸る。突然の訪問者の去ったその木製の扉を眺めながら、作業小屋こと自宅に一人残されたノイバーはやれやれと首を振って立ち上がった。ルーヴィンが蹴り飛ばした椅子を元の位置に戻し、小さくため息をつく。
「どうしたもんかな……」
凝り固まった背中を伸ばして、ノイバーはまたも頭を掻いた。




