⑫自己紹介
「あなたはなぜセナを乗っ取ったの?」
「楽しそうだったから〜!」
男は愉快そうに両手を広げて見せた。ヤコが怪訝そうな顔をしたのを見て、男は大げさに首を振った。
「ホントだよ! 朝早くに仲良くミンナでオデカケ! 楽しそう! ボクのおかげでケンカする人たちも見れたし、ケンカもできたし、ナゾトキもできたし、キミたちを選んだのはセイカイだったさ!」
どうやら愉快犯らしい。
「ヒルトさんの件も、喧嘩していたあの二人組も、あなたが一時的に乗り移ったせいだったのね。もしかしてセナとハツも?」
「チッチッ。ソレはチガウよ〜。でもそのコ、すっごく怒ってたからボクも合わせようと思って〜」
「記憶や感情の引き継ぎは相互的なのね? あなたは入れ替わりの対象者の記憶をある程度把握できるし、対象者は入れ替わりが済んだ後、あなたに乗っ取られていた時の自身の言動の記憶を引き継ぎ自分が行なったものだと解釈する……便利な特能ね」
男はぱちくりと瞬きをした。ヤコは彼に視線を注いだまま続けた。
「乗っ取りのきっかけは飴……。乗っ取りの拠点を作るために、恐らく対象者の体内にあなたのハイマを潜ませる必要があるんでしょう? あの飴に入っていたのはあなたのハイマよね」
「アレ? 薬草のせいってキミが言ったのは〜」
「ああでも言わなきゃみんな納得してくれないもの。私、あなたに聞きたいことがあるの」
「ナァニナァニ?」
ヤコは戸棚から二本の草を取り出した。
「こっちはカナスクソウ。体内に入ると興奮状態を引き起こす……ってみんなには説明したけど、効能はそれだけじゃない。これは、体内のハイマが過剰生成された場合なんかに使われる、ハイマ排出の作用を持つ薬草でもある」
そしてヤコはもう一本の草を持ち上げた。
「こっちはアフェクソウ。これは逆に、ハイマが不足した時に外部のハイマを体に取り込むために使われる、ハイマ定着の薬草よ。そしてこのどちらもがあなたの特能と関わっているらしいこの飴の原料となっている」
ヤコの手の中で、二本の草が絡み合った。
「これってつまり、カナスクソウで対象者のハイマを排出し、代わりにアフェクソウであなたのハイマを定着させるということでしょう? ただの乗っ取りなら、あなたのハイマを定着させるだけでいいはずなのに……」
ヤコは仮面を通り抜けて男の素顔を見ようとするかのように、じっと彼を見据えた。
「あなたの特能は乗っ取り? それとも……入れ替わり?」
仮面の下で男がにやりと笑ったような気がした。
「キミ……楽しいねぇ」
男は大げさに肩をすくめると、ひらひらと手を振った。
「ピンポンピンポン大セイカイ、だよ! ボクのチカラはノットリじゃなくてイレカワリ! といっても、元のカラダに戻ったら、ボクのカラダにいた時のコト、ワスレてモラッてるけど〜」
ヤコは男を見据えたまま、息をひとつ吐いた。
「なるほどね。じゃああなたの身体をここまで持ってきたのはセナかしら?」
「ソウソウ! ボクもこれにはビックリ! いつもはボクの身体がドコにも行かないよう閉じ込めてあるのに……そのセナってコもなかなかやるね〜」
うぅん、とセナがうめいた。もうそろそろ目を覚ましそうだ。
「もう一つ、あなたに聞いていいかしら」
「ナァニナァニ?」
「あなたと入れ替わった人は、あなたの身体にいる間に得た経験を忘れてしまうのよね。それは特能の副産物かしら?」
「チッチッ、そこまでカンペキなチカラじゃつまんな〜いよ〜」
「じゃあ、あなたが入れ替わりを終了する時に、意図的に相手のハイマの記憶を抹消しているのね」
「ピンポンピンポン! そしたらキヅカレない〜ツカマラない〜」
男は楽しげにくるりと回った。
「でもでも、ミンナにヒミツにしてくれて助かったよ〜ボク、人に謝るのダイキライだからさ〜バレてツカマッたら困るんだよね〜!」
「謝罪はできなくとも礼はしなさい」
間髪入れないヤコの返事に、流暢に喋っていた男はリズムを崩したらしく一瞬押し黙った。
「私があなたをみんなと一緒に捕まえなかった一番の理由は、あなたに頼みたいことがあるからよ」
「……ヘェ?」
男は面白そうに身を乗り出した。
「イイよ〜また倒されて服が汚れたらヤダし〜」
「助かるわ。じゃあ」
ヤコはすくっと立ち上がって右手を差し出した。
「私と入れ替わって」
「……リユウは〜?」
「行きたいところがあるの。でも私じゃ行けない」
「イツ?」
「今夜。日付が変わる頃に」
「イイね〜夜のボウケンだ」
男もまた右手を差し出す。だが、ぴたりと手を止めた。
「?」
「その前に〜」
男は気取った手つきで右手を胸の前に、左手を後ろにやると、恭しく一礼をした。
「アラタメマシテハジメマシテ〜! ボクはイペリエス! 昨日のキミはゼンブボク! キラキラのアメはいかが〜明日テンキにな〜ぁれ〜!」
唐突に店子のごとく呼び込みを始めた男__イペリエスにヤコが怪訝な目を向けると、彼は(恐らく)ニッコリと笑って再び手を差し伸べてきた。
「ボクたち今夜のボウケンの仲間だもの〜! 自己紹介しないとね〜」
「それもそうね」
(この人の特能とはいえ、私の都合で他人の身体を借りるのだもの)
「私はヤコ。よろしくね、イペリエス!」
「よろしくヤコ〜! ステキな名前だね〜!」
二人は今度こそ満面の笑みで握手をした。




