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一翼のハイマヴィス  作者: かる
帰省
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⑩買い食いは慎重に

 「その目つきは本人そっくりだな。だが痛みという本能的危惧に、化けの皮はどこまで持つかな?」

「お、お前……! 離せ! このっ!」

 抵抗するハツの顔にシキは手を近づけると、頰をつまんだ。それからグ、と回すようにつねって思いっきり左に引っ張る。

「いひゃっ!」

 ハツが締まりのない悲鳴をあげた。ヤクは思わずぎゅっと目を瞑った。しかしシキは手を緩めない。涙目になるハツを冷たい目で見下ろしながら、シキは容赦なく頰をぐいぐいと引っ張った。

「ひゃ、ひゃへ……」

「まだ喋る余裕があるのか」

 シキは右の頬もつまんでグイッと引っ張った。

「ほら、吐く気になったか?」

「……ッ」

「シキくん、やりすぎだよ!」

「やりすぎ? むしろこれじゃ足りないくらいだぞ。一応こいつの身体にダメージを与えないよう、気をつけてやってるんだからな」

 シキはヤクを振り返ってそう説明した。するとヤクが答えるより先にハツがぴくりと動いた。と、すぐさま足で後ろのヤコを蹴り飛ばした。

「きゃ!」

「ちっ」

 両手の拘束が解けたハツは瞬く間に剣を抜くと、躊躇なく目の前を切り裂いた。同時に炎がゆらりと上がる。やむなくシキは手を離し、後ろに飛び退いた。

「いい加減にしろテメェッ!」

 ハツはそう叫んでまたも剣を構え直した。シキが目を見張る。

「お前、特能使えるのか⁉︎」

「あ?」

 何を今更と言いたげな顔をして、ハツは動きを止めた。

「その炎を出す能力はハツの特能だが、自身の特能を使用するにはその特能を使用可能にするハイマの持ち主が不可欠……つまり、ハツがハツ本人でなければこの特能は使えないはずだ」

「えっ⁉︎ ってことは」

「ハツは乗っ取られてないってこと⁉︎」

 ヤクとヤコが驚いて声をあげる。

「だからさっきからそう言ってんだろ!」

 目を吊り上げ髪を逆立てんばかりの勢いのハツに、ヤクはぱちんと手を合わせた。

「ハツくんごめん!」

「決めつけてごめんなさい」

 ヤコも申し訳なさそうに目を伏せる。シキは何も言わなかったが、少々気まずそうに目を逸らした。

 ハツは爆発寸前といった様子で震えていたが、不意に息をついた。それから大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。

「オレは気にしないぜ。勘違いなんて誰にでもあるからな」

 やっぱり乗っ取られてんじゃないか、と呟いて両腕をさするシキを、ヤクたちは否定できなかった。



 「だが、ハツでないとなるとどう犯人を見つけるかだな」

「おい、なんでお前が乗り気になってんだよ。これはオレの仕事だ」

 ハツからしてみれば、この仕事の成果でセナとの今後の親交が決まるのだ。だが、自分の思考タイムに水を差されたシキは不服そうに眉を顰めた。不穏な空気を察してヤコが口を挟む。

「人の意識を乗っ取るなんてこと、簡単にはできないわ。きっと、特能を使うための条件があるはずよ。それを見つけましょう」

「条件……でも、どうやって」

「そうか。乗っ取られた奴らの共通点を探すんだ」

 ハツはそうひとりごちると、今まで空気と化していたヒルトの方をバッと振り返った。

「お前、乗っ取られる前に何した?」

「え、え?」

 突然の睨みをきかせた尋問に目を白黒させて、ヒルトは必死に記憶を遡った。

「あの日は……天気が良かったです、給料日で懐が温かくて……。俺はミアの働いている酒場に行って……そうだ、その道中に、確か……」

「確か?」

「飴を買いました」

「飴?」

 聞き返されて、ヒルトはハツの左斜め後ろを指差した。

「あそこの屋台で売ってる飴です。目新しかったし、安かったので、つい……」 

 ヤコが息を呑んだ。

「あそこって……私たちがさっき飴を買ったところだわ!」

 ハツがぎょっとする。

「なっ⁉︎ まさか食べたのか⁉︎」

「ええ……とりあえず行ってみましょ!」



「誰もいないわね」

 人ひとり分のスペースしかない売り場と飴を並べたテーブルの他には何もないこぢんまりとした店は、店というよりは屋台のようだった。隣の店と分け合うようにして上に張られた布により、中はぼんやり薄暗い。

「お邪魔しまーす」

 ヤコが躊躇なく店の中へ入り込む。続いてヤク、セナ、ハツも入っていく。シキはもはや止める気力もなく、先程ここを訪れた時と同じように店の外で待っていることにした。ただし今回はヒルトも一緒だが。

「うーん何が何だか……」

 四人が入ると店内はもうぎゅうぎゅうで、ヤクは首を動かすのが精一杯だった。

「あったわ! この飴の材料!」

 ヤコが声を上げる。と、突然しゃがみ込んだらしく、ヤコの身体に押し出された三人はよろめきながら店の入り口に倒れ込んだ。

「ヤ、ヤコ……」

「これよこれ! カナスクソウ!」

 身を起こそうとするヤクの鼻先に、青々とした植物の束が突きつけられた。

「カナスクソウ?」

「体内に入ると興奮状態になったり軽い麻痺が起きたりするの。お酒に酔うのと同じような感じね」

「えっ……じゃあ、普段はしないような、トラブルを引き起こす行動って」

「この薬草による興奮のせいってこと?」

 ヤクの呟きをセナが引き継いだ。ヤコが賛同すると、ハツが訝しげに言った。

「待てよ、なら乗っ取りとか犯人とか、そもそも始めからなかったってことか?」

「そういうことね」

 ヤコは満足げに頷いてみせた。ハツが不満そうに呟く。

「なんだそれ……とんだ拍子抜けだな。つまんねーの」

「まあ、謎が解けたのなら良かったじゃない!」

 ヤクはそう言って安堵の笑みを浮かべた。

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