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一翼のハイマヴィス  作者: かる
帰省
30/94

④おめでたい奴

 (やれやれ、おめでたい奴だな)

 謁見の間を出ると、シキは一息ついて心の中でそう呟いた。

(神石を守るだと……? 一介の学生ごときにそんな重大な任務を任せるはずがない。どうせお飾りだ。王子の平和ボケ直しか、もしくは__)

 そっとヤクの横顔を盗み見る。帰省前に現れていた、子どもっぽい顔に似合わぬ沈んだ表情は消え、新たな任務に意気込むように生き生きと瞳を輝かせている。

(元気付け、か)

「シキくん、どうかしたの?」

 視線に気づいたヤクがにこっと笑いかけてきた。とその時、シキは「あのこと」を思い出した。

(そういや何も言われなかったけど……こいつ……結局どっちなんだ……?)

「シキくん?」

「……ヤク、ちょっと聞いていいか?」

 ヤクが首を傾げながらもうん、と頷く。察したらしいセナがこちらを見つめてきた。そうなると今更緊張してくる。息がつかえて声が震えそうになった。

「……お前、もしかして、本当は女__」

「おかえりヤク!」

 突然弾んだ声が聞こえたかと思うと、シキの目の前でヤクはぐらっとよろめいた。見ればドレス姿の女の子がヤクに抱きついている。

「久しぶりね! いきなり帰ってくるからびっくりしたわ、ほんとはもっと早く会いに来たかったんだけど色々立て込んでて……」

 ヤクはなんとか踏みとどまってからぱぁっと笑顔になった。

「わぁ久しぶり! 元気にしてた? ヤコ!」

「ヤ、ヤコ⁉︎ 」

 シキが思わず驚きの声を上げると、ヤコと呼ばれた少女ははっとしてこちらを見た。

「あら? ごめんなさい、お話し中だったかしら?」

 ヤコとよく状況の飲み込めていないシキとで目が合う。と、ヤコはぱっと顔を輝かせた。

「あらあなた、さっき中庭でお会いしましたわね? ヤクのお友達だったのね!」

「え?」

 言われて彼女を見てみれば、あの中庭で見かけたフリルとリボンのドレスに身を包んでいた。それがふわりと動いて優雅に一礼してみせる。

「申し遅れました。私はユリヤクスの双子の姉、ユリヤコア・アトレア・メジアスト。この国の王女です」

「ふ、双子⁉︎ 」

 今度はセナが驚いた声をあげた。ハツが不思議そうに問いかける。

「なんだセナ、お前知らなかったのか?」

「知らないよ! 僕は王宮に来たのって初めてだし……」

 どうやらハツはヤコこと王女ユリヤコアと知り合いであるらしい。久しぶりねハツ、とヤコはにっこり笑った。

「そちらのお二人は?」

 そう指し示されて慌ててシキとセナも名乗った。

「シキ・ノイカシニ・ジェージニアントです。ヤク……王子殿下とはルームメイトで……」

 言いかけたところでヤコはあっと声をあげた。

「あなたがシキだったのね! ヤクからのお手紙で知ってるわ! とっても頼りになるお友達だって!」

「それは……光栄です」

 ヤクが何やら実家宛てに手紙を書いていたのは知っていたが、まさか自分のことについても言及していたとは。

(どこまで書いたんだこいつ……ひょっとして国王にも似たような手紙を……?)

 それならば国王の意味ありげな態度にも納得がいく。

(まぁ王女の反応を見る限り、当たり障りのないことを書いただけのようだな)

 続いてセナが自己紹介を済ませると、ヤコはあら、と両手を合わせた。

「それじゃ、ハツのお友達ってあなたのことだったのね? よく話を聞いてたのよ!」

「え? はーくん、僕の話してたんですか? なんて言ってたんです?」

「それはもう……」

「ヤコ! 言わなくていいから!」

「あら、そんなに睨まなくても……ハツったら、セナはオレのとっても大事なお友達なんだーって言ってたのよ」

「そうなの⁉︎ 」

「言ってねぇから!」

「ハツくん、ちょっと落ち着いて……」

 普段にも増して瞬発力高く叫ぶハツを、ヤクとヤコがおもしろそうに眺めている。そんな二人をシキはまじまじと見つめた。

「ここまで似るものなのか……」

 思わず口から溢れる。王女の存在はもちろん知っていたが、社交界にあまり顔を出さないシキは本人の姿も式典の際に遠目でちらっと見た程度だった。一族に共通らしい輝かんばかりの細い金髪に包まれた白い肌と健康的に色づいた頰、こちらをまっすぐに見つめる透き通った碧の瞳、顔立ち、朗らかな表情……服装を除けば何から何までヤクとそっくりだった。強いて言えばヤコの方が少し大人びた雰囲気を纏っているような。

「僕たちそんなに似てるかな?」

「よく言われるけどねぇ」

 ヤクとヤコは互いの顔をしげしげと見つめ合ってうーんと首を捻った。その姿は、首から上だけ見れば鏡を真ん中に置いたようである。

「そういえばシキくん、何を言いかけてたの?」 

 不意にヤクが話題を戻してきた。

「え? いや、あれはなんでもない。大したことないことだから気にするな」

 まさかヤコをヤクと見間違えた挙句ヤクを女性だと信じ込んで動揺していたなどとは言えない。シキが黙り込むとヤコは少ししょんぼりした。

「ごめんなさいね、話の邪魔しちゃって……」

 シキが口を開く前にハツが先程の瞬発力のまま突撃した。

「全くそうだぜ、何も飛び付かなくたっていいだろ」

 揶揄われたことがまだ尾を引いているらしい。だが刺刺した物言いは気にも留めていない様子でヤコはだって、とヤクを見た。

「ヤクったら、全然お手紙くれないんだもの。学園に入学したら毎月送るって言ってたのに、まだ一通しか受け取ってないわ」

 ヤクはえぇっと目を見開いて驚いた。

「僕三通は送ったよ? 入学式の後と、試験の後と、芸術祭の前に……」

 ヤコははぁっとため息をついた。

「ならやっぱり、配達に時間がかかるのね。どうやらお手紙は、あなたが学園で名乗っているフロンタイト家の方面へ送られた後で王宮に再送されるそうなのよ。宛先を隠すためには仕方ないんでしょうけど、それじゃ、あなたのお手紙届かないわけね……」

 そう言ってヤコは肩を落とすと随分と暗い顔をしたので、ヤクはびっくりしてしまった。

「そんなにがっかりしないでよ。もうちょっと待ってくれれば届くはずだし、これからもいっぱいお手紙書くよ! それに僕はしばらくここにいるから、学園でのこと全部話すよ! だからヤコも話して、僕が学園に行ってた間のこと!」

 にこっとヤクが笑いかけると、ヤコもそうね、と言って同じ顔で笑ってみせた。

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