Ⅴ 後継者
時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。
1242年、秋。
カラコルム。
オゴデイの葬儀が終わって、数ヶ月が過ぎた。
だが、新しいハンは決まっていなかった。
遼舜の家。
遼海が、記録を整理していた。
二十歳になった長男は、ヨーロッパ遠征から戻って以来、ずっと記録に専念していた。
「父上」
遼海が言った。
「この記録、どう思いますか?」
遼舜が手記を読んだ。
「よく書けている」
遼舜が頷いた。
「お前の目で見たことが、よく伝わってくる」
「ありがとうございます」
遼海が微笑んだ。
遼西が入ってきた。
十四歳になった次男は、背が伸びていた。
「兄さん」
「うん?」
「新しい投石機、完成したよ」
遼西が図面を見せた。
「見て、この機構」
「ほう」
遼舜が興味を示した。
「説明してみろ」
「はい」
遼西が目を輝かせて説明し始めた。
「ここの腕木を二重にすることで...」
遼高が、弓を持って入ってきた。
十三歳になった三男は、筋肉質な体つきになっていた。
「父上、訓練に行ってきます」
「ああ」
遼舜が頷いた。
「無理はするなよ」
「はい」
遼高が出ていった。
遼希が、本を読んでいた。
十一歳になった四男は、おとなしい性格だった。
「遼希、何を読んでいるんだ?」
星歌が聞いた。
「歴史の本です」
遼希が答えた。
「面白い?」
「はい」
遼希が微笑んだ。
「色んな国のことが、書いてあります」
クリルタイの準備が始まっていた。
だが。
後継者を巡って、対立が生まれていた。
オゴデイの息子たちと、トルイの息子たちだ。
オゴデイ派の中心は、グユク。
オゴデイの長男で、三十代の男だった。
「父の跡は、俺が継ぐ」
グユクが宣言した。
側近のカダンが頷いた。
「当然です」
「オゴデイ様の息子であるグユク様が、次のハンです」
だが。
トルイ派は、違った。
トルイの長男、モンケが中心だった。
四十代の男で、沈着冷静だった。
「グユクでは、帝国を治められない」
モンケが静かに言った。
弟のクビライが頷いた。
二十代の青年で、知的な雰囲気があった。
「兄上の仰る通りです」
「グユクは、短気すぎます」
もう一人の弟、フレグも同意した。
「俺も、兄上を支持します」
バトゥも、モンケを支持していた。
「モンケが、ハンにふさわしい」
バトゥが宣言した。
「俺も、彼を推す」
対立は、激化していった。
遼海は、この状況を見ていた。
(帝国が、割れようとしている)
バートルが、遼海に話しかけてきた。
三十代になった先輩将校だ。
「遼海、お前はどう思う?」
「...難しいです」
遼海が答えた。
「どちらにも、理がある」
「そうだな」
バートルが頷いた。
「だが、決めなければならん」
「帝国は、ハンが必要だ」
1246年、夏。
ついに、クリルタイが開かれた。
遼舜と遼海も、参加していた。
「すごい人だ...」
遼海が呟いた。
無数の天幕。
無数の人々。
帝国中から、人が集まっていた。
広場。
グユクとモンケが、向かい合っていた。
「グユク」
モンケが言った。
「お前は、父オゴデイの息子だ」
「当然、次のハンの候補だ」
「ああ」
グユクが頷いた。
「だが」
モンケが続けた。
「お前は、帝国を治められるか?」
「何を言う」
グユクが怒った。
「俺は、父の息子だぞ」
「それだけでは、足りない」
モンケが冷静に言った。
「ハンには、智慧と冷静さが必要だ」
「お前には、それがない」
「...!」
グユクが激昂した。
「貴様...」
だが。
バトゥが前に出た。
「グユク」
「何だ、バトゥ」
「モンケの言う通りだ」
バトゥが言った。
「お前は、短気すぎる」
「帝国を治めるには、不向きだ」
「...」
グユクは、黙った。
そして。
投票が行われた。
結果は。
モンケの圧勝だった。
「モンケを、次のハンとする」
宣言が響いた。
「おおおおお!」
人々が歓声を上げた。
グユクは、悔しそうに立っていた。
だが。
何も言えなかった。
モンケの即位。
モンゴル帝国、第四代ハンが誕生した。
遼海は、この光景を記録していた。
(新しい時代が、始まる)
数日後。
モンケが、将軍たちを集めた。
「諸君」
モンケの声が響く。
「俺が、ハンになった」
「だが、これは始まりに過ぎない」
将軍たちが、耳を傾ける。
「帝国を、さらに発展させる」
「東は、南宋を滅ぼす」
「西は、さらに征服する」
「そして、中央では、統治を整える」
モンケが続けた。
「クビライ」
「はい、兄上」
「お前は、中原の統治を任せる」
「承知しました」
クビライが頭を下げた。
「フレグ」
「はい、兄上」
「お前は、西方の征服を任せる」
「ペルシャとアラビアを攻めろ」
「承知しました」
フレグが頭を下げた。
「そして、遼海」
「...!」
遼海が驚いた。
「はい」
「お前は、クビライを支えろ」
モンケが言った。
「お前の知識と経験が、必要だ」
「...承知しました」
遼海が深く頭を下げた。
遼舜の家。
遼海が、家族に報告していた。
「クビライ様を、支えることになった」
「そう」
星歌が微笑んだ。
「良かったわね」
「うん」
遼海が頷いた。
「でも、責任が重い」
「大丈夫だよ、兄さん」
遼西が言った。
「兄さんなら、できる」
「そうだよ」
遼高が続けた。
「兄さんは、すごいんだから」
遼希が、遼海の服を握った。
「兄ちゃん、頑張って」
「...ありがとう」
遼海が微笑んだ。
「みんな」
1246年の秋は、終わろうとしていた。
モンケが即位し、新しい時代が始まった。
クビライは、中原へ。
フレグは、西方へ。
それぞれの任務を帯びて。
遼海は、クビライを支えることになった。
若き将軍と記録者として。
遼舜は、記録を続けた。
「1246年、モンケ即位」
「クビライ、中原統治を任される」
「フレグ、西方遠征を任される」
「遼海、クビライを支える」
遼舜は、筆を置いた。
(帝国は、変わっていく)
(だが、子供たちはそれぞれの道を歩んでいる)
草原の風が、吹いていた。
新しい時代の風だった。
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