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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
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Ⅳ 騎嵐

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

1236年、春。

ヴォルガ川。

バトゥ軍が、川を渡っていた。

十五万の大軍だった。

遼海は、千人を率いていた。

十八歳になった青年は、もう立派な隊長だった。

「隊長」

部下の一人、テムルが報告に来た。

二十代の兵だった。

「前方に、街があります」

「街?」

「はい。ブルガールという街です」

遼海が地図を見た。

(ブルガール...)

(ヴォルガ・ブルガールの都だ)

「バトゥ様に、報告を」

「はっ」


バトゥの天幕。

将軍たちが集まっていた。

バトゥは、三十代の男だった。

ジョチの息子で、堂々とした風格があった。

「スブタイ」

「はい」

スブタイが前に出た。

もう六十を超える老将だが、まだ健在だった。

「ブルガールを、どう攻める?」

「包囲です」

スブタイが答えた。

「街は堅固ですが、兵は少ない」

「時間をかければ、落とせます」

「分かった」

バトゥが頷いた。

「遼海」

「はい」

遼海が前に出た。

「お前の千人隊で、南門を封鎖しろ」

「承知しました」


ブルガール包囲。

遼海の千人隊が、南門を封鎖した。

「テムル」

「はい」

「誰も、出すな」

「承知しました」

数週間後。

街の食料が尽きた。

ブルガールが、降伏した。

バトゥが、街に入った。

「ブルガールを手に入れた」

バトゥが宣言した。

「次は、ルーシだ」


1237年、冬。

リャザン公国。

雪が降っていた。

バトゥ軍が、リャザンを包囲していた。

公のユーリ・イゴレヴィチが、城壁の上に立っていた。

「モンゴル軍が...来た」

ユーリが呟いた。

「十五万だと?」

側近のイヴァンが答えた。

「はい」

「我らは?」

「五千です」

「...足りん」

ユーリが歯噛みした。

「他の公たちに、援軍を頼め」

「はっ」


だが。

援軍は、来なかった。

リャザンは、孤立していた。

バトゥ軍の攻撃が始まった。

遼海の千人隊も、参加していた。

「投石機、前へ!」

遼海が命じた。

(遼西が作った投石機だ)

(必ず、役に立つ)

投石機が、石を放つ。

城壁に、次々と当たる。

「すごい...」

テムルが呟いた。

「隊長、射程が長いですね」

「ああ」

遼海が頷いた。

「弟が、改良したんだ」

数日で、城壁が崩れた。

モンゴル軍が、雪崩れ込む。

「敵だ!」

ルーシ兵が迎え撃つ。

だが。

数の差は、圧倒的だった。

ユーリは、最後まで戦った。

だが。

モンゴル兵の剣に倒れた。

リャザンは、陥落した。


1238年、春。

ウラジーミル公国。

大公ユーリ二世が、報告を受けていた。

「リャザンが、陥落した?」

「はい」

側近が震えながら答えた。

「モンゴル軍は、次々と街を落としています」

「...」

ユーリ二世は、震えた。

(モンゴルは、止まらない)


バトゥ軍は、ウラジーミルを包囲した。

遼海も、その中にいた。

「隊長」

テムルが言った。

「この街は、大きいですね」

「ああ」

遼海が頷いた。

「ルーシ最大の都だ」

「落とせますか?」

「...落とす」

遼海が答えた。

「それが、俺たちの仕事だ」


攻撃が始まった。

投石機が、石を放つ。

破城槌が、城門を叩く。

数日で、城門が破られた。

モンゴル軍が、雪崩れ込む。

市街戦が始まった。

遼海の千人隊も、突入した。

「突撃!」

遼海が叫んだ。

千人が、一斉に動く。

ルーシ兵が、迎え撃つ。

剣と剣が、ぶつかり合う。

「ぐあっ!」

遼海の部下が倒れる。

「テムル!」

遼海が駆け寄った。

だが。

テムルは、もう息絶えていた。

「...テムル」

遼海が歯噛みした。

(戦は...厳しい)

だが。

止まれなかった。

遼海は、戦い続けた。


ウラジーミルは、陥落した。

ユーリ二世は、逃げ延びた。

だが。

追撃を受けて、戦死した。

ルーシは、壊滅した。


1241年、春。

バトゥ軍は、さらに西へ進んだ。

ポーランドとハンガリーだ。

二つの軍に分かれた。

北軍は、バイダルとカダンが率いた。

ポーランドへ。

南軍は、バトゥとスブタイが率いた。

ハンガリーへ。

遼海は、南軍についていた。


ハンガリー。

国王ベーラ四世が、報告を受けていた。

「モンゴル軍が、来た?」

「はい」

側近が答えた。

「十万だそうです」

「...」

ベーラ四世は、考えた。

「軍を集めろ」

「全力で、迎え撃つ」


モヒの平原。

両軍が、対峙した。

モンゴル、十万。

ハンガリー、八万。

バトゥが、前に出た。

「スブタイ」

「はい」

「お前の作戦通りに、やる」

「承知しました」

スブタイが笑った。


戦いが始まった。

モンゴル軍が、正面から攻撃する。

ハンガリー軍が、迎え撃つ。

激しい戦いだった。

だが。

これは陽動だった。

スブタイが、密かに別働隊を回していた。

遼海の千人隊も、その中にいた。

「静かに、進め」

遼海が命じた。

千人が、音を立てずに移動する。

ハンガリー軍の背後に、回り込んだ。

「今だ!」

スブタイが叫んだ。

別働隊が、ハンガリー軍の背後を襲った。

「...!」

ベーラ四世が驚いた。

「背後だと!?」

ハンガリー軍は、大混乱に陥った。

前からも、後ろからも攻撃される。

「退け!」

ベーラ四世が命じた。

だが。

モンゴル軍は、追撃した。

遼海の千人隊も、追撃に加わった。

「逃がすな!」

遼海が叫んだ。

矢が、退くハンガリー兵を射抜く。

「ぐあっ!」

次々と倒れていく。

ベーラ四世は、わずかな兵と共に逃げ延びた。

だが。

ハンガリー軍の大半は、壊滅した。


モヒの戦い。

モンゴル軍の圧勝だった。

バトゥが、勝利を宣言した。

「ハンガリーを、手に入れた」

将軍たちが、歓声を上げた。

遼海は、疲れた顔で立っていた。

(また、勝った)

(だが、何人が死んだ)

遼海は、戦場を見渡した。

無数の死体。

血で染まった大地。

(これが、戦か)


その夜。

バトゥが、遼海を呼んだ。

「遼海」

「はい」

「よくやった」

バトゥが言った。

「お前の千人隊は、見事だった」

「ありがとうございます」

遼海が頭を下げた。

「だが」

バトゥが続けた。

「お前は、悲しそうだな」

「...」

遼海は、黙った。

「戦が、辛いか?」

「...はい」

遼海が正直に答えた。

「多くの人が、死にます」

「そうだな」

バトゥが頷いた。

「だが、それが戦だ」

「俺たちは、帝国のために戦う」

「それを、忘れるな」

「...はい」

遼海が頭を下げた。


数日後。

急報が届いた。

「オゴデイ・ハンが、崩御された!」

「...!」

バトゥが驚いた。

全員が、言葉を失った。

「オゴデイ様が...」

「撤退だ」

バトゥが命じた。

「すぐに、カラコルムへ戻る」

「はっ」

バトゥ軍は、東へ引き返した。

ヨーロッパ征服は、中断された。


1242年、夏。

バトゥ軍が、カラコルムに戻ってきた。

遼海も、無事に帰還した。

「遼海!」

星歌が駆け寄ってきた。

「母上!」

遼海が星歌を抱きしめた。

「無事で...よかった...」

星歌が泣いていた。

遼西、遼高、遼希も来た。

「兄さん!」

遼西が笑顔で言った。

「お帰り!」

「ただいま」

遼海が微笑んだ。

遼高が聞いた。

「兄さん、ヨーロッパはどうだった?」

「...遠かった」

遼海が答えた。

「でも、勝った」

遼希が、遼海の服を握った。

「兄ちゃん、疲れてる?」

「ああ」

遼海が遼希の頭を撫でた。

「少し、休みたい」


遼舜が来た。

「遼海」

「父上」

「よく、戻ったな」

「はい」

遼海が頭を下げた。

「全て、記録しました」

遼海が手記を渡した。

遼舜は、それを受け取った。

「ありがとう」

遼舜が微笑んだ。

「お前は、立派な将軍だ」

「そして、立派な記録者だ」


カラコルム。

オゴデイの葬儀が行われていた。

モンゴル全土が、喪に服していた。

遼海は、オゴデイの墓の前に立っていた。

「オゴデイ様...」

遼海が呟いた。

「ありがとうございました」

「俺を、将軍にしてくださって」

遼海は、深く頭を下げた。


1242年の秋は、終わろうとしていた。

オゴデイが崩御し、帝国は新たな岐路に立っていた。

だが。

遼海は、戻ってきた。

家族の元へ。

草原の風が、吹いていた。

故郷の風だった。

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