Ⅲ 発展
時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。
1232年、冬。
トルイが、病に倒れた。
「トルイ様!」
遼海が駆け寄った。
十七歳になった青年は、もうトルイの副官だった。
「遼海...」
トルイが苦しそうに呻いた。
「大丈夫ですか?」
「...いや」
トルイが首を振った。
「もう、長くない」
「そんな...」
遼海が震えた。
オゴデイが、駆けつけた。
「トルイ!」
「兄上...」
トルイが微笑んだ。
「すまない」
「先に、逝く」
「トルイ...」
オゴデイが涙を流した。
「お前は、俺の最良の補佐だった」
「ありがとう...」
トルイが遼海を見た。
「遼海」
「はい」
「お前は、優れた将軍になる」
トルイが言った。
「俺が、保証する」
「だから、兄上を支えてくれ」
「...!」
遼海が涙を流した。
「はい!」
「必ず!」
トルイは、微笑んだ。
そして。
息を引き取った。
享年、四十。
草原の猛将は、そうして死んだ。
葬儀。
モンゴル全土が、喪に服した。
遼海は、トルイの墓の前に立っていた。
「トルイ様...」
遼海が呟いた。
「俺は、必ず立派な将軍になります」
「約束します」
バートルが、横に来た。
「遼海」
「うん」
「お前は、強くなったな」
バートルが言った。
「トルイ様の教えを、受け継いでいる」
「...ありがとう」
遼海が頷いた。
「俺は、トルイ様の遺志を継ぐ」
数ヶ月後。
オゴデイが、遼海を呼んだ。
「遼海」
「はい」
「お前を、千人隊長に任命する」
「...!」
遼海が驚いた。
「千人隊長、ですか?」
「ああ」
オゴデイが頷いた。
「お前は、若いが優れている」
「トルイも、認めていた」
「だから、任せる」
「...承知しました」
遼海が深く頭を下げた。
(千人隊長...)
(俺が、千人を率いる)
遼海は、緊張した。
だが、同時に誇りも感じた。
カラコルム。
新しい都が、形になってきた。
宮殿が建ち、城壁が築かれ、市場が開かれた。
遼西が、兵器工房の責任者になっていた。
十一歳だが、もう立派な技術者だった。
「遼西」
ファルークが来た。
「はい、師匠」
「新しい投石機の設計、見せてくれ」
「はい」
遼西が図面を広げた。
「従来のものより、射程が長くなります」
「ほう」
ファルークが感心した。
「どうやって?」
「腕木を長くして、重りを重くしました」
遼西が説明した。
「そうすれば、より遠くに石を飛ばせます」
「...素晴らしい」
ファルークが笑った。
「遼西、お前はもう俺を超えたな」
「そんなことありません」
遼西が謙遜した。
「いや」
ファルークが遼西の肩を叩いた。
「お前は、天才だ」
「俺が、保証する」
遼舜の家。
遼高が、弓の訓練をしていた。
十歳になった三男は、背が高かった。
すらりとした体型。
「遼高、上手くなったね」
星歌が褒めた。
「ありがとう、母上」
遼高が笑った。
「でも、まだまだだ」
「海兄さんみたいに、将軍になりたい」
「そう」
星歌が微笑んだ。
「でも、無理はしないでね」
「うん」
遼希が、横で見ていた。
八歳になった四男は、おとなしい性格だった。
「遼希、お前は?」
星歌が聞いた。
「俺は...」
遼希が考え込んだ。
「まだ、分からない」
「そう」
星歌が遼希を抱きしめた。
「焦らなくていいのよ」
「ゆっくり、考えればいい」
1235年、春。
オゴデイが、大規模な遠征を計画していた。
「諸君」
オゴデイが地図を広げた。
将軍たちが集まっていた。
「西へ、大遠征を行う」
「ヨーロッパだ」
「...!」
将軍たちが驚いた。
「ジョチの息子、バトゥを総司令官とする」
「スブタイが、補佐しろ」
「はっ」
バトゥとスブタイが頭を下げた。
「そして」
オゴデイが遼海を見た。
「遼海」
「はい」
「お前も、従軍しろ」
「...!」
遼海が驚いた。
「千人隊長として、バトゥを支えよ」
「承知しました」
遼海が頭を下げた。
(ヨーロッパ...)
(未知の大地だ)
出陣の前夜。
遼舜と遼海が、話していた。
「遼海」
「父上」
「お前も、遠くへ行くんだな」
遼舜が言った。
「はい」
遼海が頷いた。
「ヨーロッパまで」
「...気をつけろ」
「はい」
遼海が微笑んだ。
「必ず、帰ってきます」
「そして、見たことを記録します」
「父上のように」
遼舜は、遼海を抱きしめた。
「お前は、もう立派な将軍だ」
「そして、記録者だ」
「ありがとうございます」
翌朝。
遼海は、家族に別れを告げた。
星歌、遼西、遼高、遼希。
「行ってきます」
「気をつけてね」
星歌が涙を流した。
遼西が言った。
「兄さん、これ」
遼西が小さな投石機の模型を渡した。
「お守り」
「...ありがとう」
遼海が微笑んだ。
遼高が言った。
「兄さん、俺も強くなって、追いつくから」
「ああ」
遼海が遼高の頭を撫でた。
「待ってるよ」
遼希が、遼海の服を握った。
「兄ちゃん...」
「うん?」
「無事で、帰ってきて」
「ああ」
遼海が遼希を抱き上げた。
「必ず、帰ってくる」
遼海は、馬に乗った。
(家族...)
(必ず、帰る)
バトゥ軍、十五万が出陣した。
遼海も、その中にいた。
千人を率いる、若き隊長として。
西へ。
未知の大地へ。
草原の風が、吹いていた。
カラコルム。
オゴデイが、街を見て回っていた。
美しい都が、完成していた。
「立派な都になったな」
オゴデイが呟いた。
「父上、見ていますか」
「俺は、あなたの遺志を継いでいます」
遼西が、工房で働いていた。
新しい投石機を作っている。
「これで、もっと遠くに届く」
遼西が呟いた。
遼舜は、記録を取っていた。
「1232年、トルイ死去」
「1235年、バトゥ西征開始」
「遼海、千人隊長として従軍」
「遼西、兵器工房責任者に」
遼舜は、筆を置いた。
(子供たちが、それぞれの道を歩んでいる)
(誇らしい)
1235年の夏は、終わろうとしていた。
モンゴル帝国は、発展を続けていた。
東は、金を完全に滅ぼした。
西は、さらなる征服へ向かっていた。
遼海は、ヨーロッパへ。
遼西は、技術者として。
遼高と遼希は、まだ若い。
だが、いつか彼らも、自分の道を見つけるだろう。
遼舜は、記録を続けた。
歴史の証人として。
草原の風が、吹いていた。
帝国の風だった。
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