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覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
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Ⅱ 終焉

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

1230年、春。

カラコルム。

オゴデイが、新しい都の建設を始めていた。

「ここに、帝国の都を築く」

オゲデイが宣言した。

職人たちが、次々と集まってきた。

遼西も、その中にいた。

九歳になった次男は、もう立派な技術見習いだった。

「ファルーク師匠」

遼西が言った。

「ここに、投石機の工房を作るんですか?」

「ああ」

ファルークが頷いた。

「オゴデイ様の命令だ」

「帝国最大の兵器工房を作る」

遼西の目が、輝いた。

(すごい...)


同じ頃。

トルイの陣営。

遼海が、馬術の訓練をしていた。

十五歳になった長男は、もう立派な青年だった。

背も伸び、筋肉もついてきた。

「遼海!」

トルイが叫んだ。

「もっと速く!」

「はい!」

遼海が馬を駆った。

速い。

風が、顔を撫でる。

「よし!」

トルイが笑った。

「上達したな」

「ありがとうございます」

遼海が馬から降りた。

トルイが遼海の肩を叩いた。

「もう、実戦でも通用する」

「...!」

遼海が驚いた。

「本当ですか?」

「ああ」

トルイが頷いた。

「次の遠征に、連れて行く」

「ありがとうございます!」

遼海が深く頭を下げた。


オゴデイの天幕。

将軍たちが集まっていた。

「諸君」

オゴデイが地図を広げた。

「金の残党が、河南で抵抗している」

将軍たちが、地図を見る。

「完顔遠理の息子、完顔陳和尚が指揮を執っているそうだ」

スブタイが報告した。

「兵力は?」

「推定五万です」

「五万か」

オゴデイが考え込んだ。

「トルイ」

「はい」

「お前が行け」

オゴデイが命じた。

「十万の兵を与える」

「金の残党を、完全に滅ぼせ」

「承知しました」

トルイが頭を下げた。


数週間後。

トルイ軍、十万が出陣した。

遼海も、その中にいた。

初めての遠征だった。

「緊張するか?」

同じ若手将校、バートルが聞いてきた。

二十歳の青年だった。

「うん」

遼海が正直に答えた。

「初めてだから」

「俺もそうだった」

バートルが笑った。

「だが、慣れる」

「戦場では、落ち着いて動け」

「それが、生き残る秘訣だ」

「...ありがとう」

遼海が頭を下げた。


河南。

完顔陳和尚が、兵たちを集めていた。

二十代の若い将軍だった。

父、完顔遠理はすでにモンゴルに仕えている。

だが、陳和尚は違った。

「諸君」

陳和尚の声が響く。

「父は、モンゴルに降った」

「だが、俺は降らない」

兵たちが、静かに聞いている。

「金は、確かに滅んだ」

「だが、金の誇りは残っている」

「俺たちが、それを守る」

副将の完顔福興が前に出た。

中年の将軍だ。

「陳和尚様」

「うむ」

「モンゴル軍は、十万だそうです」

「我らは、五万」

「勝てますか?」

「勝てなくていい」

陳和尚が答えた。

「誇りを守れればいい」

「...承知しました」

完顔福興が頭を下げた。


両軍が、対峙した。

モンゴル、十万。

金残党、五万。

トルイが、前に出た。

「完顔陳和尚」

「...トルイか」

陳和尚が答えた。

「お前の父、完顔遠理は今、モンゴルに仕えている」

「知っている」

「ならば、お前も降伏しろ」

トルイが言った。

「無駄な戦いはするな」

「いや」

陳和尚が首を振った。

「俺は、金の将軍だ」

「降伏はしない」

「...そうか」

トルイが剣を抜いた。

「ならば、戦おう」


戦いが始まった。

金残党軍が、突撃する。

陳和尚が、先頭で戦っている。

「押せ!」

陳和尚の剣が、モンゴル兵を斬る。

だが。

モンゴル軍の数が、圧倒的だった。

トルイが、包囲を命じた。

「両翼から回り込め」

モンゴル軍が、両翼に展開する。

遼海も、その中にいた。

初めての戦場。

初めて見る、死。

「うっ...」

遼海が震えた。

「遼海!」

バートルが叫んだ。

「ぼーっとするな!」

「は、はい!」

遼海が我に返った。

矢を射る。

敵兵に、当たる。

「ぐあっ!」

敵兵が倒れる。

遼海は、震えた。

(俺が...殺した)

だが。

戦場では、立ち止まれない。

遼海は、矢を射続けた。


金残党軍は、じわじわと押されていった。

完顔福興が、陳和尚に言った。

「陳和尚様、退きましょう!」

「いや」

陳和尚が首を振った。

「ここで、終わらせる」

「ですが...」

「福興」

陳和尚が福興を見た。

「お前は、逃げろ」

「若い。生き延びろ」

「陳和尚様...」

「これは、命令だ」

完顔福興は、涙を流した。

だが。

「...承知しました」

完顔福興が頭を下げた。

完顔福興は、わずかな兵と共に退却した。


陳和尚は、最後まで戦った。

わずかな兵と共に。

だが。

モンゴル軍の数は、多すぎた。

次々と倒れていく。

陳和尚も、傷を負った。

肩から、血が流れる。

だが。

まだ、剣を握っていた。

「来い、モンゴル!」

陳和尚が叫んだ。

トルイが現れた。

「完顔陳和尚」

「...トルイか」

二人が、対峙した。

「お前は、立派な将軍だ」

トルイが言った。

「だが、ここで終わりだ」

「ああ」

陳和尚が頷いた。

「金は、ここで終わる」

「だが、後悔はしていない」

「俺は、金のために戦った」

陳和尚が剣を構えた。

「来い」

トルイが剣を抜いた。

二人が、激突した。

若き将軍と、草原の猛将。

剣が、ぶつかり合う。

だが。

陳和尚は、傷が深かった。

動きが、鈍る。

トルイの剣が、陳和尚の剣を弾いた。

そして。

トルイの剣が、陳和尚の胸を貫いた。

「...!」

陳和尚が、倒れた。

血が、大地に流れる。

「よく...戦った...」

陳和尚が呟いた。

「金は...誇り高き国だった...」

陳和尚は、息絶えた。

トルイは、剣を納めた。

「立派な将軍だった」

トルイが呟いた。

「丁重に、葬れ」

「はっ」

モンゴル兵が、陳和尚の遺体を運んだ。


遼海は、この戦いを見ていた。

初めての戦。

初めて見た、死。

(これが...戦か)

遼海は、震えていた。

だが。

(俺は、将軍になる)

(この現実から、目を背けてはいけない)

遼海は、全てを記憶した。


1234年、春。

金の最後の拠点が、陥落した。

金王朝は、完全に滅亡した。

かつて、1215年にチンギスが開封府を落とした時、金は名目上滅んでいた。

だが、残党が各地で抵抗していた。

それも、今日で終わった。

オゴデイが、勝利を宣言した。

「金を、完全に滅ぼした」

将軍たちが、歓声を上げた。


遼舜は、記録を取っていた。

「1234年春、金完全滅亡」

「完顔陳和尚、戦死」

「遼海、初陣を飾る」

遼舜は、遼海を見た。

十五歳になった長男は、もう少年ではなかった。

戦場を経験した、若き将校だった。

「遼海」

「父上」

「よく、戻ったな」

「ただいま」

遼海が微笑んだ。

だが、その目には疲れが見えた。

「大変だったか」

「...うん」

遼海が頷いた。

「戦は、厳しかった」

「でも、学んだ」

「たくさん」

遼舜は、遼海を抱きしめた。

「無事で、よかった」


カラコルム。

遼西が、工房で働いていた。

「師匠、これでいいですか?」

遼西が投石機の図面を見せた。

「ほう」

ファルークが感心した。

「よく描けているな」

「ありがとうございます」

「遼西」

ファルークが言った。

「お前は、将来優れた技術者になる」

「俺が、保証する」

遼西の目が、輝いた。

「ありがとうございます!」

「頑張ります!」


1234年の夏は、終わろうとしていた。

金が完全に滅び、モンゴル帝国はさらに拡大した。

遼海は、初陣を経験した。

遼西は、技術者としての道を歩んでいた。

遼舜は、記録を続けた。

草原の風が、吹いていた。

帝国の風だった。

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