第98話 「静かな朝と、倒れた修理屋」
魔物を討ち、暗殺部隊を退けた夜。
勝利の裏で、蒼月亭は静まり返っていた。
カイは重傷。
意識は浅く、呼吸は弱い。
村は守った。
だが、その代償は小さくなかった。
救えるのか。
救えなければ、この村は――。
夜明け前。
廃村――いや、蒼月亭の広場には血と煙の匂いが残っていた。
大型魔物三体は倒れ、傭兵達も全滅。
だがその代償は軽くはない。
建物の中。
カイは横たわっていた。
セラが膝をつき、必死に回復魔法をかけ続けている。
「まだ…いける……まだ……」
額に汗が滲む。
斬撃は深い。
命を奪う一撃ではなかったが、放置すれば危険だった。
ミレーヌはカイの手を握りしめている。
「アンタ、こんなとこで寝てる場合じゃないだろ……」
声は震えていない。
そして握る力は強かった。
リディアは入口に立ち、外を警戒している。
青白い剣は、すでに光を消していた。
ダリウスが静かに言う。
「峠は越えた。だが完全には戻らん」
セラが息を吐く。
「命は繋ぎました……でも、完全回復には薬が要ります」
「薬?」
ロークが顔を上げる。
「王都級の回復薬……いや、それ以上だ」
「エリクサー級だね」
リディアが低く言った。
空気が重くなる。
エリクサー。
それは伝承級の回復薬。
材料も技術も、簡単ではない。
ミレーヌが立ち上がる。
「作れるのかい?」
ロークが答える。
「材料は揃えられる可能性がある。情報はある」
「錬金術師は?」
「王都にいる」
沈黙。
リディアが振り返る。
「誰が行く」
レオンが即答する。
「俺だ」
アリアも頷く。
「森の薬草なら私がわかる」
リディアは静かに言う。
「三人で行く。最短で戻る」
レンが一歩前へ。
「俺とフィオは残ります」
「蒼月亭は守らないと」
セラは首を振る。
「私はここを離れられない。定期的に回復を続けないと」
ミレーヌはカイの髪を撫でた。
「行っといで。アンタ達なら大丈夫だ」
カイが微かに動く。
「……水路……西側……塞がって……」
全員が苦笑した。
リディアが小さく言う。
「うるさい」
そして、少しだけ優しく。
「寝ていろ」
⸻
外では朝日が昇り始めていた。
戦場の跡が赤く照らされる。
ダリウスは折れた大剣を見つめる。
「次は……終わらせる」
低い声。
だが今は、それより先に守るものがある。
リディアはカイを見た。
「……今度は守る」
それは誰にも聞こえない声だった。
戦いは一区切り。
だが物語は止まらない。
カイの命は繋がった。
だが完全ではない。
次は――
・エリクサー材料探索編
・王都の錬金術師
・クローディア家の政治的追い詰め
静かな時間の中で、
物語は次の局面へ向かう。
続く。




