第97話 餞別の刃
クローディア家の暗殺部隊との死闘の最中、
突如として現れた三体の大型魔物。
人も魔も入り乱れる混戦の中、
蒼月亭を守る戦いはさらに激しさを増していく。
その時――
一振りの剣が、再び鞘を離れる。
地を揺らしながら現れた三体の魔物は、
それぞれが違う異様さを纏っていた。
一体は黒鉄のような甲殻を持つ巨躯。
一体は裂けた肉が蠢き、斬っても再生する異形。
もう一体は背に瘤を持ち、そこから毒液を噴き上げている。
「厄介だな……!」
ダリウスが低く唸る。
老兵を斬り伏せた直後だ。
息は荒い。だが退けない。
「装甲の奴は俺がやる!
レオン、左の再生型を抑えろ!」
「任せろ!」
レオンの大剣が唸りを上げる。
フィオの矢が瘤を持つ個体の動きを封じる。
セラの声が響く。
「ウインドカッター!」
圧縮された風刃が再生型の傷口を抉る。
再生速度が鈍る。
「今よ、レオン!」
「おおおおッ!」
大剣が叩き込まれ、再生型は地に沈んだ。
――だが。
装甲の魔物がダリウスに迫る。
黒鉄の腕が振り下ろされる。
ダリウスは大剣で受けた。
――鈍い音。
次の瞬間。
「……っ!」
ひびが走る。
そして、
バキン、と乾いた破断音。
大剣が根元から折れた。
「ダリウス!」
リディアが叫ぶ。
魔物が追撃に入る。
その時――
建物の中。
倒れたカイを、ミレーヌが抱き支えている。
「カイ! しっかりしな! 目を開けな!」
血が床板に広がっていく。
「大丈夫だよ……大丈夫だから……!」
ミレーヌの声は強い。
だが震えている。
カイは焦点の合わない目で、壁の方を見た。
そこには布に包まれた一振りの剣。
親方から餞別として渡された剣。
かすれた声が漏れる。
「……あれを……」
「何だい?!」
「……オヤジさんの……剣……」
言葉は途切れ、意識が揺れる。
ミレーヌの目が、その布包みに向いた。
一瞬で理解する。
「ダリウス!!」
外で戦うダリウスに向かって、
扉越しに叫ぶ。
「カイが言ってる!
“オヤジさんの剣を使え”って!!」
その声は戦場を突き抜けた。
ダリウスが振り返る。
視線が、蒼月亭の入口へ。
「……コイツだな」
布を引き裂く。
「また使える時が来るとはな……!」
姿を現した剣は、飾り気はない。
だが異様な存在感を放っていた。
幅広の刃。
無駄のない鍔。
均整の取れた重心。
リディアがその剣を見て息を呑む。
(……聖剣か?)
光ってはいない。
魔力も流れていない。
だが、分かる。
“出来”が違う。
鍛えられた鉄の密度。
刃文の美しさ。
重さと振り抜きの滑らかさ。
これは――名もなき至高の一振り。
「行くぞォ!」
ダリウスが踏み込む。
剣が振るわれる。
装甲の腕が、あっさりと裂けた。
「……硬さごと斬るか!」
続けて胴へ。
深い一閃。
装甲が割れ、黒い血が噴き出す。
リディアが横から関節を断つ。
「今!」
レオンが跳び上がり、脳天を叩き割る。
巨体が崩れ落ちた。
だが毒瘤の魔物が暴れ、残り毒が村へ飛ぶ。
「水を!」
「任せて!」
セラが詠唱する。
「ウォータースフィア!」
水塊が弾け、毒を落とす。
「硬い……!」
「横だ!」
ダリウスの剣が側面を断つ。
フィオの矢が目を射抜く。
最後は、レオンの渾身の一撃。
地響きと共に、三体目も沈んだ。
静寂。
息遣いだけが残る。
ダリウスは剣を見つめる。
「……やっぱり、化け物だな。この剣は」
リディアが呟く。
「カイの師の、到達点か……」
ミレーヌに抱きかかえられてるカイは薄く笑った。
「……まだ……最強じゃ、ない……」
その言葉に、ダリウスが笑う。
「上等だ。
最強は俺たちで決めればいい」
大型魔物三体、討伐。
ダリウスの大剣は折れた。
だが、カイの餞別の剣が戦場を制した。
戦いは終わった――
ように見える。
だが、重傷のカイ。
そしてクローディア家。
嵐はまだ、終わっていない。




