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第91話 迫る影、備える村

オルフェンで魔物の大群が動き出した。

だが、それだけでは終わらない。


廃村――蒼月亭にも、別の“影”が近づいていた。


森の風が妙に重かった。


オルフェンの街で魔物襲撃の一報を耳にしたロークは、荷をまとめるより先に馬へ飛び乗っていた。


「嫌な流れだ……」


手綱を強く引き、山道を駆ける。


街の外はすでにざわついていた。討伐に向かう冒険者、物資を運ぶ兵士、慌ただしく動く市民。


だがロークの胸騒ぎは、魔物だけに向いていなかった。


森へ入った瞬間、空気が変わる。


静かすぎる。


そのとき――


ざわり、と奥の茂みが揺れた。


「……魔物か?」


馬が鼻を鳴らす。


だが、動きは一瞬で止まった。


(人間か?)


判断はつかない。


「これはまずいぞ……」


ロークは速度を上げた。


廃村に着いた頃には、夕陽が森の端を染め始めていた。


蒼月亭の前では、ミレーヌとカイが水路の様子を見ているところだった。


「ローク? 早い帰りだね」


ロークは馬から飛び降り、息を整えずに言った。


「オルフェンの街が魔物の大群に襲われてるらしい。黎明の風の連中が討伐に向かった」


「えっ」


カイの顔色が変わる。


「あの子達だけで大丈夫なのかい?」


ミレーヌが腕を組む。


「ギルドの要請があるらしい。B級以上は参戦義務だ。他の冒険者達も一緒だろう。そっちは問題ない」


「そっち?」


ミレーヌの声が低くなる。


ロークは視線を森へ向けた。


「ああ。問題はこっちだ」


空気が張り詰める。


「王都で大量に武器を買い揃えてる貴族がいる」


「……」


「クローディア家だ」


沈黙。


リディアの瞳がわずかに細くなる。


「……来る」


短い一言だった。


ロークは続ける。


「ここに来る途中、森の奥で何かが動いた。魔物かもしれん。だが……」


「人間の可能性もある」


リディアが言葉を継いだ。


「ミレーヌさん、魔物にしろ人間にしろ迎撃体制を作らないと」


カイの手が自然と工具箱へ伸びる。


ミレーヌは、ふっと笑った。


「早速ロークの店が役に立つね」


「俺の店?」


ロークが眉を上げる。


「アンタが王都に行ってるうちに使えるようにみんなで直しておいたのさ」


ロークが振り返る。


蒼月亭の向かい、広場の正面。


小ぶりの建物。


扉は新しい蝶番で固定され、窓枠も歪みなくはまっている。


看板はまだ無地だが、立派に“店”の姿をしていた。


「……仕事が早い連中だ」


ロークが低く笑う。


「感心してる場合じゃないよ」


ミレーヌが手を叩く。


「必要な物を全部あそこに運ぶよ!」


即座に動きが始まった。


ジャンク修理品の武器、防具、予備の矢、桶、水袋。


蒼月亭の酒場は一時閉鎖。


ロークの店が臨時防衛拠点になる。


「蒼月亭を背に戦うより、正面に壁があった方がいい」


リディアが冷静に判断する。


「前線を広場に設定する。突破されたら二線防衛。蒼月亭前」


カイが頷く。


「水は?」


「井戸から引く。桶を並べる」


ロークは自分の店の扉を押し開ける。


「防具はここに。矢は二階。窓から撃てるようにしておく」


動きに無駄がない。


そのとき――


「どうしたの?」


アリアが駆け寄ってきた。


状況を一瞬で理解し、森へと走り出す。


「エルフの村に知らせる!」


「頼む!」


リディアが短く答える。


夕暮れが濃くなる。


広場に並べられた武器。


張り詰める空気。


遠くで、森がざわつく。


まだ姿は見えない。


だが、確実に何かが近づいている。


ミレーヌは蒼月亭を振り返る。


「何度でも守るよ」


カイは静かに工具を置き、短剣を握る。


ロークは店の扉を半開きにし、森を見据えた。


リディアは剣に手をかける。


青白い光はまだ流していない。


だが、その瞳は戦場の色をしていた。


「来るなら来い」


夜が落ちる前に、決着をつける。


蒼月亭は、逃げない。

リディアはゆっくりと視線を広場へ向ける。


蒼月亭の向かい――広場の正面に建つ小ぶりの建物。


それは、かつて店だった廃屋。


今はロークの店舗兼住居として修復されたばかりだ。


だがその位置が、意味を持つ。


村へ入る道は一本。


森を抜け、緩やかな坂を下り、最初に広場へ出る。


その正面にその店はある。


つまり――


「ここは村の入り口だ」


リディアが静かに言った。


「この建物が“門”になる」


ロークは扉を開け、中を見渡す。


一階は広い空間。柱は太く、窓は少なめ。壁も厚い。


「元々、交易用の店だったんだろうな。出入りを見張る位置にある」


カイが頷く。


「ここを前線にすれば、蒼月亭は後方になります」


「正解」


リディアは即座に配置を決める。


「敵は森から坂を下りてくる。広場に出た瞬間、射線が通る」


二階の窓は高い。


弓や魔法の射撃位置として最適。


「一階で足止め、二階から援護。突破されたら蒼月亭前で二線防衛」


ロークが低く笑う。


「俺の店が砦になるとはな」


ミレーヌが肩をすくめる。


「商売人の店なんてのはね、昔から城壁の外側にあるもんさ。最初に矢が飛んでくる場所だよ」


「縁起でもないな」


「でも、頼りにしてるよ」


その言葉にロークはニヤリと笑う。


「任せろ。入り口を抜かせはしない」


動きは早かった。


武器や防具はロークの店に集められる。


修理済みの盾は一階奥へ。


予備の矢は二階窓際。


桶と水袋は建物裏手。


井戸は蒼月亭側にあるが、水路で引き込める位置だ。


「蒼月亭を守るなら、ここで止める」


リディアが短く言う。


カイは店の柱を叩き、強度を確かめる。


「補強します。横木を追加すれば、突入は防げる」


「時間はあるか?」


ロークが問う。


「夜までなら」


ミレーヌが腕をまくる。


「じゃあやるよ。こういうのは手が多いほど早い」


そのとき、アリアがエルフの村から戻ってきた。


「森がざわついてる。人間の匂いもある」


「エルフのみんなにも伝えて」


リディアが即答する。


「了解!高所からの射撃なら任せて」


アリアは森へ消えた。


夕暮れの広場。


蒼月亭の看板が赤く染まる。


その向かいに立つ、即席の砦。


ロークは二階の窓から森を見下ろす。


坂を下りてくる影があれば、すぐわかる。


「ここは“通り道”じゃない」


ロークが呟く。


「ここは境界の門だ」


リディアが剣に手を置く。


「門を守る者がいる限り、村は落ちない」


ミレーヌは酒場の灯を一つ消す。


「蒼月亭は後ろで火を守る。前はあんた達に任せるよ」


カイは補強を終え、深く息を吐いた。


森の奥が揺れる。


まだ姿はない。


だが確実に、何かが近づいている。


広場の正面――


村の入り口。


迎撃の砦が、静かに闇を待っていた。


ついに廃村側も“迎撃体制”に入りました。


・ロークの店が前線拠点に

・エルフも参戦準備

・クローディア家の影


次はいよいよ、森の中から“姿を現す”段階です。

魔物か、人間か、それとも………

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