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第84話 旅立つ行商人 ― 残された者たちの約束

蒼月亭の対面に、新たな拠点が生まれようとしていた。


それは行商人ロークの店であり、

蒼月亭と外の世界を繋ぐ窓口となる場所。


しかし、拠点を築く者は同時に動き続けなければならない。


世界の情勢を知り、

物資を運び、

情報を持ち帰るために。


その夜――

ロークは再び旅に出る決意を告げた。


それは、蒼月亭の未来を支えるための旅だった。

その夜の蒼月亭は、いつもより少し賑やかだった。


長机の上には、焼いた肉、煮込み料理、焼きたてのパンが並び、酒の瓶がいくつも開けられている。


「こりゃうまいな!」


レオンが笑いながら肉を頬張る。


「当たり前だよ」


ミレーヌが腕を組む。


「うちの料理だからね」


「毎日食べたいです」


セラが嬉しそうに言う。


「住んでるんだから、毎日食べてるだろ?」


レンが笑った。


その言葉に、皆が笑う。


蒼月亭は、もう“宿”ではなく、彼らの居場所になっていた。


ロークも酒を口に運びながら、その光景を見ていた。


静かに、しかし確実に、この村は動き始めている。


やがてロークは、酒杯を置いた。


「――王都に様子を見に行ってこようと思う」


その一言で、空気が少し変わる。


カイが顔を上げた。


「王都に?」


「ああ」


ロークは頷いた。


「一緒にジャンク品も買ってくるよ」


レオンがニヤリと笑う。


「また掘り出し物か」


「期待しててくれ」


ロークも笑った。


その時。


カイが、少しだけためらうように口を開いた。


「……ロークさん」


「ん?」


「オヤジさんの事……聞いて来てもらえますか?」


酒場の空気が、静かになる。


ロークはカイを見た。


その瞳の奥にあるものを理解していた。


師。

恩人。

そして――今は消息の途絶えた鍛冶師。


ロークは静かに頷いた。


「わかった」


短い言葉。


だが、それは確かな約束だった。


「ありがとう、ございます」


カイは深く頭を下げた。


ロークは続けた。


「いつ襲撃があるかわからないからな」


その言葉に、リディアがわずかに視線を上げる。


「早いうちに準備しておくべきだ」


ミレーヌが頷いた。


「そうだね」


レオンも腕を組む。


「情報は多い方がいい」


ロークは酒を飲み干した。


「任せとけ」


その夜は遅くまで続いた。


笑い声と、酒と、料理。


だがその中に、確かな覚悟があった。


翌朝。


ロークはすでに準備を終えていた。


馬の背に荷を積み、広場に立っている。


ミレーヌが腕を組んで立っていた。


「もう行くのかい」


「ああ」


ロークは頷く。


カイが前に出た。


「気をつけてください」


「大丈夫だ」


ロークは笑う。


「すぐ戻る」


そして、全員を見渡した。


「――じゃあ行ってくる」


馬に跨る。


手綱を握る。


「なるべく早く戻るよ」


そのまま、ゆっくりと歩き出した。


蹄の音が、広場に響く。


やがて森の中へと消えていった。


しばらく、誰も言葉を発さなかった。


最初に口を開いたのは、ミレーヌだった。


「――じゃあ私達は」


振り返る。


「ロークの家を、帰ってくるまでに完成させといてやろうか?」


レオンが笑う。


「いいな、それ」


レンも頷く。


「驚くだろうな」


カイも笑った。


「そうですね」


その時だった。


森の向こうから、複数の気配が近づいてきた。


リディアが振り向く。


だがすぐに、表情を緩めた。


「……アリア」


森から姿を現したのは、エルフのアリアだった。


その後ろには、数人のエルフの男女がいる。


アリアが微笑む。


「手伝うよ」


その一言に、ミレーヌが笑った。


「ありがとう」


作業が始まった。


柱を補強する。


窓を直す。


床を整える。


人間とエルフが並んで作業をする。


言葉は違っても、動きは同じだった。


レオンとエリオスが柱を支える。


レンとアリアが釘を打つ。


フィオと他のエルフが瓦礫を運ぶ。


カイは蝶番を直し続ける。


ミレーヌは水と食事を運ぶ。


夕方。


最後の板が取り付けられた。


ロークの店は、完全に形を成していた。


「――できたな」


レオンが呟く。


「立派な店だ」


レンも頷いた。


カイは静かに見上げた。


自分たちの手で作った場所。


それは確かな意味を持っていた。


ミレーヌが振り返った。


「本人がいないけど」


ニヤリと笑う。


「酒場でお祝いするか!」


歓声が上がった。


その夜。


蒼月亭は再び賑わった。


料理が並び。


酒が注がれ。


笑い声が響く。


新しい住人のための祝い。


まだ帰ってきていない男のための祝い。


蒼月亭は、もうただの宿ではなかった。


人が帰ってくる場所だった。

ロークは王都へと旅立ちました。


情報を得るため。

物資を仕入れるため。

そして――未来を繋ぐために。


その不在の中、

蒼月亭の仲間たちは彼の拠点を完成させました。


人間とエルフが共に働き、

共に祝い、

共に未来を築いていく。


この廃村は今、確実に変わり始めています。


そしてロークが帰ってきた時、

彼が見るのは――


“本当の拠点”となったこの村の姿でしょう。

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