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第83話 行商人の拠点 ― 蒼月亭の対面に灯る新しい店

蒼月亭に人が集まり始めたことで、廃村は少しずつ“村”としての形を取り戻していた。


武器を直す者。

料理を作る者。

守る者。


そして――それらを外の世界へ繋ぐ者。


行商人ロークは、この場所に新たな役割を見出していた。


ここはただの宿ではない。

ここは、世界と繋がる“拠点”になる。


そのための第一歩として――

彼は、自分の店をこの村に構えることを決めた。

蒼月亭の広場。


修理したばかりの剣を手にしたレンたちの笑い声が、まだ空気に残っていた。


その中で、ロークは広場を見渡していた。


井戸。

蒼月亭。

畑。

柵。


そして――


まだ手つかずの廃屋。


ロークは小さく頷いた。


「さて」


その声に、全員が振り向く。


「俺の住む所を用意するかな」


「住む所?」


ミレーヌが聞き返す。


ロークは肩をすくめた。


「拠点はここだしな」


広場を指差す。


「カイの修理品を仕入れて売却する店としても使いたい」


その言葉に、カイは少し驚いた。


「本当に……ここに拠点を?」


ロークは笑った。


「当然だろ」


迷いはなかった。


「こんな面白い場所、他にない」


そして、広場の向こう側を指差した。


「――あそこがいい」


全員の視線が向かう。


蒼月亭の正面。


その向かい側に、小ぶりな廃屋があった。


かつては店舗だったのだろう。


看板の残骸。

広い入口。

二階建て。


ロークは頷いた。


「広場の向かい、蒼月亭の向かい側にしよう」


その言葉に、リディアが静かに理解を示した。


「入口を抑える位置か」


ロークはニヤリと笑う。


「そういうことだ」


広場を指差す。


「ここが村の入口だ」


そして、自分の選んだ建物を指差す。


「ここを前線の代わりにする」


その言葉の意味を、全員が理解した。


敵が来れば、最初に当たる場所。


見張り。

防衛。

そして――拠点。


ロークは真顔で言った。


「きな臭いうちは、用心するに越したことはないからな」


リディアが静かに頷いた。


「賢明な判断だ」


レオンが笑った。


「よし、じゃあ修理だな」


レンが腕を回す。


「久しぶりに大工仕事か」


フィオも笑う。


「嫌いじゃない」


カイもすぐに工具を手に取った。


「構造を見ます」


ミレーヌは腕を組み、満足そうに頷いた。


「いいね」


ロークは廃屋の前に立つ。


扉を押す。


ギィ――


軋みながら開いた。


中は暗く、埃が積もっている。


だが――


床はまだ生きている。


柱も、梁も。


「一階を店舗」


ロークが言う。


階段を見上げる。


「二階を住まいで使おう」


「ちょうどいい大きさだな」


レオンが柱を叩く。


「直せば、十分使える」


カイは床を確認する。


「基礎は問題ありません」


レンは窓を開ける。


光が差し込む。


フィオが笑った。


「悪くない」


作業が始まった。


床を直す。

窓を修理する。

扉を整える。


カイが蝶番を直す。


レオンが柱を補強する。


レンとフィオが瓦礫を運ぶ。


リディアは周囲を警戒しながら、必要なところで手を貸す。


ミレーヌは蒼月亭から水と布を持ってきた。


「ほら、これで拭きな」


ロークはその様子を見ていた。


誰も文句を言わない。


誰も嫌がらない。


自然に手を動かしている。


(本当に……変わった場所だ)


夕方。


太陽が傾き始めた頃。


ロークは大きく息を吐いた。


「今日はここまでだな」


全員が手を止める。


建物はまだ完全ではない。


だが――


確実に“使える形”に近づいていた。


ロークは振り返った。


「また明日頼むよ」


レオンが笑った。


「もちろんだ」


レンも頷く。


「拠点だからな」


ロークは蒼月亭を見る。


「それまでは宿に泊まるからさ」


ミレーヌがニヤリと笑った。


「毎度あり」


笑い声が広場に広がる。


蒼月亭の向かい側。


そこに、新しい店が生まれようとしていた。


世界と蒼月亭を繋ぐ店が。

行商人ロークは、蒼月亭の対面に拠点を構えることを決めました。


それは単なる住居ではなく、

蒼月亭の修理品を世界へ届けるための店となります。


そして同時に――

この村を守るための前線でもあります。


蒼月亭。

行商人の店。


二つの拠点が向かい合うことで、

この廃村は、完全に“生きた村”として動き始めました。


ここはもう廃村ではありません。


蒼月亭を中心とした、新しい拠点なのです。

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