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第82話 折れた刃の再生と、蒼月亭の新たな武器

ジャンク品の中に埋もれていた、折れた一本の剣。

誰も価値を見出さなかったその刃に、修理屋カイだけが可能性を見ていた。


壊れたものは終わりではない。

直せば、そこから新しい役割が生まれる。


それは蒼月亭そのものと同じだった。


折れた剣は、やがて――

この場所を象徴する、新たな武器へと生まれ変わる。

蒼月亭の酒場の奥。


工具台の上に、一本の折れた剣が置かれていた。


短剣より長く、長剣より短い。

中途半端な長さ。


だが――カイの目には、それが完成形の“途中”に見えていた。


「……芯は、まだ生きてる」


小さく呟く。


折れた断面に触れる。

歪み。

金属の流れ。

かつての意志。


(この長さだと……)


カイは頭の中で使い手を思い浮かべる。


(弓使いや斥候には使いやすいはず)


ナイフや短剣では、間合いが短すぎる。

接近しなければならない。


だが――


(これなら、近づかなくても届く)


長剣ほど長くない。

だから取り回しが軽い。


振り抜ける。

反応できる。


斥候のための刃。


カイは工具を手に取った。


削る。

整える。

流れを戻す。


折れた部分をただ繋ぐのではない。


新しい形へと導く。


刃の重心を調整する。

柄との均衡を取る。

振った時の“軌道”を想像する。


何度も手に取り、振る。

空気を切る音を確かめる。


そして――


最後の調整。


カイは静かに息を吐いた。


「……できた」


その声は、小さく震えていた。


レンが近づいてくる。


「これか……」


剣を手に取る。


軽い。


だが、芯がある。


ゆっくりと振る。


ひゅん――


空気が切れる。


レンの目が変わった。


「……いい」


もう一度振る。


今度は、踏み込みと同時に。


「偵察の時とか……」


レンは呟いた。


「ナイフや短剣じゃ、不安な時があるからな」


剣を構える。


「でも、これなら……」


振る。


止める。


戻す。


「ちょうどいい」


その言葉には確信があった。


レンは振り返った。


「リディアさん」


「うん?」


「手合わせ、お願いできますか?」


リディアは微笑んだ。


「いいよ」


二人は広場へ出る。


全員が見守る中、向かい合う。


静寂。


風。


「……行くよ」


リディアが踏み込む。


速い。


だが――


カンッ!


レンの剣が受け止める。


リディアの目がわずかに細くなる。


(速い)


もう一撃。


レンがかわす。


反撃。


リディアが受ける。


カンッ!

カンッ!

カンッ!


金属音が連続する。


レンの動きは軽い。

そして――速い。


「……」


リディアは一歩下がった。


そして笑った。


「使いやすい?」


レンは息を吐き、頷いた。


「うん」


その顔には、確かな手応えがあった。


「これは……いい」


リディアは剣を見つめた。


「手強いかも」


その言葉は、本心だった。


フィオが近づいてきた。


「これ……」


目を輝かせている。


「オレも欲しい」


カイは少し驚き、そして笑った。


「また同じようなものが手に入りそうだったら、優先的に修理します」


ロークが腕を組む。


「任せろ」


ニヤリと笑う。


「こういうのは、俺の仕事だ」


剣を見つめる。


「エルフたちも使えるかもしれないな」


その言葉に、全員が頷いた。


レオンが笑った。


「蒼月亭専用の武器になりそうだな」


レンが剣を握り直す。


蒼月亭で生まれた刃。


守るための刃。


修理屋が生み出した、新しい武器。


「ありがとう、カイ」


レンが言った。


カイは少し照れながら答えた。


「蒼月亭の修理屋ですから」


笑い声が広場に広がる。


壊れていたものが、誰かの力になる。


それが――修理の意味だった。

折れた剣は、新しい役割を得て生まれ変わりました。


それは単なる修理ではなく、

使い手に合わせて再構築された、新しい武器でした。


レンにとって、それは“守るための力”となります。


そしてロークは、その価値を理解しました。


蒼月亭で生まれる武器は、

既製品ではありません。


使い手と共に完成する武器です。


この場所は、宿屋であり、修理屋であり、

そして――


新しい力が生まれる場所になり始めていました。

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