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第81話 商人の帰還と、眠っていた刃

暗殺部隊を退けた蒼月亭は、再び静かな日常を取り戻しつつあった。

警戒は続いている。だが、生活は止めない。


守るためには、生き続けなければならないからだ。


そんなある日、旅に出ていた行商人ロークが廃村へ戻ってきた。

彼は武器を売り、物資を運び、そして――新たな“可能性”を持ち帰ってきた。


それは金貨でも銀貨でもない。


修理屋カイにしか気づけない、

眠っていた一振りの刃だった。

蒼月亭の朝は、すでに動き始めていた。


レオンとレンは柵の補強を続け、フィオは広場の端で弓の弦を張り直している。

セラはミレーヌの手伝いをしながら、食材を整理していた。


カイは酒場の一角で、小さな盾の歪みを直している。


静かな音。

工具の触れ合う、規則正しい響き。


その時――


遠くから、馬の蹄の音が聞こえてきた。


全員が顔を上げる。


やがて、森の向こうから一頭の馬が姿を現した。


「……ロークだ」


レオンが呟く。


馬に乗った男は、いつものように軽く手を挙げた。


「よう、蒼月亭」


ロークだった。


ミレーヌが外へ出る。


「お帰り。無事だったかい」


ロークは馬から降りながら、周囲を見回した。


柵。

畑。

修理された建物。


そして――仲間たち。


だが、彼の目はすぐに気づいた。


「……何があった?」


その声は軽かったが、目は笑っていなかった。


ミレーヌは一瞬だけ沈黙し、そして答えた。


「クローディア家の連中が来た」


空気が張り詰める。


ロークは何も言わず、続きを待った。


カイが口を開いた。


「暗殺部隊でした。蒼月亭を焼き払って、僕を連れ戻すつもりだったんだと思います」


ロークの目が細くなる。


「……そうか」


短い言葉。


だが、その中に重みがあった。


「全員撃退しました」


リディアが静かに付け加える。


ロークは小さく息を吐いた。


「王都でも暗殺未遂があった」


全員が顔を上げる。


「王と王妃だ」


沈黙。


「失敗に終わったが……貴族たちの間で大きな動きがあるのは間違いない」


ロークは肩をすくめた。


「用心するに越したことはないな」


そして――ふっと笑った。


「ところで、カイ」


「はい?」


ロークは馬の荷袋を外した。


「預かった武器や防具だが……全部売れたぞ」


「えっ?」


カイの目が見開かれる。


ロークは酒場の中へ入り、机の上に袋を置いた。


そして――


じゃらり。


金貨と銀貨が、机の上に広がった。


光が反射し、室内にきらめきが散る。


「えっ……」


カイは言葉を失った。


「本当に……全部?」


「ああ」


ロークはニヤリと笑った。


「ミレーヌさんに頼まれたものは全部買ってきた。

それで、俺の取り分を引いた残りがこれだ」


「こんなに……残るの?」


ミレーヌも驚いている。


ロークは頷いた。


「懇意にしてる武器屋でな、買い取ってもらったんだ」


彼はカイを見た。


「“かなり腕のある鍛治師が作ったのか?”って聞かれたよ」


カイの胸が、静かに熱くなる。


「それくらい、いい出来だった」


ロークは笑った。


「俺の見立ては間違いじゃなかったってことだ」


少し間を置き、続ける。


「今の王都はな……武器が飛ぶように売れる」


その言葉には、商人としての現実があった。


「不穏な空気が流れれば、武器は価値を持つ」


ロークは肩をすくめる。


「商売人にとっちゃ、チャンスなんだよ」


ミレーヌが苦笑した。


「そんなもんだよね」


ロークは再び荷袋を開いた。


「で、だ。良さそうなジャンク品も買ってきた」


ごとり、と机の上に置く。


ナイフ。

盾。

籠手。


そして――


一本の剣。


カイの手が止まる。


その剣は、奇妙な長さだった。


短剣より長い。

だが、長剣より明らかに短い。


中途半端な長さ。


だが――


カイの目が変わった。


「……これ」


ゆっくりと手に取る。


重さ。

重心。

芯の通り方。


(小太刀……)


その言葉が、心の奥で浮かぶ。


この世界の人間は知らない。


だが、カイは知っていた。


異世界から来た記憶の中にある――武器。


「どうした?」


ロークが尋ねる。


カイは剣を見つめたまま答えた。


「これ……レンさんやフィオさんにちょうどいいと思います」


「こんな長さ、見たことないぞ」


レンが言う。


カイは頷いた。


「多分……折れたんだと思います」


刃の先端をなぞる。


「でも、芯は生きてる」


その声には確信があった。


「この長さで修理すれば……使いやすい武器になります」


フィオが目を輝かせる。


「本当?」


「はい」


カイは静かに答えた。


「出来上がったら、試してみてください」


レンとフィオは顔を見合わせた。


「……わかった」


カイは剣を工具台に置いた。


そして――工具を手に取る。


金属の声を聞く。


眠っていた刃が、目を覚まそうとしていた。

行商人ロークの帰還は、蒼月亭に新たな可能性をもたらしました。


カイの修理した武器は王都で高く評価され、

修理屋としての価値が、外の世界でも証明されます。


そして、ロークが持ち帰った一本の剣。


それは偶然ではなく、必然でした。


この世界では知られていない形。

だが、カイだけが知っている武器。


眠っていた刃は、

新たな持ち主と、新たな物語を待っています。


修理屋カイの技術は、

まだ誰も知らない領域へと、少しずつ踏み込み始めていました。

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