表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/108

第75話 見えない視線と、共に立つ覚悟

廃村での生活は、穏やかに続いていた。


畑を耕し、水路を整え、洗濯をし、修理をする。

それぞれが役割を持ち、蒼月亭は確かな「拠点」として根付き始めていた。


だが――境界の村に、新たな気配が忍び寄る。


それは魔物ではない。

もっと明確な「意志」を持った者の視線だった。


守る者たちは、その存在に気づき始める。

朝の空気は澄んでいた。


畑では、カイとレオン達が並んで作業している。


「この畝は、もう少し間隔を空けた方がいいですね」


カイが言うと、レオンが鍬を止めた。


「なるほどな。根が広がる余裕が必要ってことか」


「はい。詰めすぎると、どちらも育ちにくくなります」


フィオが土を均しながら笑った。


「剣も同じね。間合いを詰めすぎると、自分の動きが制限される」


レンは無言で水を運びながら、小さく頷いていた。


その少し離れた場所では、ミレーヌとセラが洗濯をしている。


「こうして干せば風が通るよ」


「なるほど……」


セラは慣れない手つきで布を広げる。


「こういうのも大事な仕事なんだね」


「生活ってのは、全部が繋がってるのさ」


ミレーヌは笑った。


そして――


そのさらに外側。


廃村の外縁。


リディアは、静かに立っていた。


監視。


それが彼女の役目だった。


風の流れ。


草の揺れ。


鳥の鳴き方。


全てを感じ取る。


その時。


背後に気配。


だが、敵意はない。


レンだった。


音もなく、隣に立つ。


(気がついてますか?)


小声。


ほとんど空気に溶けるほどの声。


リディアは視線を動かさず答えた。


(ああ)


レンの目が、森の奥を見ている。


(見知らぬ男が……2、3人)


(森の向こうだな)


(はい)


リディアはわずかに目を細めた。


遠い。


だが確かにいる。


視線。


観察。


隠れてはいるが、完全ではない。


(エルフではない)


レンが言う。


エルフの気配は、もっと自然に溶ける。


あれは違う。


人間。


訓練された動き。


(何者でしょうか?)


レンの問い。


リディアはわずかに間を置いた。


(……もしかして)


言葉を止める。


確証はない。


だが、可能性は高い。


クローディア家。


カイを追う者たち。


(警戒を続けろ)


(はい)


レンは静かに離れた。


何もなかったかのように。


昼。


蒼月亭の酒場。


全員が席につく。


ミレーヌが料理を並べる。


「さあ、食べな」


だが。


食事が始まる前に。


リディアが口を開いた。


「誰かに監視されている」


空気が止まる。


「えっ」


セラが息を呑む。


「誰ですか?」


カイの声は小さい。


リディアは答えた。


「おそらく――クローディア家だろう」


沈黙。


重い沈黙。


カイの手が震えた。


「また……みんなに……僕のせいで――」


その瞬間。


「言うんじゃないよ!」


ミレーヌの声が響いた。


強い声。


「共に生きようと決めたんだ」


まっすぐな目。


迷いはない。


レオンが立ち上がる。


「そうだ」


フィオも続く。


「私達だって」


レンが静かに言う。


「ここで生活するって決めた」


レオンがカイを見る。


「オレ達もここで生きる」


そして――


「リディアさんと同じく、みんなを守るよ」


カイの目が揺れる。


ミレーヌも、何も言えない。


「ありがとう……」


その言葉は、震えていた。


リディアが全員を見る。


「これから何があるかわからない」


全員が頷く。


「全員で注意しよう」


そして。


「ミレーヌとカイには、常に誰か一人付き添う」


ミレーヌが笑う。


「過保護だね」


だが、嬉しそうだった。


レオンが言う。


「当然だ」


フィオも続く。


「私達は、この場所に惹かれてここにいる」


レンが言う。


「この場所を守る」


リディアが最後に言った。


「2人に何かあったら……」


言葉は最後まで続かなかった。


だが。


意味は全員に伝わった。


ミレーヌは頷いた。


「そうだね」


カイも。


静かに頷いた。


蒼月亭は、もう一人のものではない。


全員のものだった。


そして。


森の奥。


見えない視線は、まだ消えていなかった。

ついに、クローディア家の「監視」が始まりました。


直接の攻撃ではなく、まずは観察。

相手の規模、戦力、生活を探る段階です。


しかし、それ以上に重要なのは――


カイが「守られる存在」ではなく、

仲間と共に「守る側の中心」になったことです。


蒼月亭は、もはや逃げ場ではありません。

守るべき「拠点」として確立されました。


次は、より明確な動きが始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ